ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第112回「あなたを守りたい」【第20週】

あらすじ

北村(ほっしゃん。)は糸子(尾野真千子)の服のタグをディオールに付け替えて売りさばき、詐欺罪で逮捕されたのだった。その騒ぎの中、直子(川崎亜沙美)が優子(新山千春)をしった激励する電話をしてくるが、優子には伝わらなかった。三浦(近藤正臣)から北村の話を聞き、がっくりする糸子。そこに優子が心を改めて店に出ると言い始める。数か月後、北村も招き優子の結婚式が行われた。直子は奇抜に装うが着替えさせられる。

112ネタバレ

小原家

居間

<昭和35年 イブ・サンローランは 言うたそうです。『極度にシンプルにする事こそ 明日へのシルエット』>

糸子「ちょっと 聡子。」

聡子「うん?」

糸子「シンプルて 何や?」

聡子「『シンプル』?」

糸子「うん。」

聡子「さあ…。」

糸子「シルエットは?」

聡子「もう 分からへん。」

糸子「英語の辞書 置いとかな あかんなあ。 あんた 靴下 穴 開いてんで。」

聡子「え?」

糸子「ちゃんと縫うときや。」

聡子「は~い。」

糸子「よいしょ!」

台所

糸子「ごちそうさん。」

千代「ちょっと あんた。」

糸子「うん?」

千代「たまには 聡子の事も 褒めたりや。」

糸子「はあ?」

千代「いじらしいやんか~。 あないして あんたの膝に 足なんか載っけて。」

糸子「何が?」

千代「あ~。『この足で うちも テニス 頑張ってるんやで』て あの子は あんたに言いたいんや。」

糸子「はあ…。」

千代「気付いたらんかいな。 たった一人の母親やのに。」

糸子「うん…。」

居間

<そういえば 聡子が テニスで 秩父宮賞とかゆうんを もろたそうです>

(鈴の音)

聡子「どないしたん? 何で そんなん するん?」

糸子「そら 大事な聡子が 頑張って もうてきた 大事な賞状やさかいなあ。 聡子は 偉い子ぉです。 ありがたい事です。 なまんだぶ なまんだぶ。」

泉州繊維商業組合

「これが ええな。」

糸子「ええわな。」

「これも ええ。」

「お宅みたいな若い人は どうなん? このごろのパリのモードやら 分かる?」

「はい! すごい面白いと思います。」

糸子「『あんなん 着たいなあ』て思うん?」

「そうですね。」

「せやけど『こんなん似合わへんの ちゃうか』とかは 思えへんの?」

「ほんな事 あんまし考えません。 とにかく 着たいんです。『自分らの 新しい時代の服やで』ちゅうて 思えるんですわ。」

一同「はあ~!」

北村「毎度!」

「あっ 北村さん 来た!」

「お待ちしてました! すんません。」

北村「忙しいのによ。」

「ほんまやね 忙しいのに。」

糸子「えっ 何で?」

「北村さんが 今日の講師やで。」

糸子「何の?」

「既製服商売の。」

糸子「既製服?」

「うん。」

北村「で レディーメードゆうたら 今まで 安物や思われてましたやろ。 せやけど 最近 このプレタポルテ ゆうのが 出てきた。 高級既製服。」

<このごろ 既製服が 本格的に広まり始めて これまで オーダーメードでやってきた人らも そろそろ そっちへ商売替えを 本気で考え出してるようでした>

北村「国内の工場で 量産する。 ほんなら どうなったか…。」

<何で 北村の講義なんか 真面目に聞かな あかんねん>

北村「半値以下まで これ 値ぇ下げられたんや!」

2人「はあ~!」

糸子「アホらし!」

小原家

玄関前

<昔は あんなけ待ち望んじゃった 時代の変化ちゅうもんが 今のうちには 何や怖い。 アメリカのもんやからて そないジャンジャカ 売れる事も もうないし。 下駄は 完全に 靴に 取って代わられてしもた うちは 今 47 お父ちゃんが 呉服屋の看板を 下ろしたんは 50の時やった>

オハラ洋装店

サエ「こんにちは~!」

優子「はれ! サエおばちゃんや。」

サエ「いや~ ちょっと 優子! あんた 立派なおなか なってえ~。」

優子「せやねん。 おかげさんで 今 7か月。」

サエ「いや~ ちょっと触らして!」

優子「ええよ ええよ。」

サエ「いや~! いやいやいや…。」

糸子「はれ~ いらっしゃい!」

昌子「まあ!」

糸子「いや~ 久しぶりやなあ!」

サエ「こんにちは~! ますます元気そやんか。」

糸子「うん 元気 元気。 アハハハ なあ!」

<サエは 今 心斎橋で 高級クラブのママをやってて 時々 こないして 若い従業員を 連れてきてくれます」

優子「うん。 こんな感じで どうでしょう?」

サエ「あんな もうちょっと こう ライン 入れてほしいのや。」

優子「せやから 最近の流行ちゅうのは もっと…。」

サエ「いや いらん! うちは 流行りは どうでもええんや。 頼むさかい このごろ流行りの アッパッパみたいのに せんといて! あんなん 喜んでくれる客なんぞ 一人も おれへんよって。 とにかく ここで キュッとなって 足元まで シャ~ッと流れるやつや。 ドレスはな 女を 2割増し3割増しに 見せて 何ぼやで。 流行っちゃったら ええちゅうもん ちゃう。 何や? 糸ちゃん。 どないしたん?」

