ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第120回「海にかかる虹」【第20週】

あらすじ

思いを新たにした花子(吉高由里子)は、以前にも増して翻訳家として意欲的に取り組んでいく。しばらくたったある日、かよ(黒木華)の店で誰かを待っている醍醐(高梨臨)。緊張しきりの醍醐をかよが励ましていると、なんと吉太郎(賀来賢人)がやって来る。はじめはぎこちなかったが、徐々に打ち解けていい感じになるふたり。やがて、進みそうで進まないふたりの様子に、龍一(中島歩)が一計を案じ花子たちに声をかける…。

120ネタバレ

村岡家

1926年(大正15年)・12月

居間

「この度は 弊社の『世界家庭文学全集』に 『王子と乞食』を入れさせて頂き ありがとうございました。」

花子「こちらこそ ありがとうございました。 私が翻訳の仕事を本格的に始める きっかけとなった作品ですので とても うれしいです。」

書斎

花子(心の声)『5歳の誕生日を前にして この世を去った歩は 私の心に 母性という火を ともしてくれた天使でした。 歩は もういないけれど 私の心の火は 消えません。 日本中の子どもたちに その光を届けていく事が 私の願いです。』

カフェー・タイム

かよ「醍醐さん 今日は また 一段とおしゃれですね。」

醍醐「かよさん どうしよう…。 実は 私 男の方と 二人きりでお食事なんて 初めてなんですもの。」

かよ「心配しなんで大丈夫ですよ。 本当に無口で あんまり笑ったりも しませんけんど 別に怒ってる訳じゃないんで。」

醍醐「はあ… どうしよう…。」

(戸が開く音)

吉太郎「お呼び立てしておきながら お待たせして申し訳ありません。」

醍醐「私が 早く 来過ぎてしまっただけですから。」

かよ「兄やん そちらへどうぞ。」

吉太郎「失礼します!」

かよ「てっ… 兄やん 大丈夫け?」

吉太郎「座ります!」

醍醐「あ… 私の方こそ座ります。」

<てっ… 醍醐と吉太郎は いつの間にか パルピテーションの間柄に?」

吉太郎「醍醐さん。 これ… 長い事 お借りしてしまって 申し訳ありませんでした。」

醍醐「いえ… お貸ししてよかったですわ。 おかげで こうして お会いできたんですもの。」

吉太郎「えっ?」

醍醐「あっ いえ… 何でもありません! オホホホホホ!」

吉太郎「そういえば 先日 醍醐さんが 弁当を作ってきてくれましたよね。」

回想

花子「これ 醍醐さんが作ったの?」

醍醐「ええ。 はなさんも召し上がれ。」

回想終了

吉太郎「あの煮物は おいしかったです。」

醍醐「煮物… ですか。」

吉太郎「あと おかかが入った握り飯も うまかったです。」

醍醐「おむすび…。」

吉太郎「それから…。」

醍醐「ごめんなさい! 実は あのお弁当 女学校からのお友達の畠山さんに お手伝いをお願いして 煮物もおむすびも ほとんど 畠山さんが作って下さったんです。」

吉太郎「そうだったんですか…。」

醍醐「あっ でも 卵焼きだけは 私が作りました。」

吉太郎「てっ…。」

醍醐「卵焼きだけなんて 自慢できる事じゃないですよね。 お恥ずかしい…。」

吉太郎「あの卵焼きが 一番うまかったです。 見かけは よろしくなくありましたが 味は 一番うまかったであります。」

醍醐「ありがとうございます。」

吉太郎「いえ。」

かよ「何だ。 おらが何かしなんでも 2人とも いい感じじゃんけ。」

宮本家

縁側

蓮子「歩ちゃんも きっと お空の上で ご本を読んでる事でしょうね。」

純平「そうだね。」

蓮子「あなたが生まれてきた時の事 この間は ちゃんと答えられなくて ごめんなさい。 お母様は お父様と引き裂かれて 一人であなたを産んだのよ。 だから おばあ様も あなたが生まれた時の事を 知らないのよ。」

浪子「蓮子さん! 大変! 龍一 弁護士の仕事を放り出して また 演劇に 熱を上げてるみたいなの!」

村岡家

居間

(戸が開く音)

