あらすじ
シンガポールから帰国し、花子(吉高由里子)を訪れた醍醐(高梨臨)は以前の明るさを失っており、戦争はむごいものだと言ったきり黙りこんでしまう。聡文堂の休業を報告に来た梶原(藤本隆宏)から、醍醐が帰国する船上で米国の魚雷攻撃に遭い、恐ろしい体験をしたという話を聞いた花子は、初めて戦争の悲惨さを身近に感じるのだった。そんなある日、吉平(伊原剛志)が村岡家を訪れる。花子たちに疎開を勧めに来たのだ…。
141回ネタバレ
村岡家
玄関
<シンガポールに行っていた 醍醐が 帰ってきました。>
花子「醍醐さん! 帰っていらしたのね。 醍醐さん? どうしたの?」
醍醐「ごめんなさい…。 突然 泣きだしたりしてしまって…。 はなさんの顔見たら 何だか安心して…。」
花子「醍醐さん…。 いつ お帰りになってたの?」
醍醐「少し前に。 昭南市は 戦闘が終わっていたから 安全だったわ。 結局 戦地らしい戦地は 見ずに帰ってきたの。」
花子「そうだったの…。」
醍醐「でも… 戦争とは どういうものなのか 少し分かった気がするわ。 死って 遠くにあると思っていたけれど すぐ隣にあるものなのね。」
居間
花子「すいません。 梶原さん せっかく いらして頂いたのに おさ湯しか お出しできなくて…。」
梶原「いやいや! うちも食糧事情は一緒だ。 紅茶なんか出てきたら それこそ驚くよ。」
花子「それで 今日は どうなさったんですか?」
梶原「聡文堂を休業する事にしたんだ。 随分 粘ってはきたんだが いよいよ 立ち行かなくなってしまってね。」
花子「そうですか…。」
梶原「もちろん また再開するつもりだ。 再開した暁には また 原稿をお願いします。」
花子「はい 是非。 英治さんも 青凛社を 再開するつもりですから 印刷の方も 是非お願いします。」
梶原「よろしく頼むよ。」
花子「あの… 醍醐さんとは お会いになりましたか?」
梶原「そういえば 日本に帰ってきたようだね。 連絡あった?」
花子「ええ。 先日 いらして…。」
梶原「じゃあ 何か 話を聞いたのか?」
花子「あまり 話したくないようでした。」
梶原「そう…。」
花子「あんなに明るかった醍醐さんから 表情がなくなっていて… 向こうで何があったんでしょう…。」
梶原「ご家族から伺っただけなんだが 帰りの船で 随分 怖い思いをしたらしい。」
花子「えっ…。」
梶原「醍醐君が便乗していた船団が アメリカの潜水艦の魚雷攻撃で かなり沈められたらしいんだ。 沈んだ船の乗客は 海に投げ出された。 だが いつ 次の攻撃が来るか 分からない状況で とても 船を止めて救う事はできない。」
梶原「海に漂いながら 必死に 助けを求める人々を見捨てて 逃げるしかなかったらしい。 醍醐君 帰国してから 部屋に閉じ籠もってしまって 誰とも会おうとしないそうだ。」
<醍醐から 笑顔を奪ってしまうほどの 戦争の悲惨さを 花子も初めて 身近に感じたのでした。>
庭
花子「これ 食べられるかしら…。」
吉平「はな!」
花子「てっ! おとう! いらっしゃい!」
美里「おじぃやん!」
吉平「おお 美里 美里 直子。 グッド アフタヌーン。」
花子「おとう 声が大きい。」
吉平「あっ?」
直子「グッド アフタヌーン。 おじぃやん。」
花子「直子ちゃん 英語は使っちゃ駄目。」
吉平「ん?」
花子「おとう とにかく よく来てくれたね。」
吉平「ああ。 おお えらく立派な畑作ったじゃん。 草取りけ? 精が出るな。」
花子「あ… うん 違うの。 今夜のおつゆの具を探してて。」
吉平「てっ! 話には聞いてたけんど 東京は ほんなに 食うもんに困ってるだか。」
花子「うん… 配給の量も 減ってきてしまって…。」
吉平「ほれじゃあ やっぱし 持ってきてよかったじゃん。 よいしょ。 ふう。 ほれ 米じゃん。」
花子「てっ…。 ほれ。 ほれ。 ほれ ほれ。」
直子「白いお米だ!」
美里「うわ~!」
花子「こんなに たくさん…。」
吉平「ほれ。 みそじゃん。」
花子「てっ!」
吉平「ほれ ほれ ほれ。」
カフェー・タイム
吉平「かよ!」
かよ「おとう!」
英治「どうも。」
かよ「お義兄さん お姉やん いらっしゃい。」
もも「おとう! いつ 東京に来たの?」」
吉平「おお もも! 今日の昼にな。」
もも「そう。」
吉平「おお 2人とも 元気そうじゃんけ!」
かよ「おかげさまで なんとかやってる。」
もも「甲府は 変わりない? おかあは 元気にしてる?」
吉平「あっちは みんな元気だ。」
花子「(小声)おとうがね お米とみそを持ってきてくれたの。」
英治「これは かよさんの分。」
かよ「てっ! こんなに もらっていいの?」
吉平「遠慮なんしなんでいい。 (小声で)ほれから こっちは うちで造った ブドウ酒じゃん。」
