ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第109回「春の贈りもの」【第19週】

あらすじ

関東大震災から半年。村岡印刷が全焼したため、工事現場で働き始めた英治(鈴木亮平)は、ある日、足場から落ちて捻挫してしまう。慣れないことをするからだといさめる平祐(中原丈雄)に、英治と花子(吉高由里子)は「一日も早くお金をためて会社を再建し、郁弥(町田啓太)の遺志を継いで『王子と乞食』の単行本を出版したい」と話す。村岡家に身を寄せているかよ(黒木華)は、二人の決意を聞いて複雑な思いを抱いていた…。

109ネタバレ

村岡家

居間

英治「火災に巻き込まれて… 郁弥は 逃げきれませんでした…。」

平祐「そんな事 どうして分かるんだ? もう一度 捜しに行く。」

英治「父さん…。」

平祐「捜してみなきゃ 分からないじゃないか!」

英治「郁弥は もういないんです!」

かよ「お姉やん…。 もう一遍だけでもいいから 郁弥さんに会いてえ。」

吉平「かよ。 一緒に甲府に帰らんけ?」

かよ「ううん。 大丈夫。 おら 東京に残って みんなと頑張る。」

<関東地方南部に壊滅的な被害を もたらした大震災から 半年。>

1924年(大正13年)・春

<人々は 悲しみを乗り越え 復興に向け 歩き始めていました。>

玄関前

<村岡印刷は 全焼し 英治は 工事現場で働いています。>

花子「英治さん。 力仕事は おなかがすくでしょう? ごはん ぎっしり詰めといたから。」

英治「ありがとう。」

花子「お父ちゃま こぴっと頑張って。 行ってらっしゃい。」

歩「いってらっしゃい。 おとうちゃま いってらっしゃい。」

夕方

「おお こっちだ。」

親方「奥さん!」

花子「英治さん どうしたの? 大丈夫!?」

かよ「お義兄さん。」

親方「申し訳ねえ 奥さん。 足場から落ちちまって。」

居間

英治「ただの捻挫だよ。 親方 いい人なんだけど ちょっと 大げさで。 心配かけて すみません。」

平祐「慣れない力仕事なんか するからだ。 お前までいなくなったら 私は どうしたらいいんだ。」

英治「父さん。 僕達は 一日も早く 会社を再建したいんです。」

花子「郁弥さんの意志を継いで 『王子と乞食』の単行本を 作りたいんです。」

回想

郁弥「『王子と乞食』を 一冊の本にしませんか? 装丁に工夫を凝らして 今までの日本にない 美しい本にしようよう。 イギリスに負けないくらい!」

英治「そうだな。 やってみるか!」

郁弥「うん!」

回想終了

花子「郁弥さんからもらった 『王子と乞食』の原書のおかげで 私は 翻訳の仕事を 続けてこられたんです。 だから 恩返しのためにも 是非 実現させたいんです。」

英治「銀行も いろいろ回ったけど このご時世で どこも融資してくれません。 会社を再建するお金がたまるまで 仕事を選んではいられないんです。」

かよ「おら 明日 早いので。 お義兄さん お大事に。」

英治「ありがとう。」

花子「おやすみ かよ。」

<震災で家をなくした かよは 大森の家で一緒に暮らしながら 食堂で働いていました。>

宮本家

<一方 あの駆け落ち事件から2年半 苦難を乗り越えて 幸せな家庭を築いた蓮子ですが…。>

居間

蓮子「龍一さん お上手。」

龍一「村岡家の人たちに 特訓してもらったからね。」

蓮子「よかったわね。」

浪子「蓮子さん! 蓮子さん!」

蓮子「はい!」

<蓮子にとって 次なる苦難が…。>

浪子の部屋

浪子「全く もう…。 遅い… 遅い… 遅い!」

<この家の実権を握る 姑の浪子です。>

蓮子「お呼びでしょうか。」

浪子「何時間 かかってるの?」

蓮子「申し訳ございません。」

浪子「もっと早く しゃべって!」

蓮子「申し訳ございません。」

浪子「蓮子さん。 あなたねえ 伯爵家から正式に籍を抜かれて もう 華族様じゃないのよ。」

蓮子「ええ。 私 平民になりました。」

浪子「では こちらも 平民として扱います。 蓮子さんに家事一切を譲って 私は 楽隠居させてもらうから。 しっかり おやりなさい。 まずは お掃除から。」

廊下

浪子「あっ な… 何 その絞り方は! もっと ちゃんと絞って!」

蓮子「はい。 お義母様。」

浪子「お… 遅い…。 遅い~… もう イライラするね~…。」

