ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第122回「ラジオのおばさん誕生」【第21週】

あらすじ

JOAKの黒沢(木村彰吾)から、子ども向け新番組の語り手としてラジオに出演してほしいと頼まれる花子(吉高由里子)だが、あがり症ということもあり乗り気になれない。その夜、英治(鈴木亮平)はやってみたらいいと背中を押すが、花子は翻訳の仕事が手いっぱいで断るつもりだと言う。翌日、JOAKを訪れた花子と英治は、部長の漆原(岩松了)とアナウンサーの有馬(堀部圭亮)に会い、実際の放送を間近で目撃する…。

122ネタバレ

村岡家

居間

黒沢「JOAKで番組を作っております 黒沢と申します。」

花子「JOAKって あのラジオ局の?」

黒沢「村岡花子先生。 是非 我々のラジオ番組に 出演して下さい。」

花子「てっ! ラ… ラジオに?」

黒沢「はい。 今度 『コドモの新聞』という 番組が始まるのです。 子どもたちに ニュースを分かりやすく 伝える番組なんですが 語り手が アナウンサーだけでは 堅苦しい。 そこで 誰かいないかと 探していたんですよ。」

花子「あ… いいえ… でも…。」

蓮子「はなちゃん この界隈では お話のおばさんと 呼ばれているのよね。」

花子「蓮様…。」

黒沢「先ほどの 子どもたちに 本を読んでやってるところを 拝見して 確信しました。 村岡先生が引き受けて下されば きっと 全国の子どもたちが あんなふうに ラジオの前に くぎづけになると。」

花子「ちょっと 待って下さい。」

「おばさん すごい!」

「ラジオに出るの?」

子どもたち「すご~い!」

花子「ああ… 無理です 私には!」

蓮子「はなちゃん どうして?」

花子「蓮様も よくご存じでしょう。 私 ひどく あがり性で 緊張すると ヘマをするって。」

蓮子「ああ…。」

回想

(拍手)

はな『ジュリエットお嬢様。 あっ!』

(笑い声)

はな「すいません…。」

回想終了

蓮子「フフフ… あの時は 楽しかったわね。」

花子「蓮様 笑い事じゃありません。 今 思い出すだけで 足が震えて変な汗かくんですもの。」

蓮子「20年も昔の事じゃない。 今のはなちゃんなら大丈夫よ。」

黒沢「とにかく 一度 局に 見学がてら いらして下さい。」

花子「いやいや あの… 本当に お役に立てないと思います。」

書斎

英治「やってみればいいのに。 ラジオの仕事。 前から思ってたんだけど 花子さんの話す声は 人をほっとさせる。 特に 子どもたちに 話してる時の声は 愛にあふれてて 温かくて…。」

花子「そんな事 初めて聞いたわ。」

英治「もしナマケモノのお母さんが しゃべったら きっと そういう声に違いないな…。」

花子「はっ?」

英治「あ… 褒めたつもりなんだけど…。」

花子「褒められてません。 やっぱり 明日 断ってくるわ。」

英治「花子さん。 緊張して失敗するのが嫌なのか?」

花子「それもあるけど… 今は 翻訳の仕事で手いっぱい。 ラジオに出る時間があるなら 面白い物語を一つでも多く 日本の子どもたちに伝えたいの。」

JOAK東京放送局

廊下

漆原「その村岡先生っていうのは 何者なんだ?」

黒沢「児童文学の翻訳をなさってる 村岡花子先生です。」

漆原「花子? 女?」

黒沢「はい…。」

有馬「漆原部長 断りましょう。 いくら 子ども向けの番組とはいえ 素人のご婦人を起用するなんて 無謀です。」

漆原「そうだな。」

黒沢「しかし もう 局長の承諾も頂きました。」

漆原「何?」

黒沢「村岡先生が翻訳なさった 『王子と乞食』を 局長のお孫さんが 愛読なさってるそうで 是非 出演して頂けと。」

応接室

花子「来てくれなくても よかったのに…。」

英治「ラジオ局って どんな所か 一度 見たかったんだよ。」

花子「そう…。」

(ドアが開く音)

漆原「ようこそ JOAK東京放送局へ。 制作部長の漆原です。」

花子「ごきげんよう。 初めまして。 村岡花子でございます。」

英治「初めまして。 夫の村岡英治です。」

漆原「まあ どうぞ。」

英治「失礼します。」

漆原「番組の内容は 黒沢から説明があったとおりです。 出演して頂けますよね。」

花子「いえ 今日は お断りするために 伺ったんです。」

漆原「どうしてですか?」

花子「ラジオの向こうの大勢の人たちに お話すると考えただけでも 震えて 身がすくんでしまうんです。」

漆原「まあ そう おっしゃらずに。 うちの局長も乗り気ですので 引き受けて下さいよ。 山岡先生。」

黒沢「村岡花子先生です。」

漆原「失礼。 これから放送がありますので 我々は スタジオに行きます。 どうぞ 一緒に 見学にいらして下さい。」

黒沢「さあ スタジオへどうぞ。」

スタジオ

黒沢「さあ どうぞ。 ここが指揮室です。 ここから放送が出ます。 これからテストをして 本番が始まります。」

有馬「あえいうえおあお かけきくけこかこ。」

漆原「うちの看板アナウンサーの有馬次郎です。」

花子「はあ…。」

有馬「JOAK東京放送局であります。」

回想

歩「あ~ あ~。 あ~ あ~。 JOAK東京放送局であります。 次は 村岡 歩先生のお歌であります。 こっちが ママアのダアリング こっちが パパアのダアリング」

