あらすじ
教師になってひと月がたち、しばらく欠席の続くたえ(伊藤真弓)のことが気になるはな(吉高由里子)。校長の本多(マキタスポーツ)から、たえが親戚の家に引き取られる話を聞いたはなが、たえを案じながら帰宅すると、家の前でたえが待っていた。自分には“想像の翼”があるから大丈夫だと強がるたえの姿を見たふじ(室井滋)は、たえを夕食に誘う。はなの家族とともに食卓を囲んでいたたえは、ふと親指姫の絵本に目を止める…。
45回ネタバレ
尋常小学校
教室
キヨシ「『苦あれば 必ず楽あり。 楽あれば 必ず苦あり』。」
<はなが小学校の先生になって 1か月がちました。>
キヨシ「『老後の安楽を願う者は 若年の辛苦をいとうべからず』。
教務室
はな「小山たえさん もう1週間も 学校を休んでいて心配です。 放課後 おうちに行こうと思います。」
本多「おまんに話すと また 余計なおせっかいをすると 思って 黙ってたけんど 小山たえは もう学校には来ん。」
はな「てっ…。」
本多「もうすぐ 親戚のうちに 引き取られていくそうだ。」
安東家
庭
はな「(ため息) もう学校に来んなんて…。」
たえ「はな先生!」
はな「たえさん! どうしてるか心配してただよ。 弟さんは?」
たえ「よそんちに もらわれてった。 おらも 明日 親戚んちに行く事になってるだ。」
はな「明日?」
たえ「親戚んちに双子が生まれて 子守が要るんだ。 最後に おら どうしても 先生に お別れ言いたくて。」
はな「よく来てくれたね。」
たえ「おらの事 分かってくれたの はな先生だけじゃん。 おらのために 屋根にも 上ってくれて ありがとごいす。」
はな「たえさん…。」
たえ「もう 学校には 行けなくなるけんど おとうや弟にも 会えなくなるけんど そこんちは 大きい農家だから たらふく飯が食えるら。」
はな「うん。」
たえ「ほれに おらには 想像の翼があるじゃん。 いつだって 翼を広げて 先生や みんなに 会いに帰ってこられるじゃん。」
はな「ほうだね。」
ふじ「上がってもらったら?」
はな「ふんだけんど おうちの人が心配するら。 先生 送ってく。」
たえ「ううん。 うち帰っても誰もいねえ。」
はな「ほれじゃあ…。」
ふじ「ほれ ほれ。 中入れし。」
居間
周造「頂きます。」
一同「頂きます。」
たえ「うめえ! 本当にうめえなあ。」
ふじ「た~くさん作っただから 腹いっぺえ食えし!」
たえ「ありがとごいす!」
ふじ「遠慮しんで もっと食えし。」
はな「ん?」
たえ「先生 これ読んでもいいけ?」
はな「うん もちろんだよ。」
周造「ハハハ はなの ちっくい時と そっくりじゃん。」
吉太郎「はなも 三度の飯より 本が好きだったじゃんな。」
ふじ「本読んでる時にゃ 飯 腹いっぱい食ってる時よりも 顔がキラキラしてたじゃんね。」
(笑い声)
はな「たえさん。 連れていきたいとこがあるの。 先生の大好きな場所。 きっと たえさんも気に入るから 早く食べて行こう!」
ふじ「えっ? 今っから出かけるだけ? 真っ暗じゃん。」
もも「こんな時分に どこ行くでえ?」
吉太郎「また騒ぎになるじゃねえだけ。」
周造「そうさな。 やめとけし。」
はな「ふんだけんど… 今日しかないの。」
教会
図書室
はな「たえさん。」
たえ「てっ! 本がいっぺえじゃん!」
はな「今夜は ここにある本を 思いっきり読みましょう。」
たえ「ここにある本 全部 読んでもいいだけ?」
はな「ええ 好きなだけ。」
安東家
居間
(戸が開く音)
もも「朝市さん! どうしたでえ?」
朝市「はな いるけ!?」
ふじ「はなは さっき 生徒さんと出かけたさ。」
朝市「てっ! 小山たえさんけ?」
