ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第110回「あなたを守りたい」【第20週】

あらすじ

昭和34年、直子(川崎亜沙美)は若手デザイナーの登竜門・装麗賞を取る。優子(新山千春)は直子を祝福するが悔しさをこらえきれない。糸子(尾野真千子)は受賞を喜び、優子に対してはふだんどおりに振る舞う。北村(ほっしゃん。)が糸子がデザインした服が売れたと金を渡しに来る。時代遅れだったはずだと不思議に思う糸子。自分にはどうせ才能がないと店で、しょげている優子。ついに糸子は腹を立て母娘の大げんかが始まる。

110ネタバレ

小原家

オハラ洋装店

糸子「あっ!」

優子「あっ えっ?」

<優子が 店で 大ヘマをやらかして…>

玄関前

優子「すんませんでした。」

居間

昌子「そら そない一足飛びに 一人前には ならへんて。」

松田「みんな 失敗しながら ちょこっとずつ 上がっていくもんやよって。 な?」

<一人前への道は長い ちゅう事を 学んだはずの日に>

(電話の呼び鈴)

松田「はい もしもし オハラ洋装店でございます。」

<よりによって その電話がありました>

松田「あれ 直ちゃん どないしたん? えっ? ええ ど… どうゆう事?」

昌子「えっ 何?」

優子「直子が どないしたん?」

松田「何や 直ちゃんが ごっつい賞を取ったらしいわ。」

昌子「えっ? え 何?!」

松田「ほんで?」

昌子「賞って 何?!」

糸子「何や どないしてん?」

昌子「直ちゃん ごっつい賞 取ったて。」

糸子「賞? 何の賞?」

優子「装麗賞や。」

糸子「ん?」

優子「うちが 取られへんかったやつや。」

松田「はあ~ すごいで 直ちゃん! え~! すごいわ 一気に スターやんか! ホホホホ ホホホホ!」

<装麗賞ちゅうんは 若手デザイナーの登竜門で 直子は それを なんと 史上最年少で 受賞したちゅう事でした>

オハラ洋装店

八重子「いや~ なあ これ ほれ! 小原直子やて。 ごっついなあ! へえ~!」

昌子「どうぞ これ 持って帰って下さい。」

八重子「ほんまけ? いや おおきに! お客さんに見せな あかんな! 切り抜いて こう 壁に ポッと貼っとかな な!」

糸子「はれ 八重子さん 来ちゃあったん?」

八重子「糸ちゃん あんた 見せてもうたで。 これ ごっついやんか!」

糸子「何や ドラム缶みたいな服やろ? ほんま うちには さっぱり分かれへんわ。」

八重子「せやけど 直ちゃん どないしてんよ? こんなに なったら いろんなとこからな 声かかって 忙しい忙しい! みんな 直ちゃん 直ちゃんって なるんちゃうか…。」

糸子「そら かかってんで。 何せ うっとこにまで 新聞の取材やら 来たんやで。 若いお客さんがな『ここの店 直子さんの服は 買えるんですか?』ちゅうて 来るしなあ。 えらい騒ぎじょ。 なあ 昌ちゃん。 ええ? なあ! ほんま あん時 忙しかったわ。 ほんまに 取材 バンバン来てやで…。」

玄関前

「わ~ あ~!」

オハラ洋装店

(電話の呼び鈴)

優子「あ うち出ます。」

縫い子「はい すいません。」

優子「はい 小原洋装店です。 直子。 聞いたで… よかったな!」

直子『うん… おおきに』

優子「装麗賞 取れたんやったら もう 間違いないわ。 あんたは デザイナーとして大成する。」

直子『うん。』

優子「姉ちゃんは まあ この店を 地道に守っていくよって あんたは 東京で 思う存分 やれるとこまでやり。 あんたが 華々しく活躍すんのを うちは 岸和田から 見守らせてもらうわ。 なっ。」

