あらすじ
1945年、空襲の中、「赤毛のアン」の原書を胸に抱いて走る村岡花子(吉高由里子)の姿があった。時はさかのぼり、1900年の甲府。貧しい農家に生まれた安東はな(山田望叶)は、学校へ行かずに家事や子守に精を出し、母・ふじ(室井滋)ら家族を助けていた。ある日、行商先から帰った父・吉平(伊原剛志)から土産の絵本をもらう。吉平は、字も読めないのに目をきらきらと輝かせるはなを見て、とんでもないことを思い立つ。
1回ネタバレ
東京
1945年(昭和20年)
村岡花子(心の声)『曲がり角を曲がった先に 何があるのかは 分からないの』。
花子『でも それは きっと…』。
(空襲警報)
花子『きっと 一番よいものに 違いないと思うの』。
(空襲警報)
「うわ~!」
<昭和20年4月15日 東京の夜空に 100機を超えるB29が現れ 大森の町も 恐ろしい爆撃を受けました。>
村岡美里「お母様!」
花子「美里! 防空壕に逃げましょう。 早く行かないと危ないわ。」
(爆撃音)
美里「キャ~!」
<もしも この夜 たった一冊の 原書が燃えてしまったら 私たちは 永遠に 出会えなかったかもしれません。 みんなの大好きな あの『赤毛のアン』に。」
美里「何?」
花子「命よりも大切なもの。」
(泣き声)
花子「大丈夫。 大丈夫よ。 お寺まで逃げるの。 大きな防空壕があるから。」
「怖いよ。」
「怖いよ。」
花子「花火みたいね。」
花子「いい? 想像してみて。 これから みんなで あの花火の中を走り抜けるの。 怖くないでしょ? さあ 行きましょう。 急いで。」
<この勇ましいおばさんは 村岡花子といいます。 『赤毛のアン』を 初めて日本語に訳した翻訳家です。 これは 花子とアンが出会い 日本中の人たちに 夢と勇気を送り届けるまでの物語。>
川
1900年(明治33年) 甲府
<花子 こと 安東はなです。 甲府の貧しい農家のうちに 生まれました。>
はな「ひやっ 冷(つべ)てえなあ。 おはようごいす。 おまんらも早起きじゃんね。」
はな「あっ 待ってくりょう。 よ~し。」
<はなは 小さい頃から 夢みる力を持っていました。 眠い朝や つらい力仕事の時 こうやって想像の翼を広げれば どんな鳥よりも高く飛ぶ事だって できるのです。>
はな『富士山じゃんけ! あ~!』
安東家
玄関
はな「おじぃやん おはようごいす。」
周造「ああ おはよう。」
はな「兄やん 行ってこうし。」
ふじ「はな。 ももと かよの世話 頼むじゃんね。」
はな「うん。」
ふじ「ももが 腹すかして泣いたら 畑に連れてきてくれちゃあ。」
はな「うん。 おかあ 早く行けし。」
ふじ「ふんじゃ 行ってくるじゃんね。」
<はなは こんなに小さくても このうちの大事な労働力なのです。>
畑
はな「おかあ 昼飯じゃん!」
ふじ「ああ はな。 悪かったね。 さあさあ お昼にしっか。」
はな「おじぃやん はい。」
周造「ご苦労。」
川
はな「ええなあ…。」
徳丸 武「突撃! はな! はなたれ! おまんちは 小作で貧乏なもんで 学校も行けんずら!」
一同「貧乏 貧乏! はなたれ! 貧乏!」
武「何とか言えし! はな!」
はな「はなじゃねえ! おらの事は 花子と呼んでくりょう。」
武「はあ?」
はな「花子と呼べし!」
武「こいつ 何言うだあ。 小作のくせに花子? 笑わせるじゃんけ はなたれ!」
はな「何するでえ!」
武「逃げろ~!」
木場朝市「はな 大丈夫け?」
はな「はなじゃねえ。 花子と呼んでくりょう。」
朝市「あっ。」
はな「あっ。」
安東吉平「はな! ほれ。」
はな「おとう! 帰ってきただけ!」
吉平「おお~! 帰ったぞ!」
<はなの おとうは 行商の仕事をしています。 甲府特産の生糸を 東京に売りに行き 代わりに日用品を買い付けて こちらで売るのです。>
道中
安東家
居間
吉平「ちっと待ってろし。」
