ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第154回「曲り角の先に」【最終週】

あらすじ

ある日、小鳩書房の小泉(白石隼也)が社長の門倉(茂木健一郎)を連れて村岡家を訪れる。まだ日本に紹介されていない新しい物語を出版したいと言うのだ。花子(吉高由里子)は、美里(金井美樹)に無理ではないかと言われながらも、手元に残しておいた『アン・オブ・グリン・ゲイブルズ』の原稿をもう一度提示する。小泉は『アン~』をよく覚えていて、今なら可能性があると前向きだが、門倉が思いがけないことを言いだす…。

154ネタバレ

村岡家

玄関前

<ある日の事。 小鳩書房の小泉が 社長を連れてやって来ました。>

居間

花子「門倉社長 ごきげんよう。」

門倉「どうも。 『アンクルズ・トムズ・ケビン』の時は お世話になりました。」

花子「こちらこそ。」

小泉「村岡先生は 翻訳や講演のお仕事で 大層お忙しいと言ったんですが 社長が ご意見だけでも 伺いたいと言うので。」

花子「何でしょう?」

門倉「少し前に 弊社では 『風と共に去りぬ』の複刊本を 出しまして。」

花子「ああ 大ベストセラーですね。 あれは 翻訳もすばらしかったです。」

小泉「弊社としては 『風と共に去りぬ』に続くような 女性読者をつかむ新しい作品を 探しているんです。」

門倉「まだ 日本に紹介されていなくて 村岡先生が『これだ!』と 思うものは ないですか?」

花子「新しい作品ですか。」

門倉「はい。」

小泉「ええ。」

花子「ちょっとお待ち下さい。」

書斎

美里「お母様。 それ 前にも 小鳩書房さんに見せて 断られたんじゃなかったっけ?」

花子「ええ…。 ほかの出版社にも さんざん断られたし 駄目でもともと。」

<6年間 花子は 出版してくれるところを 探し回りましたが いまだに どこも見つかっていないのでした。>

居間

小泉「これは!」

花子「『ANNE of GREEN GABLES』。 『緑の切り妻屋根のアン』です。」

小泉「主人公のアンが魅力的だったので よく覚えています。 ああ… まだ 出版されてなかったんですね。」

花子「ええ。 日本では 知られていない作家だから 皆さん 冒険したがらなくて。」

門倉「『ANNE of GREEN GABLES』?」

小泉「覚えてませんか? 終戦後すぐに 村岡先生から 『アンクル・トム』と一緒に ご提案頂いたものですよ。」

花子「ただ 新しいものでは ないんですよ。 原作が書かれたのは 40年以上も前の話ですし 『風と共に去りぬ』のように ドラマチックな展開もありません。 けど アメリカやカナダでは 大変 人気のある作家なんです。」

小泉「いや~ 僕は 大変面白いと思いました。 どうですか 社長? 今なら 冒険する余裕も あるじゃないですか。」

門倉「本当に そんなに面白いの?」

花子「えっ?」

小泉「社長! ひょっとして 読まずに断ったんですか?」

門倉「いや~… おわびしなきゃいけないですね。 実は 読んでないんですよ。 あのころは 知名度の低い作家に 手を出すほど うちも余裕がなかったんです。 タイトルも パッとしないじゃないですか。 緑の屋根の家に住んでる女の子の 日常を描いた話なんでしょう?」

(戸が開く音)

