ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第32回「腹心の友」【第6週】

あらすじ

富山(ともさかりえ)と梶原(藤本隆宏)が会っているのを目撃してしまったはな(吉高由里子)。かつて恋人同士だった二人のうわさは醍醐(高梨臨)によって学校中に広まってしまう。一方出版社では、はなは英治(鈴木亮平)の提案により翻訳の手伝いを任されることに。それを聞いた蓮子(仲間由紀恵)は喜びを分かち合い、はなにあるペンネームを授ける。そんな折、晶貴(飯田基祐)が蓮子へ面会に訪れ、思いもよらぬ行動に出る。

32ネタバレ

向学館

編集部

梶原「ああ 君か。 今日から ひとつき 臨時で働いてもらう事になった 小間使いさんだ。」

はな「花子と呼んで下さい。」

「よろしく 小間使いさん。」

「よろしく。」

「よろしく。」

<はなは 臨時雇いの小間使いとして 出版社で働く事になりました。>

道中

醍醐「大変 大変!」

はな「どうしたの?」

醍醐「ほら あそこ。」

<そんな ある日の事。 編集長と富山先生のあいびきを 目撃してしまったです。>

はな「てっ! 編集長…。」

修和女学校

教室

はな「あの真面目な富山先生が 編集長と…。」

蓮子「白昼堂々と あいびきなさってたそうね。」

はな「えっ… 連様 どうして それを?」

蓮子「とっくに 皆さん ご存じよ。」

醍醐「それでね 富山先生のあいびきの 相手に 心当たりはないか 富山先生と同級生だった いとこに 聞いてみましたの!」

竹沢「それで?」

醍醐「富山先生は 高等科の学生時代 ある青年と大恋愛をなさって 2人は 永遠の愛を誓い合ったの。」

(どよめき)

はな「ある青年?」

醍醐「だけど 家同士の複雑なご事情から その恋は 実らなかったの。」

大倉「まるで ロミオとジュリエットね…。」

畠山「まさか 富山先生のロミオ様は 毒をあおって 死んでしまった訳じゃ…。」

醍醐「いいえ。 彼は なんと 富山先生を捨てて 親が決めた裕福な財閥のお嬢様と 結婚してしまったのよ!」

竹沢「昨日 あいびきしていた方が その ひどいロミオ?」

醍醐「ええ。 富山先生の昔の恋人に 間違いないわ。 彼の方も 財閥の娘とは とっくに離縁されたそうだし 富山先生と再会して 再び燃え上がったのよ!」

はな「ちょ… ちょっと待って 醍醐さん そこまで決めつけなくても…。」

(ベル)

醍醐「いとこの話だと 彼は 昔から文学青年で 出版の仕事をされてるって。 ねっ? 間違いないでしょう。」

富山「始業のベルが 聞こえなかったんですか? 早く席に着きなさい。」

(ざわめき)

富山『静かに 私語はやめなさい』

蓮子「そんなに騒ぐ事かしら? 富山先生は 教師である前に 一人の女性なんですから。」

富山「何の事ですか?」

蓮子「あいびきくらい なさって 当然ですよね。」

向学館

編集部

<はなは つい よからぬ想像の翼を 広げてしまいました。>

『僕が バカだった。 君のいない人生なんて 何の意味もない。 まるで 香りのないバラと同じだ』。

『そんな事おっしゃっても もう遅いわ』。

『もう一度 僕を信じてくれ。 二度と 君を離さない!』。

はな「『梶原さん…』。」

梶原「何? 小間使い君。」

はな「てっ! てっ! 編集長。」

梶原「どうしたの? 大丈夫?」

はな「はあ…。」

英治「おはようございます。 編集長 原稿を頂きに参りました。」

はな「あっ。」

英治「う~ん… ここ 百科事典とはいえ 分かりにくいですよね…。」

梶原「うん… 偉い学者に翻訳頼んだんだが この先生 文体が硬すぎるんだよな。」

英治「ええ。」

はな「失礼します。」

英治「あっ すいません。 あっ どうも。」

梶原「ありがとう。」

はな「どうぞ。」

梶原「小間使い君 これ 読んでみて。」

はな『ラクダの体構造は 乾荒原に適合せり すなわち 背部の大瘤には 脂質を蓄蔵し』

梶原「意味 分かる?」

はな「さっぱり分かりません。」

梶原「君 英語できるんだよね?」

はな「はあ…。」

梶原「ちょっと ここ座って。 あのね これの ここ ちょっと読んでみて。」

はな「『The body structure of camels is well suited for libing in desert conditions』。 あっ こっちは よく分かります。」

