あらすじ
昭和34年。アイビールックが流行し北村(ほっしゃん。)は早速、糸子(尾野真千子)に見せびらかすが相手にされない。優子(新山千春)が卒業し、店を継ぐために戻ってくる。糸子は、優子に恋人の悟(内田滋)を紹介される。しかし仕事を紹介してほしいと頼られ、突き放して2人を見守ることに。優子は店での修業を始める。一方直子(川崎亜沙美)は、独り下宿で風邪をひいて寝込む。そこに思いがけず千代(麻生祐未)が現れる。
108回ネタバレ
小原家
昭和34年
<最近『令嬢世界の』男版『紳士世界』ちゅうんが創刊されました>
オハラ洋装店
北村「どや? これがアイビーや。」
糸子「ちょっ ちょっ 恵さん。」
北村「おい!」
松田「は?」
糸子「どう思う? これ。」
松田「はあ~。 このごろは 男の子でも きれいな子 多いねえ。」
糸子「いや ちゃうねん 服見て 服。」
松田「服? ああ。 きれいな子は 何 着ても似合うねえ。」
糸子「いや 似合うてるかもしらんけどな ええんか? こんなんで 男が。」
北村「はあ?」
松田「何が?」
糸子「いや 男ちゅうんは もっと こう ぴしゃあっとしてんと あかんやろ? だんじり 曳かれへんやろ こんなんで!」
北村「古いのう おばはんはよう!」
糸子「何がや!」
北村「アイビー!」
糸子「あ?」
北村「アイビーや! これからは そういう時代や。 見ちゃあってみ もうちょっとしたら その辺の男も みんな アイビールックになっちゃるさかい。」
<北村が言うには 既製品の世界で 急成長してきてるメーカーがあって そこが とにかく アイビーを押してるんやそうです>
北村「おしゃれしてええやんけ。 生まれてきたんやから おしゃれしてええやんけ。 おい あくび? おい! 聞いちゃったけ? 今の話!」
糸子「聞いてる 聞いてる。」
玄関前
美代「あんた いよいよ お母ちゃんの店 手伝いに帰って来てんて?」
優子「うん!」
節子「偉いなあ!」
優子「やだ もう 娘として当然の事よ!」
美代「いやいや さすがやで なあ!」
節子「ああ~!」
北村「優子! おい! 帰って来ちゃあったんか!」
優子「北村のおじさ~ん!」
北村「お~!」
<優子が 東京の学校を卒業して いよいよ岸和田へ帰って来ました>
北村「ええ服 着てよ これまた!」
優子「私が作ったのよ!」
北村「そうけえ!」
居間
優子「へえ~! 次郎ちゃんも 結婚するの?」
八重子「そうやねん おかげさんでな。」
糸子「お嫁さん 別嬪らしいで。」
北村「え~! どんな子よ!」
糸子「写真 持ってきてへんの?」
八重子「ああ 忘れたわ! 持ってきちゃあったら よかったなあ。」
北村「持ってこなよう それ。 別嬪 見たかったな!」
優子「お母ちゃん そういえばね 来週辺り 東京から一度 うちに遊びに来たいって言ってる 友達がいるんだけど。 いい?」
千代「ええ~!」
糸子「うん…。」
優子「はい。」
千代「フフフ! まあ~!」
北村「これ えらい男前やしよ!」
昌子「見せて! ごっつい男前やんか!」
<この おばちゃん4人は もう しっかり 意味 分かってたそうです>
北村「アイビールックちゅうのが ええのう! これ 見込みあるど!」
<北村でさえ そうゆうこっちゃろ 思てたそうです>
糸子「せやけど ええんか?」
優子「え?」
糸子「1人だけで来んかて ようけで来ても。 うち 布団あるんやで? 直子かて こないだ 3人も男の子 連れて来よったしな。」
優子「えっ?」
糸子「え?」
<分かってへんかったんは うちだけでした>
八重子「男前や ええなあ!」
玉枝「ええ男やな!」
優子「フフフ!」
後日
糸子「結婚したいちゅう事ですか?」
悟「はい。」
聡子「結婚! 結婚! 結婚!」
優子「これ!」
悟「何なら 僕が岸和田に来ても いいかなって思うんです。 優子さんが このお店を継ぐ事は 僕も賛成ですし 婿入りも まあ 親に頼めば 許してくれると思うんです。」
糸子「はあ。 せやけど お仕事は どうしはるつもりですか?」
聡子「そう それなんですが。 何か お母さんのツテで 紹介してもらえないでしょうか? 大阪をよく知らない僕が 自分で 探すのは 大変だと思うんです。」
優子「大丈夫! うちのお母さん 顔が広いから ツテなんか いくらでもあるわよ。 ねえ。」
