ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第74回「その恋、忘れられますか?」【第13週】

あらすじ

英治(鈴木亮平)から「昨夜のことは忘れてください」と言われたはな(吉高由里子)は、事情を飲み込めずにいた。そんなはなを見て心配するかよ(黒木華)。聡文堂でもはなは無理に明るく振る舞い、梶原(藤本隆宏)や醍醐(高梨臨)もけげんに思うのだった。そのころ、福岡の蓮子(仲間由紀恵)を訪ね、帝大生の龍一(中島歩)がやって来ていた。面会を断られた龍一はタミ(筒井真理子)が止めるのも聞かず、蓮子の部屋へ向かう。

74ネタバレ

聡文堂

英治「ゆうべの事なんですが…。」

はな「はい。」

英治「すいませんでした! 忘れて下さい。」

はな「は…?」

英治「とにかく忘れて下さい…。 本当に すいませんでした。」

<つまり はなは 振られてしまったのでしょうか。>

はな「『忘れて下さい』…。」

かよ宅

(猫の鳴き声)

居間

はな「『忘れて下さい』?」

かよ「お姉やん? 大丈夫け?」

はな「ねえ? 『忘れて下さい』って どういう意味だと思う?」

かよ「ほりゃあ 『忘れてくりょう』って事ずら。」

はな「ほれって つまり?」

かよ「よく分からんけど 『思い出したくねえから なかった事に してくりょう』って事かな?」

はな「なかった事に…。」

かよ「本当に どうしたでえ? また 何かあっただけ?」

はな「ううん! 翻訳してて ちょっこし 気になっちゃってさ。」

かよ「やっぱし 何かあっただね。」

はな「ううん。」

玄関前

はな「行ってきます。」

かよ「行ってらっしゃい。」

はな「忘れよう…。 こぴっと忘れよう。 よし。 忘れた 忘れた。」

聡文堂

はな「編集長 おはようごいす!」

梶原「『おはようごいす』?」

はな「三田さん 何かお手伝いする事 ありませんか?」

三田「いえ… 別に…。」

醍醐「おはようございます。」

はな「ごきげんよう 醍醐さん! 岡田先生の原稿の編集 まだよね。 お手伝いします!」

醍醐「それは 助かるけど…。」

はな「今日も 忙しくなりそうね! 頑張りましょう! とりあえず 皆さん 飛びっきりおいしいお茶 入れますね! フフフフ!」

三田「いつもの お茶っ葉でしょう?」

醍醐「はなさん 妙に明るいですね…。」

梶原「不自然なほどね。 まあ 何か あったんだろう。 そ~っとしておこう。」

嘉納邸

蓮子の部屋

<はなが 空元気を振りまいている頃 福岡の蓮子は 部屋に引きこもり 現実の憂さを 読書で紛らわせておりました。>

タミ「奥様。 お客しゃんが お見えですばい。 奥様。」

蓮子「私を訪ねてくる人なんて いないわ。」

タミ「ばってん 東京から来んしゃったそうで。」

蓮子「東京から? どなた? 女の方?」

タミ「いいえ。 宮本しゃんっちゅう男ん人です。」

蓮子「知らない方だわ。 お帰り頂いて。」

タミ「はい。」

座敷

タミ「『お帰り下さい』ち 奥様が。」

龍一「はるばる東京から来たんです。 会わせて下さい。」

タミ「ばってん もう 奥様は ず~っと部屋に籠もりっきりで。」

龍一「籠もりっきり?」

タミ「ええ。 誰にも会いとうないそうで。」

龍一「分かりました。」

タミ「お客しゃんがお帰りばい!」

トメ「はい。 お客しゃん? ちょっと! 玄関は こっちですばい!」

廊下

龍一「蓮子さんの部屋は どこですか?」

タミ「勝手に困りますばい!」

タミ「何すいとですか! ちょっと! 待ちんしゃい! お客しゃん! 何するとです!」

トメ「お客しゃん!」

タミ「本当に困りますき! 帰ってつかあさい!」

龍一「会わずに帰るつもりは ない!」

タミ「待ちんしゃい!」

蓮子の部屋

蓮子「何なの? あなた。 出ていきなさい!」

龍一「嫌です。 話を聞いて頂くまで帰りません。 イッテ~…。」

蓮子「フフフ… アハハハハハハ! 勇ましさが台なしね!」

龍一「何だ この部屋…。 俺の部屋より散らかってる。」

蓮子「アハハ おかしい…。 アハハハハ! アハハ…。 アハハハ!」

(笑い声)

