あらすじ
かよ(黒木華)が女工として製糸工場へ行くことを朝市(窪田正孝)から聞き、ショックを受けたはな(吉高由里子)は、自分だけ東京で勉強させてもらっていることがいたたまれなくなる。はなは地主の徳丸(カンニング竹山)のもとを訪れ、女学校をやめて働くので働き口を世話して欲しい、と頼み込む。その話をリン(松本明子)から伝え聞き、ふじ(室井滋)や朝市たちは驚くばかりだが、かよはなぜか怒り出すのだった…。
17回ネタバレ
川
朝市「はなには 黙ってろって 口止めされただけんど かよちゃん 年明けたら すぐ 製糸工場の女工になるだ。」
はな「女工…。」
朝市「今年は 台風のせいで 米が さっぱり取れんで みんな ろくすっぽ 寝なんで 内職してたけんど… ほんでも 大変らしくて…。 かよちゃん 自分で 働き口 探してきただよ。 昔の はなみてえに。」
はな「知らなんだ…。 (ため息) おら 恥ずかしい…。 みんなの苦労も知らんで…。 おらのために みんな無理して ごちそう こせえてくれただな。 朝市。 おら 穴があったら入りてえ。 今すぐ ここに穴掘って入りてえだ。」
朝市「モグラみてえじゃん。 さなぎが チョウになって 帰ってきたと思ったら 何でえ。 モグラけ!」
はな「てっ! 油売ってる場合じゃねえ。」
安東家
1909年(明治42年)・元旦
庭
周造「明けましておめでとうごいす! 今年は 天候が荒れねえで お米が うんとこさ取れますよう お願えしやす!」
徳丸商店
徳丸「何でえ? 正月早々に。 え~っと… おまんは?」
はな「ご無沙汰しております。 安東花子です。」
徳丸「ああ ふじちゃんの娘の!」
武「てっ! おまん はなたれの はなけ!」
はな「武…。」
武「こないだ 汽車で会ったときゃあ きれいな着物 着てたから どっかのお嬢様かと 思ったじゃんけ。」
三郎「ふんじゃあ こちらが 武坊ちゃんの言っておらした…。」
はな「地主様 お願いがあって参りました。」
徳丸「何ずら?」
はな「私に働き口を世話して下さい! お願いします! 私は 本当に よく働きます。 この間は 一人で 学校中の大掃除をしました。 英語も 少しなら できます。」
徳丸「おまんは 確か 東京の女学校に 行ったんじゃなかっただけ。」
はな「はい。 でも 働き口があれば 女学校は いつでも やめます。」
武「てっ!」
徳丸「本気け?」
はな「よろしくお願いします!」
徳丸「こりゃあ ふじちゃんとこも 相当 困っとるだな。 ふんだけんど この不景気に そう簡単に 稼ぎ口が見つかる訳ねえずら。」
はな「そこを なんとか!」
徳丸「ねえと言ったら ねえ。 商売の邪魔だ。 帰ってくれちゃ。」
三郎「帰った 帰った!」
はな「地主様! 何でもしますから お願いします! お願いします! お願いします!」
安東家
庭
ふじ「か…。」
かよ「何をしてるでえ?」
ふじ「かよが製糸工場行ったら 自分で 葉書ぐれえ 書けるようになりてえと思って。 ほら!」
かよ「おかあ…。」
ふじ「あっ リンさん。 明けましておめでとうごいす。」
リン「おめでとう。 はな 女学校やめて働くだと?」
ふじ「えっ? はなが?」
リン「てっ? 知らんだけ? 徳丸さんとこで 『働き口 世話してくりょう』って 頭 下げてただと。」
朝市「あ… おばさん おらのせいずら!」
ふじ「朝市。」
朝市「おらが はなに かよちゃんの話なんしたから…。」
かよ「朝市! 黙っててって言ったじゃん!」
朝市「ごめん!」
居間
はな「ただいま。」
