ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第148回「どんな朝でも美しい」【第25週】

あらすじ

若い編集者・小泉(白石隼也)に、『アンクル・トムズ・ケビン』のほかに『アン・オブ・グリン・ゲイブルズ』の翻訳原稿を手渡した花子(吉高由里子)。だが出版社から、日本では知名度が低いという理由で、『アン~』の出版は断られてしまう。残念がる花子だが、英治(鈴木亮平)に励まされ、思いを新たにする。そんな折、JOAKの黒沢(木村彰吾)から電話が入る。久しぶりにラジオに出演して欲しいとの依頼だった…。

148ネタバレ

村岡家

居間

小泉「こちらは?」

花子「『ANNE of GREEN GABLES』。 直訳すると 『緑の切り妻屋根のアン』です。」

梶原「誰の作品?」

花子「カナダの ルーシー・モード・モンゴメリです。」

小泉「ルーシー・モード・モンゴリ?」

花子「モンゴメリ。」

梶原「私は その作家の作品は 読んだ事はないが 村岡先生が薦めるんだ。 きっと面白いに違いないよ。」

花子「主人公の少女が 欠点だらけなんですけど とても魅力的で ものすごく面白いんですよ。」

小泉「社長と相談してみます。」

花子「はい。 よろしくお願いします。」

<花子が 空襲の中 命懸けで守り 翻訳した物語が いよいよ出版されるのでしょうか。>

玄関

小泉「ごめんくださ~い。 村岡花子先生! 小鳩書房の小泉です。」

居間

花子「どうぞ。」

小泉「先日 お預かりした 原稿なんですが…。」

花子「あっ いかがでしたか?」

小泉「『アンクル・トムズ・ケビン』は 是非 出版させて頂きたいと思います。」

花子「『ANNE of GREEN GABLES』は?」

小泉「僕は すごく面白いと思いました。 主人公の女の子が 本当に魅力的で。 でも…。 今回は 見送らせて下さい。 ルーシー・モード・モンゴメリという作家は 日本では知名度もありませんし 出しても厳しいだろうと 社長の判断で…。」

花子「そうですか…。」

小泉「弊社も まだ 冒険できる状況ではなくて…。 本当に申し訳ありません。」

花子「いえ しかたのない事ですから。」

小泉「では 組み版が出来ましたら また お持ちします。」

花子「はい。 よろしくお願い致します。」

書斎

花子「(ため息)」

英治「駄目だったのか。」

花子「ええ…。 スコット先生との約束を 果たせると思ったんだけど…。」

英治「がっかりする事はないよ。 もう 戦争は 終わったんだ。 これから いくらでも 出版する機会は来るさ。」

花子「英治さん…。」

英治「あれだけの空襲を くぐり抜けてきたんだ。 花子さんの思いを乗せて このアンの物語が必ず 日本中の少女たちの手に 届く日が来るさ。」

花子「そうね。 私 諦めないわ。」

英治「うん。」

(電話の呼び鈴)

英治「僕が。」

花子「あっ お願いします。」

英治「花子さん。 JOAKの黒沢さんから。」

花子「黒沢さんから?」

廊下

花子「ええ…。 せっかくのお話なんですけれど 少し考えさせて下さい。 はい。 申し訳ありません。 はい…。 ごきげんよう。」

居間

英治「どうしたの?」

花子「ああ… またラジオに出てくれないかって。」

英治「そう…。 もう 戦争のニュースは 読まなくていいんだ。 出てみれば?」

回想

蓮子「あなたが 純平を戦地へ送ったのよ。 あなた… ラジオで日本中の子どもたちに 語りかけてたじゃない。 『お国のために 命をささげなさい』と。 純平を返してちょうだい!」

回想終了

花子「やっぱり できないわ。」

英治「花子さん…。」

別日

花子「こんなに? 助かるわ。」

かよ「私 闇市で お店をやろうと思うの。 自分の店が焼けてしまった時 何もする気が起きなかったけど 戦争で何もかもなくしたのは 自分だけじゃないって思ったら 力が湧いてきた。」

もも「かよ姉やんは すごいね。」

花子「うん。 かよは 私たち兄妹の中で 一番たくましいわね。」

(戸が開く音)

