あらすじ
福岡の炭鉱でガス爆発が起こった事を全く知らされていなかった蓮子(仲間由紀恵)の元へ、炭鉱夫たちがどなりこんで来た。ひるみながらもきぜんとした態度で対応する蓮子に、怒りの収まらない炭鉱夫たちがつかみかかろうとした時、伝助(吉田鋼太郎)が帰宅する。座敷で話し合うことになるが、蓮子は伝助に「女は邪魔だ」と言われ、入れてもらえない。蓮子が様子をうかがっていると、女中頭のタミ(筒井真理子)が思わぬ行動を…。
57回ネタバレ
嘉納邸
廊下
黒沢「ここに 社長は いません。 お帰り下さい。」
<伝助の炭鉱で ガス爆発の事故が起こり 怒りを募らせた男たちが 乗り込んできました。>
蓮子「ごきげんよう。 私に 何かご用でしょうか?」
「貴様 白蓮とかいう名で くだらん本ば出しちょるらしいな。」
蓮子「くだらん本? 読んでから 批評なさって下さいね。」
「あの本に いくら金かけたんか。」
「お前だちが道楽できるとは わしらが命懸けで石炭ば掘りよる おかげやろうが! あ?」
黒沢「ご婦人に何をする!」
「貴様 何者か?」
黒沢「私は 新聞記者です。 このような無礼な振る舞い 記事にしますよ。」
「ああ 上等たい! ばってん 新聞に書くとなら わしらの怒りも全部書けよ!」
「お前だちのぜいたくのために 仲間が命落としたとたい!」
蓮子「心より お悔み申し上げます。」
「けがして もう働けんごと なったもんも大層おる!」
蓮子「それは… お気の毒に…。 私 お見舞いに伺います。 どちらの病院でしょうか?」
「見舞いやと? ふざくんな!」
「お前だちが 仲間ば殺したも同然やろうが!」
「責任ば取れ!」
「どこにおると 社長は!」
嘉納「やめんか! わしの留守中に 土足で 上がり込むとは 何たる無礼か!」
「お… 俺たちの話を 聞こうとせんとが悪いとたい!」
「誠意を見せろ!」
「そうじゃ!」
嘉納「分かった。 話は聞くき。 タミ 座敷の方に。」
タミ「はい。 こちらにどうぞ。」
嘉納「怖い思いさせて すまんやったな。 大丈夫か。」
蓮子「あなた。」
嘉納「仕事の場に おなごは邪魔やき。」
座敷
嘉納「わしも ガキの頃から 待っ暗い穴ん中 はいつくばって 石炭掘りよった。 そやき お前らの苦労も 仲間を思う気持ちも 誰よりも分かっちょるつもりたい。」
タミ「皆さんが来るち 分かっちょったら いろいろと 用意しちょったばってん こげなもんしか 用意できんとですけど こらえちゃんなっせ。」
嘉納「近いうち 必ず話し合いの場を持つき そん時までに そちらの要望を まとめちょってくれんね。」
廊下
蓮子「私 許せません!」
タミ「はい?」
蓮子「ろくに話し合う事もしないで お金を渡したんじゃ 何の解決にもならないでしょう!」
タミ「これが この家の 昔からのやり方ですき。」
蓮子「あんな大金を 勝手に支払うなんて!」
タミ「うちは 旦那様から信用されて 預かっちょるとです。 それが 何か?」
蓮子「妻である私に そんな口を利いて いいと思っているの!?」
タミ「妻! 妻らしい事やら 何一つしよらん人は 人形らしゅう 黙っちょきゃいいとたい!」
蓮子「何ですって…。」
嘉納「2人とも やめんか。」
タミ「先に奥様の方が 手を出したとですよ。」
蓮子「離しなさい!」
嘉納「とんでもねえ伯爵家の娘ばい。 ハッハッハッハ。」
蓮子「こんな家にいたら 私だって おかしくなります!」
タミ「あ~ 痛か。」
(伝助の笑い声)
蓮子の部屋
蓮子『主人にとって 私は 床の間に飾られた人形に すぎないのです。 どんなに財産があっても 生きがいのない毎日は むなしい。 今すぐにでも逃げ出したい。 けれど…』。
嘉納「俺たい。 ちょっと よかろうか。」
蓮子「何でございましょう?」
嘉納「今日は いろいろ すまんやったな。」
蓮子「もう結構です。 よく分かりました。 私が この家で いかに軽く見られているか。」
嘉納「何を言いよるとか。」
蓮子「爆発事故の事すら 知らされていなかったんですよ。」
嘉納「お前は… 仕事ん事は 知らんでいいと…。」
蓮子「どうかなさったんですか?」
嘉納「いや ごげんもない…。 あっ!」
蓮子「あなた! 誰か! 早く お医者様を! あなた! あなた しっかりして下さい!」
嘉納の部屋
医者「当分 しっかり 安静にさせちょって下さい。」
蓮子「はい。」
医者「嘉納さんは この地には なくてはならん お人やき 何かあったら すぐ 知らせちゃんなっせよ。」
蓮子「どうも ありがとうございました。」
タミ「旦那様 お気の毒に…。」
蓮子「主人に触らないで下さい。 主人の看病は 私が致します。」
タミ「お湯も沸かせんげな奥様が 旦那様の看病げな…。」
蓮子「出てってちょうだい! ほら 早く!」
タミ「何しよっとですか。」
嘉納「ううん…。」
蓮子「ご気分は いかがですか?」
嘉納「だいぶ ようなった。 うっ! ああ…。 まさか お前が 看病しちゃるとはなあ。 倒れてみるもんばい。」
蓮子「今は 仕事の事は忘れて ゆっくりと静養なさって下さい。 召し上がりますか?」
嘉納「ああ もらおうか。 熱っ!」
蓮子「あ… ご… ごめんなさい!」
嘉納「熱か。」
<蓮子が柄にもなく 夫の看病をしている頃。 はなは…。>
教会
図書室
蓮子『あなたは いつになったら 安東花子の名前で 本を出すのですか? ぐずぐずしていると おばあちゃんになってしまいますわよ』。
<『物語を書きたい。 何か書かなければ』と 焦れば焦るほど 自分に いらだってしまう はなでした。>
安東家
庭
吉平「あれっから ももは 何か言ってたけ?」
ふじ「何かって?」
吉平「ふんだから 北海道の縁談の事じゃ。」
ふじ「別に 何も。」
吉平「ふんじゃあ 朝市のこんは?」
ふじ「ほのこんは ほっといてやれしって 言ってるじゃん。」
(戸が開く音)
吉平「何でえ? もも。」
もも「夕飯 出来たけんど…。 お姉やん 遅えな。 また 教会の本の部屋ずらか。」
ふじ「きっと ほうずら。」
もも「おら 呼びに行ってくる。」
吉平「気ぃ付けろし。」
教会
図書室
朝市「はな? はな。 こんなとこで寝てたら 風邪ひくら。 ボコみてえな顔して…。」
もも「朝市さん…。」
<大好きな朝市の心の中にいるのは 自分ではない事を ももは 知ってしまったのです。 ごきげんよう。 さようなら。>