あらすじ
昭和20年4月、激しい空襲が大森の町を襲う。花子(吉高由里子)は美里(三木理紗子)を連れて必死に逃げ、翌朝もも(土屋太鳳)と共に村岡家へ戻って来る。焼い弾によって青凛社は全焼しており、花子たちはショックを受けるが、英治(鈴木亮平)や旭(金井勇太)は無事だった。花子は、大切に抱えて逃げた『アン・オブ・グリン・ゲイブルズ』の原書を感慨深く見つめる。そこへ、かよ(黒木華)がぼう然とした様子で現れる…。
145回ネタバレ
村岡家
書斎
花子「(心の声)『曲がり角を曲がった先に 何があるのかは 分からないの。 でも それは きっと…。 きっと 一番よいものに 違いないと思うの』。」
(空襲警報)
<平和になる時を 待っているのではなく 今 これが私のすべき事なのだ。 その思いに突き動かされ 翻訳を始めた花子でした。>
(空襲警報)
町中
(爆撃音)
<空襲の町を逃げながら 花子は 祈りました。 生きた証しとして この本だけは訳したい!>
直子「おめめが痛いよ。」
美里「目が痛い。」
もも「大丈夫。 大丈夫よ。」
花子「大丈夫。 もう少しだから歩こう。」
<甲府に疎開させていた直子が 東京に帰ってきたやさきの 空襲でした。>
村岡家
庭
旭「あっ… 直子! もも!」
直子「お父さん!」
もも「旭さん!」
英治「美里! 花子さん!」
美里「お父様!」
花子「英治さん。」
英治「みんな無事でよかった。 恐ろしかっただろう?」
美里「ええ。」
英治「かよさんは?」
花子「分からないの…。 ここには来てないのね。」
英治「うん…。 僕らも さっき なんとか たどりついたところで。」
旭「工場が爆撃されて お義兄さんと逃げてきたんです。」
書斎
もも「お姉やんの大切な部屋が こんな事になるなんて…。」
花子「でも 燃え広がらなくて よかったわ。」
旭「もし 火が広がっていたら どうなっていたか…。」
英治「大事な本を 防空壕に隠しておいて よかった。」
花子「かよ…。」
居間
花子「かよ!」
もも「かよ姉ちゃん!」
花子「無事だったのね。 よかった…。」
かよ「お姉やん…。」
花子「かよ?」
かよ「私の店… 焼けてしまったの。 あの辺は 全部 燃えて 何にも残ってない。 お姉やん…。」
宮本家
台所
富士子「配給 また おいも?」
蓮子「お母様は おいも好きよ。 おいもにはね お父様との思い出があるの。 お父様と一緒になった頃 よく お父様が 焼きいもを 買ってきて下さったのよ。」
富士子「(ため息) 私は 何でもいいから おなかいっぱい食べたい。」
蓮子「富士子…。」
富士子「お兄様は ちゃんと 食べていらっしゃるかしら。」
(戸が開く音)
蓮子「あなた!」
富士子「お父様。」
龍一「よかった…。 無事だったか。 空襲がひどいと聞いて 心配して戻ってきた。」
蓮子「お帰りなさい。」
龍一「ただいま。」
居間
龍一「そうか…。 純平は 出征したのか。」
蓮子「はい。 つい この間 一度だけ 特別休暇で帰ってきたんです。」
富士子「お父様がいて下さったら お兄様 喜んだでしょうに。」
龍一「私がいても あいつを喜ばせるような事は 何一つ言ってやれない。」
蓮子「私もです。 送り出す前の晩 純平に言われてしまいました。 『笑顔で送り出してくれ』と。」
村岡家
書斎
英治「せっかく翻訳した原稿が…。」
花子「原稿は また書き直せばいいのよ。 この原書と辞書がある限り 大丈夫。 何十回 爆弾を落とされようと 私 この翻訳を完成させるわ。 私にできる事は これだけだから。」
<蓮子や醍醐は… みんなは 無事だろうか。 花子は 祈るような気持ちで 翻訳を続けました。>
寝室
美里「今夜も 空襲が来るんじゃないかしら。」
かよ「いつになったら ゆっくり寝られるのかな。」
花子「どんなに不安で暗い夜でも 必ず 朝がやって来る。 アンも言ってるわ。 『朝は どんな朝でも美しい』って。」
美里「お母様 アンのお話して。」
