あらすじ
完成したばかりの新雑誌『にじいろ』を持って、英治(鈴木亮平)は妻・香澄(中村ゆり)の病室を訪れる。香澄はうれしそうに雑誌を眺めるが、ふと、英治が挿絵を書いた『王子と乞食』のページに目を止める。挿絵を英治が描いたと知ったかよ(黒木華)もはな(吉高由里子)を心配するが、はなは気丈に振舞う。発売準備に追われるはなは梶原(藤本隆宏)から、宇田川(山田真歩)には真っ先に届けるよう言われ…。
80回ネタバレ
聡文堂
梶原「記念すべき 『にじいろ』 創刊号の完成を祝って 乾杯!」
一同「乾杯!」
醍醐「英治さん こんな日にも いらっしゃらないなんて残念ね。」
梶原「ずっと 英治君 見ないけど 奥さんの具合 そんなに悪いの?」
郁弥「兄と結婚してすぐに 義姉は 胸を患って 今も入院してるんです。」
病院
病室
英治「香澄。 今日は どう?」
英治「今日は 調子がよさそうで 安心したよ。」
香澄「その辺 飛び回りたいぐらい 元気なの。」
英治「また 無理するなよ。」
香澄「分かってるわ。 新しい雑誌?」
英治「うん。 郁弥が初めて担当した 童話雑誌なんだ。 あいつ 早く君に届けろって うるさくて。」
香澄「フフフ。 この絵… あなたが描いたのね。」
英治「…うん。」
香澄「珍しいわね。 あなたが挿絵を描くなんて。 絵描きになるのは 諦めたんじゃなかったの?」
英治「才能がないからね。」
香澄「でも… これは すてきだわ。」
英治「この童話 郁弥がイギリスで買ってきた本を 翻訳したものなんだ。 舞台になってる 16世紀のイギリスの 雰囲気を出したページに しようって事になって。」
香澄「女性の 翻訳者なんて 珍しいわね。」
英治「君は『にじいろ』創刊号の 読者1号だから 忌憚ない意見を利かせてくれ。」
香澄「私が第1号なの?」
英治「刷り上がったばかりだからね。」
香澄「まあ うれしい。 じゃあ 心して読ませて頂きます。」
かよ宅
居間
かよ「ついに出来ただね! すてきな雑誌じゃん。 てっ! 『訳 安東花子』! お姉やん 本当にすげえなあ! これ見たら おとうなんか大喜びして 村中に宣伝して回るよ きっと。」
はな「うれしいけんど 恥ずかしいじゃんね。」
かよ「あっ ひょっとしたら また 行商に出ちまったりして。 『おとうが はなの本を 売ってやる』とか言って。」
はな「てっ 言いそう 言いそう。」
かよ「この挿絵も すごくいいじゃん。」
はな「ほれ 村岡さんが描えてくれただ。」
かよ「てっ…。 お兄さんの方?」
はな「おかげで いいページに仕上がったさ 感謝してるだ。」
かよ「お姉やん…。」
はな「心配かけて ごめんね。 でも もう本当に 大丈夫だから。 あっ 宇田川先生の話も すっごくいいだよ。 あの人 性格は きっついけんど 心は 水みてえに 透き通った人なんだなあ。 こんなに すてきな童話 書いてもらえて 本当に よかったさ。」
かよ「ほういえば ミスター ドミンゴさんが褒めてただ。」
はな「ミスター ドミンゴさん?」
かよ「ほら コーヒーが好きな紳士じゃん。」
回想
平祐「あなたは 編集者には 全く向いてない。」
回想終了
はな「てっ あの紳士が?」
かよ「お姉やんの事 編集者らしくなったって。」
はな「わあ… ほれじゃあ もう 国に帰らんでいいだね。 はあ…。」
病院
病室
聡文堂
梶原「安東君。 これ 作家に渡す分だから。」
はな「はい。」
梶原「作家には 担当者から 早急に創刊号を渡すように。」
醍醐「分かってます。 発売日よりも前に渡さないと あの人たち へそを曲げるどころ じゃありませんからね。」
須藤「作家先生ってのは 怒らせると面倒な人種ですからね。」
梶原「ご機嫌 損ねないように頼むぞ。」
はな「はい。」
梶原「安東君。 それが終わったら 村岡印刷 行くぞ。」
はな「あの…?」
梶原「社長に挨拶がてら紹介するよ。 『王子と乞食』のページが出来たのも 村岡兄弟のおかげだからな。」
醍醐「編集長! それ 私に行かせて下さい。」
三田「醍醐君は これから 岡田先生と打ち合わせでしょう。」
醍醐「そうでした…。 じゃあ 三田さん 行ってきて下さい!」
三田「何で 忙しい僕が。」