美里「ひどすぎます! 読みもせずに断っただなんて 許せないわ!」

花子「ちょっと 美里!」

美里「母は この原書 命懸けで翻訳したんですよ! それなのに 読んでない? 本にも母にも失礼です!」

花子「美里。 お客様に何を言うの。」

美里「お母様。 こんな心ない人が やってる出版社に 大切な原稿を…。」

花子「ちょっと! いい加減になさい!」

美里「でも お母様…。」

花子「門倉社長 小泉さん 申し訳ありません。 このように 私のしつけが なっておりませんで…。 美里も謝りなさい。 申し訳ありません。」

小泉「いえ。 お嬢さんが怒るのも無理ないです。 すいません。 社長も何か言って下さい!」

門倉「分かりました。 読みます。 これから読みますから。 原稿をお借りしても?」

花子「ええ もちろん。」

美里「本当に読んで下さいね。」

花子「美里。 よろしくお願い致します。」

門倉「確かに。 お邪魔しました。」

小泉「お邪魔しました。」

台所

もも「反省中?」

美里「もも叔母様…。 私って どうして こうなのかしら。 カ~ッとなると 自分を 抑えられなくなってしまうの。」

もも「お母様の大切なお客様だから ちゃんと謝らなきゃね。」

美里「でも 許せない事は許せないわ。」

もも「そういうとこ お姉やんそっくりだね。」

美里「えっ?」

もも「お姉やんも 小さい頃から カ~ッとなると 自分を抑えられなくなって 幼なじみの朝市さんにも 『はなは 怒ると おっかねえ』って 言われてたの。」

美里「でも… 私の本当のお母様は もも叔母様なんでしょう?」

もも「ええ。 生みの親は 私よ。 でも 美里ちゃんも よく分かってるでしょう? お姉やんは 美里ちゃんを 心から愛してる。 あんなに あなたの事を思ってる人は 世界中で2人だけよ。」

美里「お母様とお父様?」

もも「そう。 後で お母様に ちゃんと謝らなきゃね。」

書斎

美里「あの… お母様。 さっきは ごめんなさい。 お母様のお客様に あんな失礼な態度を とってしまって 反省しています。」

花子「そうね。 いくら 頭に来たからといって 目上の人に対して ああいう態度は よくないわね。 美里も もう大人なんだから わきまえないと。」

美里「本当にごめんなさい。」

花子「でも… 正直言うと 少しすっきりした。」

美里「えっ?」

花子「美里が怒ってくれなかったら お母様が怒ってたかもしれない。 読まずに原稿を突き返すなんて ひどいわよね。」

美里「お母様…。 それからね…。」

花子「何?」

美里「私… お母様の娘でよかったわ。 自分でも 困った性格だと 思う事もあるけど 私は 自分のほか 誰にもなりたくないわ。」

<その夜 遅くなってからの事でした。>

廊下

英治「誰か いるみたいなんだ。」

花子「こんな時間に?」

美里「今日は 休館日なのに…。」

歩文庫

英治「誰か いるんですか?」

花子「門倉社長… 小泉さん。」

小泉「遅くまで お邪魔して すみません!」

英治「今まで 原稿 読んでらっしゃったんですか?」

小泉「はい…。 社長 読み始めたら 止まらなくなってしまって。」

美里「あの… 昼間は つい カ~ッとなってしまって…。 申し訳ありませんでした。」

門倉「いいじゃないですか! アン・シャーリーのようで!」

美里「はっ?」

門倉「それより 僕は今 自分に腹が立って しょうがない!」

花子「えっ?」

門倉「こんなに面白い物語を 何で 僕は 今まで出版しなかったんだ! まず 言葉がすばらしい。 ありふれた日常を輝きに変える 言葉が ちりばめられています。 これは 村岡先生の 優れた表現力によるところが 大きいでしょう。」

花子「あ… ありがとうございます。」

門倉「そして アンの夢みる力が すばらしい。 さあ 小泉君 社に戻ろう。」

小泉「えっ?」

門倉「すぐ 出版の準備に 取りかかるんだよ!」

小泉「社長! すみません。 すみません…。」

花子「つまり… 出版できるという事?」

英治「そうだよ。」

美里「お母様 よかったわね。」

花子「ついに本になるのね。」

<曲がり角の先が やっと少し 見えてきたような気が致します。 ごきげんよう。 さようなら。>

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