周造「おお。」
ふじ「はな。 ちょこっと こけえ座れし。」
はな「何でえ?」
ふじ「女学校やめて働きてえって 徳丸さんに 頼みに行ったそうじゃんけ。」
周造「てっ!」
はな「はい。」
ふじ「はな。」
かよ「おら 許せねえ。 女学校やめるなんて。 お姉やんが ほんな簡単に 勉強投げ出しちもうなんて…。」
はな「かよ。」
かよ「情けなくって 悔しくって 力が抜けた。 何のために働きに出るだか おらまで分からんくなっただ。」
ふじ「はな。 みんな 心ん中で応援してるだよ。 かよも 吉太郎も。 東京の立派な学校で頑張ってる はなのこん 思うと 誇らしい気持ちになって みんな 力が湧くだよ。 ここいらで 惨めなこんがあっても おらたちには はなみてえな家族が いるっちゅうだけで 勇気が出るだ。」
はな「ふんだけんど おらだって 家族の役に立ちてえ。 みんなが苦労してるだに おらだけ 勉強さしてもろうなんて…。」
吉太郎「分からんやつじゃ! はなが 今 やめたら おかあたちの これまでの苦労が 全部 水の泡じゃんけ!」
はな「兄やん!」
吉太郎「畑 見てくる。」
周造「キチ!」
はな「畑行くなら おらも…。 地主さんに 働き口なんかねえって断られただ。 畑なら おらも手伝えるから…。」
吉太郎「さっさと 東京帰っちめえ。 ここにいられても 食いぶちが増えるだけずら。」
周造「キチ…。 キチ!」
かよ「な~んだ。 地主さんに断られただけ…。」
玄関
はな「兄やん!」
周造「はな。 自分の手 見てみろし。 ほの手は もう 百姓の手じゃねえ。 ほの手は 米を作るより わしらが作れんもんを作るのに 使えし。 みんな ほう思っとるだ。」
はな「おじぃやん…。」
道中
ふじ「ほいじゃあね。」
かよ「お姉やん。 お嬢様たちに負けるじゃねえだよ。 一番取らんと 承知しんよ。」
はな「かよも 体に気を付けて 頑張るだよ。」
かよ「うん。」
はな「じゃあ 行ってきます。」
ふじ「はな! こぴっとするだよ!」
はな「朝市。」
朝市「持つじゃん。」
もも「お姉やん! 元気で。」
朝市「へえ~ 武に会っただけ。」
はな「小学校ん時と ちょっこも変わってなんださ。」
朝市「あいつは 隣町の商業学校に行っただ。」
はな「ああ。 朝市の方が うんと勉強好きだったのにね。」
朝市「学校行かんでも 勉強は できる。」
はな「えっ?」
朝市「はな。 おら 勉強続けるじゃん。」
はな「ふんだけんど…。」
朝市「学校行かんでも 本が思いっきし読めるとこ はなが教えてくれたじゃんけ。」
はな「てっ! あすこ?」
朝市「うん。 教会の本の部屋!」
はな「アハハハ! 夜中に忍び込んだじゃんね!」
朝市「牧師さんに見っかって 池に落っこったら! アハハハ!」
はな「ほんで 朝市だけ捕まってさ…。」
(笑い声)
はな「ここでいい。」
朝市「うん。」
はな「ふんだけんど 朝市 何で急に 勉強始めようと思ったでえ?」
朝市「ほれは…。 はなに また会えたからじゃん。 会えて よかったさ。」
はな「おらも。 みんなに会えて よかったさ。」
朝市「(小声で)『みんなに』け…。」
はな「あっ。 みんなに食べてもろうの忘れた。」
朝市「忘れもんけ?」
はな「これ お土産のクッキー。」
朝市「クッキー?」
はな「西洋のお菓子だ。 おらが焼いたの。 これ みんなに渡してくれちゃ。」
朝市「分かった。」
はな「朝市も食べていいだよ。 ふんじゃあ さいなら。」
朝市「さいなら。 さいなら!」
はな「さいなら!」
<ごきげんよう。 さようなら。>