龍一「お待たせしました! 皆さん セリフは 覚えましたか?」

武「完璧じゃん。」

かよ「てっ! 武の台本 ボロボロじゃんけ。」

武「ほりゃあ 何べんも何べんも こぴっと読み込んできただから ボロボロにもなるさ。 何てったって 今日の主役は おらずら…。」

花子「武… 今日の主役は 醍醐さんなんだけど…。」

武「心配するな! この武様に任しとけし。」

醍醐「皆さん よろしくお願い致します。」

玄関

吉太郎「何でえ? 急用って。」

花子「と… と… とにかく早く上がって。」

居間

花子「みんな 兄やんが来ました。」

吉太郎「遅くなって すいません。 てっ。 武も来てただけ。」

武「どうも 吉太郎さん。 ご無沙汰しております。 じゃん。 今日は 重大発表があり 甲府から はるばる やって来ました… じゃん。」

吉太郎「重大発表?」

武「はい。 醍醐亜矢子さん。」

醍醐「はい。 何でしょう?」

武「おらんちは 甲府でも 名の知れた地主で… ごいす。 醍醐亜矢子さん おあらの嫁さんになってくりょう。」

醍醐「(棒読みで)まあ うれしいわ 武さん。」

武「醍醐さんの事を 必ず幸せにします! …じゃん。」

醍醐「武さん。 幸せにして下さい。」

龍一「(小声で)花子さん。」

花子「(小声で)てっ。 あっ えっと… その結婚 ちょっと待った!」

武「なぜ 止めるんだ。 …ずら?」

花子「あ… 兄やん。 (棒読みで)このまま 醍醐さんが 結婚してしまってもいいですか?」

英治「そ… そ… しょうですよ…。 しょ…。」

かよ「(調子の外れた声で)兄やん。 醍醐さんの事 好きなんじゃねえの?」

花子「(棒読みで) あ… 兄やん。 地主なんかに 醍醐さんが 奪われてしまってもいいの? 持つ… も… 持つ者が も… もた… 持つ…。」

龍一「持つ者が 持たざる者から奪う社会を おかしいと思わないんですか! 持たざる者が富める者から 奪ってこそ 意味がある!」

英治「そのとおりだ!」

吉太郎「よく分からんけんど 醍醐さんが 武と結婚してえって言うだから…。」

醍醐「吉太郎さん 違うの!」

蓮子「吉太郎さん! 醍醐さんの事が好きなら 略奪してでも一緒になるべきだわ。 たとえ 世間から 後ろ指 さされたって 好きな人と一緒にいられれば 耐えられる。 好きな人と 一緒に生きられる事ほど 幸せな事はないわ!」

英治「(小声で) あれ? そんなセリフ あったかな…。」

蓮子「私は 龍一さんと一緒にいられて… とても幸せよ。」

龍一「蓮子…。」

(せきばらいと畳をたたく音)

蓮子「吉太郎さん 今なら まだ間に合うわ。 醍醐さんを連れて お逃げなさい。」

平祐「駄目だ 駄目だ! 吉太郎君は 軍人なんだ! 軍人の脱走が どれほどの重罪になるか。 君の一生… いや 君の家族の人生まで台なし…。」

英治「父さん 父さん。 ちょっと…。 いいから。」

廊下

英治「(小声で)これは 醍醐さんと吉太郎さんの 仲を取り持つための お芝居なんです。」

平祐「仲を取り持つ?」

英治「ええ。」

平祐「憲兵の吉太郎君が 物書きの女性と そう やすやすと 一緒になれる訳がないだろう。」

英治「シ~ッ! もう ここで 静かに観劇してて下さい。」

居間

龍一「じゃあ… 蓮子の最後のセリフから もう一回!」

吉太郎「セリフ?」

龍一「えっ? あっ…。」

蓮子「吉太郎さん。 醍醐さんを連れて お逃げなさい。」

吉太郎「自分は 脱走などできません! 醍醐さんが 武と結婚して幸せになれるなら… よろしいのであります。」

武「て~っ! ほれじゃあ 本当に おらが 醍醐さんと結婚していいだな?」

花子「(小声で)武。」

醍醐「違うんです! 今のは 全部 お芝居で… 吉太郎さんが なかなか 思いを告げて下さらないから 私 焦ってしまって…。」

吉太郎「えっ?」

醍醐「私が好きなのは 吉太郎さんなんです! 吉太郎さん。 私と… 結婚して下さいませんか?」

吉太郎「いや…。 駄目です。」

花子「兄やん…。」

醍醐「あ… そうですよね。 ごめんなさい こんな事言ってしまって。 それじゃあ 皆さん ごきげんよう。」

花子「醍醐さん! あっ…。」

一同「てっ!?」

玄関前

吉太郎「醍醐さん!」

醍醐「あの… 本当に申し訳ありませんでした。 吉太郎さんのお立場も考えずに あんな事…。」

吉太郎「醍醐さん 話は 最後まで聞いて下さい。 こういう大事な事は 自分の性分として 女の醍醐さんに 言わせる訳にはいきません。 自分から言わせて下さい。 自分も あなたの事が好きであります!」

醍醐「あ… まさか…。」

吉太郎「いえ! 本当に 結婚してほしいと 思ってるのであります。」

醍醐「吉太郎さん…。」

花子「てっ…。」

吉太郎「ですが…。」

(拍手と歓声)

醍醐「ですが… 何ですか?」

吉太郎「ですが… 自分は 憲兵という立場上 独断で結婚する事は できません。 少し 時間を頂けませんか。」

醍醐「いくらでも待ちます。」

吉太郎「よかった…。 醍醐さんが武を選ばなんで 本当によかった…。」

醍醐「まあ。」

居間

英治「芝居なんか 打つ必要なかったみたいですね。」

花子「そうみたいね。」

かよ「てっ。 武! どうしたでえ?」

武「醍醐さ~ん… おらが 嫁にもれえたかっただ~…。」

花子「武… なにょう言ってるでえ! 醍醐さんと兄やんの思いが 通じ合って 筋書きどおりじゃんけ!」

武「ほれと これとは 違うじゃん… あ~…。」

<吉太郎と醍醐 幸せになれるといいですね。 泣くな 武。 ごきげんよう。 さようなら。>

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