龍一「蓮子は 育ちが違うんだから 急には無理だよ。 家事なんか やった事ないんだし。」

浪子「家事も満足にできないような嫁は 出てってもらうよ!」

蓮子「はい! お義母様!」

浪子「まだ あんなとこだよ。 はっ!」

村岡家

花子「じゃあ 歩。 お昼ごはんにしましょうね。」

歩「は~い。」

かよ「ただいま。」

花子「お帰り。 かよ 今日は 早かったじゃんね。」

かよ「お姉やん。 宇田川先生から手紙が来てただよ。」

花子「てっ…。 こないだ 『働き口 紹介して下さい』って 手紙書いたさ。 こんなに早く返事が来るなんて!」

宇田川『前略 私 昨年9月 すばらしい出会いがあり 結婚致しました』。

花子「てっ!」

宇田川『あの震災で火の海となった町を 逃げている最中 たくましい男性に救われ やがて 私たちは 恋に落ちました』。

宇田川『震災で 多くの雑誌は廃刊に追い込まれ 私も あらゆる出版社との関係を 断ちましたが 今は 主人のおかげで 幸せでとろけそうな毎日を 送っております。 …という訳で 仕事の件は お役に立てませんので ほかをあたって下さい』。

花子「(ため息)」

花子「かよ…。」

かよ「あっ お姉やん。 あっ お姉やん。 おら 今夜から 屋台で働く事にしただ。」

花子「屋台?」

かよ「今 働いてる食堂の人に 頼まれたから 引き受けただ。」

花子「かよ… 働き過ぎだよ。 ちっと 体 休めんと。」

かよ「居候は 早くお金ためて 引っ越ししんきゃね。 ほれじゃ 行ってきます。」

花子「ほんな無理しなんでも…。」

かよ「無理なんかしちゃいんさ。」

玄関前

梶原「やあ かよちゃん。」

かよ「どうも。 梶原さん お久しぶりです。」

<聡文堂が焼けて 梶原は 古巣の出版社に戻りました。>

梶原「じゃ。」

居間

梶原「うちの社長に相談したら 君を雇う余裕はないが 翻訳の仕事なら 回せるからと。」

花子「てっ… ありがとうございます。 助かります。」

梶原「堅苦しい本なんだけど。」

花子「是非 やらせて下さい! 印刷会社を再建するために 少しでも仕事を増やしたいんです。」

梶原「本当に寂しくなったね。」

花子「梶原さん… もう一つ お願いがあります。 梶原さんのところで 『王子と乞食』の単行本を 出して頂けないでしょうか。」

梶原「あの震災さえなかったら 聡文堂から出すはずだったんだ。 是非 力になりたい。 でも 僕は 今 学術書担当の 一編集者にすぎないんだ。 それに 今 小説や児童文学は 歓迎されないからね。 引き受けてくれる出版社を 探すのは 難しいだろう。」

夕方

英治「ただいま。」

花子「お帰りなさい。」

歩「おとうちゃま おかえりなさい!」

英治「歩~!」

花子「あっ 英治さん。 今日 梶原さんがいらして 翻訳の仕事を頂けたの。」

英治「そうか! よかったね。」

花子「ええ。 それから 梶原さんと話してるうちに 思いついた事があるの。 村岡印刷を再建するなら いっそ 出版社を兼ねた印刷会社に したら どうかしらって。 そうすれば 『王子と乞食』の 単行本も出版できるでしょう。」

英治「そうか 確かに。 その手があったな! 郁弥が生きてたら 『グレート アイディア』って叫んだだろうな。 よし。 じゃあ 出版と印刷の 両方ができる会社を作ろう。」

花子「ええ。」

平祐「何を言ってるんだ。 あの恐ろしい震災から まだ半年しか たってないんだぞ。 住む所も着る物も 何も足りていないのに 誰が物語の本なんか買うんだ。」

英治「父さん…。」

<それから 数日後の事でした。>

屋台

かよ「いらっしゃい。 …てっ!」

蓮子「かよちゃん ごきげんよう。」

かよ「蓮子さん! さあ どうぞ 座って下さい。」

「ああ… どうぞ どうぞ。」

蓮子「恐れ入ります。 まあ おいしそう。 とりあえず 冷やを。」

かよ「はい。」

蓮子「頂きます。 おいしい。」

かよ「蓮子さん。 龍一さんと純平君は?」

蓮子「お姑さんと おうちにいるわ。」

かよ「ひょっとして 家出でもしてきたですか? まさかですよね。」

蓮子「その まさかなの。」

かよ「てっ?」

蓮子「私… 今夜は 帰りたくない。」

<主婦になった蓮子に 一体 何があったのでしょう? ごきげんよう。 さようなら。>

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