蓮子「ああ… こんなに笑ったの久しぶり。」

龍一「人の不幸を笑うとは 悪趣味だな。」

蓮子「どなたか存じませんけれど 東京から 尻餅をつきにいらしたの?」

龍一「笑い過ぎですよ! この顔 お忘れですか?」

回想

龍一「『新興成金の奥方には わざと まずいコーヒーでも飲ませて 追っ払え』と 僕が言ったんですよ。」

回想終了

蓮子「ああ… あの時の。」

龍一「やっと思い出してくれましたか。」

蓮子「こんな所まで また けんかを売りにいらしたの?」

龍一「いえ。 あなたを口説きに来たんです。 これ 読みましたよ。」

蓮子「それで?」

龍一「僕たちの劇団のために 脚本を書いて下さい!」

蓮子「脚本? さあ 三十一文字より多くの文字を つづるすべは 知らないわ。」

龍一「僕は あなたに書いてほしいんだ!」

蓮子「どうして 私なの? 劇団で お金でも必要なのかしら?」

龍一「金なんか! …いえ 本音を言うと 金も欲しいですけど。」

蓮子「フフッ 正直ね。」

龍一「僕たちは 演劇を通して 今の不平等な日本を 変えようと思ってます。 そのためには まず 人々の心に深く突き刺さり 揺さぶる舞台をやる必要がある。 僕は この本を読んで すぐに汽車に飛び乗りました。 白蓮の歌に込められた ほとばしるような劇場に 僕の心が揺さぶられたからです! 引き受けてもらうまで 帰りません!」

蓮子「随分と熱いのね。 でも 世の中なんて そう簡単に 変えられるものじゃないわ。 しきたりも仕組みも 変わりはしないのよ。」

龍一「じゃあ… 世の中なんか どうでもいい。 僕のために書いてくれませんか。」

蓮子「は…?」

龍一「あなたしか書けない脚本を。」

聡文堂

<あの人の事を 忘れよう 忘れようとして 余計 頭に浮かんでしまう。 それが恋というものなのです。>

はな「あ… どうも ありがとうございます。」

郁弥「いえ。」

醍醐「今日は お兄様は いらっしゃらないんですか?」

郁弥「兄は 別件でちょっと。 代わりに 割り付け 届けに来ました。」

カフェー・ドミンゴ

かよ「あの… 私は 花より…。」

郁弥「チップの方がいいんですよね。 でも 勿忘草を見てたら かよさんの事を 思い出してしまって。」

かよ「ご注文は?」

郁弥「あっ ウイスキーを。」

かよ「ウイスキー 1つ。 今日は 英治さんは いらっしゃらないんですか?」

郁弥「何で みんな 僕の顔見ると 同じ事 聞くのかな…。 兄は 義姉さんの見舞いに行ったんです。」

かよ「お姉さん 入院なさってるんですか?」

郁弥「もう3年も結核の病棟に。 兄と結婚して すぐに 胸を患って…。」

かよ「結婚? 英治さん 結婚なさってたですか?」

郁弥「あ… ご存じなかったですか?」

かよ「え… ええ。」

郁弥「かよさん ひょっとして… 兄の事が好きだったんですか?」

かよ「てっ!? 違います! 好きなのは 私じゃなくて…。」

(ドアベル)

かよ「いらっしゃいませ。」

須藤「いや~ こんばんは。」

かよ「こんばんは。 あちらの席に どうぞ。」

梶原「おお 郁弥君。」

はな「あっ 郁弥さん。 ごきげんよう。」

郁弥「どうも。」

かよ「お姉やんも こちらの席に どうぞ。」

はな「うん。」

かよ「お兄さんが結婚してる事 ちょっこし ないしょにしていて もらえますか?」

郁弥「ちょっこし?」

かよ「傷つく人がいるので。」

郁弥「それは かよさんじゃないんですよね?」

かよ「違います。 とにかく ないしょに。」

郁弥「分かりました。」

醍醐「郁弥さん。 よかったら こっちにいらっしゃらない?」

郁弥「はい。」

須藤「おいで。」

三田「どうぞ どうぞ。」

郁弥「失礼します。」

はな「あっ 『王子と乞食』の原書は 郁弥さんから頂いたんです。」

梶原「そうだったの。」

郁弥「安東さんの翻訳 兄は仕事も忘れて 読みふけってました。 すごく 面白いって。」

はな「それは 原作が すばらしいからです!」

醍醐「はなさん ずるいわ。 私も もっと頑張らなくちゃ。 英治さんは 何がお好きなの?」

郁弥「兄の好きなものですか?」

醍醐「ええ。」

梶原「珍獣だよ。 ほら ナマケモノとかさ。」

醍醐「ナマケモノ?」

はな「変わってますよね。」

<かよは 知ってしまったのです。 お姉やんの恋は 道ならぬ恋だと。 ごきげんよう。 さようなら。>

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