あらすじ
美里(三木理紗子)から、なぜラジオの仕事を辞めたのかと聞かれた花子(吉高由里子)は、敵方の国には大切な友人たちがいるから、戦争のニュースを子どもたちに伝えることはできないと話す。開戦直後は日本軍の連戦連勝が伝えられ、人々は高揚していた。ある日、花子は道ばたで、かっぽう着にたすきをかけた女性たちの集団に出くわす。その中にかよ(黒木華)の姿が。雪乃(壇蜜)に誘われ、婦人会の活動に加わっていたのだ…。
139回ネタバレ
村岡家
居間
スコット『あなたに渡したい本があります』
花子「『ANNE of GREEN GABLES』。」
有馬「臨時ニュースを申し上げます。 大本営 陸海軍 12月8日 午前6時発表。 帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋において アメリカ イギリス軍と戦闘状態に入れり。」
JOAK東京放送局
廊下
花子「今日限りで 『コドモの新聞』を 辞めさせて頂きます。」
黒沢「なぜですか?」
花子「私の口から 戦争のニュースを 子どもたちに放送する事は できません。」
<太平洋戦争の開戦を機に 花子は 9年間続けた ラジオのおばさんを辞めました。 そして 日本とカナダは 敵対する関係になったのです。>
町中
一同「万歳! 万歳!
<昭和16年 開戦直後は 日本中が勝利を確信し 大きな興奮に包まれておりました。>
村岡家
居間
美里「もう ラジオで お母様の声を 聞く事はできないの?」
花子「ええ。」
美里「そう…。 お友達も みんな さみしがるわ。」
花子「ごめんなさい。」
美里「どうして ラジオのお仕事 辞めてしまったの?」
花子「それはね… 戦争のニュースを 子どもたちに 伝えたくなかったから。」
美里「どうして?」
花子「国と国は 戦争になってしまったけれど 敵方の国には お母様の大切な先生やお友達が たくさんいるの。」
1942年(昭和17年)・冬
<年が明けてからも 日本軍の連戦連勝が伝えられ 人々の戦意は 高揚していました。>
玄関
「一体 どういうおつもり?」
「そっちこそ どういうつもりさ。」
「まあ お下品。」
「下品とは 何よ。 ええ? 上品ぶってりゃ いいってもんじゃないわよ!」
「そうよ そのとおりよ!」
花子「かよ… どうしたの?」
かよ「あ… お姉やん。」
花子「今日 お店は?」
かよ「ももに頼んできた。 ごめん ちょっと今 忙しいの。」
「いいんですか? こんな無礼をお許しになって!」
<おや? いつか 吉原から 蓮子のうちへ逃げてきた 雪乃さんじゃありませんか。>
「あなたたち どきなさい。 ここは 私たちが ご出征される方を お見送りする場所です。」
雪乃「どくもんですか。 私たちは お見送りするために 2時間も前から ここで待ってたんです。 ほら。 このとおり 千人針も用意してきたんです。」
「そっちこそ どきなさいよ!」
<このころ 各地の婦人会は 統一されていましたが 山の手の奥様たちと 水商売の女の人たちは 仲がいいとは言えませんでした。>
「皆さん おしろい塗って ご商売なさってる方が お似合いでしてよ。」
「何ですって! バカにしないでよね!」
雪乃「私たちだって 日本の女です お国のために尽くしたいんです。 命をささげて戦って下さる 兵隊さんを思う気持ちは 奥様たちには 負けませんわ。」
女たち「そうよ そうよ!」
「おどきなさいよ!」
「何 言ってるのよ!」
カフェー・タイム
(戦況を伝えるラジオ)
(歓声)
「連戦連勝の祝杯だ! 酒 どんどん持ってきてくれ!」
もも「はい!」
(歓声)
花子「もも 忙しそうね。 醍醐さんと待ち合わせしたんだけど…。」
もも「お姉やん いいとこに来てくれた。」
客「煮物 まだ? 早くしてよ」
もも「ただいま 援軍が来ましたから。 お姉やん お願い。」
花子「は… はい。」
醍醐「はなさん ごきげんよう。」
花子「ああ 醍醐さん。 ごめんなさい ちょっと お掛けになってて。」
もも「ありがとうございました。」
花子「醍醐さん お待たせしてごめんなさい。」
醍醐「ううん。 商売繁盛で何よりね。 今日は かよさんは?」
花子「ああ 婦人会で忙しいみたいなの。」
もも「すごく熱心にやってるんです。」