ふじ「ああ ほうだけんど…。
朝市「どこ行ったでえ!?」
もも「お姉やんの大好きなとこって 言ってたけんど。」
朝市「あっ!」
教会
図書室
たえ「先生。 おらも ここが大好きだ。」
はな「先生の夢はね 子どもも大人も わくわくするような本を いつか 自分で作る事なの。」
たえ「へえ~! 先生 本作るだけ。 どんな物語でえ?」
はな「え~っと それは…。」
たえ「聞かしてくりょう。」
はな「てっ… 今け?」
たえ「うん。 先生が作ったお話 聞かしてくりょう。」
はな「そうだなあ…。 あ… ほれじゃあ。 『ある所に 大層太った 長い みみずがおりました。 「私のように立派な体を持ってる みみずは どこにもいやしない。 お庭から 道端から どこから どこまで探したって 私ほどの器量よしは 見つからないわ」。」
はな「こんな事を口にするほどの 威張りん坊でしたから お庭中のみみずは みんな この太ったみみずが嫌いでした』。」
たえ「みみずの名前は 何ちゅうでえ?」
はな「ああ… まだ考えてなかったけんど…。」
たえ「ほれじゃあ フト子さんは?」
はな「フト子け。 いいじゃんね! 『みみずのフト子さんは…』。」
(物音)
はな「てっ! 出た!」
たえ「キャ~!」
朝市「はな! 何が出たでえ!?」
はな「な~んだ 朝市け…。」
朝市「『何だ』じゃねえら!」
寅次「たえのおやじが 夜遅くに帰ったら 娘の姿が どこにも見当たらねえって。 校長も 近所の人らも 必死で捜してるだ。」
はな「ごめんなさい!」
寅次「今度は 校長の雷じゃ済まんら。 覚悟しろし。 ボコ。 おとうが待ってる。 行くだぞ。 おまんは 来んでいい。」
朝市「お願えします。」
たえ「はな先生 ありがとう。 この部屋の事も 先生の事も ずっと ずっと忘れねえ。」
はな「たえさん…。 ごきげんよう。 さようなら。」
たえ「ごきげんよう 先生…。」
<はなは 祈りました。 つらい時 苦しい時 想像の翼が たえさんを支えてくれるようにと。>
尋常小学校
教務室
緑川「あんだけ大ごとになって 謝って済む問題じゃねえら! しおらしく謝りゃ なんとかなると 思ってるるずら おなごは 困る! こぴっと 責任取れし!」
はな「本当に申し訳ありません…。」
本多「おまんの『申し訳ありません』は もう聞き飽きた。 はっきし言って おまんは 教師に向いちゃいんだ。 今日は もう うち帰って ゆっくり考えろし。」
緑川「ほうだ ほうだ! こんな落第教師いん方が 生徒たちも おとなしいくするら!」
安東家
居間
回想
朝市「教師ってのは 子どもの人生を預かる 責任の重い仕事だって おらは 思ってる。 はなにも その覚悟があるだけ? はなは 心のどっかで 思ってるじゃねえだけ。 本当は こんな田舎の学校の 教師なんか なりたくなかったって。」
回想終了
はな「そのとおりかもしれない…。 (ため息)」
尋常小学校
教務室
朝市「校長先生。 おらからもお願えします。 安東先生の事 許してやって下さい。 安東先生は たえさんがお気に入りだから 目をかけたじゃないと思います。 今すぐ 手を差し伸べなきゃ いけねえ生徒だったから…。」
朝市「10歳で甲府を離れて 一人きりで東京の学校で 頑張ってきた安東先生だから たえさんが これっから経験する 寂しさや つらさを 分かってたじゃないでしょうか。」
本多「ほうは言ってもなあ…。」
朝市「つらい時こそ 夢をみる力が大切だから どうしても ゆんべ あの本の部屋に 連れていきたかっただと思います。 お願えします。 安東先生を辞めさせないで下さい。 お願えします!」
<はなは どうなってしまうのでしょう。 ごきげんよう。 さようなら。>