回想終了

「本番5秒前。 4 3 2 1。」

有馬「JOAK東京放送局であります。 東北 北海道地方の 列車時間短縮は かねてから 仙台 札幌 両鉄道局で 計画していました。 現在 走っている 急行列車の速度を…。」

一同「お疲れさまでした。」

漆原「今日も 大変結構でした。」

黒沢「いかがでしたか?」

花子「本番で よく あれだけ落ち着いて いらっしゃれるものですね。 私は ここで聞いているだけで 足が震えました。」

漆原「そうですか。」

花子「でも やってみます。」

漆原「はっ?」

花子「私でよければ やらせて下さい!」

黒沢「では… 引き受けて下さるんですね!? ありがとうございます!」

花子「よろしくお願いします。」

廊下

花子「英治さんの言いたい事は分かるわ。 『断りに来たんだろう。 君は ひどい あがり性なのに 大丈夫なのか』って 言いたいんでしょう。 はあ… 全く そのとおりよね…。」

英治「いや 僕は 君の勇気をたたえるよ。 よく引き受けたね。」

花子「えっ?」

英治「歩も きっと天国で喜んでるよ。 あの子は ラジオが大好きだったからな。」

黒沢「村岡先生。 早速ですが マイクの前で 声を出してみて下さい。 これ 最初の放送で 読んで頂く予定の原稿です。」

花子「はい。」

黒沢「では お願いします。」

英治「へえ…。」

花子「英治さん お仕事でしょう?」

英治「一人で大丈夫?」

花子「ええ。」

英治「じゃあ 頑張って。」

花子「はい。」

スタジオ

花子「た… て… 大切な… て… 帝国議会の… おし… お話…。」

黒沢『村岡先生。 テストですから そこまで硬くならずに。 一度 深呼吸してみましょうか』。

花子「はい。」

(深呼吸)

花子「はい…。」

黒沢『では どうぞ』。

花子「帝国議… 帝国議会とは… 尋常6年の… と… と… 読本… 巻12と… 修身の本には 出ておりますように…。」

有馬「部長。 本気で この人に 番組をやらせるおつもりですか?」

漆原「局長が そう言ってるなら しょうがないだろう…。」

花子「す… すいません。 緊張してしまって…。」

漆原「いいえ なかなか結構でしたよ。 あっ あなたと1週交代で 語りを担当してもらう事になった 有馬次郎アナウンサーです。 あとは 2人に任せるから。」

有馬「そんな… 部長。」

黒沢「村岡先生 今から特訓を受けて頂きます。」

花子「はい。 よろしくお願いします。」

有馬「では どうぞ。」

花子「はい。 通貨収縮策によって 不景気退治を計画し…。」

有馬「おかしな抑揚をつけないで下さい。 JOAKは 無色透明でいいのです。」

花子「はい。 今度は 通貨膨張策によって 景気の再建を図るようになり…。」

有馬「発音 活舌 何もかもがなってません! まずは 早口言葉。 はい 3番。」

花子「はい。 久留米のくぐり戸は くぐ… 久留米のくぐり戸は 栗の木のくぐり戸 くぐりつけりゃ くぐりいいが…。」

有馬「遅い! それでは 時間内に 原稿を読み終わりません。 武具馬具 ふぐばぐ 三ぶぐばぐ。」

花子「武具が… 武具馬具 ぶぶぐ… 武具が… 武具馬具 ぶぐばぐ 三ぶぐばぐ。 合わせて 武具馬具 六ぶぐ…。」

有馬「遅い!」

<花子がボロボロになりながら 特訓を受けている頃…。>

宮本家

居間

蓮子「はなちゃんなら きっと大丈夫。」

(戸をたたく音)

『ごめんください。』

(戸をたたく音)

『ごめんください!』

玄関

浪子「どなた?」

「あの… こちら 宮本先生のお宅ですよね? 先生 いらっしゃいますか?」

浪子「どういう ご用?」

「先生に会いたいんです。 会わせて下さい!」

浪子「蓮子さん。 蓮子さん!」

蓮子「はい。 どうなさったんですか? お義母様。 ごきげんよう。 どちら様ですか?」

雪乃「雪乃と申します。」

浪子「まさか… 龍一の女じゃ…。」

蓮子「まさか…。」

<さて この色っぽい女の人は 何しにやって来たのでしょう? ごきげんよう。 さようなら。>

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