ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第35回「腹心の友」【第6週】

あらすじ

蓮子(仲間由紀恵)たっての希望で、はな(吉高由里子)の故郷・甲府へやって来たふたり。周造(石橋蓮司)はじめ安東家の人々は蓮子の美しさにびっくりするが、やがて打ち解け、ふじ(室井滋)が作ったほうとうに蓮子は舌鼓を打つ。そんな彼女に吉太郎(賀来賢人)は一目ぼれしてしまった様子で、無口になってしまう。楽しいときを過ごすはなたちだったが、ふじは蓮子がなにか悩みを抱えているのではないかと感じ始める…。

35ネタバレ

葉山邸

蓮子「私が あの方と 夫婦になれると お思いになるんですか?」

葉山「頼む。 もう結納金も 受け取ってしまった。」

汽車

<九州の石炭王とのお見合いのあと 蓮子は 突然 山梨のはなのうちへ 行ってみたいと言いだしました。 蓮子が 人生の大きな曲がり角に いる事を まだ知らない はなでした。>

はな「あの たくさんのおブドウから 蓮様の好きなブドウ酒が 生まれるんですよ。」

武「あのお方は どこのお嬢様ずら…。」

『間もなく。 甲府。 甲府です。』

はな「蓮様。 武…。」

蓮子「えっ?」

はな「蓮様 あっち見ちゃ駄目です 変なのが見てるから。」

蓮子「変なの?」

武「てっ…。」

道中

はな「兄や~ん! 迎えに来てくれただけ。」

吉太郎「ああ。」

はな「こちら 蓮子さん。」

蓮子「ごきげんよう。 お兄様の吉太郎さんですね。 お目にかかれて うれしゅうございます。」

<吉太郎は 空から 天女が舞い降りたかたと思いました。>

安東家

居間

周造「ああ ご苦労さんで。」

リン「布団ずら。」

ふじ「悪かったね~!」

もも「てっ! 来たじゃん!」

はな「みんな ただいま。 さあ どうぞ。 女学校のお友達の葉山蓮子さん。」

蓮子「ごきげんよう。 おじい様 お母様 ももちゃん。  お目にかかれて うれしゅうございます。」

周造「こっちこそ…。」

ふじ「はなが いつも お世話んなっておりやす。」

リン「隣のもんでごぜえやす。」

蓮子「よろしく。」

もも「本当のお姫様け。」

はな「何でえ…。」

ふじ「ひょっとして いつか はなの葉書にあった 伯爵家のご令嬢じゃねえだけ。」

はな「そうよ。」

一同「てっ!」

リン「伯爵!」

はな「さあ 上がって。」

ふじ「このとおり むさ苦しい所ですけんど。」

蓮子「随分 広い玄関ですこと。」

ふじ「え…。」

蓮子「ありがとうございます。 これは 何ですか?」

はな「おかあが作った ほうとうよ。」

ふじ「お口に合わんと思うけんど。」

蓮子「おいしゅうございます! はなちゃんが言ったとおり お母様のほうとうは 日本一です。」

ふじ「お母様だなんて…。 いっぺえ こせえたから お代わりしてくりょう。」

蓮子「はい。」

もも「伯爵様のうちじゃ 毎日 甘えクッキーを 腹いっぺえ食ってるだけ?」

蓮子「私は クッキーよりも きんつばの方が好きなのよ。」

もも「いい匂いじゃん。 伯爵様のうちじゃ いっつも 舶来のシャボン使っとるずらか?」

吉太郎「もも! ほんなにいっぺえ聞いたら 葉山様が食べられんら。」

蓮子「蓮子でいいです。 蓮子と呼んで下さい。」

はな「兄やんも ちょっこも食べてねえじゃんけ。」

周造「腹減ってねえだか。」

もも「変な兄やん。」

ふじ「蓮子さん お代わり。」

もも「兄やんは 兵隊さんになるだよ。」

はな「兵隊? えっ 志願するの? 兄やん…。」

ふじ「へえ 蓮子さん。 う~んと食べろし。」

蓮子「ありがとうございます。」

(戸が開く音)

徳丸「ちょっくら ごめんなって。」

周造「ああ 地主さん。」

「て~!」

「きれいじゃんけ。」

徳丸「これは これは 葉山伯爵のお嬢様。 私は ここいらを取りしきってる 地主の徳丸甚之介でごいす。」

蓮子「私に 何か ご用でしょうか?」

徳丸「今夜は うちにお泊りんなって。 こんな あばら家に お泊めする訳にゃあ めえりやせん。」

武「そんな貧乏くせえ ほうとうなん出して 失礼じゃねえだけ!」

はな「武。」

徳丸「うちの料理人に ごちそうを作らしておりやすから。 どうぞ 我が屋敷においで下せえ。」

蓮子「せっかくですけど 結構です。」

徳丸「遠慮なさらんで どうぞ!」

武「さあ さあ お嬢様。」

徳丸「どうぞ!」

蓮子「分からない方たちね。 私は 今夜 ここに泊まりたいんです。 皆さんと枕を並べて寝るのを 楽しみにしているのに 邪魔しないで下さい。 では ごきげんよう。」

徳丸「ご… ごきげんよう…。 のけ。」

リン「ご苦労さんでごした。」

リン「いい気分じゃんね~!」

周造「そうさな。」

吉太郎「はなは 女学校終わったら どうするだ?」

はな「まだ分からん。 兄やん… ほんなに 兵隊さんになりてえだけ?」

吉太郎「うん。 今すぐじゃねえが 心は 決まってるだ。 ほん時が来たら おらは このうちを出てく。」

はな「そう…。」

蓮子「『君死にたまふことなかれ』。 『あゝ おとうとよ 君を泣く 君死にたまふことなかれ 末に生まれし 君なれば 親のなさけは まさりしも 親は 刃をにぎらせて 人を殺せと をしへしや 人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや』。 これ 差し上げます。 私は もう 暗記するほど読んだので。 吉太郎さんが持っていて下さい。」

周造の部屋

吉太郎「おじぃやん おら 今夜 こっちで寝ていいけ。」

(鳴き声)

居間

ふじ「蓮子さん。 今 一人じゃ 抱えきれねえようなこん 抱えてるじゃねえだけ。 やっぱし ほうだねえ。 ほれは お母様にも言えねえような事け。」

蓮子「私の母は 早くに亡くなったんです。」

ふじ「はあ…。」

蓮子「芸者だったそうです。」

ふじ「蓮子さんのお母様だったら さぞかし きれいな人だったずらね。」

蓮子「私は 顔も知らないんです。 生まれてすぐに 父の家に引き取られて 乳母に育てられたので…。 一度でいいから 会いたかった…。 はなちゃんが羨ましいです。 こんなに優しいお母様がいらして。」

ふじ「蓮子さんは もう うちの家族じゃん。 こんな すすけた おかあで よければ いつでも ほうとう作って 待ってるだよ。」

蓮子「おかあと呼んでもいいですか?」

ふじ「おかあと呼べし。 (笑い声) 蓮子さん。 大丈夫だ 大丈夫だよ 蓮子さん! つれえ時にゃあ いつでも ここへ帰ってきて 泣けし。 大丈夫だ。」

蓮子「(泣き声)」

<蓮子は この時 ある大きな決断をしていたのです。 ごきげんよう。 さようなら。>

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