直子『お母ちゃんに代わって。』

優子「うん。 お母ちゃん 直子や。」

糸子「うん…。 おおきに。 もしもし?」

直子『ちょっと お母ちゃん 何 あれ?』

糸子「はあ?」

直子『何で あんな ほうけてんよ? アホちゃうか?! うちが ちょっと 装麗賞 取ったくらいで あんな ふぬけた声で『おめでとう』とか ぬかしよって!』

糸子「何がや? 何の話や?」

直子『姉ちゃんや! お母ちゃんな 甘やかしたら あかんで?! あの根性なし どうせ 毎日 メソメソしてんやろ?! あんまし続くようやっ たらな 一発 蹴り飛ばして『アホか しゃっきりせえ!』ちゅうて 怒っちゃってや!』

糸子「何で うちが あんたに どやされな あかんねん!」

<せやけど まあ 直子に言われるまでもなく うちも ここで 変な気遣いは むしろ 毒やと思てました。 普通にしちゃあたら ええんや 普通に…>

北村「毎度やで~! よう 見たど 装麗賞! ごっついやんけ! これ 店のいっちゃん目立つとこに バ~ン 飾っちゃれ。 そやけど 笑たで。 あの けんかと 食う事しか能ない 思っちゃあった山猿が 装麗賞て。 こんなおもろい話 ないど~。 お~お~ お母様! お前も 鼻 高いやろ! 孝行者やど あいつ! いっちゃん 悪そうな顔しちゃあんのによ。 おう お前も 負けちゃあったら あかんど! こんなもん お前… すごいがな!」

優子「あ~っ!」

(泣き声)

北村「何や?」

珈琲店・太鼓

北村「悪い事してもうたよ…。」

糸子「いや せやけど かめへんて。」

北村「え?」

糸子「しゃあないやんか。 ここで 変に周りが 気ぃ遣うたとこで どうなるもんでもない。 あの子が 自分で乗り越えるしか ないんや。」

聡子「お母ちゃん。」

糸子「あん?」

聡子「それ 食べへんけ?」

糸子「いや 食べる。」

北村「あげる!」

聡子「おおきに!」

北村「はあ…。 せやけど まあ ちょうどよかったわ。 これでよ 何ぞ 買うちゃってくれ。」

糸子「何や?」

北村「まあまあ まあまあ。」

糸子「何や これ?」

北村「生地代や。」

糸子「生地代?」

北村「ほうよ! ほんまは 今日 来たんは それ 返しに来ちゃあったんや。」

糸子「ひょっとして あれけ? 去年 失敗した既製服の生地代け?」

北村「あれがよ 皆 売れたんや。」

糸子「売れた? どこに? 」

北村「わいが 本気 出したら こんなもん ちゅうこっちゃの」

糸子「どこに売れてん?!」

北村「それは 言われへんわい。」

糸子「は?」

北村「言うたら お前 また 横入りするやろが!」

糸子「するか!」

北村「もう いらん事 気にせんでええねん。 これで わいの損も埋まったよって めでたし めでたしや。 乾杯や! チ~ン。 いっぱい食えよ。 ほら もう むちゃくちゃ食えるど。 こんだけ あったらよ。 直しとけよ。」

