あらすじ
周造(石橋蓮司)が倒れたとの知らせを受け、急いで駆けつけたはな(吉高由里子)。周造は一命を取り留めたものの、医者に「次に発作が起きたら覚悟するように」と言われ、ふじ(室井滋)は自分を責める。吉平(伊原剛志)は何か手伝えることがあればとふじに声をかけるが、リン(松本明子)にすげなく追い返されてしまう。はなが納屋に周造のかいまきを取りに行くと、枕元にはなの書いた『たんぽぽの目』の本が置いてあり…
64回ネタバレ
尋常小学校
教務室
リン「大変だ!」
はな「おばさん。」
リン「周造さんが倒れただよ!」
はな「おじぃやんが?」
安東家
居間
吉平「先生。」
医者「一命は取り留めたけんど 心臓が かなり弱っている。 もう一遍 発作が起きたら ほの時は… 覚悟してくりょう。 もう 無理させんように。 お大事に。」
ふじ「先生 ありがとうごいした。 おらのせいだ…。 あの女の事に気ぃ取られて お父やん一人に 畑仕事を押しつけちまって…。」
はな「おかあ…。」
吉平「ふじ…。 俺で手伝えるこん あったら 何でも言ってくりょう。」
リン「おまんに ふじちゃんが 素直に頼める訳ねえら!」
吉平「先生 送ってくる…。」
はな「おかあ。 おらが見てるから おかあは 少し休めし。」
ふじ「おまんは 明日も学校があるじゃんけ。 寒くねえかな…。」
はな「おじぃやんのかいまき取ってくる。」
周造の部屋
居間
ふじ「はなの本? どっから持ってきたでえ?」
はな「おじぃやんの寝床に 置いてあったさ。」
ふじ「てっ! お父やん 字が読めねえのに。 明日 学校から帰ってきたら 読んであげてくりょう。 きっと元気出るら。」
はな「おかあ…。 おとうの事 このまんまでいいの?」
教会
図書室
<吉平も その夜は 一睡もできませんでした。>
尋常小学校
廊下
朝市「はな。 大丈夫け?」
はな「おらは 大丈夫。 ふんだけんど おかあは 寝なんで おじぃやんの看病して ほのまま 畑行った…。」
朝市「ほうか。 おばさんまで倒れんきゃ いいけんどな…。 あっ おらにできる事があったら 何でも言ってくりょう。 うちのおかあも おせっかい やきたがってるけんど あのおしゃべりが行っちゃ 周造じぃやんも やかましくて おちおち寝てられんら。 大丈夫。 きっと元気になるさ。」
はな「うん。 ありがとう。」
徳丸商店
徳丸「おまん 商売してる場合け! 周造さん倒れて 大変だったらしいじゃん。」
吉平「ああ…。」
徳丸「まさか まだ うちに帰っちゃいんだけ!?」
吉平「ふじが許しちゃくれんだ…。」
徳丸「おまん 本当に ふじちゃんを 裏切るような事してねえだけ?」
吉平「いや… 俺は やってねえ… と思う。」
徳丸「ふんだったら してねえだ。 こういう時こそ ふじちゃんの そばにいてやるべきずら。」
吉平「ふんだけんど やっぱし 俺にできるこんちゅうのは 行商で金稼いで 早く借金返すぐれえで…。」
徳丸「おまんは バカけ? 金貸してる わしが 『行商なんやめて うち帰れ』ってんだ。 今 ふじちゃんが 心っから頼れるのは 誰でもねえ 亭主のおまんずら。」
安東家
居間
周造「ああ… 字が読めたらな…。」
吉平「あの…。 俺でよかったら読みますけんど…。 あ… 失礼しやした。」
周造「待て。 おまんしか いねえだから しょうがねえら。」
吉平「ふんじゃあ 読まして頂きます。 『「たんぽぽの目」。 百合子は 一人っ子でしたから お友達が遊びに来ない時は 寂しくて たまりませんでした。 「誰か遊びに来ないかなあ」と 言いながら お庭の木戸から 裏の原っぱへ出ていきました。 「今日は だ~れも 出ていないわ。 つまらないなあ」』。 あれ? おじぃやん? つまらんですか?」
周造「はなの作った話が つまらん訳ねえら。」
吉平「はあ…。」
周造「こうして 目をつぶった方が 景色が浮かぶだ。 さっさと続きょう読めし。」
吉平「はい。 『背の高い草が茂っていて その上に…』。 『「私 大きくなったら お歌を作る人になりたいの。 なれるでしょうか。 どうでしょう」』。 『お父さんも これからは たんぽぽを邪魔だなんて 言わないようにしようね』。 『お父さんは 優しく 百合子の頭をなでました』。 おしまい。」
周造「はなは 本当に面白えボコだったな。」
吉平「ええ。 神童ですから。」
周造「おまんが 東京の女学校に 入れるって言いだしたときゃあ とんでもねえこんになったと 思ったけんど はなが こうして 本を出すようになるとはな。 婿殿が 変わりもんだった おかげかもしれねえな。 はっきり言って おまんのこたぁ ふじが 結婚してえって 連れてきた時っから ずっと好かなんだ。」
吉平「知ってました。」
周造「こっちから見る富士山が 裏富士だなんて言いくさって。」
吉平「一つ屋根の下にいて 目も合わしてくれなんだ。」
周造「そうさな。」
吉平「お父さん…。 この度は いろいろ ご心労をおかけして すまなんだです。」
周造「あのサダという女とは 何もなかったずら。 よ~く考えてみりゃあ おまんは ほんな甲斐性のある男じゃねえら。」
吉平「はあ…。」
周造「ふんだけんど ふじは ほう簡単にゃあ 許さねえぞ。 あいつは 噴火すると おっかねえからな。」
吉平「名前が ふじですから。」
周造「ああ。 ハハハハ…。 婿殿。」
吉平「はい。」
周造「わしは もう そう長くはねえ。」
吉平「お父さん…。」
周造「ふじの事 こぴっと頼むぞ。 子どもたちの事も頼んだぞ。 もう一遍 読んでくりょう。」
吉平「はい。 『「たんぽぽの目」。 百合子は 一人っ子でしたから お友達が遊びに来ない時は 寂しくて たまりませんでした。 「誰か遊びに来ないかなあ」と 言いながら お庭の木戸から 裏の原っぱへ出ていきました。 「今日は だ~れも 出ていないわ。 つまらないなあ」』。」
<その日 吉平は 周造にせがまれ 何べんも何べんも はなの小説を読みました。>
吉平「『「百合子さん いらっしゃい」』。」
<ごきげんよう。 さようなら。>