玄関

醍醐「ごきげんよう。 はなさん。 皆さん。」

花子「醍醐さん…。 心配してたのよ!」

居間

醍醐「はなさん。 吉太郎さんは こちらにいらしてない?」

花子「兄が どうかしたの?」

醍醐「私… 吉太郎さんと 偶然 闇市でお会いしたの。 その時に ふと思ったの。 ひょっとしたら 吉太郎さんは 命を絶つおつもりなんじゃ ないかって…。」

もも「兄やんが…。」

醍醐「吉太郎さん まるで どこかへ 行ってしまわれるような事を おっしゃっていて…。 お別れしたあと 気になって捜し回ったの。 心当たりの所は 全部捜したわ。 でも 見つけられなくて…。 私の ただの思い過ごしなら いいんだけれど…。」

もも「おとうも おかあも 兄やんの事 随分心配してた。 おとう 言ってたの。 世の中が こうなった以上 憲兵は ひどい事になるって…。」

かよ「戦争に負けた事は 兄やんにとって 耐えられない事だったと思うよ。 今まで信じてきたものが すっかり崩れてしまったんだから。 兄やん すごく生真面目だから 変な事考えないといいけど…。」

<その後も 吉太郎の行方は 一向に分かりませんでした。>

(電話の呼び鈴)

廊下

朝市「あっ はなけ? 朝市だ!」

花子「朝市… どうしたの?」

朝市『大変じゃん。 吉平おじさんが倒れただ。』

花子「てっ…。」

朝市『心臓が弱ってて かなり危ねえ状態だって お医者さんが。』

玄関

直子「おじぃやん 大丈夫かな。」

美里「お母様。 おじい様に 早く元気になったって伝えて。」

花子「ええ。」

英治「お義兄さんにも知らせないと。 とにかく捜してみるよ。」

花子「お願いします。 それじゃあ 行ってきます。」

もも「直子。 いい子にしてるんだよ。」

直子「うん。」

かよ「行ってきます。」

汽車

(汽笛)

安東家

寝室

花子「ただいま! おとう! 大丈夫?」

吉平「はな! もも! かよ! よく帰ってきたじゃん。」

花子「おとう 起きてて平気なの?」

吉平「おお 平気も平気。 このとおり ピンピンしてらあ。 ハハッ ちょっこし クラッとなっただけじゃんけ。」

もも「な~んだ… よかった。 心配して飛んできたのに。」

リン「本当に人騒がせじゃんね。」

吉平「ああ すまん すまん。」

リン「ふんだけんど 東京からすっ飛んで 帰ってきてくれるなんて いい娘たちじゃんね~!」

吉平「ハハハハ ほりゃあ 俺の娘たちだからな。」

(笑い声)

朝市「ほれじゃ おらたちは これで。 おかあ 帰ろう。」

ふじ「お騒がせして悪かったじゃんね。」

リン「ううん。 婿殿の人騒がせは いつものこんじゃん! まあ 自分が年寄りだっちゅう事を 忘れんで 無理ょうしんこんずら。」

朝市「おじさん くれぐれも お大事に。」

吉平「おお 悪かったじゃんな 朝市。」

朝市「いえ。 (小声で)はな ちっと。」

居間

朝市「おじさん 元気そうにしてるけんど…。」

花子「うん…。」

朝市「お医者さんも くれぐれも無理させんようにって 言ってたから。 何かあったら いつでも呼んでくりょう。」

花子「ありがとう 朝市。」

朝市「ほれじゃあ。 おかあ 帰ろう。」

リン「ああ… ふんじゃあ。」

居間

花子「こんな ぜいたくな食事 本当に久しぶりさあ。」

ふじ「吉太郎は どうしてるずらか…。」

吉平「おまんらとこにゃあ 連絡あったけ? はな どうかしただけ?」

花子「兄やん きっと元気にやってるさ。」

かよ「さあ 冷めちもうから食べよう。」

もも「おとう。 てっ! ラジオがある。」

(吉平の笑い声)

吉平「ほりゃあ ラジオくれえあるさ。 おかあが大好きな歌謡曲を 聴かしてやらっかと思って。」

ふじ「本当は おとうが欲しくて 買ってきただよ。 はなが また ラジオに出るじゃねえかって。」

吉平「はな ラジオに いつ出るだ?」

かよ「お姉やん また ラジオ局から頼まれてるだよ。」

吉平「てっ!」

ふじ「ほりゃあ 楽しみじゃんねえ。 へえ~。」

(吉平とふじの笑い声)

吉平「いつ出るだ? 何の話ょうするだ?」

(戸をたたく音)

吉平「ん?」

ふじ「は~い。 どちらさんですか?」

花子「てっ…。 あ… 兄やん。」

<兄やん… みんな 心配してたんですよ。 ごきげんよう。 さようなら。>

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