小原家

オハラ洋装店

「こんにちは。」

優子「あ… いらっしゃい。」

「こないだは 娘が お世話かけましたなあ。」

優子「ああ~。」

「おかげさんで 娘 あの服 よう似合うてましたわ。 ほなさかい 今度は うちが 注文さしてもらおう 思いまして。」

優子「そうですか。 あ どうも。」

糸子「まあ こないだは ほんま すんませんでした。」

「いいえ。」

糸子「娘さん あれから どないです?」

「ええ おかげさんで つわりも だいぶ 楽なってえ。」

糸子「まあ~ そら よかった! まあ どうぞ どうぞ。 昌ちゃん! 昌ちゃん!」

昌子「はい。」

糸子「こないだの おなかの大きいお客さんの…。」

昌子「ああ~! あれから どないですか?」

糸子「ちょっと。」

昌子「それはそれは よかったです~。」

「お世話かけまして。」

昌子「いえいえ ま どうぞどうぞ。」

井戸

糸子「もう あんた 店なんか 出んでええ。 お客に あんな しみったれた 顔しか 見せられへんやったら 店なんか 出な。 商売の邪魔や。」

小原家

居間

司会者『冬蔵を襲名するにあたり 感慨も ひとしおかと思いますが 今のお気持ちは…』。

優子「恵さん?」

冬蔵『春太郎から冬蔵へ…』。

優子「何 さぼってんの?」

松田「さぼってへん。 先生が『ええ』言うてくれたんや。」

司会者『うまい事 おっしゃいますね』。

冬蔵『まあ 私 歌舞伎の時は 生真面目なんですが どうも こういうお話の時は』。

優子「あ 春太郎や。」

松田「もう 春太郎 ちゃうよ。」

優子「ん?」

松田「こないだ 中村冬蔵を襲名しはったんや。」

優子「へえ~。 うちな 小さい頃 よう おじいちゃんに 歌舞伎 見してもうたわ。 そのあとで お母ちゃんが 何や 怒ってはった。 何や知らん『春太郎が嫌いや』ちゅうてな。」

松田「シッ!」

司会者『ところで 多くの方が 冬蔵さんを 生っ粋の浪速っ子だと 思っていますよね』。

冬蔵『ええ。 ところが 私 岡山の出身なんでございますよ』。

司会者『あ そうですか』。

冬蔵『しかし 若い時は どうにか ご婦人にモテようと 浪速っ子のまねをしたり したもんでしてね』。

松田「ホホホホホホ…。」

優子「恵さん こんなん なってるわ。 アハハハハ 春太郎も 面白い。」

松田「ウフフフ 面白いなあ ほんまなあ。」

優子「ハハハハ!」

(戸の開く音)

糸子「あんた… 何してんや?」

優子「え?」

糸子「何してんや? そんなとこで。」

優子「え…。」

糸子「誰が テレビなんか見い ちゅうた? 店 出るなちゅうんはな 裏で テレビでも見とけちゅう意味 ちゃうんや!」

松田「先生 テレビは あの…。」

優子「ほな 何したら ええんよ?! どうせ うちには 直子ほどの才能もない! 店に出たかて 迷惑ばっかりかける! どないしようもない 役立たずの邪魔者や! テレビ見て 笑てる以外 やる事なんか ないやんか!」

松田「ああ!」

糸子「どの口が言うてんや? ああ! どの口が言うてんや?!」

松田「先生! やめて下さい 先生!」

糸子「このアホが! ひがむんも ええかげんにせえ! 東京の学校まで 行かさしてもうて 何不自由のう暮らさしてもうて!」

優子「ほっといてよ! どうせ うちは アホや! 役立たずや!」

糸子「原口先生が あんなけ あんたを 認めてくれちゃったんちゃうんけ。 お客さんが あんたのために また来てくれたん ちゃうんけ? それが 見えへん目ぇは どんなけ腐ってんや?!」

松田「先生!」

糸子「ああ 言うてみ?!」

優子「お母ちゃんに うちの気持ちなんか 分からへんねん!」

糸子「分かるか ほんなもん!」

昌子「先生 やめて下さい!」

松田「もう やめてよ! やめて下さいよ!」

<…ちゅう ちょっとした騒動が あったよって 何ぞ聞きつけた ご近所が 変な気ぃ回して 呼んだかと思いました>

オハラ洋装店

刑事「こんにちは。 岸和田警察の者です。」

昌子「は… はい。 ご苦労さんです。」

刑事「小原糸子さんは おられますか?」

糸子「はい… うちですけど。」

刑事「おととい 6月10日 北村達雄を 詐欺で逮捕しました。」

糸子「え?」

刑事「その件で お話を。」

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