あらすじ
はな(山田望叶)は、家の生活が苦しいことに気を遣い、「女学校なんか行きたくない」と嘘(うそ)をつく。ますます家の手伝いに励み、小学校も休みがちに。幼なじみの朝市(里村洋)は、そんなはなが心配だ。ある日、道端で地主・徳丸(カンニング竹山)に出会ったはなは「奉公先を紹介して欲しい」とじか談判する。数日後「奉公先が決まった」と知らせが届き、何も知らない母・ふじ(室井滋)と祖父・周造(石橋蓮司)は驚く。
3回ネタバレ
安東家
居間
はな「東京の学校なんか ちっとも 行きたくねえ。 本も もういいだよ。 ちっとも 読みたくなくなったさ。」
吉平「はな…。」
はな「ほれから 今日から弁当は要らん。」
ふじ「えっ?」
はな「平気平気。」
吉平「…ったく はなのやつ どうしたんじゃ。」
吉太郎「おとう。 ほんなに行かしてえなら おらが 東京の学校へ 行ってやってもいいずら。」
吉平「あっ? 吉太郎 おまん 何を言うとるんじゃ。」
吉太郎「ふんだから 東京の学校に。」
吉平「あそこは 女学校じゃ。」
吉太郎「女学校ちゃ何ずら?」
吉平「おなごしか入れん学校じゃ。 大体 おまんは 勉強が嫌えで 尋常小学校も すぐに やめちまった。 ほんなやつが 東京の学校行って やっていける訳ねえら。 …ったく 長男のくせに 張り合いがねえ。」
尋常小学校
本多「よ~し よくできたずらよ。」
はな「ありがとうごいす。」
(ろう石を置く音)
<はなと朝市は あの石盤事件以来 ず~っと 口を利いていませんでした。>
道中
サト「はなちゃん。 ずっと言おうと 思っちょったけんど。」
はな「何でえ? サトちゃん。」
サト「朝市君は 悪くないだよ。」
はな「え…。」
サト「おら 見ただよ。 ももちゃんの髪 引っ張ったのは…。」
回想
(泣き声)
本多「誰でえ! ボコ泣かしたは!」
武「朝市君でごいす。」
はな「朝市け。」
朝市「はな…。」
はな「はなじゃねえ! こん ひきょうもん!」
回想終了
はな「本当け。 朝一じゃなかっただけ…。」
安東家
居間
<小作料の値上げで おかあたちが 困っている事を知った はなは ますます一生懸命 うちの仕事を 手伝うようになりました。 仕事は 山ほどあったので あんなに好きだった学校も 休みがちなりました。>
川
はな「あ…。」
道中
朝市「はな。 学校来れんくれえ 忙しいだけ?」
はな「朝市。 おらが悪かったじゃん。 ひきょうもんなんて言っちまって 石盤も壊しちまって… ごめん! 許してくりょう。」
朝市「はなは 怒ると おっかねえからな!」
はな「おっかねえだと?」
朝市「行くじゃん!」
はな「うん。」
安東家
玄関
朝市「はな。 あんまし学校休むと せっかく覚えた仮名や漢字 忘れちもうら?」
はな「大丈夫さ 本なら 毎日読んでるだよ。 こうして 目ぇつぶると 本で いっぺえの部屋へ行けるさ。」
朝市「また 夢の話け。」
はな「夢じゃねえさ! この間 中へ入っただよ。 村の教会の本の部屋じゃん!」
朝市「へえ~ 教会?」
はな「ほうさ。 あんなとこに 一生住めたら 最高じゃんね。」
道中
はな「違うなあ…。 あっ! 地主様。 ちょっくら教えてくれろし。 籠の問屋さんは どこずらか?」
徳丸「こん先 曲がったとこずら。」
はな「ありがとうごいす。」
徳丸「おまん 確か ふじのとこのボコけ。」
はな「はい。 花子でごいす。 本当は はなだけんど 花子と呼んでくりょうし。」
徳丸「どっちなんずら?」