糸子「あんた… ほんま ほれぼれすら。」

サエ「えっ 何が?」

糸子「何で そんな 根性 据わってんの? 教えてえや。」

サエ「うちはな こう見えて そない 欲張り ちゃうのや。 昔から 欲しいもんちゅうたら ただの一個だけなんや。」

糸子「何?」

サエ「男。」

糸子「ああ~!」

サエ「ウフフフ!」

<うちは 欲張り過ぎなんや。 サエみたいに 欲しいもんを ひと言で よう言わん。 自分が ええと思う服を 作りたいけど 商売も うまい事 いかせたい 時流に流されて たまるか 思てるけど 時代に後れてまうんは 嫌や>

糸子「はあ~ しょうもな。 アホらし。」

<ほんなもん 根性 据わらんで 当たり前じゃ うちが ほんまに欲しいもんて 何や?>

居間

北村「直子は ほんで 卒業したら 何すんよ?」

直子「東京の百貨店に 店 出す。」

北村「百貨店?」

直子「うん。 あんな ヤングコーナー ちゅうとこに 場所 もろて そこで 店 やれへんかて 誘われたんや。」

北村「ほう プレタポルテけ?」

直子「ううん。 最初は オーダーメードや。 ほんでも うちが有名になったら カルダンみたいに うちの名前の プレタポルテかて やったろ 思てんや。」

北村「それそれ それやぞ 直子! ほら 結局よ 安い物 いくら 数 そろえたかてよ そんなもん 大した事ないねん。

やっぱし 高い物が ぎょうさん売れんと でかいもうけに なれへんからの。 プレタポルテちゅうのは 高い物 ぎょうさん作って ぎょうさん売ったろちゅう事やろ。」

直子「せやで。 せやから デザイナーが有名やったら ほんだけでも 人は なんぼ高ても 欲しがりよるがな。」

北村「そうや! お前 タグ貼っ付けただけで おもろいように売れるんやさかい。」

直子 北村「なあ~!」

糸子「あんた まだ ほんな事 言うてんか。」

北村「はあ?」

糸子「ほんなインチキ商売 かまして 捕まったん どこの 誰じゃ? まだ 懲りてへんけ?!」

北村「いや ちゃうがな。 今回は インチキ ちゃうねん。」

糸子「恥を知れ 恥を!」

直子「捕まった? えっ 何? おっちゃん 捕まったん?」

<下には 下が あるもんで こいつは うちより アホです>

2階 寝室

(犬のほえる声)

直子「よいしょ!」

聡子「あ~ 重た!」

直子「ぐあ~ もう!」

聡子「ちょっ… ちょっと しんどい。 しんど~い!」

直子「コチョコチョ… コチョコチョコチョ…。」

聡子「ハハハハハハ…。 やめてえや!」

直子「コチョコチョ…。」

聡子「もう~ 漫画 読んでんねん。 もう。」

直子「よいしょ。 あんた。」

聡子「はあ?」

直子「どないすんよ?」

聡子「うん?」

直子「将来。」

聡子「短大 行くで。」

直子「ちゃうよ もう~。 その短大を卒業したらや。」

聡子「あ~…。 ほんなん まだ分かれへんわ。」

直子「テニスの選手になったら ええやん。」

聡子「う~ん…。 ほんでも あ母ちゃんは あんまし喜ばへんやろ?」

直子「お母ちゃん?」

聡子「うん。」

直子「うちが 賞やら取っても ちょっとしか喜ばへんかった。 お姉ちゃんが 装麗賞 取った時のが 喜んじゃった。」

直子「秩父宮賞?」

聡子「うん。」

直子「あれ ごっつい賞やのになあ。」

聡子「う~ん…。」

直子「ほんなもん 装麗賞より よっぽど ごっついで。」

聡子「う~ん… でも やっぱし お母ちゃんは 自分の仕事と関係なかったら あんまし どうでも ええみたいや。」

直子「ええやんか。 お母ちゃんなんか どうでも。」

聡子「うん…。」

直子「自分のやりたい事 しいや。」

聡子「う~ん…。」

アメリカ商会

昭和36年

直子「ええっ! おっちゃん。」

木之元「うん?」

直子「この店 畳むん?」

木之元「うん…。 わしは そもそも 商売ちゅうもんに 向いてへん。 電気屋かて たまたま まぐれで 当たっただけで…。」

直子「店 畳んで 何するんよ?」

木之元「いや ほれがな こないだ 太鼓の大将から『店 譲りたい』ちゅう話されてな。」

直子「えっ ほんま?」

木之元「ほうよ!『あんた以上に この店 大事にしてくれそうな人 他に いてへん』ちゅうて!」

直子「へえ~! ええやん! やり やり!」

木之元「やる やる!」

<人生ちゅうんは 優しいもんで 何が欲しいかも よう言わんような 人間の手にも 急に ポコッと 宝物をくれる事があります>

小原家

居間

糸子「里恵ちゃん。 ウフフ ハハハ!」

聡子「里恵ちゃん かわいらしなあ。」

糸子「抱くか? 叔母ちゃん。」

聡子「ええわ おばあちゃん。」

(笑い声)

糸子「いや 抱いてみいな 叔母ちゃん。」

聡子「ええて おばあちゃん。」

糸子「いやいや おばあちゃん ちゃう。 叔母ちゃん。」

聡子「おばあちゃん。」

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