もも「えっ… おとう ブドウ酒なんて造り始めたの?」
吉平「声がでけえ!」
「かよさん ごちそうさん。」
かよ「ありがとうございました。」
軍人たち「ごちそうさま!」
もも「ありがとうございました。」
吉平「かよ! コップくりょう! このブドウ酒 英治君にも飲んでもれえてえだ。」
花子「おとう… そのブドウ酒 本当に飲めるの?」
吉平「バカにしてもらっちゃ困る。 徳丸んとこにゃあ負けんだぞ。」
英治「それは 楽しみです。」
吉平「いいけ? かよ。 ブドウ酒 あんな軍人なんぞに 出すんじゃねえぞ。」
かよ「えっ? 何で?」
吉平「あいつら 甲州のブドウ酒 根こそぎ持ってって どうせ 夜な夜な 宴会でもやってるずら!」
かよ「そんな事…。 軍人さんに失礼だよ。 お国のために 働いて下さってるのに。」
吉平「ほりゃあ 俺たちも一緒じゃん。」
かよ「おとうは 何も分かってない!」
吉平「かよ… おまん どうしたでえ?」
もも「2人とも落ち着いて。」
英治「さあ お義父さん 飲みましょう。」
もも「おとう。」
英治「お義父さん。 頂きます。 うん! これは うまいですね。」
吉平「ほうずら?」
英治「ええ。」
花子「ああ そうそう。 今日は かよとももに 相談があって来たの。」
もも「相談?」
花子「おとうがね 甲府に疎開してこないかって。」
英治「甲府には 食いもんはある。 東京から 疎開してきてる人らもいる。 食べ盛りのボコのためにも みんなで甲府に疎開してこうし。」
花子「それで… 美里を 甲府で預かってもらおうと思うの。 8月には 生徒たちの集団疎開の 計画もあるみたいだから。」
もも「そう…。 お姉やんは どうするの?」
花子「私は 東京に残るわ。 英治さんも仕事があって 東京を離れる訳にはいかないし うちには 大切な本も たくさんあるし。 かよは どうする?」
かよ「私は 行かない。」
吉平「何でだ? 大した配給もねえに 店やっていくのも苦しいら?」
かよ「私にとって この店は 命より大切なもんだ。 物不足で大変だけど なんとか やってく。 私は 東京に残って この店を守る。」
花子「かよ…。」
安東家
(セミの声)
玄関
花子「ごきげんよう!」
直子「おじぃやん おばぁやん 来たよ!」
吉平「おお~! 来たけ!」
ふじ「待ってただよ~!」
<美里と直子が安東家に やって来るのは 初めてです。」
ふじ「さあさ 上がれし 上がれし。」
花子「さあ 2人とも その前に。」
2人「はい!」
美里「今日から お世話になります。 よろしくお願いします。」
直子「よろしくお願いします。」
ふじ「よろしくお願えします。」
リン「て~っ! よ~くできたボコたちじゃんけ!」
花子「リンおばさん! 朝市も いつの間に。」
朝市「美里ちゃん 直子ちゃん よく来たじゃん。 2人の転校の手続きは もう済んでるだよ。」
花子「ありがとう。 朝市先生が学校にいてくれると 思うと 安心じゃん。」
美里「朝市先生 よろしくお願いします。」
直子「よろしくお願いします。」
朝市「てっ! こちらこそ よろしくお願いします。」
リン「て~っ! よ~くできたボコたちじゃんねえ。」
吉平「ほりゃあ 俺の孫だから 当たり前じゃん。」
ふじ「また始まっっとう。」
(笑い声)
ふじ「上がれし 上がれし。」
武「ごめんなって。」
花子「武! 徳丸さんも ご無沙汰しております。」
徳丸「おう。 疎開してきただけ。 東京は えらく大変みてえじゃんな。」
花子「ええ…。」
ふじ「徳丸さん また何の用でえ?」
徳丸「今日は おまんとこのブドウ酒 全部 引き取りぃ来ただ。 隠してるブドウ酒 全部 出しちゃあ。」
吉平「てっ! 何で知ってるだ。」
徳丸「軍に供出しろ!」
吉平「てっ…。」
徳丸「敵の潜水艦を探す機械を 作るのに ブドウ酒の成分が必要なんだと。」
吉平「てっ! ブドウ酒で潜水艦を探すだと?」
<てっ。 ブドウ酒は そんな使いみちもあったんですね。」
徳丸「この非国民めが!」
武「ああ 供出するのは 当たり前じゃんけ!」
徳丸「さっさと渡せ!」
吉平「渡せねえ!」
花子「てっ… おとう…。」
ふじ「あんた また ほんなこん言って!」
リン「さっさと出さんと おまんの息子の憲兵だって 捕めえに来るかもしれんよ!」
吉平「決められた分は 供出してるら。 残った分を自分で飲んで どこが悪いだ。 お国のため お国のためって 俺も お国の中の一人じゃん!」
徳丸「なにょう 訳分からんこん言ってるだ!」
徳丸 武「てっ!」
吉平「ああ… うめえ。」
徳丸「まだ いっぺい隠してるずら!」
吉平「ああ。 隠してるさ! ああ… うめえ。」
徳丸「やめちゃあ。 やめちゃあ!」
<この2人の関係は 戦時下でも ちっとも変わりませんね。 ごきげんよう。 さようなら。>