ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第29回「波乱の大文学会」【第5週】

あらすじ

公演を間近に控え、はな(吉高由里子)や蓮子(仲間由紀恵)たちの稽古は熱を帯びていく。そんな折、富山(ともさかりえ)が切なげな様子で稽古場を見つめるのを目撃したはなは、茂木(浅田美代子)から富山がかつてジュリエットを演じたことを聞かされる。一方、蓮子の実家では、兄・晶貴(飯田基祐)が蓮子からの招待状に目をむいていた。いよいよ大文学会当日、緊張で震えが止まらない蓮子に、はなは意外な言葉をかける…。

29ネタバレ

修和女学校

講堂

<『ロミオとジュリエット』の公演は いよいよ明日に迫っておりました。>

本番前日

畠山「はなさん。 小間使い役の梅田さんが 風邪をひいてしまったの。 代役 お願いできないかしら?」

はな「分かりました。」

畠山「小間使いの衣装は 梅田さんの部屋にあるから 準備して下さる?」

はな「はい。」

<…という訳で はなは 脚本家と演出助手と小間使いの 3役を務める事になり 目の回る忙しさです。>

蓮子『おお いとしいロミオ様。 私たちは どうすれば よいのでしょう』。

醍醐『おお いとしいジュリエット。 私は あの月に誓う! そなたへの永遠の愛を! ジュリエット。 しばしの別れだ』。

富山『ロミオ様 それは なりませぬ。 満ち欠けを繰り返す月のごとく あなた様のお心も 変わってしまうでは ありませぬか』。

はな「富山先生。 今の ジュリエットのセリフですよね?」

蓮子『ロミオ様。 月になど誓ってはいけませんわ。 月の形が変わっていくように…』。

<そんな富山先生を見たのは 初めてでした。>

畠山「次 三幕 一場 決闘の場面 いきます。」

一同「はい!」

蓮子「はなさん。 セリフの言い回しを 少し変えても よろしいかしら。」

はな「どこですか?」

蓮子「『私は 父の決めたとおりになど 生きたくありません』のところ こうしたいの。 『私は 父の操り人形ではありません』。」

はな「すごくいいと思います。」

大倉『うわ~!』。

大倉『ロミオ! どこ見てる!?』。

畠山「醍醐さん! 集中して下さい!」

醍醐「すいません。 もう一度 お願い致します。」

畠山「じゃあ もう一度。」

大倉「はい。 『いざ 戦わん! わあ~!』。

大倉『ヘッヘッヘッヘッヘ』。

醍醐『うわ~!』。

大倉「あっ!」

(悲鳴)

醍醐「ごめんなさい! つい 力が入ってしまって…。」

大倉「き… 気を付けて下さい。」

「あっ 大変!」

(悲鳴)

醍醐「本当に ごめんなさい!」

談話室

茂木「明日 お父様は いらっしゃらないの?」

はな「ええ。 仕事で また遠くに行ってしまって。 ご家族を招待して見てもらえる みんなが羨ましいです。」

茂木「そうね。」

はな「あの… 富山先生の事なんですけど。 富山先生… もしかして ジュリエットを演じた事が おありいなのではないでしょうか。」

茂木「どうして?」

はな「今日 お稽古を 見にいらっしゃった時に ジュリエットのセリフを 完璧に つぶやいていらっしゃったんです。」

茂木「彼女が ここの学生だった頃 ジュリエットを演じた事があったの。 今のあなたたちと同じように 元気で よく笑う 明るいお嬢さんだったわ。」

はな「でも 私たちが演目を決めた時 なぜ あんなに 反対なさったんでしょう?」

回想

富山「『ロミオとジュリエット』なんて駄目です。 私は 反対です。」

回想終了

はな「何か つらい思い出でも あるんでしょうか。」

富山「さあ… どうだったかしら? 相変わらず お裁縫が苦手ね。 私が代わりましょう。」

はな「すいません。」

葉山邸

園子「あなた。 蓮子さんから これが。」

葉山「何だ これは?」

園子「『修和女学校 講堂にて 大文学会開催の運びと相成り候。 兄上様には 必ず 必ず おいで下さりたく候。 おいで候わば 理由お分かりと存じ候』。 まさか 蓮子さん お芝居に 出たりなさらないわよね?」

