ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「花子とアン」第83回「ゆれる思い」【第14週】

あらすじ

失恋のあげく仕事でも失敗続きのはな(吉高由里子)は、梶原(藤本隆宏)にしばらく休むよう告げられ、甲府へ帰ることに。吉平(伊原剛志)とふじ(室井滋)は突然帰ってきたはなに驚き、はなは新しい雑誌が完成したからお休みをもらったとうそをつく。しかし肝心の雑誌を「忘れてきた」と言うはなに、ふじは様子がおかしいと感じる。やがて、リン(松本明子)から事情を聞いた朝市(窪田正孝)が『にじいろ』を手にやって来る…。

83ネタバレ

聡文堂

執務室

梶原「しばらく 会社に出てこなくていい。 そんな抜け殻みたいなやつは うちには いらない。」

廊下

梶原「安東。 忘れ物だ。」

かよ宅

居間

かよ「お姉やん 甲府に帰れし。 おかあの ほうとう食えば きっと元気になるさ。」

<失恋のあげく 仕事でも失敗続きの はなは 甲府に帰る事にしました。>

安東家

玄関

はな「ただいま。 あれ…。 2人とも 畑行ったずらか…。」

居間

はな「おじぃやん ただいま。 ごめんなさい。 おら 夢追っかけるために 東京に行ったのに 好きになっちゃいけん人 好きになって… ほの上 仕事では 失敗ばっかりで みんなに迷惑かけて… かよにも心配かけて…。 ほんな自分が情けなくなって 頭冷やしに帰ってきました。 …なんて とてもじゃねえけんど おとうと おかあには 言えんなあ。」