町中
一同「万歳! 万歳!」
カフェー・タイム
もも「こんな自分でも お国の役に立てて うれしいって言ってました。」
醍醐「かよさん 偉いわね。」
花子「…ええ。」
かよ「じゃあ ゆっくりしてって下さい。」
花子「醍醐さん 今日は 何か 大事な話があるって…。」
醍醐「ええ。 はなさん 私 シンガポールへ行く事にしたわ。」
花子「えっ?」
醍醐「長谷部先生にペン部隊の事を お願いしていたけれど なかなか お返事を頂けなくて…。 もう 待ち切れなくて 貿易会社をしている父のつてで 出発する事にしたの。」
花子「大丈夫なの? 一人で南方に行くなんて。」
醍醐「実は ゆうべ 吉太郎さんにも ご報告をしたの。」
回想
吉太郎「シンガポール? フィリピンよりは 情勢が安定していますが危険です。 考え直して下さい。」
醍醐「父の会社も 仕事を 再開していますから大丈夫です。」
吉太郎「しかし そこに行くまでの航路が 安全とは言えません。」
醍醐「吉太郎さんは 軍人として 懸命にお働きです。 この戦時下 私も 無為に過ごしてはいられません。 それに 戦地の様子を見たら 銃後の人々に何か役立つ記事が 書けるかもしれません。」
吉太郎「あなたの決心は 固いんですね。」
醍醐「はい。」
吉太郎「では くれぐれも お気を付けて。 無事に帰ってきて下さい。」
醍醐「ありがとうございます。」
回想終了
醍醐「私の意志が固いと知って 吉太郎さんも分かって下さったわ。」
花子「そう…。 あ… いつ おたちになるの?」
醍醐「今夜の汽車で神戸へ向かって それから 船で。」
宮本家
<そして ここにも1人 旅立とうとしている者が おりました。>
寝室
龍一「純平… お母様と富士子を頼む。」
居間
龍一「ああ いや…。 君が靴下を繕ってくれるとはね。」
蓮子「亡くなったお義母様に 針仕事も ちゃんと教えて頂きました。 さあ これも持っていって下さい。」
龍一「ありがとう。 じゃあ そろそろ行くよ。」
蓮子「遠くに行かれるんですね。 お帰りは…。」
龍一「今度は 長くなるかもしれない。 半年か… 1年。 とにかく この戦争を 一日も早く終わらせなければ。」
玄関
蓮子「待って。 あなた。 転ばないように気を付けて。」
龍一「ああ。」
村岡家
工房
旭「お義兄さん。」
英治「ああ 旭君。 すまないな。 相変わらず 仕事が入らなくて。」
旭「いえ。 しかたないですよ。 お義兄さん。 実は… 働きに出ようかと思っています。」
英治「えっ?」
旭「軍需工場で働いている知り合いが 紹介してくれるって言うから。 これ以上 お義兄さんに頼るのも 心苦しいですし。」
英治「本当に… 申し訳ない。」
旭「いえ。 さっさと 日本が勝ってくれればいいですね。 そうすれば また 元どおり 本が作れるのに。」
居間
花子「そう… 旭さん 軍需工場に?」
英治「うん…。 これだけ 仕事の注文がないと 僕も考えないとな。」
花子「大丈夫よ。 私も頑張って働くから。」
英治「でも 翻訳の仕事も もう ないだろう。」
花子「まあ そうだけど…。 でも 大丈夫。 なんとかなるわ。」
英治「君は いつも明るくていいな。」
花子「気持ちぐらい明るくしなくちゃ。 直子ちゃん。 お母様 かよ伯母ちゃまのお店の お手伝いが終わったら 迎えに来るからね。」
直子「は~い。」
有馬『JOAK東京放送局であります』。
花子「あっ 有馬さんの声。」
有馬『小国民の皆さん こんばんは。 帝国陸海軍は 東亜の各地で 連戦連勝を続けています。 戦地の兵隊さんたちは 皆さんが安心して 毎日勉強したり お父様 お母様に孝行をして 小国民としての務めを 果たしている事を 大変喜んで 日々 戦っておられます。 感謝の気持ちを忘れずに しっかり頑張りましょう』。
美里「今日も 戦争のニュースばっかりね。」
直子「うん…。」
美里「お父様。 レコードが聴きたいわ。」
英治「えっ? よし。 じゃあ かけようか。」
花子「ええ。」
(ガラスが割れる音)
『非国民!』
玄関前
英治「待ちなさい!」
2人「非国民!」
居間
美里「お母様 怖い。」
花子「大丈夫よ。 大丈夫だからね。」
<村岡家に石を投げたのは まだ幼さの残る少年たちでした。 ごきげんよう。 さようなら。>