あらすじ
もも(土屋太鳳)を村岡家に迎え入れたいと願う花子(吉高由里子)は、かよ(黒木華)の店へ説得しに行くが、もものかじかんだ心は解けないまま。花子はしかたなくラジオ局へ向かう。かよと暮らそうと思い、村岡家へ荷物を取りにやって来たももに、英治(鈴木亮平)は花子の新しい本を持って行って欲しいと話す。本を取りに書斎へ来た英治は、花子がラジオ局へ必ず持って行くある“お守り”を忘れていることに気付く…。
126回ネタバレ
村岡家
玄関前
吉平「ほれじゃあ もものこん 頼むじゃんな。」
ふじ「英治さん。 はな。 もものこん よろしくお願えしやす。」
カフェー・タイム
花子「もも。 うちで一緒に暮らそう。 お嫁に行く時 もも 言ってくれたじゃない。」
回想
もも「お姉やんの新しい物語 楽しみにしてる。 書えたら送ってくりょう。」
回想終了
花子「あの時 ももが ああ言ってくれなかったら お姉やん… お話を作る夢 諦めてたかもしれない。 私が今 翻訳したり 童話の仕事をしていられるのは もものおかげだよ。」
<ももの かじかんだ心が解ける日は 来るのでしょうか。>
JOAK東京放送局
廊下
花子「皆さん ごきげんよう。 今日も よろしくお願い致します。」
漆原「これは これは。」
黒沢「村岡先生の放送 大変な反響です。」
花子「まあ それは うれしいです。 では 後ほど。 ごきげんよう。」
漆原「『ごきげんよう』か…。」
応接室
花子「すいません。」
黒沢「逓信省の許可を取ってきます。」
花子「お願いします。」
黒沢「これ全部 村岡先生宛てのお手紙です。 どうぞ ご覧になって下さい。」
花子「ありがとうございます。」
黒沢「では 行ってきます。」
花子「はい。」
<それは 病気の坊やを持つ お母さんからのお手紙でした。>
カフェー・タイム
かよ「もも。 少し休んだら?」
もも「私… 一生懸命働くから ここに置いて。」
かよ「でも お姉やんが寂しがるよ。 ももと一緒に暮らしたいって お姉やん 心から思ってるよ。」
もも「お姉やんは きっと そんな事思わないよ。 あんなに忙しそうだし。」
かよ「お姉やんが あんなに 仕事をするようになったのは 坊やが亡くなってからだよ。 それからは 日本中の子どもたちに 物語を届けるんだって いつも たくさん仕事を抱えてる。 ラジオのおばさんも そんな気持ちで 引き受けたんだと思う。」
JOAK東京放送局
応接室
『村岡花子先生。 『コドモの新聞』 息子が 大層楽しみにしております。 息子は 入院していて ふさぎ込む日もあるのですが 村岡先生の放送を 本当に心待ちにしております。 息子にとって 先生の放送は 希望なのだと思います』。
村岡家
工房
もも「あの…。」
英治「ももさん… 来てくれたんですね。 花子は ラジオ局に行ってますけど 帰ってきたら大喜びします。」
もも「違うんです。 荷物を取りに…。」
英治「えっ… ああ。」
居間
英治「はい。 これですね。」
もも「すみません…。」
英治「実を言うと… 僕は ももさんが羨ましいです。 けんかができる兄妹がいて 羨ましいです。 僕は 弟を亡くしました。 けんかも仲直りも 一人じゃできません。 あっ そうだ。 ももさん ちょっと待ってて。 花子が書いた新しい本 持っていって下さい。」
書斎
居間
英治「ももさん。 お願いがあるんです。 この写真を ラジオ局まで 届けてもらえませんか?」
もも「えっ?」
英治「僕が行ければいいんですが 急ぎの納品があって…。」
もも「はあ…。」
英治「花子に渡してほしんです。 どうか お願いします。」
もも「分かりました。」
英治「はあ… 助かった…。 あっ じゃあ 今 地図 描きますから。」
JOAK東京放送局
廊下
「あの方に聞いて下さい。」
もも「あの! 村岡花子は どこにいますか?」
黒沢「どうなさったんですか?」
もも「忘れ物を届けたいんです。」
黒沢「どうぞ こちらです。」
スタジオ
花子「あの… ご相談があるんですが。」
漆原「今度は 何ですか?」
花子「原稿を変更したいんです。」
漆原「またですか…。」
有馬「放送は もう間もなくです。 逓信省の承認を取る時間は もう ありませんから そのまま お読みになるしかありません。」
漆原「そういう事ですので。」
花子「変更といっても ひと言だけです。 最後の挨拶を 『さようなら』ではなく 『ごきげんよう。 さようなら』に したいんです。」
有馬「冒頭にも 『ごきげんよう』と述べて 最後に また 『ごきげんよう』と 述べるのですか?」
漆原「よほど 『ごきげんよう』という 挨拶をしたいのでしょう。 あなたは 修和女学校のご出身だそうですね。」
花子「はい。」
漆原「うちの家内も修和の出身で 『ごきげんよう』は 朝から晩まで 耳にタコが出来るくらい 聞かされます。」
花子「そうでしたか…。」
漆原「あそこは 家柄のいい お嬢様たちが通う名門です。 しかし… あなたは 給費生だったそうですね。」
花子「ええ。 そうです。」
漆原「貧しい家の出である あなたが 殊更に 『ごきげんよう』という言葉を 使いたい気持ちは分かります。 しかし 『ごきげんよう』が 似合う人間と似合わない人間が いるんですよ。」
花子「そうでしょうか。 『ごきげんよう』は さまざまな祈りが込められた 言葉だと思います。」
漆原「祈り?」
花子「『どうか お健やかに お幸せに お暮し下さい』という祈りです。 人生は うまくいく時ばかりでは ありません。 病気になる事もあるし 何をやっても うまくいかない時もあります。」
花子「健康な子も 病気の子も 大人たちも どうか 全ての人たちが 明日も元気に 無事に 放送を聞けますようにという 祈りを込めて 番組を終わらせたいんです。 どうか お願いします。」
黒沢「挨拶の部分ですから 変えても 問題にはならないと思います。」
有馬「いいえ。 一行一句 変えてはなりません。」
漆原「まあ いいでしょう。 問題になったら 降りてもらえばいい。 時間だ。 始めよう。」
黒沢「あ… 村岡先生。」
花子「もも。」
もも「お姉やん これ お義兄さんから。」
花子「あ… ありがとう!」
もも「じゃあ 私は。」
花子「もも。 本当にありがとう。」
有馬「『コドモの新聞』の時間です 村岡花子先生です。」
花子「全国のお小さい方々 ごきげんよう。 これから 皆様方の新聞のお時間です。 最初のお話です。」
廊下
花子『大阪で ヒヒが逃げたお話です。 今朝の6時ごろの事です。 大阪市の ある幼稚園で 飼っていた大きなヒヒ… これは お猿の一種ですが 普通のお猿よりも 犬のように口がとがっています。 そのヒヒが どうしたのか 急に鉄の首輪をちぎって おりの中から飛び出し さあ 大変』。
スタジオ
花子「今日の新聞のお時間は ここまでです。 それでは 皆さん。 ごきんげんよう。 さようなら。」
廊下
もも「ごきげんよう…。」
<花子の声が 魔法の言葉のように ももの心にしみこんでいきました。 ごきげんよう。 さようなら。>