あらすじ
正一(田中隆三)は、めい・糸子(尾野真千子)がパッチ屋を手伝っていることを知り、善作(小林薫)と千代(麻生祐未)を問い詰める。正一が帰った後、糸子は女学校を辞めてパッチ屋で働きたいと打ち明けるが、善作はどなりつけ、殴る蹴るの大暴れ。数日後、善作は神宮司(石田太郎)の娘の衣装を買い付けに行くが、ツケがきかず買えずにいた。糸子は、働きたいと懇願し続けるが、仕事が行き詰まっている善作は聞く耳を持たず…。
10回ネタバレ
枡谷パッチ店
岡村「うまい うまい うまい。」
糸子「うわ… わ あ~ あ~。 縫えた! うち ミシン 縫えた。」
小原家
玄関前
静子「何で パッチ屋なんか 手伝うん? お父ちゃんに 怒られんで。」
糸子「うちは 何も悪い事 してへんで!」
小原呉服店
ハル「学費 払えなんだら やめささな しゃあないねんで。」
善作「じゃかましい! 分かっとるわい! 分かっとるわい そのくらい!」
神宮司家
座敷
神宮司「あんたとこかて 娘4人も いてるやろ?」
善作「おおきに… おおきに!」
小原家
小原呉服店
<お父ちゃんは このおっちゃんの事が苦手です。 そやけど おじいちゃんの事は もっと苦手です。 お父ちゃんは 昔 松坂の家に 出入りしていた 呉服屋の番頭やったそうです。 娘の嫁入り道具の着物を 持ってきたはずの若い番頭が 娘を連れて 逃げてもたんやさかい おじいちゃんが お父ちゃんを 嫌うんも 無理はありません>
千代「あの~。」
正一「うん?」
千代「『お金 もうちょっと待って下さい』て お父様に言うといて。」
正一「ハハハ… 親父は 金の事なんか 気にしてない。 お前と子供らが 心配なだけや。 元気なんか?」
千代「うん…。」
正一「不自由してないんやな?」
千代「はい。 何も 不自由なんか。」
正一「それやったら そう言うとくわ。」
千代「はい。」
町中
<おっちゃんは おじいちゃんに言われて うちらが 貧乏してへんか 病気してへんか ガリガリに痩せてへんか 泣いてへんか そういう事を 確かめに来てたんです。 ほんま このまま 何にも気付かんと あんじょう帰ってくれたら よかったんやけど…>
「知ってますんかいなあ?」
正一「ん?」
「小原のお嬢ちゃんの事。 えらい事になってまんねんでえ。」
正一「何?」
<この 要らん事しいな おっさんのおかげで…>
正一「おい! 降ろしてくれ。」
「へい!」
<おっちゃんは また 来た道を 引き返さんと あかんようになりました>
枡谷パッチ店
糸子「はい どうぞ。」
正一「糸子!」
小原家
小原呉服店
善作「帰りよった 帰りよったな。」
正一「善作君。 話がある。」
居間
正一「そしたら 糸子が あっこで働いとんのを あんたらは『知らんかった』言うんか?」
善作「はあ… 恥ずかしい話なんやけども。」
正一「おかしな話や。 女学校まで行かせてもうとう娘が 自分から あんな狭い店で 汚いおっさんに交じって 働きたがる… 信じられんなあ。 糸子。」
糸子「はい。」
正一「お前 嘘ついとんちゃうか?」
糸子「え?」
正一「お父ちゃんら かばうために 嘘ついとうやろ?」
糸子「ついてません。」
正一「ほんまは あんなとこで 働きとうない。 そやけど お父ちゃんの稼ぎだけでは 暮らしていかれへん。 お母ちゃんと妹らに 楽させたれんのは 自分だけや。 それで しょうがないから 働きに行っとう そうちゃうんか?」
千代「お兄様。」
正一「何や?」
千代「糸子は そない けなげな子やありません。」
正一「それもそやな。」
糸子「おっちゃん。 うち お金なんか もうてません。」
正一「何?」
糸子「あっこに 置いてもらう代わりに ちょこっと 手伝うてるだけなんです。」
正一「分からんなあ。 何で そない あの店に おりたいねん?」
糸子「ミシンが あるさかい。」
正一「ミシン?」
糸子「はい。」
夜
ハル「糸子。 あんた 今日は 皿 洗わへんのんか?」
糸子「今日は 頼むわ。 お父ちゃん。 バレてしもたさかい 言うんちゃうけど うち 枡谷パッチ店で働きたい。 女学校 やめさせて下さい!」
善作「何やと?!」
ハル「やめとき!」
糸子「頼みます! 働かせて下さい!」
善作「女学校 やめるてか! パッチ屋で 働くてか! ふざけるのも 大概にせい!」
糸子「ふざけてへん! ほんまに働きたいねん!」
善作「わしが どんだけ苦労して 女学校 行かしちゃってると 思てんじゃ?!」
糸子「分かってる! 分かってるけど うち どないしても…。」