花子「いいわよ。」
花子「『『ゆうべは まるで この世界が 荒野のような気がしましたが 今朝は こんなに日が照っていて 本当にうれしいわ。 でも 雨降りの朝も大好きなの。 朝は どんな朝でも よかないこと? その日に どんな事が起こるか 分からないんですもの。 想像の余地があるから いいわ』』。」
書斎
<生と死が紙一重の中で 花子は 翻訳を続けました。>
花子「『What’s your name?』。 『『名前は 何ていうの?』。 子どもは ちょっと ためらってから 『私を コーデリアと 呼んで下さらない?』と 熱心に頼んだ。 『それが あんたの名前なのかい?』。 『いいえ。 あの… 私の名前って訳じゃ ないんですけれど コーデリアと呼ばれたいんです。 すばらしく 優美な名前なんですもの』。 『何を言っているのか さっぱり分からないね。 コーデリアというんでないなら 何という名前なの?』。 『アン・シャーリー』』。」
(鐘の音)
花子「アンって 私に よく似てる…。」
はな「てっ? なにょう言ってるでえ。 おらに似てるずら。 グッド イブニング! 花子。」
花子「てっ…。 あ… あなた 私? …はな?」
はな「はなじゃねえ。 おらの事は 花子と呼んでくりょう。」
花子「てっ! やっぱり 私だ。」
はな「その本 面白そうじゃんけ!」
花子「ええ。 すごく面白いわよ。」
はな「おらも読みてえ。 ちょっこし 読ましてくれちゃあ。」
花子「ええ。」
はな「てっ! 英語じゃん! 全部 英語じゃんけ! 花子は これ 全部 読めるだけ?」
花子「ええ 読めるわ。 あなたが 修和女学校にいる時 こぴっと頑張って 英語を勉強してくれたおかげで 私 今 翻訳の仕事をしているの。 村岡花子という名前で。」
はな「村岡花子…。 おらも頑張ったけんど 花子も頑張ったじゃん!」
花子「ありがとうごいす。」
はな「この本 どんな話か 教えてくれちゃあ!」
花子「ええ。 物語の舞台は カナダのプリンス・エドワード島。 主人公は赤毛で そばかすだらけの 女の子 アン・シャーリー。 生まれて間もなく両親を亡くして 孤児院へ預けられたアンは ふとした間違いで 男の子を欲しがっていた マシュウとマリラという兄妹のおうちへ やって来るの。」
花子「マシュウは 働き者で無口な おじいさんなんだけれど アンの事が とっても気に入ってしまって マリラに こう言われるの。 『マシュウ。 きっと あの子に 魔法でもかけられたんだね。 あんたが あの子を このうちに 置きたがっているって事が ちゃ~んと 顔に書いてありますよ』。 『そうさな。 あの子は ほんに面白い子どもだよ』って。」
はな「てっ。 おじぃやんみてえ。」
花子「そうなの。 マシュウは『Well, now…』っていうのが 口癖なんだけど 日本語で訳すと おじぃやんの口癖だった あの言葉が ぴったりなの。」
回想
周造「そうさな。」
回想終了
花子「あなたとアンは 似ているところが たくさん あるの。 アンは 11歳の時に 一人で プリンス・エドワード島に やって来るんだけど…。」
はな「おらが 修和女学校に入った時みてえに?」
花子「そう。 その日から アンの運命は 大きく 変わっていくの。」
はな「て~っ。 アンって 本当に おらにそっくりじゃん。」
花子「本当に私たちにそっくりなの。」
はな「花子! このお話は いつ 本になるでえ?」
花子「それは… 分からないの。 本に出来るかどうかも 分からないわ。」
はな「ほれなのに 花子は どうして翻訳なんしてるでえ?」
花子「それはね 私の中にアンが住み着いていて 絶えず 私を励ましてくれるから。 先の見えない不安な時でも アンは 決して希望を見失わずに こう言うの。 『曲がり角を曲がった先に 何があるかは分からないの。 でも きっと 一番よいものに 違いないと思うの』って。」
はな「曲がり角の先…。」
<ごきげんよう。 さようなら。>