はな「大丈夫よ 醍醐さん。」
醍醐「でも…。」
三田「醍醐君。 安東君を村岡印刷に 行かせたくない理由でもあるの?」
はな「本当に大丈夫だから。 ヘマしないように 編集長のお供してきます。」
梶原「じゃあ 行こうか。」
須藤「行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
村岡印刷
梶原「何してるの?」
はな「あ… いえ。」
(ノック)
梶原「こんにちは。」
郁弥「ああ… わざわざ お越し頂いて すいません。 あいにく 兄は 出かけていて。」
梶原「そう。 今日は 英治君にも お礼を言いたかったんだけど。」
郁弥「くれぐれも 梶原さんに よろしく伝えてくれと 言っていました。」
(ドアが開く音)
郁弥「社長。」
平祐「やあやあ。 『にじいろ』創刊 おめでとうございます。 どうぞ。」
はな「てっ… ミスター ドミンゴ!」
平祐「やあ 『みみずの女王』。」
梶原「何だ 安東君。 知り合いだったの?」
はな「カフェーで 何度か お目にかかりました。」
郁弥「僕も忙しくて行けないのに 父さんは あの店に行き過ぎなんだよ。」
はな「父さん?」
郁弥「はい。 社長で父です。」
はな「という事は… ご兄弟のお父様…。」
梶原「安東君 今日は おかしいぞ。 大丈夫か?」
平祐「やっぱり 君は 田舎に帰った方が いいんじゃないかね。」
はな「そんな…。」
平祐「あまり 編集者として優秀になると 女性は 生意気になるからね。 この辺で帰った方がいい。」
梶原「あの これ つまらないものですが。」
平祐「ありがたく頂戴します。 ほう ウイスキーとは また。」
梶原「最近 凝ってまして。」
平祐「しかし いい雑誌に仕上がりましたな。 『にじいろ』は これから 長~く 愛される雑誌に成長しますよ。」
梶原「社長に そう言って頂けると 自信がつきますよ。 社長。 郁弥君。 この度は 『にじいろ』創刊へのご尽力 本当に ありがとうございました。」
はな「ありがとうございました。」
梶原「いや~ あの『王子と乞食』のページ すばらしい出来栄えです。」
はな「はい。 本当に すてきなページに して頂きました。」
平祐「英治は あのページ えらく入れ込んでましたよ。」
郁弥「次号の安東さんの翻訳 兄が楽しみにしてますから。」
梶原「安東君?」
はな「はい。 あ… ご期待に沿えるように 頑張ります。」
病院
廊下
英治「こんにちは。」
看護婦「こんにちは。 今日は 奥様 気分がすぐれないから 帰ってほしいと。」
英治「あ… 大丈夫なんですか?」
看護婦「心配なさるほどでは ないですけどね。」
英治「そうですか…。 では 申し訳ありませんが これ 着替えなので 渡して頂けますか。」
看護婦「はい。」
英治「よろしくお願いします。」
病室
看護婦「本当によかったんですか? ご主人 随分 心配なさってましたよ。」
香澄「いいんです。 ありがとうございました。」
看護婦「お着換え しまっておきますね。 毎日のように お見舞いにいらして 優しいご主人ですね。」
香澄「ええ。 優しいんです。 …優しすぎるの。」
聡文堂
須藤「(ため息) 安東君 どう?」
はな「まだ かかりそうです。」
須藤「今日 うち 結婚記念日なんだよな。」
はな「あっ じゃあ 奥様 おうちでお待ちでしょうから あとは 任せて下さい!」
須藤「明日の朝一番に尾崎先生のとこ 持ってくんだけど 大丈夫?」
はな「はい。」
須藤「じゃあ 悪いけど お先! 失礼します。」
はな「ごきげんよう。」
(雷鳴と雨の音)
回想
英治「うわっ!」
はな「てっ! あっ…。」
回想終了
梶原「安東君。」
はな「編集長…。」
梶原「英治君と何があったか 知らないが そういう時こそ 仕事を頑張りなさい。 仕事は 裏切らないよ。 『にじいろ』の次号に向けて また頑張ってくれって事だ。 期待してるぞ。」
はな「もちろん 頑張ります。」
梶原「じゃあ お先に。」
はな「お疲れさまでした。 ごきげんよう。」
(ドアが閉まる音)
<降りやまない雨は ない。 はなの心に降る雨も いつかは やむのでしょうか。 ごきげんよう。 さようなら。>