あらすじ
優子(新山千春)は美大受験日を翌々日に控え、ついに糸子(尾野真千子)にどうすればよいかと泣きつくが、糸子は突き放す。千代(麻生祐未)が、はからってこっそり受験に送りだし、糸子は内心ほっとする。実は気にしていた直子(川崎亜沙美)も同様だった。ところが優子はその足で北村(ほっしゃん。)を訪ね、自分は画家になりたいのではなく糸子に認めてほしいのだと打ち明ける。結局、優子は大阪の洋裁専門学校に通うことに。
100回ネタバレ
アメリカ商会
木之元「そら わしは 断然 江利チエミやのう。」
直子「嘘や。 何で? ひばりちゃんやろ。」
木之元「えっ 直ちゃん ひばり派け?」
直子「そらそうや。 ごっつ歌うまいやん。」
木之元「そら ひばりは うまいけど 江利チエミは 曲がええ。」
志郎「僕は 雪村いづみやな。」
木之元「おう! いづみも ええな。」
直子「何で? ひばりちゃんのが 断然 すごいやん。 ♬『東京キッド』…とかやで。」
3人♬『いきで おしゃれで ほがらかで』
木之元「はい!」
3人♬『右のポッケにゃ 夢がある』
木之元「はい!」
3人♬『左のポッケちゃ チューインガム 空を見たけりゃ』
志郎「おっ 優子ちゃん お帰り!」
木之元「お おう! 今日 卒業式やったんけ?」
優子「うん。」
直子「うちも 来月 中学卒業やで。 聡子も 小学校卒業やしな!」
木之元「どや? お母ちゃん 美大 受けんの 許してくれたけ?」
(その場を立ち去る優子)
木之元「あれ まあ…。」
志郎「かわいそうに。」
直子「どこが かわいそうや?」
木之元「あ?」
直子「引っ掛かった あかんで おっちゃん。 あないしてな しみったれた顔さえ 見したら ちやほやしてもらえるて 思てんやさかい。」
木之元「せやけど かわいそうやないけ。 あんなけ 美大 行きたいちゅうて 勉強 頑張ってたのにやなあ。」
直子「甘ったれなんや。 本気で画家になる気もないくせに。 お姉ちゃんは おじいちゃんに かわいがられ過ぎて あんな アホになったんや。 うちは 誰にも かわいがられへん かったさかい 賢うなった。」
木之元「善ちゃんのせいや。」
小原家
オハラ洋装店
(糸子のため息)
<優子が受けたがってた 美大の受験日は あさってでした あ~ とっとと 受けに行かせちゃった方が どんだけ 気ぃ楽か しらん。 けど… けど あかん。 ここは 辛抱のしどころや>
糸子「見た? なあ。 これ 見た?」
(糸子の笑い声)
居間
聡子「お母ちゃん犬が その子犬に 餌 分けちゃってんのにな 正夫君が その餌 取ろうとしてん。 せやから お母ちゃんが 正夫君の手ぇ がぶって!」
千代「かんだん?」
聡子「うん。 でも 本気で かんだんと違うてな 嘘気で かんでん。 せやけど 正夫君 どうもなってへんのに ごっつい泣いちゃったん。」
千代「怖かったんやなあ。」
聡子「でな 正夫君 悔しいからって言ってな そのお母ちゃん犬に 落書きしようとしてん。 せやから また お母ちゃん犬 怒って がぶっ!」
2階 寝室
(時計の音)
オハラ洋装店
(ミシンの音)
優子「お母ちゃん。」
糸子「何や?」
優子「うちは どうしたらええん?」
糸子「はあ?」
優子「どうしたらええんか うち もう分かれへん!」
糸子「何や? それ。 あんたな 試験の日ぃ あさってやろ?」
優子「もう 明日や!」
糸子「『どないしたらええん?』て あんた この期に及んで お母ちゃんに聞く事 ちゃうやろ。」
優子「せやけど うち もう ほんまに分からへんやし! 美大に行きたて あんだけ一生懸命 勉強してきたのに 急に『受けたら あかん』言われて 一体 うちは どないしたらええんよ?!」
糸子「甘えな! 自分が どないしたいかやろ? ほんなもん お母ちゃんの知った事 ちゃうわ! 自分で考え!」
(ミシンの音)
2階 寝室
(ふすまの開く音)
優子「どうしたん?」
千代「行っちょいで。」
優子「え?」
千代「東京。 試験 受けちょいで。 受けんかったら 悔いが残るやろ? お母ちゃんには おばあちゃんが 言うといてあげるよって。 お握り こさえたよってな お弁当に持っていき。 うん。」
優子「うん。」
台所
直子「えっ! ほな 行かしたん? おばあちゃん。」
千代「ふ~ん。」
直子「はあ… 何や。」
千代「はれ?」
直子「え?」
千代「何や あんたも ホッとしたんか? 姉ちゃん 試験 受けられて。」
直子「はあ? ホッとなんか してへんよ!」
千代「いや~ フフフッ。」
直子「しょうもなあて 思ただけや!」
<いや~ 正直 うちは ホッとしてました。 万が一 受かってしもたら また そっから ひともめせん ならんのは 見えてるけど まあ そら そん時や。 はあ~あ。 よかった よかった>