糸子「いや ないで ほんなもん。」
優子「え?」
悟「は?」
糸子「ちゅうか まあ あるとしても ないと思といて下さい。」
悟「はあ。」
糸子「男のお宅が やっと成人して いよいよ 社会出てってたろか ちゅう時に 嫁の親のツテなんぞ あてにしたら あきません。 どうぞ お宅が ほんまに勤めたい思う会社を 自分で探して見つけて下さい。 そら 最初は いろいろ苦労も あるかと思います。 けど そうゆう事こそ 後の財産に なるちゅうもんやのに 先回って 取ってまうようなまね うちは ようしませんわ。」
井戸
優子「ごめんね。」
悟「気にするなよ。」
優子「うちのお母さんたら 本当に頭が固いんだから。」
悟「いいって。」
優子「泊まっていかないの?」
悟「うん。 やっぱり ホテルを取ったんだ。 僕 人んちに泊まるの 苦手だからさ。 また すぐ 手紙書くよ。」
優子「うん。 ねえ… 好きよ。」
悟「僕だってさ。」
<そら 好きなんやったら 結婚したらええ。 それも縁や。 なんぼ気に入らんかて 縁ちゅうんは 横から他人が ぶった切って ええもんちゃう。 よかれあしかれ 本人が たどれるとこまで たどってるうちに いずれ 答えは出てくる。 ほんで ええんや>
小原家
オハラ洋装店
(2階へ乱暴に上がる足音)
(ため息)
糸子「こら! 降りてこんかいな! 仕事や! あんたな 気に入らん事あるたんびに 2階行って べそかいちゃあったら 商売なれへんやで!」
優子「分かってるわよ!」
客「こんにちは~!」
優子「いらっしゃいませ!」
客「へ? な 何や! いらっしゃいませ。 ハハハ! いらっしゃいませやて!」
糸子「どうも いらっしゃい!」
客「やあ。」
糸子「すんません。 これ うちの娘ですわ。」
客「はあ! ほうかいな。」
糸子「東京帰りやよって ちょっと けったいな しゃべり方しますんや。」
客「びっくりしたわ! 別の店に入ったかと思たわ。 ハハハ!」
糸子「今日 どないしましょう?」
客「今日な 夏の服 お願いしよう思て。」
糸子「夏服 ほう。」
<優子は 結局 卒業の時も 首席やったそうです。 講師として学校に残れへんか ちゅう話もあったのを こないして約束どおり 岸和田へ帰って来てくれました>
客「肥えたかもしれんねん。」
糸子「嘘~!」
<焦らんでええけどな 勉強やで>
松田「優ちゃん。 これ ちょっと見てくれるかな。」
優子「はい。」
松田「これな 番号順に並んでんけどな。」
東京・小原宅
(せきこみ)
(ノック)
源太「俺! 入るよ!」
(ドアの開く音)
千代「すんません! 直子!」
直子「おばあちゃ~ん!」
千代「あらまあ! あんた 大丈夫か? あ~!」
(泣き声)
直子「大丈夫ちゃう~!」
千代「熱は どない? せきは?」
直子「おばあちゃん!」
千代「よしよしよし! もう 大丈夫や。 なあ しんどかったなあ。」
(泣き声)
千代「味 薄い事ないか?」
源太「いえ うめえです!」
千代「ほうか!」
源太「はい。」
千代「そら よかった。 あんた 無理して食べんで ええんやで。」
直子「無理なんかしてへん。 おいしいさかい。」
千代「うん。 あれ? ここは 電話ちゅうたら どこから かけれるんや?」
源太「あ 大家さんとこにありますよ。」
千代「ほうか。 ほな あとで お母ちゃんに 電話しとかなな。 みんなで そら心配したんやで! 1週間も熱が下がらんて どうゆうこっちゃ ちゅうて。」
直子「ごめんな。 岸和田から遠かったやろ。」
千代「そら 遠いけど 来てよかったわ。 あんたの顔見れて ほっとした。」
千代「はあ この部屋 神戸箱みたいやなあ。」
直子「神戸箱て?」
千代「そうゆう箱がな 昔 うちに あったんや。」
直子「どんな箱?」
千代「神戸の ひいおばあちゃんがな 糸子らに そら すてきなもんを ようさん贈ってきてくれて。 生きてたら そら あんたらにも いろいろ贈ってくれた事やろなあ。 とにかく 人に物 贈るんが 大好きな人やったんや。」
直子「惜しい事した。」
千代「ほんまやな。 フフフ!」
直子「けど うちは。」
千代「ん?」
直子「おばあちゃんがおったら 十分や。」
千代「ほうか?」
直子「うん。」
千代「うれしいなあ。」
直子「おばあちゃん。」
千代「ん?」
直子「長生きしてな。」
千代「ふん。 任しとき。」