あらすじ
東京での受賞パーティーが始まった。はな(吉高由里子)は、同じく受賞した宇田川(山田真歩)の高圧的な態度や、周りの出席者の洗練された空気に押され、居場所がない。それを見た英治(鈴木亮平)は、名前の誤植の件でケンカした仲直りをしようとブドウ酒で乾杯を持ちかけるが、ブドウ酒に苦い思いのあるはなは素直に受け取れない。そこへ醍醐(高梨臨)が現れ、はなと再会を喜び合う。やがて“誤植事件”は意外な展開を…。
48回ネタバレ
祝賀会会場
<はなは 久しぶりに 東京に来ていました。>
はな「はなじゃありません。」
英治「はい?」
はな「やっぱり あなたが間違えたんですね。」
英治「はっ?」
はな「私の名前 間違えて載ってたんです。」
英治「まさか…。 ほら ちゃんと 安東はなさんに なってるじゃないですか。」
はな「安東花子。 はなじゃなくて花子。」
須藤「皆さん 今年の児童の大賞に 選ばれたのは 宇田川満代さんと安東はなさんの お二人です!」
(拍手)
須藤「お二人には 後ほど 受賞のご挨拶をして頂きますから よろしくお願いします。」
宇田川「はい。」
はな「てっ…。」
梶原「宇田川さんは どんなものがお好きですか?」
宇田川「花袋の『蒲団』は 面白かったですね。 もちろん あなたも読んだでしょう?」
はな「え~っと… それは 硬いお布団の話ですか?」
宇田川「この人 田山花袋を知らないんですって。 自然主義はの露骨なる表現よ。」
梶原「藤村の『破戒』は どうでした?」
「いや~ おめでとうございます。」
<久しぶりに味わう都会の空気に 既に気後れしている はなでした。>
梶原「村岡君 飲む?」
英治「はい。 あっ じゃあ 2つ頂いてもいいですか?」
梶原「仲直りの乾杯してこい。」
英治「はい。」
英治「安東花子さん。 乾杯しましょう。」
はな「あ… ブドウ酒ですか…。」
英治「どうぞ。」
はな「せっかくですが 結構です。」
英治「ああ… お酒は 飲まれないんですか。」
はな「少しは頂きますが ブドウ酒には いい思い出がないんです。 あの… どなたか ほかの方と 乾杯なさって下さい。」
英治「それじゃ 乾杯にならないですよ。 やっぱり まだ怒ってるんですね。 名前の事…。」
はな「そんな…。」
醍醐「ごきげんよう はなさん。」
はな「てっ! 醍醐さん! すっかり見違えて 女優さんかと思ったわ!」
醍醐「村岡さん。 はなさんは ブドウ酒のせいで 女学校を退学になりかけた事が あるんですよ。」
英治「えっ?」
回想
はな「みんな起きろ~!」
茂木「はなさん!」
回想終了
<そうなのです。 あのトラウマは 消えません。 よりによって ブドウ酒を持ってくるとは つくづく 間の悪い人ですね。>
醍醐「はなさんの代わりに 私が頂いてもよろしくって?」
英治「ああ…。」
醍醐「はな先生 受賞おめでとうございます!」
はな「はな先生なんて やめて 私は 甲府のしがない代用教員よ。 醍醐さんこそ すてきな職業婦人になられて!」
醍醐「こっち こっち!」
はな「てっ! かよ? ど… どうして ここに?」
かよ「醍醐さんが知らせてくれたの。 お姉やん おめでとう。 よかったじゃんけ。」
はな「ありがとう かよ!」
醍醐「2人とも 今日は ゆっくりしていってね。」
はな「ありがとう 醍醐さん。 かよも すっかり見違えて。」
かよ「この着物 洋服店の女将さんが 貸してくれたの。 おめでたい席だから きれいにして行きなさいって。」
はな「はあ~… いいとこに 奉公さしてもらっただね。」
かよ「忙しいけんど 製糸工場の 女工に比べたら天国さ。 おとうは まだ帰ってこねえだけ。」
はな「うん…。」
かよ「お姉やんの晴れ姿見たら おとう どんだけ喜んだか。 『ほれ見ろ。 おとうの言ったとおり はなは 天才じゃ』って 大喜びしたずらね。 小学校の先生 辞めて 小説家になるのけ?」
はな「てっ! そんな大それた事 思ってねえよ。」
かよ「何でえ。 せっかく賞に選ばれたずら。」
醍醐「そうよ。 はなさん もっと欲を出した方がいいわ。 千載一遇のチャンスじゃない! もう一度 東京に来て 小説家を目指したら?」
はな「てっ…。」
かよ「おらも そう思う。」
はな「私が小説家?」
梶原「本気で小説家を目指すの?」
はな「梶原さん。 あの… 私 なれるでしょうか?」
梶原「あの童話は 面白かったが 君が小説家になるのは 難しいと思う。」
醍醐「編集長 どうしてですか?」