泉州繊維商業組合
三浦「ほんまかいな もう。 何で この年になって わし これ そんなとこまで 出向かな いかんのやなあ…。 一体 いつになったら 隠居させてくれんのや!」
北村「ほお~ 組合長やったら わい いつでも引き継ぎまっせ!」
三浦「アホか。 お前に 務まるかい!」
北村「しゃあないすよ。」
「お待ち下さい。 北村さん。」
北村「あ?」
「事務所の吉田さんです。」
北村「おう 吉田。 何や? おう わいや。 どないした? …うん。 小原優子て… 小原んとこの娘け?」
三浦「お… 何や?」
北村「ちょっ 待てよ。 何かね 今 わいんとこの事務所に 小原んとこの娘が 来ちゃある ちゅうて。」
北村「おうおう ほれほれ。 未成年には ジュースや。 おっちゃん お酒や。」
優子「おおきに。」
北村「よっしゃ! ほな まず 乾杯しよか の! え~ 無事 高校卒業。 なっ おめでとう。」
優子「おおきに おっちゃん。」
北村「うん。 食えよ 食え! ほら 一日 大阪駅で ボケ~ッとしちゃあったら 腹も減っちゃあるやろ。 ここの寿司 ごっつ うまいど! ほんで… どないしたんよ? 何で 東京 行けへんかってん? 明日 試験やろ?」
優子「お母ちゃんが『受けたらあかん』て。」
北村「はあ~…。 優子よ。 お前のお母ちゃんはな 別に お前が 美大 行くちゅう事に 反対してん ちゃうんちゃうけ?」
優子「分かってる。 うちが 本気で画家になるちゅう 覚悟 無いんが 許されへんやと思う。」
北村「ほな 本気 見せちゃれよ。」
優子「けどな おっちゃん。」
北村「うん?」
優子「うち お母ちゃんに言われて 初めて分かったんやけどな うち やっぱり 本気ちゃうんや。 昔から うち 絵ぇさえ描いちゃあったら お母ちゃんに 褒めてもらえたんやし。 戦争中のな なあんも物がない時に お母ちゃんが ごっつい立派な色鉛筆を うちに 買うてきてくれた事があってん。『あんたは 絵が上手やさかい きれえなもんを ようさん描いて みんなを喜ばしたり』って。 うちな どんどん描いて 部屋に貼ってん。 美大に行ったら… お母ちゃんに また褒めて もらえると思てたんやけど…。」
北村「ほらのう… あのおかあちゃんは ほれだけでは 褒めてくれへんやろのう。 そんなん 褒めてほしいんやったらよ『洋裁屋 継いじゃるわ!』ちゅうちゃったら ええねん。」
優子「せやから それは 嫌や。」
北村「何でよ? それ言うたら あの 鬼のおかんも ちっとは褒めてくれるど。『あんた 親孝行やな!』言うてよ。」
優子「うちは 親孝行なんか したい訳ちゃう。」
北村「ああ?」
優子「そんなんやのうて 認めてほしいんや。 もっと本気で うちの事を。」
北村「面倒くさいのう お前ら! 何や もう 飲め 飲… 未成年か。 面倒くさいのう。 もう 食え!」
優子「はあ…。」
北村「食え 食え いっぱい。」
優子「ふ~ん… どうしたら 認めてもらえるんかのう?」
小原家
玄関
千代「まあまあ お世話になりました。」
北村「いやいや!」
<その夜遅う 優子は 北村に送られて帰ってきました>
北村「い~え わいが 引き止めたさかい ほんま すんません こっちこそ。」
昌子「おおきに。」
北村「い~え ほんなの。」
居間
北村「ほんでよう あの… わい もんでもらっちゃあったらよ グズグズ聞こえて 泣き出しちゃってん。」
昌子「ほんまですか?」
北村「おかあちゃん おかあちゃん! 聞いてる? おかあちゃん。」
千代「あ~ そら そうですわ。」
北村「そうやろ? 泣くの おかしいな 言うて。」
昌子「まあまあ 一杯 飲んで下さい。」
北村「普通 泣くか そんなもん。」
昌子「そりゃあ ちょっとおかしいですね。」
北村「びびってもうてんや もう。」
(ミシンの音)
<結局 その年の4月 優子は 大阪の洋裁専門学校に 通い始めました>
居間
♬~(ラジオ)
糸子「はい。」
聡子「うわ ありがとう!や~! うわ~ うれしいな!」
直子「これ うちに買うてくれたん? お母ちゃん。」
糸子「うん 卒業祝や。」
直子「おおきに! うわ~! わあ~!」
2階 寝室
♬~(ラジオ)
優子「うわ~ 何? 何やろ~? うわあ~ こんな上等なん! 高かったやろ~?」
糸子「まあな。」
優子「そうやろ~。」
糸子「けど 一つ ええのん 買うといたら どこにでも使えるよって。」
優子「ほんま おおきに~! うわ~ これ 本物?」
糸子「本物やん。」
優子「本物なん?」
糸子「本物や。」
優子「これは すごいわ~。 ほんま ありがとう お母ちゃん。」