はな「何でえ?」
安東かよ「何でえ?」
吉平「おまんたちに 取って置きの土産があるだぞ。」
はな「土産?」
安東吉太郎「おとう 何ずら?」
かよ「何ずら?」
吉平「これじゃ~!」
ふじ「ほりゃあ 何ずらか?」
吉平「絵本じゃ。」
はな「てっ! 絵本?」
かよ「食うもんが よかった…。」
吉太郎「食うもんが よかった…。」
ふじ「誰が読むでえ?」
吉平「誰って…。」
周造「そうさな。 ここんちじゃ 婿殿しか 字ぃ読めんだからな。」
はな「てっ! 本じゃん! 本物の本じゃんけ。 おら 初めて 本に触った。 夢みてえじゃん。」
吉平「はな! 夢みてえか?」
はな「うん! おとう ありがとう。」
吉平「やっぱし はなは おとうの子じゃ。」
ふじ「はなも飯にしろし。」
吉平「はな 逆さまじゃ。」
はな「あっ こうずらか。」
吉平「はなは 1年生ずら? 学校で 字は習っとらんのか?」
ふじ「うちの手伝えが忙しくって 学校にゃ 一日も行っちゃあいん。」
吉平「てっ! 一日も?」
ふじ「あんた 知らなんだだけ。」
周造「そうさな。 一年のうち 半分も うちにいねえだからな。 頂きます。」
道中
吉平「ほら はな 急げ! 今日から 学校行くだよ。」
はな「学校?」
吉平「これまでの後れを取り返すだ。」
はな「おとう! おら 学校なんか 行かんでいいだよ。 ももの子守りがあるし うちの手伝えしなきゃならんだよ。」
吉平「はなは うんとこさ 本が好きじゃん? ほれなのに 字が読めん。 あんまり ふびんで おとうは ほっとけん。」
はな「ふんだけんど おらは…。」
尋常小学校
正門
(鐘の音)
<はあ… 夢にまで見た学校でした。>
はな「学校じゃん。 学校じゃん! おとう! 学校じゃん! 学校じゃんけ!」
吉平「はな! 転ぶじゃねえよ!」
教室
本多「新しく入学した 安東はなさんずら。 おまんら 仲良くしろし。」
生徒たち「はい!」
本多「とりあえず こけえ座れ。」
はな「はい。」
(笑い声)
武「おまん 今まで 学校来ちゃいんから ほんなこんも 分からんだか。」
はな「おら 先生に言われたとおり やっただけずら。」
(笑い声と戸が開く音)
本多「椅子に座れってこんだ。」
吉平「はなの言うとおりじゃ! 先生の言い方が間違っとる。」
本多「余計なこん 言わんでくれちゃあ。」
本多「学問して よき人となれずら。」
生徒たち「学問して よき人となれずら。」
本多「よしよし ほうずら ほうずら。 よ~く読めたずらよ~。」
吉平「ほういう なまった言葉で 子どもらの教えるのは どうじゃろう。 こらじゃあ 東京じゃ通じんぞ。 ずらずらずらずら。」
本多「おまんは まだ いただけ。 授業の邪魔ずら。 帰ってくれちゃあ。」
吉平「俺は 子どもの教育のために 言っとるんじゃ。」
本多「先生は 尊み敬えずら。」
生徒たち「先生は 尊み敬えずら。」
道中
吉平「あんな田舎教師にゃ はなを任せられん。」
<そして 1週間後。」
小学校
教室
はな『ふ… ぼ… は… わ… れ… を… や… し… な… い… そ… だ… て… そ… の… お… ん… ふ… か… し』。
本多「てっ! おまんは もう字ぃ 覚えただけ? がとう頑張ったじゃん。 ほら おまんら。 頑張らんと はなに追い抜かれちもうぞ。 武 聞いてるだけ!」
武「イテッ!」
本多「さあ みんな 石盤と ろう石 出せし。」
生徒たち「は~い。」
「(泣き声)」
本多「誰でえ! ボコ泣かしたは!」
武「朝市君でごいす。」
はな「朝市け。」
朝市「はな…。」
はな「はなじゃねえ! こん ひきょうもん!」
本多「はな! 朝市! 立ってろ!」
修和女学校
正門
<そのころ はなの おとうは…。>
吉平「ここけえ…。」
<とんでもない場所で とんでもない事を 考えていたのでした。 この続きは また明日。 では 皆様 ごきげんよう。 さようなら。>