葉山「何?」

園子「あそこの大文学会には 華族のご父兄も 大勢いらっしゃいますわ。 また 悪いうわさでも立ったら…。」

葉山「明日じゃないか!」

修和女学校

控え室

<ついに本番の日を迎えました。>

蓮子『私が家に縛られている? ロミオ様 何をおっしゃいますの?』。

醍醐『そなたには 父上が決めた いいなずけの パリス侯爵というお方が いるではないか』。

蓮子『それは 兄が勝手に決めた事。 兄が考えているのは…』。

醍醐「違う! 兄なんて 台本のどこにも 書いてありません!」

蓮子「ごめんなさい。」

校庭

はな「蓮子さんも 人並に緊張するんですね。 練習どおり やれば きっと大丈夫ですよ。 …って 私 すごく あがり性で さっきから 足が ガタガタ震えてるんですけど。」

蓮子「そう…。」

はな「あの… 例の復讐の件 私でよければ つきあいます。」

蓮子「えっ?」

はな「舞台に上がって 家の人たちに復讐するって 言ってたじゃないですか。 どうせ やるなら 本気で とことん やりましょうよ。 それで? その復讐の相手は 今日は いらっしゃるんですか?」

蓮子「招待状は 送ったわ。」

はな「よし。 負けるもんか。 客席から 怖い顔で にらんできてても 絶対に ひるまないで 頑張りましょうね。」

蓮子「どうして 私の復讐に つきあってくれるの?」

はな「それは…。 友達だから。」

校長室

茂木「一時は どうなる事かと 思いましたが 無事に この日を迎える事が できましたね。」

(通訳する富山)

茂木「お客様も大勢いらしてます。」

ブラックバーン『では行きましょう』

富山「私は 仕事が残っておりますので。」

茂木「富山先生…。」

講堂

蓮子「来たわ。」

葉山「ジュリエットだと?」

園子「あなた。 どんな役なんですか?」

葉山「主役だ。 あの恥さらしが…。」

ブラックバーン『おとなり空いていますか』

葉山「『ブラックバーン校長 どうぞお座りください』 この演目は 品行方正であるべき ここの生徒に ふさわしくないですね。 『舞台、中止にしませんか?』」

(開幕のベル)

蓮子「なぜ 私が この役をやりたかったか 分かりますか?」

はな「えっ?」

蓮子「私も ジュリエットのように 家に縛られて不幸になったから。 兄が決めた人と 無理やり結婚させられたの。 その時 私は まだ14で 右も左も分からなかった。」

はな「14歳…。」

蓮子「あなた同じ16の時に 子どもを産んだの。 でも その子も奪われて…。 もともと家の名を守るためだけに 仕組まれた結婚だったの。 今の私は 空っぽ。 生きていても しょうがないの。」

はな「そんな…。」

蓮子「はなさんとは 住む世界が違うの。 友達になんか なれっこないでしょう。」

(開幕のベル)

蓮子「これ以上 私に近づかないで。」

はな「嫌です そんなの。 なぜだか分からないけど ほっておけないんです 蓮子さんの事。」

(拍手)

はな「あなたは 空っぽなんかじゃない。」

『おお ジュリエット。 そなたこそ 私の妻にふさわしい。 どうか 私と結婚してくれ!』。

(拍手)

<さあ 幕が開きました。>

蓮子『ああ どうすればいいの? パリス侯爵の愛を受け入れる事など 私には 到底できませんわ』。

<ごきげんよう。 さようなら。>

モバイルバージョンを終了