ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第144回「生きている証」【第24週】

あらすじ

陸軍に入って訓練を受けていた純平(大和田健介)が、特別休暇をもらって1年ぶりに宮本家へ帰って来た。息子の帰宅を手放しで喜ぶ蓮子(仲間由紀恵)だが、出征の日が近いことを察し、純平のために夕食の材料を調達しに出かける。一方純平は、村岡家へ向かう。突然訪ねて来た純平に、花子(吉高由里子)は驚き、再会を喜ぶ。話すうちに、花子は純平に、蓮子とはずっと会っていないことを打ち明ける。それを聞いた純平は…。

144ネタバレ

村岡家

書斎

<空襲が激しくなる中 花子は 家中の原稿用紙をかき集め 『ANNE of GREEN GABLES』の翻訳に 取りかかりました。 そして 学徒出陣で陸軍に入り 訓練を受けていた純平が 1年ぶりに 蓮子のもとに帰ってきました。>

宮本家

玄関

蓮子「お帰りなさい!」

純平「特別休暇がもらえましたので。」

仏間

純平「おばあ様 ただいま帰りました。」

居間

純平「この辺りは 空襲で燃えなかったんですね。 東京で空襲が始まってから 心配していました。」

蓮子「今 どこにいるの?」

純平「すいません…。 軍機だから お母様にも言えません。」

蓮子「そう…。 いつまでいられるの?」

純平「明日の午後 たちます。」

蓮子「じゃあ 今夜は 泊まれるのね?」

純平「よろしいですか?」

蓮子「当たり前じゃないの。 ここは あなたのおうちですよ。」

純平「父上は あれから 連絡はありませんか?」

蓮子「ええ…。」

純平「そうですか…。」

蓮子「ねえ お夕食は 何がいいかしら? 手に入るものは 限られるているけれど…。」

純平「お母様の作るものであれば 何でも。」

蓮子「まあ。 そんなお世辞まで 言えるようになったのね。」

カフェー・タイム

かよ「蓮子さん!」

蓮子「ごきげんよう。 ご無沙汰しております。」

かよ「こちらこそ。 あっ どうぞ。 本当にお久しぶりです。」

蓮子「今日は お願いがあって参りました。」

かよ「はい。」

蓮子「入営している純平が つい先ほど 休暇で帰ってまいりましたの。 お恥ずかしい話ですが 今晩 食べさせてやるものが 何もなくて困っているんです。」

かよ「分かりました。 そういう事なら。 ちょっと待ってて下さいね。」

村岡家

玄関

花子「純平君?」

純平「大変 ご無沙汰しております。」

居間

花子「お母様 お変わりない?」

純平「おかげさまで。」

花子「実は… お母様と しばらくお会いしてないの。」

純平「やはり そうでしたか。」

花子「えっ?」

純平「母は 以前 花子おば様の事を よく 僕たちに話していました。 本当に楽しそうに。 でも… ある時から パタリと何も言わなくなりました。」

花子「ごめんなさい…。 私たち 衝突してしまったの。 お互い譲れない事があって…。」

純平「みんな 離れていきます。 うちは 父も母も変わってますから。」

花子「そんな…。」

純平「母の事が心配です。 花子おば様。 何かあった時は 母を助けてやって下さい! お願いします!」

花子「純平君…。」

純平「どうしても それだけを 花子おば様にお願いしたくて。 お邪魔しました!」

花子「ま… 待って! 純平君。 これ 今夜 皆さんで召し上がって。 お母様もお好きなブドウ酒よ。」

純平「いいんですか? こんなに貴重なもの…。」

花子「味は 保証できないの。 甲府の実家の父が造った ブドウ酒だから。」

純平「遠慮なく頂きます。」

花子「純平君。」

純平「はい。」

花子「うちの歩も生きていたら あなたと同じように 今頃 兵隊さんになって 出征していたはず。 あなたを送り出す 蓮子さんの気持ちを思うと たまらないの。 お母様のために 必ず帰ってきなさい。」

純平「母の事 どうか どうか よろしくお願いします!」

花子「純平君…。」

宮本家

居間

純平「どうしたんですか? こんな ごちそう!」

蓮子「まるで おとぎの国から魔法使いが やって来たみたいでしょう?」

富士子「ただいま帰りました。」

蓮子「お帰りなさい。」

純平「お帰り 富士子。」

富士子「お兄様! どうしたの?」

純平「何でもない。 ただの休暇だ。」

富士子「まあ すごいごちそう!」

蓮子「さあ ごはんにしましょう。」

富士子「お鍋なんて何年ぶりかしら。 もっと よく見たいわ。」

純平「ああ 富士子。」

蓮子「これは?」

純平「ああ…。 大学の友人から もらってきたんだ。 今どき 珍しいだろ? ブドウ酒なんて。 さあ 頂こう!」

純平「お母様は もう飲まないんですか?」

蓮子「何だか 今日は 胸がいっぱいで…。 純平 召し上がれ。」

純平「はい。 ああ… うまい。」

蓮子「そのブドウ酒は 甲府のではないかしら? そうなのね。」

純平「実は 今日 花子おば様に会ってきました。」

蓮子「そう…。 はなちゃん 元気だった?」

純平「はい。 お母様の事を お願いしてきました。 花子おば様に言われました。 『お母様のためにも 無事に帰ってきなさい』と。 でも 僕は お母様や富士子のために 戦って死ぬなら 悔いはありません。」

蓮子「純平。 親より先に死ぬくらい 親不孝な事は ないのよ。」

純平「お母様 そんな事 言わないで下さい。 どうか 明日は笑顔で 送り出して下さい。」

玄関前

純平「お母様 行ってまいります。 お元気で。」

蓮子「純平! 武運長久を祈っています。」

純平「はい!」

村岡家

書斎

花子「(心の声)『曲がり角を曲がった先に 何があるのかは分からないの。 でも それは きっと…』。」

(空襲警報)

花子「(心の声)『きっと 一番よいものに 違いないと思うの』。」

(空襲警報)

居間

花子「美里! 美里!」

ラジオ・有馬『東部軍管区指令部発表。 22時15分現在 敵機の第1目標は 相模湾より逐次 帝都南西部地区に 侵入するもようであります。 繰り返します』。

美里「お父様は!?」

花子「夜勤で遅くなるの。」

(空襲警報と飛行機のエンジン音)

花子「ありがとう。」

(爆撃音)

美里「お母様。」

花子「美里… 大丈夫? 逃げましょう。」

花子「美里! 逃げましょう!」

(爆撃音)

町中

(悲鳴)

花子「大丈夫よ。」

(飛行機のエンジン音)

<焼夷弾が雨のように降る町を 逃げながら 花子は 祈りました。 生きた証しとして この本だけは 訳したい。 花子の祈りは 届くのでしょうか。 ごきげんよう。 さようなら。>

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