あらすじ
屋台にきた蓮子(仲間由紀恵)はかよ(黒木華)を相手に、姑(しゅうとめ)・浪子(角替和枝)のことで愚痴をこぼす。かよは蓮子に頼まれ、宮本家を訪れることに。かよから料理のコツを教えてもらう蓮子だが、うっかり浪子に見つかってしまう。一方、かよと同じく郁弥(町田啓太)の死から立ち直れない平祐(中原丈雄)は、このところ食欲がない。花子(吉高由里子)は心配するが、英治は『王子と乞食』出版への下準備を進める…。
110回ネタバレ
屋台
かよ「いらっしゃい。 …てっ!」
蓮子「かよちゃん。 ごきげんよう。」
かよ「蓮子さん!」
蓮子「頂きます。 おいしい。」
かよ「蓮子さん。 ひょっとして 家出でもしてきたですか? まさかですよね。」
蓮子「その まさかなの。」
かよ「てっ?」
蓮子「私 今夜は 帰りたくない。 ねえ かよちゃん。 私って そんなに しゃべるの遅い?」
かよ「ああ… お姑さんに言われたですか?」
蓮子「私って そんなに遅いかしら?」
<確かに 早いとは言えませんね。>
蓮子「これでも 精いっぱい 急いでやっているのよ。 お掃除も お炊事も お洗濯も。」
かよ「大丈夫。 家事は 慣れです。 そのうち できるようんなりますよ。」
蓮子「そう? ねえ かよちゃん。 私の先生になって下さらない?」
かよ「てっ… 先生?」
蓮子「ねっ 私に家事を教えて。」
宮本家
庭
(たたく音)
かよ「こうすると しわが伸びるですよ。」
蓮子「そうなのね。」
(たたく音)
蓮子「面白い。」
台所
かよ「蓮子さん。 左手は 軽く丸めて押せると 切りやすいですよ。」
蓮子「あっ 本当だわ。」
かよ「うん。」
蓮子「よかった…。 かよちゃんのおかげで 今夜は お義母様のお小言 聞かなくて済みそうだわ。 ねえ これから ちょくちょく来て。
かよ「はい。 昼の仕事が休みの日なら。」
蓮子「あ… でも 夜も屋台で働いているのに 大変じゃないかしら。」
かよ「やるこんがある方が ありがたいです。 何かして 体動かしていんと つい 考えちまって。」
蓮子「郁弥さんの事?」
村岡家
居間
花子「お口に合いませんでした? 明日は お義父様の好きな ライスカレーにしますね。」
平祐「明日は 必ず来るものじゃない…。 郁弥を失ってから 強く そう感じるようになった。」
宮本家
台所
蓮子「あんまり上手に出来過ぎると 誰かに作ってもらったって 分かっちゃうかしら。」
(笑い声)
浪子「もう分かっちゃいましたよ。」
(泣き声)
蓮子「お帰りなさいませ お義母様。 随分 お早かったんですね。」
浪子「どなた?」
蓮子「ああ… こちら 私の女学校時代の友人の はなさんの妹さんで…。」
浪子「手短に言ってちょうだい。」
かよ「かよと申します。」
蓮子「お料理を習っておりましたの。」
浪子「あなたにも 学ぼうなんて気持ちが あるのね~。 てっきり 料理なんて 使用人がするもんだって バカにしてるんだと 思ってましたよ。」
蓮子「そんな事ございません。 私だって…。」
浪子「言い訳は 結構。 あら。 かよさんとやら。」
かよ「はい。 この人 大変だと思うけど せめて これくらい まともな 料理が作れるようになるまで せいぜい 気長に つきあってやってちょうだい。」
蓮子「かよちゃん! お義母様も そうおっしゃってるし また来てね。」
かよ「はあ…。」
村岡家
庭
花子「『王子は トムに言いました。 「お前は 髪の毛といい 目つきといい 声から動作から 姿 形 顔つきまで 私と瓜二つだ。 もしも 2人が 裸で出ていったなら 誰ひとり 見分けられる者は ないだろう」』。」