はな「あっ! もう一個 教えてくれるし。」
三郎「まだ あるだけ。」
はな「地主様。 おらのようなボコでも 雇ってくれる人は いるずらか。」
徳丸「ほりゃあ ねえ事は ねえら。」
はな「ご無心でごいす。 口利いてくれろし。」
<それから程なく 徳丸家の使いがやって来て…。>
安東家
居間
ふじ「何ずら?」
三郎「給金の前払いずら。 奉公先は 長野の材木問屋だ。」
ふじ「待ってくりょう。 奉公って何の話ずら?」
三郎「花子だか はなとかいうボコに 頼まれて 徳丸様が手を尽くして下さっただ。」
周造「はなが!?」
ふじ「本当に はなが お願えしたですか!?」
三郎「ほうさよ! 近えうちに迎えのもんが来るずら。」
ふじ「てっ!」
道中
ふじ「どいてくれちゃ! どいてくれちゃ!」
徳丸家
玄関
ふじ「徳丸さん。 ご無心ですから 奉公の話 なかった事にしてくれろし。」
徳丸「なんぼ 幼なじみのふじちゃんの 頼みでも ほりゃできん。」
ふじ「ほんなこと 言わんで。 あの子は まだ7つじゃんけ。」
徳丸「うちの武と同い年ずら。 親元から離すのは ふびんじゃんね。 ふんだけんど 花子だか はなとかいうボコが 自分から頼み込んできただよ!」
ふじ「なんとかしてくれちゃ。 このとおりずら!」
徳丸「今更 ほんな勝手 通る訳ねえら!」
尋常小学校
教室
本多「安藤はなさんが おうちの都合で 学校をやめる事になったずら。」
生徒たち「え~!」
サト「はなちゃん。 やっぱし 東京の女学校へ行くだけ?」
はな「ううん 違う。」
武「奉公に行くずら! うちのお父様が 世話してやったじゃん。」
本多「はな。 体に気ぃ付けて頑張れし。」
はな「はい。 短い間ですけんど お世話になりました。」
安東家
居間
ふじ「すまんねえ はな。 うちが貧乏なばっかしに…。」
はな「おかあ ほんな顔しんで。 おとうが前に言ってたら? 奉公に行きゃあ 字も そろばんも こぴっと覚えられるって。 ほれ 聞いた時から おらも いつか奉公に行きてえと ずっと思ってただよ。」
リン「ごめんなって! はなちゃん。 これ おばちゃんのお古だけんど 持ってけし。 奉公先で 腹壊さんようにね。」
はな「てっ! おばさん ありがとごいす。」
リン「吉平さんは? こんな時に いねえだけ?」
ふじ「行商で東京へ行ったっきりで…。」
周造「そうさな。 婿殿は 大事な時にいたためしがねえだ。」
リン「こんな時ぐれえ 吉平さんも 帰ってくりゃいいだに。 おまんも大変じゃん…。」
玄関
はな「(小声で)朝市 これ 何ずら?」
朝市「しっ。」
道中
はな「朝市 どこ行くでえ?」
朝市「はなの一番好きなとこ!」
教会
玄関
朝市「はな こっち。」
書庫
朝市「てっ! はなの言うとおり 本が山ほどあるじゃんけ。」
はな「ほうずら。」
朝市「奉公に行ったら 本も読めんら。 今のうちに 思いっきり読んどけし。」
はな「てっ! きれいじゃん!」
はな「これは? 何ずら?」
朝市「さあ…。」
はな「アハハ 面白え。 フフフフ 面白えじゃん。」
(足音)
朝市「はな。 誰か来る。 逃げよう。 早く!」
寅次「誰でえ! ここで何をしてるだ!?」
朝市「はな。」
寅次「待て! こら~! えらいこんだ! 牧師様~!」
寅次「待て~!」
森「待ちなさい! 寅次君!」
寅次「へえ!」
道中
はな「あっ!」
朝市「はな! つかまれし!」
はな「朝市! 大丈夫け?」
<はなと朝市の運命は いかに…。>
朝市「はな…。」
<ごきげんよう。 さようなら。>