あらすじ
有馬(堀部圭亮)にしごかれてすっかり自信をなくした花子(吉高由里子)が帰宅すると、さっそく新型のラジオを買ってきた英治(鈴木亮平)が、近所の子どもたちと盛り上がっていた。子どもたちの期待のまなざしに、がっかりさせるわけにはいかないと焦る花子。そのころ、宮本家では突如訪ねてきた吉原の娼妓(しょうぎ)・雪乃(壇蜜)と蓮子(仲間由紀恵)が緊張の面持ちで対じしていた。雪乃が訪ねてきた訳を聞いた蓮子は…。
123回ネタバレ
JOAK東京放送局
<ラジオ局から 出演の依頼を受けた花子は 断るつもりで 局にやって来ましたが…。>
スタジオ
有馬「JOAK東京放送局であります。」
回想
歩「JOAK東京放送局であります。」
回想終了
<ラジオが好きだった歩の事を思い 引き受ける事にしました。>
花子「栗の木のくぐり戸 くぐりつけりゃ くぐりいいが…。」
有馬「遅い! それでは 時間内に 原稿を読み終わりません。」
村岡家
玄関
花子「ただいま帰りました。」
(子どもたちの歓声)
居間
花子「ただいま。」
英治「お帰り 花子さん。」
花子「どうしたの? みんな。」
英治「見てくれ これ。 最新型のラジオです!」
花子「てっ… ラジオ…。」
宮本家
居間
<そのころ 宮本家は とんだ修羅場となっておりました。>
雪乃「突然押しかけて 申し訳ありません! 吉原から逃げてきて ここしか行く当てがなくて…。」
蓮子「主人は 今 おりません。 お帰り下さい。」
雪乃「そんな事言わずに どうか お助け下さい。」
蓮子「ですから…。」
雪乃「大好きな宮本蓮子先生に 一目会いたくて…。」
蓮子「…えっ? 私に?」
雪乃「先生のお書きになった記事 読みました。 『どのような境遇であれ 女だからという理由で 諦めてはならない。 女も 自らの人生を 生きてよいのである』。 先生の言葉に勇気づけられ 私は郭から逃げ出してきたのです。 お願いします。 どうか… どうか お助け下さい。 お願いします!」
蓮子「分かりました。 雪乃さん 今日から ここで 一緒に暮らしましょう。」
浪子「本気なの? 蓮子さん。 今頃 郭の連中は 血眼になって この人の事 捜してんのよ。 そんな人 かくまったりして…。」
龍一「蓮子。 僕も賛成だ。 あなたが自由になれるよう できるだけの事はします。」
蓮子「主人は 弁護士なんです。 社会に虐げられた人たちの 味方です。」
雪乃「やっぱり来てよかった…。 先生 ありがとうございます。 ありがとうございます…。」
村岡家
玄関前
<そして いよいよ 花子の ラジオ初出演の日がやって来ました。>
英治「花子さん。 緊張してる?」
花子「練習はしたけれど やっぱり緊張するわね。」
英治「これ 持っていきなよ。」
英治「ニュースの原稿を読もうと するんじゃなくて 歩に 新しいお話をするつもりで やってみたら どうかな。」
花子「ありがとう…。 行ってきます。」
英治「行ってらっしゃい!」
JOAK東京放送局
応接室
黒沢「村岡先生。 帝国議会の原稿の方は なんとか読めそうですか?」
花子「はい。 有馬さんに しっかりと 教えて頂いたので大丈夫です。」
黒沢「それは よかった。 では 帝国議会の話とは別に こちらのニュースも 呼んで頂きたいんです。 今朝方 動物園のライオンが 逃げ出した事件がありまして こちらもお願いできますか。」
有馬「では よろしくお願いします。」
花子「そんな… 急に原稿を渡されても…。」
黒沢「本番までに練習する時間 まだありますから。 では よろしくお願いします。」
(ため息とドアが閉まる音)
スタジオ
花子「お願いがあります。」
黒沢「何でしょうか?」
花子「大変失礼ですが ニュース原稿を 書き換えさせて頂きました。 この原稿を 読ませて頂けませんか?」
