ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第155回「曲り角の先に」【最終週】

あらすじ

『アン・オブ・グリン・ゲイブルズ』を読んだ門倉(茂木健一郎)は、これほど面白い話をなぜ今まで出版しなかったのかと言うなり、出版に取りかかるため小泉(白石隼也)と共に急いで帰ってゆく。英治(鈴木亮平)と美里(金井美樹)から祝福された花子(吉高由里子)は、出版に向けて推こうに取りかかり、残るは本の題名を決めるだけとなる。門倉と小泉と共に長時間話し合った結果、題名は『窓辺に倚る少女』に決まるが…。

155ネタバレ

村岡家

歩文庫

門倉「こんなに面白い物語を 何で 僕は 今まで 出版しなかったんだ!」

(門倉の笑い声)

門倉「さあ 小泉君。 すぐ 出版の準備に取りかかるんだよ。」

小泉「社長! すみません。 すみません…。」

花子「つまり… 出版できるという事?」

英治「そうだよ。」

美里「お母様 よかったわね。」

花子「ついに本になるのね。」

書斎

<花子は 大急ぎで 『ANNE of GREEN GABLES』の 推敲に 取りかかりました。>

花子「『カモメになりたくない? 日の出と一緒に起きて 水の上にサッと下りてきて…』。 水の上にサッと…。 う~ん 何か違うわね。」

英治「はい。」

花子「ああ ありがとう。 ねえ 英治さん。 カモメって どんなふうに飛ぶと思う?」

英治「カモメ?」

花子「海岸でカモメを見たアンが マリラは カモメは すてきだって 言うところなんだけど…。」

英治「ああ…。」

花子「原文では カモメは急降下して 舞い降りるって意味合いの 単語が使われているんだけど…。」

英治「う~ん… 飛んでるカモメって 漂ってるように見えるよね。 こう… 海の上をス~ッと。」

花子「それだわ! ス~ッと。 水の上にス~ッと下りてきて。 うん いいわ。 ありがとう 英治さん!」

英治「どういたしまして。」

花子「『『神は天にあり 世は全てよし』と アンは そっとささやいた』。

<残すは 本の題名です。>

居間

小泉「では これで最終入稿致します。」

花子「よろしくお願いします。」

小泉「それで この作品の題名なんですが 『ANNE of GREEN GABLES』を 直訳すれば 『緑の切り妻屋根のアン』でしたね。」

花子「ええ。 『切り妻屋根という言葉は 日本人には あまり なじみがありませんよね。 そこで いくつか考えてみました。』

門倉「拝見致します。」

小泉「『夢見る少女』 『窓辺の少女』 『窓辺に倚る少女』。 う~ん… なるほど。 あっ でも アンという主人公の名前は 残した方が いいんじゃないでしょうか? 例えば 『夢見るアン』とか 『窓辺のアン』とか。」

花子「う~ん… アンという名前が入ると 急に 想像の幅が 狭められてしまうような気が しますけど…。」

門倉「それで村岡先生は 『少女』になさりたいんですね。」

花子「ええ。 これは アンだけの物語ではなく 自分の物語でもあるのだと 受け取ってほしいんです。」

小泉「それじゃ 『想像の翼を持つ少女』は どうです?」

門倉「う~ん…。 『グリン・ゲイブルスの少女』は?」

小泉「『島の少女』は?」

門倉「『曲がり角の先の少女』は?」

花子「それでしたら やっぱり 『窓辺に倚る少女』が いいと思うんです。」

小泉「でしたら 『窓辺に倚るアン』というのは…。」

<こんな調子で 決まるのでしょうか?>

英治「そう。 『窓辺に倚る少女』に 決まったのか。」

花子「ええ。」

美里「随分と おとなしやかな題名になったのね。」

花子「えっ?」

英治「いや ロマンチックで なかなかいいよ。」

花子「そうでしょう?」

(電話の呼び鈴)

