ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第51回「はな、お見合いする」【第9週】

あらすじ

突然帰ってきた吉平(伊原剛志)に、怒りを抑えられず思いのたけをぶつけた吉太郎(賀来賢人)。家族の状況を何も知らなかった事にさすがにショックを受けた吉平は、夜も眠れずひとり縁側へ出てくる。そんな父を心配し話しかけるはな(吉高由里子)に、吉平は空白の4年間について語り始める。社会運動に身を投じ、逃亡をつづけていた吉平が明かす意外な結末に、はなはかける言葉が見つからない。その時、ふじ(室井滋)が…。

51ネタバレ

安東家

居間

吉太郎「おとうなんか… こんな おとうなんか おらたち家族に必要ねえ!」

はな「兄やん!」

<いつの時代も 父と息子は 対立するものなのでしょうか。>

(虫の声)

はな「おとう。 グッド イブニング。」

吉平「びっくりした。 こんな夜中に どうしただ?」

はな「おとうこそ また どっか行っちもうのかと思ったさ。」

吉平「もう どこにも 行く当てなんてねえ。 まあ このうちにも おとうは 必要ねえだろうけんどな。」

はな「ほんなこん ねえよ。 おとうは このうちの事 何にも知らなんだから 大急ぎで勉強してもろうさ。 宿題だって出すよ。」

吉平「宿題もけ。 ありがとうな はな。」

はな「ねえ おとう。」

吉平「ん?」

はな「4年も どこで何してたでえ? どうして 一度も 帰ってこなんだの?」

吉平「おとうは 東京で ある人の演説を聞いて 心をつかまれてな…。」

回想

浅野「労働者教育の充実を図るべし!」

一同「充実を図るべし!」

吉平<行商をしながら 社会主義っちゅう思想を広める 伝道行商というのをしてただ。>

吉平「俺たちの生活は ますます 苦しくなるばっかりだ! こんな世の中を変えるのは 社会主義なる思想です!」

回想終了

はな「てっ! 社会主義って 警察が取り締まってる あの?」

吉平「ほうだ。 今の社会は 苦労して働いてる 労働者が報われねえで 金持ちばっかが どんどん裕福になる仕組みだ。 ふんだから 世の中変えるために 日本中 あっちこっち 駈けずり回ってただ。 ふんだけんど ある時…。」

回想

「さっさと歩かんか!」

山田「浅野先生…。」

吉平<それっから おとうは 仲間の国松と逃げただ。>

回想終了

吉平「国松の田舎が新潟だったから そこの山奥に隠れたり…。」

はな「ほうだったのけ…。」

吉平「おとうが 警察に手配でもされたら 家族みんなに迷惑がかかる。 ほう思って 必死で身を隠してただ。」

はな「おとう。 まだ隠れなきゃならんだけ?」

吉平「いや…。 全部 おとうの思い過ごしだった。」

はな「思い過ごし?」

回想

吉平「浅野先生。 よかった…。 出所なさったんですね。」

浅野「ええ。 1か月ほど前に やっと出られました。」

吉平「じゃあ もう安全なんですか?」

浅野「いや 連中は 一度 目をつけた人間を 簡単に自由にしたりはしない。 今も その辺りで 見張ってるでしょう。」

吉平「危ねえ! じゃあ 隠れねえと。」

浅野「安心して下さい。 心配しいなくても あなたは 捕まったりしませんよ。」

吉平「どういう事ですか?」

浅野「連中が追っているのは 小説家や出版社の人間 それに 我々新聞社のような 世間に影響力を持つ人間です。 ですから あなたが 逃亡する必要はないんです。 では。」

回想終了

吉平「所詮 おとうは 警察に追われるような大物でも 何でもねえ。 ただの行商じゃ。 家族の苦労なんか これっぽっちも知らんで…。 自分が恥ずかしい…。」

はな「おとう。 Go to bed.」

吉平「あっ?」

はな「今日は とりあえず ゆっくり寝るさ。」

吉平「ああ… この話は おかあには黙っててくれちゃ。 自分の亭主が こんな あほうだって知ったら おかあも悲しくなるら。」

はな「はっ!」

2人「てっ!」

ふじ「ほんなに驚く事ねえら。」

吉平「全部 聞いてただか。」

ふじ「あんたの情けねえ話は 全部 聞いたさ。」

はな「おら 明日早いから… おやすみなさい。」

吉平「ふじ。 長え事 すまなんだ。 このとおりだ。」

ふじ「全く… 世の中変える前に 自分の頭ん中 変えた方が いいずらよ。」

吉平「はい…。」

ふじ「ふんだけんど あんたが 大物じゃなくて よかった。 あんたは 小物なおかげで こうして 無事に帰ってこられたずら。」

吉平「ふじ…。」

ふじ「お帰りなさい。」

吉平「ただいま。」

嘉納邸

<そのころ 福岡の嘉納伝助の屋敷では 有名な演奏家を呼んで 演奏会が催されていました。 嘉納家の教育改革のために 蓮子が企画したのです。>

(煎餅を食べる音)

蓮子「(せきばらい)」

嘉納「おっ。 食うか? おっ! な… 何しよるとか。」

蓮子「(小声で)演奏中は 物を食べないで下さい。」

(すする音)

蓮子「本当に申し訳ございませんでした。 この家の者たちは 教養も礼儀も わきまえていなくて 本当に お恥ずかしい限りです。」

蓮子「一体 何なのですか あの振る舞いは! 美しい演奏の最中に 煎餅は食べるわ 大あくびはするわ おまけに お酒まで持ってこさせて! 失礼にも 程があります。」

嘉納「金を出しちょるとは 俺ぞ。 俺が好きなごと聞いて 何が悪いとね。」

蓮子「演奏会には 演奏会の マナーというものがあります。」

嘉納「そげなんこつ 俺は知らん!」

蓮子「では 覚えて頂きます。 学んで頂きます!」

嘉納「もう よか!」

タミ「旦那様 お出かけですか?」

嘉納「ああ。」

タミ「お客しゃんに 旦那様んこつを お恥ずかしいとか言う方が 妻として よっぽど どげかしちょるち思いますばい うちは。」

蓮子「どげんかしてるのは どなたでしょう? 毎日 そうやって 陰口ばっかり たたいていらっしゃるの 私が知らないとでも 思っているんですか。」

嘉納「もう よか! せからしか。 俺は 出てくる!」

回想

♬~(バイオリン)

(煎餅を食べる音とすする音)

回想終了

蓮子「(荒い息遣い)」

<『寂しさの ありのすさびに 唯ひとり 狂乱を舞う 冷たき部屋に 白蓮』。 ごきげんよう。 さようなら。>

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