英治「あの 試しに このお嬢さんに 訳してもらったら どうでしょう?」

梶原「そうだな。 君 このページ 訳してみてくれるかな?」

はな「私がですか?」

梶原「急いで。」

はな「はい!」

梶原「ここから ここまで。」

はな「はい。 あの方 どなたなんですか?」

梶原「村岡印刷の2代目だ。」

はな「2代目?」

梶原「うん。 昔から うちに出入りしている印刷屋だよ。」

修和女学校

談話室

茂木「あの方が 離婚なさっていたなんて 分からないものね。」

富山「今更 そんな事を言われても どうしたらいいのか…。」

蓮子「私は 富山先生を見直しました。 いつぞやは 恋愛経験が乏しいなどと 失礼な事を申し上げて すみませんでした。」

富山「あなたは 失礼な事しか 言わないじゃありませんか。」

茂木「蓮子さんも お茶をいかが? スコット先生の焼いたクッキーも ありますのよ。」

蓮子「恐れ入ります。 富山先生。 私は 愛のない結婚をして こんなに ひねくれた女に なってしまいました。 ですから 失礼ながら言わせて頂きます。 本当に その方が好きなら 過去にこだわらず 愛を貫くべきです。」

向学館

編集部

はな「出来ました!」

梶原「村岡君!」

英治「はい。」

梶原「どう?」

英治「拝読します。」

梶原「あのね 翻訳とは 原文との距離感が大事なんだ。 原文に引きずられて 直訳や不自然な日本語になっても いかんし 読みやすさを重視して はしょり過ぎても いかん。 その制約の中の勝負なんだ。」

はな「はい。」

梶原「…で 君の翻訳だけど どう?」

英治「これは バカが読んでも分かりますね。」

はな「えっ バカ?」

英治「あっ いや あなたがバカだと 言ってる訳じゃないんです。 褒めたんです。」

梶原「最上級の褒め言葉だね。」

英治「言いかえると とても素直で きれいで 読みやすい翻訳だと思います。」

梶原「小間使い君 本気で やってみないか?」

はな「えっ?」

梶原「これを たたき台にして 手を入れれば使い物になりそうだ。」

はな「こぴっと頑張ります!」

英治「『こぴっと』?」

梶原「それ どこの国の言葉?」

修和女学校

校庭

蓮子「小間使いから翻訳者に昇格ね。 おめでとう。」

はな「ありがとう。」

蓮子「でも 忘れないで。 最初に あなたの才能を認めたのは 私よ。」

はな「ええ。 もちろん 忘れませんとも。」

回想

蓮子「率直に感動致しました。 あなた やっぱり 翻訳力だけは 大したものだわ。」

はな「蓮子さん…。」

回想終了

蓮子「これからは 女も自分の才能を伸ばして 仕事をして 男の人や権力に寄りかからずに 自分の足で歩いていける時代が 来ると思うの。」

はな「それって… 仕事一筋で生きるっていう事? ブラックバーン校長や富山先生のように。 私は 仕事はしたいけれど 一人で生きていく覚悟はないの。 結婚もしたいし 子どもも欲しいわ。 うちのおかあみたいに」

蓮子「両方やればいいじゃないの。」

はな「えっ?」

蓮子「与謝野晶子をご覧なさい。 鉄幹と結婚して 精力的に仕事を続けながら 子どもを何人も産んでるのよ。」

はな「へえ~!」

蓮子「そういえば はなちゃんは 花子と呼ばれたいって 言ってたわよね。」

はな「ええ。」

蓮子「世に自分の作品を出す時に その名前を使えばいいじゃないの。」

はな「ペンネームね!」

蓮子「うん。 悪くないわ。」

はな「こぴっと やる気が出てきたわ。」

蓮子「頑張って。」

はな「連様の夢は 燃えるような本物の恋ですよね。」

蓮子「ええ。 そして 恋の歌をたくさん作るの。 これが 私のペンネーム。」

はな「白蓮? すてき!」

<蓮子は はなと過ごしながら 失われた青春の時間を 取り戻していました。 そして このキラキラした時間が ず~っと続いてほしいと 蓮子も はなも 思っておりました。>

廊下

はな「これにて。」

蓮子「花子先生。 では ごきげんよう。」

面会室

(ノック)

蓮子「失礼します。」

葉山「蓮子。」

蓮子「お兄様 どうなさったんですか?」

葉山「例の縁談の事で…。」

蓮子「それは お断りしたはずです。」

葉山「頼む。 助けてくれ。」

蓮子「お兄様?」

葉山「この縁談を受けて 葉山の家を救ってくれ。」

<運命の歯車は 蓮子の知らないうちに 回り始めていたのです。 ごきげんよう。 さようなら。>

モバイルバージョンを終了