有馬「何をおっしゃっているのですか。 あなたは 語り手として ここにいるのです。 原稿を一字一句 正確に読む事が 語り手の仕事です。」
花子「ですが… 元の原稿のままだと 子どもたちは 途中で飽きてしまうと思うんです。 小さい子どもたちの我慢は 5分ももちません。 分かりやすく 易しい言葉にした方が より楽しんで聞いて もらえるのではないでしょうか。」
黒沢「ちょっといいですか?」
有馬「いいですか。 ニュース原稿というものは 事前に逓信省の確認を取ります。 今更 変更など…。 ムチャなお願いをしている事は 分かっていますが もっと 子どもたちにニュースを 楽しんで聞いてもらいたいんです。 どうか お願いします。」
黒沢「分かりました。 すぐに逓信省に確認を取ります。」
有馬「黒沢さん。 部長に相談もせずに いいのですか?」
黒沢「今は 少しの時間も惜しいので 部長には 後で報告します。」
花子「ありがとうございます!」
カフェー・タイム
(ラジオのノイズ)
かよ「うまく聞こえないな…。 早くしねえと始まってしまう…。」
旭「どうしたんですか? ラジオなんか買い込んで。」
かよ「お客さんから 古いのを 安く譲ってもらったんですよ。 うちの姉がラジオに出るもんで。」
旭「えっ! そりゃすごい。」
徳丸商会
リン「こんな箱っから 本当に はなちゃんの声が 聞こえるずらかね~?」
ふじ「はなは 東京にいるだにね~。」
朝市「はなの声を乗せた電波を この箱が受信するです。」
吉平「はなの声が聞こえりゃ 難しいこんは いいだ。」
徳丸「ほれにしても ふじちゃんとこの娘は えれえ立派んなったもんじゃん。 まさかラジオにまで 出るたぁな。」
吉平「ほりゃあ 俺とふじの娘だからじゃ。」
リン「婿殿は 何もしちゃあいんら。 はなちゃんが立派になったのは はなちゃんが 頑張ったからじゃんねえ。」
武「まだけえ はなたれ!」
朝市「武。」
村岡家
居間
英治「女の子が前だ。」
醍醐「はなさんがラジオに出演する事 新聞にも出てましたわ。」
蓮子「まあ。 6時20分になったら ここから はなちゃんの声が 聞こえてくるのよ。」
富士子「花子さん 今 どこにいるのかな?」
純平「ラジオの電波って すごく遠くまで飛ぶんでしょ?」
蓮子「ええ。」
純平「空の上の歩君にも届くね。」
蓮子「そうね。」
ラジオ・有馬『6時になりました。 JOAK東京放送局であります』。
JOAK東京放送局
スタジオ
有馬「ただいまから 『コドモの時間』の放送です。」
漆原「逓信省の方は 本当に大丈夫なんだろうな? 問題になったら 責任取らされるのは 私だよ。」
黒沢「新しい原稿 確認済みです。」
有馬『さて 続きましては 本日より始まります ニュース番組である『コドモの新聞』です。 お伝えしますは 児童文学の本を 多く書かれております 村岡花子先生です。』
花子「ぜ… 全国のお小さい方々 ごきげんよう。」
花子『『コドモの新聞』のお時間です』。
花子「京都の動物園で ライオンが逃げ出したお話です。」
花子「今朝の8時ごろ 京都市にある動物園で 今年 13になるライオンが 園長さんの隙を見て いきなり おりの外へ飛び出し のそのそと面白がって 動物園の中を歩き回りました。 このライオンは 京都で生まれ 小桜号という名前まで 付けてもらっているくらいで…。」
花子「今日の『こどもの新聞』のお時間は ここまでです。 皆さん さようなら。」
(ドアが開く音)
花子「はあ…。」
歩「お母ちゃま。 あ~ あ~ JOAK東京放送局であります。」
花子「歩ちゃん…。 歩ちゃん。 歩ちゃんのおかげで お母ちゃま なんとか お話しする事ができたわ。」
歩「お母ちゃま。」
花子「ありがとう 歩ちゃん。」
歩「フフッ。」
花子「(泣き声)」
<こうして 『コドモの新聞』 第1回目の放送が終わりました。 ごきげんよう。 さようなら。>