あらすじ
取り乱した蓮子(仲間由紀恵)から、龍一(中島歩)の事を密告したのではと一方的に責められ、閉め出されてしまった花子(吉高由里子)と英治(鈴木亮平)。その後、蓮子は差し入れを持って龍一に面会に行くが会わせてもらえず、浪子(角替和枝)も不安を募らせる。だが軍国少年の純平(大和田健介)は、父への反発を強めてゆくのだった。一方花子は、ラジオで連日戦争や軍隊のニュースばかり読むことに葛藤を強めていた…。
135回ネタバレ
宮本家
玄関
蓮子「はなちゃん… 吉太郎さんに 話したのね。」
花子「えっ…。」
蓮子「龍一さんの事 何か話したんでしょう。 はなちゃんの事 信じてたのに!」
浪子「お帰り下さい。」
村岡家
寝室
花子「どうなるのかしら…。」
英治「僕は お義兄さんの忠告に 従った方がいいと思う。これ以上深入りしたら 君まで巻き込まれるよ。」
JOAK東京放送局
スタジオ
有馬「さて続きまして 村岡花子先生の 『コドモの新聞』であります。」
花子「日本軍が 瞬く間に広東を占領した事は 先日 お伝えしましたが 今度は 揚子江という大きな川の ずっと奥にある 漢口という古い大きな町を 激しい戦いの末に 敵を打ち破り 占領しました。 『兵隊さんたちは 大変勇ましい お働きだったそうです』。
宮本家
居間
蓮子「ただいま。」
富士子「お母様 お帰りなさい。」
浪子「どした? やっぱり 龍一には 会わせてもらえなかったのかい?」
蓮子「ええ…。」
浪子「家族にも 会わせてもらえないなんてね。」
蓮子「申し訳ありません。」
純平「お母様が謝る事なんてない。 悪いのは お父様だ。」
蓮子「純平…。」
JOAK東京放送局
スタジオ
花子「皆さんは 戦地の兵隊さんが 安心して戦え 誉れの凱旋ができますように おうちのお手伝いをし しっかり お勉強致しましょう。 それでは 皆さん ごきげんよう。 さようなら。」
有馬「お疲れさまでした。」
花子「お疲れさまでした。 あの… 黒沢さん。」
黒沢「はい。」
花子「ご相談したい事があります。」
応接室
花子「私… このまま語り手を 続けていくべきなのかどうか 分からなくなりました。」
黒沢「村岡先生…。」
花子「私は 子どもたちが わくわくするような話がしたくて この番組をお引き受けしました。 これ以上 戦争のニュースばかり 詠み続けるのなら 私ではなく 有馬さんお一人で読まれた方が よろしいんじゃないでしょうか?」
黒沢「子どもたちは 村岡先生の『ごきげんよう』を 待っているんです。 『ごきげんよう』という 先生の挨拶を聞くために ラジオの前に集まってくるんです。 こういう時だからこそ僕は 村岡先生の『ごきげんよう』が 子どもたちの心を 明るく照らすのだと思います。」
花子「黒沢さん…。」
黒沢「どうか続けて下さい。 お願いします。」
村岡家
書斎
英治「花子さん。 蓮子さんから 電話だ。」
花子「蓮様から?」
カフェー・タイム
花子「蓮様。 ごきげんよう。 お電話 ありがとう。」
蓮子「はなちゃん… この間は ごめんなさい。 龍一さんが連れていかれて あの日は すっかり取り乱していて。 はなちゃんが 密告なんかする訳ないのに…。 本当に ごめんなさい。」
花子「いいのよ。 私こそ 何にも力になれなくて ごめんなさい…。 あれから 龍一さんは?」
蓮子「差し入れを持って 会いに行ったけれど 会わせてもらえないの。」
花子「そう…。」
蓮子「お願い はなちゃん。 吉太郎さんに頼んで 龍一さんが どんな状況か 聞いてほしいの。 できれば これも渡してほしいの。 疑われるような物は 入ってないわ。 着替えと 彼の好きなランボーの詩集よ。 それから 私と富士子からの手紙。」