梶原「僕は 強烈な個性の小説家たちを たくさん見てきた。 安東君は そこらの人に比べると 個性的で常識外れのところもある。 だが 小説家になるには 普通すぎる。」
はな「諦めた方がいいって事ですか。」
梶原「そうだ。」
醍醐「編集長…。」
はな「はっきり おっしゃって頂いて ありがとうございます。」
<はっきり そこまで言われると やはり ショックな はなでした。>
須藤「では 児童の友賞に輝いたお二人に 受賞のお言葉を頂きましょう。 まず 宇田川さんから。」
(拍手)
宇田川「審査員の先生方。 私を選んだ事を 後悔させないような 売れっ子の小説家に すぐになってみせます。 ですから 早く仕事を下さい。」
(拍手)
須藤「では 安東さん。」
はな「はい。」
(拍手)
はな「『みみずの女王』は 私が尋常小学校で受け持っている たえさんという生徒と 一緒に作った物語です。 その子は もう 遠くに引っ越してしまったので お話の続きを読んでもらいたいと 思い 応募しました。 そしたら 運よく この賞を頂けました。 ですから 半分は たえさんがもらった賞です。 この受賞は 一回きりのいい思い出として 甲府に帰って 真面目に 教師を続けたいと思います。 ありがとうございました。」
(拍手)
醍醐「本当に これ一回きりでいいの?」
はな「最初で最後だから 花子という名前で 載りたかったな…。」
醍醐「それ 入稿する時 私が本名に直したの。」
はな「えっ?」
醍醐「やっぱり 安東はなの方が はなさんらしいし 修和女学校の先生方や同級生も 気が付いてくれると思って…。」
はな「てっ… 醍醐さん 気が利き過ぎです!」
醍醐「ごめんなさい。」
はな「私 あの人に ひどい事 言っちまった…。」
醍醐「えっ?」
はな「梶原さん!」
梶原「ん?」
はな「村岡さんは?」
梶原「さっき帰ったよ。」
はな「村岡さん! 村岡さん! 村岡さん! 村岡さん…。」
はな「どうしよう…。」
英治「あれ? まだ いらっしゃったんですか。」
はな「てっ 村岡さん…。」
英治「どうも。」
はな「ごめんなさい! 私の早とちりで 誤植じゃなかったんです これ! 友達の醍醐さんが はなに変えてたんです。」
英治「ああ… そうでしたか。」
はな「本当にごめんなさい!」
英治「ああ いえ。 一つ 聞いてもいいですか? 花子という名前に どうして そこまで こだわってたんですか?」
はな「私 子どもの頃から 花子と呼ばれたかったんです。 『はなじゃねえ。 おらの事は 花子と呼んでくりょう』って 二言目には そう言い返す子でもでした。」
英治「何だか 目に浮かびます。」
はな「女学校の頃 腹心の友ができて…。」
英治「腹心の友?」
はな「その人と約束したんです。 自分の作品を発表する時は 花子っていうペンネームを使うって。 だから この受賞を知った時から 舞い上がってしまって…。 自分が 本当に 夢の中の花子に なれたような気がして…。 そう… 花子は 私の夢なんです。 でも もう 現実のはなに戻らないと…。」
英治「あなたは 花子になるべきです。 花子という名前で これからも書き続けて下さい。」
はな「いえ… 小説家は もう諦めました。 梶原さんからも 小説家になるには 普通すぎるって言われました。」
英治「あなたは 断じて普通じゃない。」
はな「はっ?」
英治「十分 変な人です。」
はな「ちょっと待って下さい! あなたのような変人に 言われたくありません。」
英治「あなたに比べたら 僕は 極めて凡人ですよ。」
はな「どうせ また 私の事 珍獣扱いしたいんでしょう。」
英治「そんな失礼な事 言いませんよ。」
はな「どうだか…。」
英治「どうか その変な自分を 大切にして下さい。 英語の翻訳も続けて下さい。」
はな「それは 無理です。 甲府に帰ってから 英語に触れる機会もないし 小学校では 英語禁止令も出されてしまって うちの事も いろいろあるし 英語どころじゃないんです。」
英治「どこにいても あなたなら大丈夫です。 ナマケモノが泳ぐ時の あの集中力を発揮すれば。」
はな「ほら! また珍獣扱いして!」
(笑い声)
英治「じゃあ お元気で。」
はな「あ… 村岡さん。 ありがとうございました。」
英治「いや… お礼を言われるような事は 何も。」
はな「ごきげんよう。 さようなら。」
英治「ごきげんよう。 さようなら。」
<ごきげんよう。 さようなら。>