ハル「やめとき ちゅうてんや!」
善作「離せ!」
糸子「頼みます!」
善作「黙れ! 二度と ほざくな! パッチ屋なんぞ 行ってみい! 金輪際 許さんぞ!」
泉川高等女学校
教室
「小原さん どないしたん?」
糸子「…ん?」
「うちの お芋 あげよかあ?」
糸子「ううん…。 やっぱし 頂戴。」
道中
糸子「泰蔵にいちゃん お帰り。」
泰蔵「おう。 どないしたんや?」
糸子「やられてしもた お父ちゃんに。」
泰蔵「ほうけ…。」
糸子「うん。」
泰蔵「だんじり 見るか?」
糸子「…ううん。 うちな…。 うちのだんじり 見つけてん。」
泰蔵「うん?」
糸子「ミシン ちゅうねんで。 うちは… うちのだんじりに 乗っちゃるねん 絶対。」
泰蔵「よっしゃ。」
糸子「うん。」
問屋
「これとな それから それもや それと さっきの大島もや。」
「へえ おおきに!」
「ハハハハハ…。」
「毎度。」
善作「おお 毎度。」
「お待たせして すんまへんな。 もう忙しゅうて。」
善作「景気の方は どないでっか?」
「どないもこないも 例の銀行の取り付け騒ぎ以来 わやだっせ。」
「婚礼支度ゆうたら あとは まあ… これでんなあ。」
善作「いやいやいや そやさかい こんな安物やのうて もっと上物を見せてんか。 ごっつい上得意の娘さんの 嫁入り支度なんや。 寝はな なんぼ張ったかて かめへん。」
「まあ お見せするのは かましまへんけどな こっから上のもんは 掛け売りできまへんで。」
善作「えっ? 掛け売りが でけへん?」
「ええ。」
善作「そらあ どういうこっちゃね?!」
「堪忍しとくなはれ。 せやさかい ほんまに 景気が わやゆう事でんねん。 例の金融恐慌のあおりで うっとこも ようけ踏み倒されましてな これまでのゆな のんきな商売はやってられんように なってまんのや。」
小原家
玄関前
「気ぃ付けてな~!」
木之元「おう 毎度 ハハハハ!」
善作「お前 何してんや?」
木之元「え? 見てのとおりや 店の改装や。」
善作「今度は 何屋やったかいな?」
木之元「えっ? 電気屋や。」
善作「電気?」
木之元「見ててみい ごっつい 繁盛させたるさかい。 もう大金持ちになってなあ 今度こそ 嫁もろうちゃんで~! アハハハ ハハハ!」
善作「ええな お前…。」
木之元「えっ 何がよ?」
善作「気楽で。」
木之元「気楽な事ないで! 金ない 嫁おらん 人生 真っ暗じょ。 アハハハ ハハハハハ!」
善作「うらやましなあ。 ほなな…。」
木之元「買うてやあ!」
小原呉服店
糸子「お父ちゃん 話 あんねん!」
善作「どけ!」
糸子「うち ええかげんな気持ちで 言うてんと ちゃうねん。 ほんまに パッチ屋で働きたいねん!」
善作「消えや!」
(割れる音)
ハル「何や? 何が割れたん?」
<怖かった… けど 言えました>
居間
<1回言えたら 2回言える>
糸子「お父ちゃん。 うちを 枡谷パッチ店で働かせて下さい!」
一同「あ~っ!」
ハル「やめとき。『やめとき』って 言ってんのや! これ!」
小原呉服店
<2回言えたら 3回言える>
善作「おい 今 あれ すんなよ。」
糸子「お父ちゃん うちを枡谷パッチ店で…。」
善作「じゃかあしい! 今 こちらと 大事な話をしてるんじゃ! 後にせえ 後に!」
廊下
糸子「うちは ほんまの本気やねん!」
善作「ええから『どけ!』ちゅうてんねん!」
糸子「うちは ほんまに働きたいねん!」
善作「『あかん!』ちゅうたらな あかんのじゃ!」
糸子「お父ちゃん! お父ちゃん!」
<けど まだまだ 先は長そうです>
玄関前
さよ「おとうちゃん。」
枡谷「ん?」
さよ「じいっと見たら あかんで。」
枡谷「うん。」
さよ「何食わん顔して ちらっと見るんやで。」
枡谷「分かった。 行くぞ。 ちらっ。」
さよ「おった? 糸ちゃん。」
枡谷「おらん。」
さよ「ほんまに? よう見たん?」
枡谷「あんまし 見えへんやし 店ん中 暗いよって。」
さよ「ほな もう1回 通ろか。」
枡谷「ちらっ。」
さよ「あかんわ。 今度は もうちょっと そば 通ろか。」
枡谷「あんまし近づいたら バレてまうぞ!」
さよ「バレたかて かめへんやん。 うちら 別に 糸ちゃん さらおうゆうん ちゃう。 元気な顔 見に来ただけ なんやさかい。」
枡谷「そやな。 よし!」
<そないして 親方と女将さんは 何回も何回も うちの前を通りました。 会いたいけど… 今は まだ あかんねん。 待っといてな。 うち 頑張るさかい>