ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第142回「生きている証」【第24週】

あらすじ

二学期が始まり、甲府に疎開してきた美里(三木理紗子)と直子(志村美空)は学校に通い始める。だが美里は新しい環境になじめない様子。吉平(伊原剛志)は孫たちにカタコトの英語を交えて話して花子(吉高由里子)にいさめられるが、家の中くらい自由にさせろと言って聞かず、ふじ(室井滋)やリン(松本明子)をあきれさせるのだった。花子は美里を心配しながら東京へ戻るが、その晩、原因不明の高熱が花子を襲う…。

142ネタバレ

安東家

玄関

花子「ごきげんよう。」

直子「おじぃやん おばぁやん 来たよ!」

吉平「おお~ 来たけ!」

<昭和19年 夏 戦況は ますます悪化し 花子は 子どもたちを 甲府へ疎開させる事にしました。>

<2学期が始まり 美里と直子は 今日から 甲府の国民学校に通い始めました。>

居間

直子「ただいま帰りました。」

美里「ただいま帰りました。」

花子「お帰りなさい。 泥だらけで どうしたの?」

朝市「今日は 生徒全員で 出征で男手がなくなった農家の 手伝いしたもんで。」

花子「そうだったの。 2人とも畑仕事なんて 初めてだから大変だったでしょう。」

直子「楽しかったよ!」

花子「そう。」

ふじ「ああ 2人とも お帰り。」

リン「朝市。 送ってきてやっただけ。」

朝市「ああ。 田舎の道は どこも同じに見えるら 迷子にでもなっちゃいけんからな。」

花子「ありがとう 朝市先生。」

吉平「あ~ グッド アフタヌーン。 美里 直子。」

直子「グッド アフタヌーン。 おじぃやん!」

吉平「おお!」

花子「おとう。 今は 英語は控えた方がいいと思うの。」

吉平「何でだ?」

朝市「学校でも英語は使わんようにって 教えてるですよ。」

吉平「なんぼ 敵性語だからっていったって 別に英語は禁止なんて法律が 出来た訳じゃねえだ。 ほれなのに 英語を片っ端から 妙な日本語にして 野球のセーフは 『よし』だの サイダーは 『噴出水』だの。」

リン「婿殿がほんなこん言ってるから 村の人らが いい顔しんだよ! ただでさえ ここんちは おやじも娘も西洋かぶれだって ろくな うわさされちゃいんだに!」

花子「えっ…。」

朝市「おかあ!」

リン「ふんだけんど 本当のこんじゃん。」

吉平「言いてえやつには 言わしときゃあいいだ。 うちん中ぐれえ 好きに英語しゃべったって 罰ゃあ当たらん。」

花子「おとう…。」

リン「ほんなこん 言ってちゃ ほのうち 石投げられても 知らんよ!」

吉平「投げてえやつは 石でも何でも投げりゃあいいだ。」

美里「うちは 石を投げられて 窓ガラスが割れました。」

花子「美里…。 私が翻訳の仕事なんかしてるから 白い目で見られて 2人に 怖い思いをさせてしまったの。」

朝市「ほうけ…。」

<甲府で 美里たちと数日過ごした花子は 離れ難くなる前に 東京へ戻る事にしました。>

吉平「はな。 米とみそも持ってけし。」

花子「てっ… こんなに もらったら おかあたちが困じゃん。」

吉平「うちは田舎だから 何とでもなるだ。」

ふじ「ももや かよにも 食べさせてやってくりょう。」

吉平「ああ ほうだ。 これも持ってけし。 ブドウ酒。」

花子「てっ… おとう それは…。」

吉平「おお いいだ いいだ。 ほれ。」

花子「でも…。」

吉平「いいだ いいだ。 何か あった時に 役に立つかもしれんら。 ほら。 うん。 ほら。」

花子「ありがとう…。 頂きます。 美里。 直子ちゃん。 おじぃやんやおばぁやん それから朝市先生の言う事を よ~く聞いて いい子にしてるのよ。」

直子「はい。」

美里「はい…。」

「こんちは!」

「直子ちゃん 川行って遊ばんけ?」

直子「伯母ちゃま 行ってきていい?」

花子「ええ。 いっぱい遊んでいらっしゃい。」

直子「美里お姉ちゃんは?」

美里「私は いい。」

ふじ「夕飯までにゃあ帰ってくるだよ。」

直子「は~い! 行ってまいります。」

花子「気を付けてね。」

吉平「気ぃ付けて行ってこうし。」

ふじ「行ってこうし。」

美里「お母様。 私も一緒に東京に帰っては駄目?」

花子「美里…。 東京のお友達も 近いうちに みんな疎開してしまうのよ。 東京に帰るよりも ここで 新しいお友達を つくった方が楽しいわよ。 直子ちゃんの面倒も こぴっと見てあげてね。」