歩「おうじとトム そんなに にてるの?」
花子「そう! そっくりなの。」
英治「花子さん。 こういうのは どうかな?」
花子「単行本の装丁?」
英治「ああ。」
歩「おうじとトムだ。」
子どもたち「え~!」
花子「ほら。」
歩「わあ~!」
英治「みんな 『王子と乞食』の本が 出来たら 呼んでくれるかな?」
子どもたち「うん!」
花子「うれしい。」
夜
居間
かよ「ただいま。」
英治「お帰り。」
花子「お帰り。 ねえ かよ 見て。 英治さんが『王子と乞食』の装丁 描いて下さったのよ。 こういう しゃれた装丁なら 郁弥さんも喜んでくれるらね。」
かよ「ほんなこんしても 意味ないじゃん…。」
花子「かよ?」
かよ「おやすみなさい。」
書斎
英治「君も無理するなよ。」
花子「ありがとう。」
英治「かよさんは 『王子と乞食』の 単行本を作る事 反対なんだな…。」
花子「私も このまま進めていいのかどうか 分からなくなったわ…。」
宮本家
廊下
蓮子「お水に お酢を少~し入れると いいなんて 知らなかったわ。 かよちゃん。」
かよ「あっ ごめんなさい。」
蓮子「何か あったの?」
かよ「お姉やんたち 『王子と乞食』の 単行本を作ろうとしてるです。 お姉やんたちは 郁弥さんの夢を かなえようとして頑張ってる。 ほれでも 郁弥さんは…。 郁弥さんの時計は あの日から ずっと止まったまんま…。 前に進まんきゃいけんのかな…。 おらは… このまま止まっていてえ。 郁弥さんのいた時間に…。」
蓮子「かよちゃん…。」
村岡家
居間
『ごめん下さい。』
花子「はい。」
玄関
花子「てっ!」
嘉納「はなちゃん 久しぶりやね。」
居間
嘉納「ここんちは 無事やったようで 何よりばい。」
花子「今日は どうなさったんですか?」
嘉納「あんたに頼みがあって来たとばい。 おい。 あれを。 はなちゃんは 英語ん翻訳がでくるとやろ?」
花子「あ… ええ。」
嘉納「それを日本語に 直しちゃってくれんね。」
花子「英文のお手紙ですか?」
嘉納「ああ。」
花子「分かりました。」
嘉納「おう。 よろしく頼むばい。」
嘉納「なんな?」
花子「いえ… では。 『最愛の伝助様 お慕いしております。 アメリカに帰っても あなたの事は わ… 忘れません。 あなたと過ごした 神戸での熱い夜…』。」
嘉納「分かった! もうよか! (せきばらい) え~… 神戸の博覧会で会うた 金髪の踊り子たい。」
花子「これくらいなら お安いご用なので いつでもどうぞ。」
嘉納「ああ 助かるばい。 はなちゃんは また 本を書いて出さんとか?」
花子「ええ…。 出したいと 思っているんですけど このご時世ですから なかなか難しくて。」
嘉納「蓮子は あんたの本を読みよる時が 一番 ご機嫌やったばい。 俺は 無学で字が読めん。 ばってん あいつが読みよるのを 見て 分かった。 本ちゅうのは 読むもんを 夢見心地にするとやろね。」
花子「はい!」
嘉納「東京は こげな ありさまやき こげん時こそ あんたの本を持っちょる人が ほかにも 大勢おるとやろね。」
花子「嘉納さん…。」
<伝助の言葉に 力づけられた花子でした。 ごきげんよう…。 おや?>
嘉納「もう一つ… 聞きたい事がある。」
花子「てっ…。 な… な… 何でしょう?」
<石炭王は 一体 何を聞きたいのでしょうか? ごきげんよう。 さようなら。>