あらすじ
1941年(昭和16年)12月8日。ラジオから流れる日米開戦のニュースに花子(吉高由里子)と英治(鈴木亮平)はがく然とする。旭(金井勇太)、もも(土屋太鳳)や近所の人が大勢村岡家へつめかけ、ラジオの前で次のニュースを待つ。やがて「緒戦は日本大勝利」とのニュースが流れ、人々は歓喜に沸くが、『コドモの新聞』の放送を心配する花子はラジオ局へと向かう。ラジオ局はいつになく殺気だった雰囲気に包まれていた…。
138回ネタバレ
村岡家
居間
♬~(『The Water ls Wide』)
JOAK東京放送局
スタジオ
有馬「臨時ニュースを申し上げます。 臨時ニュースを申し上げます。 大本営 陸海軍部 12月8日 午前6時発表。 帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋において アメリカ イギリス軍と 戦闘状態に入れり。」
村岡家
1941年(昭和16年)・12月8日
<日本は 太平洋戦争へと突入したのでした。>
もも「どうぞ こちらへ。」
「お邪魔します。」
もも「なかなか 新しいニュース 流れないわね。」
旭「我が帝国陸海軍は アメリカ イギリスと戦闘状態に入って そのあと どうなったんだろう?」
英治「今日は 一日 ラジオ放送は この調子だろうな…。」
花子「『コドモの新聞』の放送は どうなるのかしら。」
英治「来なくていいって 君に連絡があったんだから 別の番組をやるんじゃないかな。 こんな調子で 軍歌や『軍艦マーチ』を流すんだよ。」
(チャイム)
有馬『臨時ニュースを申し上げます。 臨時ニュースを申し上げます。』
カフェー・タイム
有馬『帝国海軍は ハワイ方面のアメリカ艦隊 ならびに航空兵力に対し シンガポール その他をも 大爆撃しました』。
(歓声)
「やったぞ! 米英を大爆撃だ! こりゃあ 勝ち戦だ! 万歳!」
一同「万歳! 万歳!」
「祝いだ! 祝い!」
「こっちも 酒頼む!」
かよ「は~い!」
村岡家
居間
一同「万歳! 万歳!」
旭「日本軍 やりましたね!」
花子「私 やっぱりJOAKに行ってくるわ。」
英治「えっ… 今日は いいって言われたんだろ?」
花子「でも ひょっとしたら 『コドモの新聞』の放送を やるかもしれないから。」
JOAK東京放送局
廊下
黒沢「村岡先生… どうなさったんですか? あ… ちょっと こちらへ。」
花子「今日は 休むよう ご連絡頂いたんですけど どうしても この番組の事が 気になってしまって…。」
漆原「これは これは 村岡先生。 本日は いらっしゃなくて 結構でしたのに。」
花子「漆原部長。 今日の『コドモの新聞』の 放送は どうなるんでしょう?」
漆原「ああ それなら お気になさらず。」
黒沢「内閣情報局の方で その時間帯に 重要な放送をする事が 決定しましたので 『コドモの新聞』の放送は 見合わせます。」
花子「そうですか…。」
漆原「アメリカ イギリス軍と 戦闘状態に入ったという事は 非常に勇ましいニュースですから いらっしゃらなくて結構と 申し上げたんです。」
花子「えっ?」
漆原「これほど重要なニュースを 女の声で伝えるのは よろしくありませんから。」
<先頭をやって来るのは 情報局を取りしきる偉い役人です。>
漆原「皆様 ご苦労さまでございます。 制作部長の漆原でございます。」
進藤「よろしくお願いします。」
漆原「じゃあ こちらに。」
スタジオ
漆原「こちらでございます。 どうぞ。」
進藤「(せきばらい)」
有馬「僭越ながら 原稿は 抑揚をつけず 淡々とお読み下さい。 発音 活舌に 特に注意を払って お読み頂くと よろしいかと思います。」
村岡家
居間
もも「そろそろ6時ね。」
美里「お母様 今日は 何のお話するのかな?」
英治「今日は お母様のお話は ないみたいだ。」
美里「えっ? だって お母様 ラジオ局へ行ったんでしょう?」
英治「うん…。」
(チャイム)
JOAK東京放送局
スタジオ
進藤「国民の方々 ラジオの前にお集まり下さい。 いよいよ その時が来ました。 国民総進軍の時が来ました。」
カフェー・タイム
進藤『政府と国民が がっちりと一つになり 1億の国民がお互いに手を取り 互いに助け合って 進まなければなりません! 政府は 放送によりまして 国民の方々に対し 国家の赴くところ 国民の進むべきところを はっきりとお伝え致します! 国民の方々は どうぞ ラジオの前にお集まり下さい。 放送を通じて 政府の申し上げまする事は 政府が全責任を負い 率直に正確に 申し上げるものでありますから 必ず これを信頼して下さい!』。
JOAK東京放送局
スタジオ
進藤「そして 放送によりお願いします事を 必ず お守り下さい! ご実行下さい! 今晩から 国民に早くお知らせ致さねば ならぬ事がありましたならば 毎時間の最初に放送しますから どうか 毎時間の初め…。」
廊下
有馬「あんな… 雄たけびを 上げるかのように原稿を読んで…。」
花子「えっ?」
有馬「原稿を読む人間が 感情を入れてはいけない。 それを あんな 一方的に押しつけるような…。」
花子「有馬さん…。」
有馬「今日から ラジオ放送の在り方は 変わってしまう…。」
スタジオ
進藤「国民一つになって 総進軍致しますところ 烏合の衆である敵は いかに大敵でありましても 断じて 恐るるところはありません!」
漆原「すばらしい放送でした。 感動しました!」
廊下
漆原「まだ いたのかね。 ああ… こちらは 子ども向けの番組を担当する 村岡花子女史です。」
黒沢「語り手として 子どもに大層人気のある先生です。」
進藤「国論統一のために 今後一層 ラジオ放送は重要になります。 放送を通じて 子どもたちを よき少国民へと 導く事を期待します。」
花子「あの…。 漆原部長。 黒沢さん。 お話があります。」
黒沢「どうなさったんですか?」
花子「今日限りで 『コドモの新聞』を 辞めさせて頂きます。」
黒沢「なぜですか?」
花子「私の口から 戦争のニュースを 子どもたちに放送する事は できません。」
漆原「村岡先生…。 たった今 情報局情報課長から あんなに ありがたいお言葉を 賜ったばかりでしょうが!」
花子「それで決心がつきました。」
黒沢「村岡先生…。」
漆原「いいでしょう…。 お辞め下さって結構です。 ラジオを通じて 国民の心を 一つにしようという時に…。 あなたは 所詮 『ごきげんよう』のおばさんだ!」
花子「有馬さん。 後をお願いします。」
有馬「私は 感情を込めず 正しい発音 活舌に注意して 一字一句 正確に 原稿を読み続けます。」
花子「お世話になりました。」
有馬「お疲れさまでした。」
黒沢「村岡先生。 これ 持っていらして下さい。 村岡先生宛てに届いた 子どもたちからの手紙です。」
黒沢「お考えは 変わりませんか?」
花子「はい。」
黒沢「そうですか…。 残念です。」
花子「申し訳ありません。 9年間 お世話になりました。」
<日本は とうとう 大きな曲がり角を 曲がってしまいました。 ごきげんよう。 さようなら。>