花子「あ… はいはい。」

廊下

花子「はい もしもし。 村岡でございます。」

門倉『もしもし? 小鳩書房の門倉ですけど。』

花子「門倉社長。 どうなさったんですか?」

門倉『あの… 題名なんですがね。』

花子「はい。」

門倉『小泉が 『赤毛のアン』は どうだろうと言うんですが いかがでしょう?』

花子「はあ? 『赤毛のアン』? あれだけ さんざん話し合って 『窓辺に倚る少女』に 決まったじゃないですか。」

門倉『まあ そうなんですけどね。 『赤毛のアン』と聞いて なかなかいいじゃないかと 僕も思いましてね。』

花子「はあ… でも…。」

小泉『村岡先生。 小泉です。 どうも。 アンは 赤毛を自分の 最大の欠点だと思っていますよね。 でも その欠点こそが アンを魅力的な人物像に 仕立て上げていると 僕は 思うんです。 つまり アンのすばらしい個性です!』

花子「私は 反対です。」

小泉『村岡先生…。』

花子「だって『赤毛のアン』だなんて あまりにも直接的で それこそ 想像の余地がないじゃないですか。」

小泉『そう言わずに 考えて頂けませんか?』

花子「嫌です。 失礼します。 ごきげんよう。」

居間

花子「小泉さんったら 『赤毛のアン』ですって。」

英治「『赤毛のアン』…。」

花子「そうなのよ。 つまらない題でしょう?」

美里「『赤毛のアン』? 『赤毛のアン』…。」

花子「『窓辺に倚る少女』の方が ずっといいわよね?」

美里「そうかしら? 『赤毛のアン』…。 いいじゃない! すばらしいわ。 断然 『赤毛のアン』になさいよ お母様。」

花子「えっ… でも…。」

美里「『赤毛のアン』って いい題よ。 『窓辺に倚る少女』なんて おかしくって。」

英治「そうだな…。 『アン』を読むのは 若い人たちだからね。 美里の感覚の方が 案外 正しいのかもしれないよ。」

花子「う~ん… そうかもしれないけど…。」

美里「『赤毛のアン』にすべきよ。」

廊下

花子「あっ もしもし 門倉社長ですか? 村岡です。 先ほどは 大変失礼致しました。 ええ。 ああ いえ… あの…。 実は… あの… 娘が『赤毛のアン』がいいと言って 譲りませんの。 若い人の感覚に 任せる事にしました。 やはり 『赤毛のアン』にします。」

門倉『そうですか!』

小泉『ありがとうございます!』

花子「どうぞ よろしくお願い致します。 はい。 ええ。」

<こうして 『赤毛のアン』誕生致しました。>

居間

小泉「出来ました。」

花子「はい。」

英治「とうとう出来たね。」

花子「ええ。 はい。 これは 美里へ。」

花子「英治さん。 美里。 諦めずに 今日まで やってこられたのは 2人の支えがあったからよ。 本当にありがとう。」

美里「おめでとう お母様。」

英治「おめでとう。」

英治「この女の子 本当に君みたいで面白いよ。」

花子「スコット先生との約束を果たすのに 13年もかかってしまったわ。 先生にも お見せしたかった。」

<スコット先生は 花子に原書を手渡した数年後 祖国 カナダで亡くなったのです。>

回想

スコット「I have a book to give you.」

花子「『ANNE of GREEN GABLES』。」

花子「『曲がり角を曲がった先に 何があるのかは 分からないの。 でも それは きっと…。 きっと 一番よいものに 違いないと思うの』。

(空襲警報)

(爆撃音)

回想終了

英治「明日 書店に並ぶのが楽しみだね。 どうしたの?」

花子「あ…。 この本 日本の少女たちも 面白いと思ってくれるかしら?」

英治「曲がり角の先は 曲がってみなきゃ分からないよ。」

花子「そうね。」

本屋

<『赤毛のアン』が ついに出版されました。>

村岡家

玄関

(戸を叩く音)

花子「はい。」

(戸をたたく音)

花子「どちら様ですか? てっ…。 お… お久しぶりです。 どうなさったんですか?」

宇田川「何なのよ。 これは。」

<ごきげんよう。 さようなら。>

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