美里「はい。」

花子「じゃあ 汽車の時間だから。」

美里「お母様。」

花子「美里…。 お手紙書くから 美里も書いてね。」

美里「ええ 書くわ。 お父様とお母様に。」

花子「おとう おかあ お願いします。」

ふじ「気ぃ付けてね。」

吉平「大丈夫 大丈夫。」

花子「おかあ 重たいでしょう…。」

ふじ「はな おかあにもお手紙書えてくりょう。」

村岡家

居間

旭「銀飯なんて 本当に久しぶりだな。」

もも「明日から また 代用食ですよ。 お姉やんが持ってきてくれた お米や みそは 大事に取って置かないと。」

旭「分かってるよ。 いつまで こんな生活が続くんですかね。」

英治「うん…。 花子さん どうしたの?」

花子「ああ… ちょっと疲れてしまって…。」

もも「重い荷物持って 汽車に揺られたから…。」

英治「大丈夫?」

花子「ええ。 ちょっと 先に休ませてもらうわ…。」

英治「花子さん!?」

もも「お姉やん!?」

英治「花子さん! すごい熱じゃないか…。」

(ふすまが開く音)

英治「先生。 妻は…。」

医者「ジフテリアに感染してますな。」

英治「ジフテリア…。」

医者「感染の危険がありますから 症状が落ち着くまで 奥さんの部屋には 絶対 誰も入らんこと。」

<ジフテリアというのは 心臓まひや神経まひを起こして 死に至る事もある病気です。>

安東家

居間

吉平「ふじ。」

ふじ「はいはい。」

吉平「はなが病気んなったらしい。」

ふじ「えっ!?」

吉平「ジフテリアっちゅう 人にうつる病気だとう…。」

ふじ「えっ!?」

吉平「容体は 落ち着いたって 書えてあるけんど…。」

美里「お母様 ご病気なの!?」

ふじ「あっ 美里ちゃん。」

吉平「ハハハハ 心配しなんでいい。 ハハハ。 お父様が 優秀なお医者さんを 見っけてくれたらしい。 必ず よくなるだ。」

美里『お母様。 ご病気だと聞きましたが お加減 いかがですか?』。

村岡家

寝室

花子「『私は お友達もできて…』。」

(せきこみ)

花子「『毎日 楽しく 学校でお勉強しています。 ご安心下さい』。 美里 元気でやってるのね…。」

(せきこみ)

花子「よかった…。」

<美里は 花子を心配させたくなくて そう書いたのですが…。」

安東家

居間

朝市「美里ちゃん… ずっと学校に なじめんみてえで。 今日も 東京もんってこんで からかわれたらしくて 校庭の隅で泣いてたです。」

吉平「ほうか…。」

朝市「今まで 気付いてやれなんで すいません。」

ふじ「朝市のせいじゃねえさ。 美里ちゃんは 優しいから きっと 東京の おかあの病気のこんが心配で 心細かっただよ。」

村岡家

寝室

英治「花子さん。 具合は どう? おかゆ作ったんだけど。」

花子「ありがとう 英治さん。」

英治「何か欲しいものは ない?」

花子「あっ じゃあ あの本を。」

英治「『ANNE of GREEN GABLES』?」

花子「ええ。」

英治「分かった。 後で持ってくるけど まだ無理しちゃ駄目だよ。」

花子「はい。 頂きます。 これ…。」

英治「後で 気分がよくなった時にでも 読んで。」

(せきこみ)

花子「『いとしい花子さん。 一つ屋根の下にいながら 君に会えないとは 僕らを遮る障子が憎い』。」

<2か月隔離されて 病気と闘った花子は 随分 回復しました。」

もも「お昼ごはん 出来たよ。」

(空襲警報)

花子「空襲…?」

もも「お姉やん 逃げよう!」

花子「待って 辞書を持っていかないと。」

もも「私が取ってくるから お姉やんは 先に防空壕に入って!」

玄関前

(空襲警報)

もも「お姉やん 早く!」

防空壕

もも「お姉やん。」

花子「ありがとう。」

(爆撃音)

(爆撃音)

もも「お姉やん…。」

花子「大丈夫。 大丈夫。」

(爆撃音)

もも「お姉やん。」

<ついに 東京も 戦場となってしまいました。 この日 東京中の人々が 戦争の恐怖を 身をもって知ったのでした。 ごきげんよう。 さようなら。>

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