周造「そうさなあ…。」

はな「てっ!?」

<今 おじぃやんの声が… 空耳でしょうか?>

ふじ「え~? ブドウ酒造りてえだと?」

吉平「ほうだ。 日本一のブドウ酒を造りてえ!」

ふじ「あんた また とんでもねえこん 言いだして…。」

リン「婿殿は もう 百姓に嫌気がさしただけ?」

吉平「このまんま 百姓だけ やってても 何にも変わらん。 ブドウ酒は 今に 甲州の名を 日本中に広める事業になるだ。」

リン「ほんな調子のいいこん言って! ふじちゃん。 ほら話に乗っちゃいけんよ。」

吉平「リンさんが口ょう挟むと 余計に もめるから 黙っててくれちゃ。」

リン「ふん! これが黙っていられるけ!」

ふじ「あんた 地道に おらと百姓やるって 仏壇の前で お父やんに誓ったこん もう忘れただけ!」

吉平「百姓をやめるなんて 言っちゃあいん。 百姓も夢を持たんきゃ駄目じゃん。 百姓 ビー アンビシャスずら!」

リン「な…。 はなちゃん?」

ふじ「てっ はな!」

はな「おかあ おばさん ただいま。」

吉平「てっ! はな!」

はな「グッド アフタヌーン。 おとう!」

吉平「おお… グッド アフタヌーン…。」

ふじ「いきなり帰ってくるなんて びっくりするじゃん。」

吉平「出版社は どうしただ? こんなとこにいて大丈夫なのけ?」

はな「うん! あ… 新しい雑誌が 出来上がって 一息つけたから お休み もらっただよ! おとうと おかあの顔 見たくて。」

吉平「ほうか。 早く見してくれちゃ。 ほの雑誌。」

リン「ああ。」

はな「…ごめん。 忘れた。」

吉平「え~? 忘れた?」

はな「慌てて汽車に飛び乗ったから つい カバンに入れるのを 忘れちまって…。」

ふじ「はな…。」

はな「アハハ…。」

吉平「何でえ。 はなの作った新しい雑誌 読みたかったじゃんな。」

居間

朝市「こんにちは!」

吉平「おお 朝市!」

はな「あっ 朝市。」

朝市「はな 久しぶり!」

はな「うん。」

朝市「おかあから聞いて 持ってきただ。 おじさん。 はなの作った新しい雑誌です。」

吉平「おお。」

朝市「学校で 校長先生や生徒らと読んだだよ。 はなの翻訳した『王子と乞食』 ものすっごく面白えですよ。」

吉平「てっ! はなが翻訳しただけ!」

ふじ「後で おらにも読んでくりょう。」

朝市「うん!」

はな「朝市 わざわざ ありがとう。」

朝市「はな。 こんな大事なもん忘れるなんて はな どうかしてるじゃん!」

はな「ほうだね…。」

朝市「いつまで いるでえ?」

はな「…しばらく いるつもり。」

朝市「ほうけ。 ほんなに仕事休んで大丈夫け?」

はな「うん…。 翻訳の仕事 持ってきたから。」

ふじ「朝市も ほうとう食ってくけ?」

朝市「本 届けに来ただけですから。 ほれじゃあ また。」

ふじ「さあ ほうとう出来たよ! た~んと食えし! ほら。」

はな「うん。」

村岡印刷

梶原「『にじいろ』 おかげさまで評判もよくて 次の号の問い合わせも たくさん入ってます。」

平祐「それは よかった。 英治が聞いたら喜びます。」

郁弥「兄 もうすぐ帰ってきますから。」

梶原「じゃあ 待たせてもらってもいいですか?」

平祐「ええ。」

梶原「一杯やろうと思って。 ハハハハハ。」

郁弥「もちろんです。」

梶原「英治君 奥さんの病院?」

郁弥「はあ…。」

平祐「実は 英治は離婚したんです。」

梶原「離婚?」

平祐「嫁の方から 別れてほしいと言ってきまして 英治は 最後まで納得しませんでしたが 嫁の意志が固く 先方の親とも話し合って 区切りをつけました。」

梶原「そうでしたか…。」

平祐「ところが あいつは 夫婦でなくなった今も 病室に通い続けています。」

郁弥「当然だよ。 義姉さんは 兄さんのためを思って 別れたんだから。」

平祐「郁弥。」

(ドアを開く音)

英治「ただいま。 あ… 梶原さん。」

梶原「やあ 待ってたんだよ。」

平祐「梶原さん。 今夜は ゆっくり 息子の愚痴でも 聞いてやって下さい。」

安東家

居間

吉平「『ロンドンの市中にいる。 これだけの事は分かっていたが それ以上は 何も分からずに ただ むやみに歩いていった。 行くにつれて 家は 次第に少なくなり 往来の人の数も減ってきた。 続く』。 第1話は ここまでじゃ。」

ふじ「はあ~ 面白かった。 はな 頑張ったじゃんね。」

吉平「早く 続きが読みてえなあ。」

ふじ「うん。」

はな「ほんな すぐには 翻訳できないよ。」

吉平「おお この挿絵も美しいな。」

ふじ「はあ~ いい絵だねえ。 見た事もない景色だに ず~っと見ていたくなるね。」

吉平「はなの訳した言葉に ぴったりじゃ。」

ふじ「うん。」

はな「ありがとう。」

村岡印刷

梶原「もう一杯 どうだ?」

英治「あっ 頂きます。」

郁弥「僕は もう結構。 2人とも強いな…。 ちょっと涼んできます。 はあ…。」

梶原「いろいろ大変だったみたいだな。」

英治「はい。」

梶原「俺も一度 結婚に失敗してる。 実は 結婚する前 愛していた女性がいたんだ。 だが 親の勧めるまま 別な人と一緒になった。 でも俺は 妻を幸せにしてやる事は できなかった。」

梶原「別れる時 彼女に言われた言葉が 今も耳に残っててね。 『結婚しても 私は ずっと寂しかった』。 そう言われたんだ。 俺と一緒にいると 一人でいる時より 孤独を感じたそうだ。」

英治「香澄も… そうだったのかもしれません。 僕は 2人の女性を 傷つけてしまいました。」

梶原「安東君は 甲府の実家に帰した。 ここんとこ ずっと うわの空だったからね。」

英治「申し訳ありません。」

梶原「どんな道を選ぶかは 君次第だ。 だが 後悔だけは するな。」

安東家

リン「はなちゃんが いきなり帰ってきた原因は 男じゃねえだけ?」

ふじ「えっ?」

リン「東京で悪い男にでも 引っ掛かったずら。」

吉平「なにょう言うだ! はなは ほんなバカな娘じゃねえ。」

リン「い~やいやいや ああいう賢い子に限って コロッと男にだまされるだよ。」

吉平「バカな事言うじゃねえ。」

ふじ「あんた。」

吉平「てっ… はな。」

はな「何だか 気が散って 仕事にならんから 教会の本の部屋に行ってくる。」

ふじ「うん 行ってこうし。 気ぃ付けて。」

はな「行ってきます。」

リン「やっぱり ありゃあ 男に裏切られただよ。」

吉平「はなに限って ありえねえ!」

ふじ「2人とも ええ加減にしろし! (ため息)」

教会

図書室

(雨の音)

はな「今度こそ…。 今度こそ 忘れてやらあ!」

朝市「はな! なんて事するでえ!」

<ごきげんよう。 さようなら。>

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