花子「手紙は 全て読まれてしまうわ。 蓮様の事だから きっと熱烈な恋文なんでしょう? 分かったわ。 兄やんに頼んでみる。」
蓮子「ありがとう。」
花子「こんなに思ってくれる 奥様がいるのに…。 (小声で)どうして 龍一さん そんな危険な活動に 加わってしまったのかしら?」
蓮子「でも 龍一さんは 間違った事はしていないわ。 あの人は 誰よりも 子どもたちの 将来の事を考えているわ。 だから 今の国策に我慢できないのよ。 はなちゃんも この間 ラジオで言ってたわよね。」
花子「『戦地の兵隊さんが 誉れの凱旋ができるよう おうちのお手伝いをして しっかり お勉強致しましょう』って。 まるで 『みんな 頑張って 強い兵隊になれ』と 言っているように聞こえたわ。」
花子「あのニュース原稿は…。」
蓮子「はなちゃんも… 誰かに 読まされているんでしょう? そうやって 戦争をしたくて たまらない人たちが 国民を扇動しているのよ。」
花子「蓮様 声が…。」
蓮子「私は 戦地へやるために 純平を 産んで育ててきたんじゃないわ。」
「ごちそうさん。」
かよ「ありがとうございました。」
かよ「はい。 おいしいコーヒーを入れましたよ。 お姉やんには サイダー。」
花子「ありがとう。 お客さん 帰っちゃったわね。」
蓮子「ごめんなさい かよさん…。」
かよ「いいえ どうぞ ごゆっくり。 誰もいなくなったから 大きな声で話しても 大丈夫ですよ。」
花子「蓮様。 さっきのような考えを 口にするのは 今は 慎んだ方がいいと思うわ。 蓮様まで捕まったら どうするの?」
蓮子「はなちゃんは 本当は どう思っているの?」
花子「えっ…。 ラジオのマイクの前で 日本軍が どこを攻撃したとか 占領したとか そんなニュースばかり読んで…。 ああいうニュースを 毎日毎日聞かされたら 純粋な子どもたちは たちまち感化されてしまうわ。 お国のために命をささげるのが 立派だと思ってしまう。」
花子「私だって 戦争のニュースばかり 伝えたくないわ。 でも… こういう時だからこそ 子どもたちの心を 少しでも明るくしたいの。 私の『ごきげんよう』の挨拶を 待ってくれる 子どもたちがいる限り 私は 語り手を続けるわ。」
蓮子「そんなのは 偽善よ。 優しい言葉で語りかけて 子どもたちを 恐ろしいところへ 導いているかもしれないのよ。」
花子「そんな…。 私一人が抵抗したところで 世の中の流れを止める事なんか できないわ。 大きな波が迫ってきているの。 その波に のまれるか 乗り越えられるかは 誰も分からない。 私たちの想像をはるかに超えた 大きい波なんですもの。 私も すごく恐ろしい…。 でも… その波に逆らったら 今の暮らしも 何もかも失ってしまう。 大切な家族さえ守れなくなるのよ。」
蓮子「やっぱり もう うちの家族とは 関わらない方がいいわ。 こんな事頼んだ私が間違ってた。 忘れてちょうだい。 お勘定。」
かよ「蓮子さん。」
花子「待って。 私は 蓮様が心配なの。 まっすぐで 危なっかしくて…。」
蓮子「はなちゃん… 心配ご無用よ。 私を誰だと思っているの? 華族の身分も 何もかも捨てて 駆け落ちした宮本蓮子よ。 私は 時代の波に平伏したりしない。 世の中が どこへ向かおうと 言いたい事を言う。 書きたい事を書くわ。 あなたのように ひきょうな生き方はしたくないの。」
花子「そう…。 分かったわ。 私たち… 生きる道が違ってしまったわね。 これまでの友情には感謝します。」
蓮子「ええ。 さようなら。」
花子「お元気で。」
<2人の道は もう交わる事はないのでしょうか。 ごきげんよう。 さようなら。>