あらすじ
優子(新山千春)は娘を預けてオハラ洋装店で働き始める。直子(川崎亜沙美)は自分の店で店員たちに愛想を尽かされ、弱り切ってしまう。助っとを出す話になると優子は、直子の才能を理解できるのは糸子(尾野真千子)ではなく自分だと言いきる。直子の服を奇抜としか思えない糸子は、反論できない。結局優子が娘を連れて上京し、直子の店を立て直すことに。騒ぎのなか、聡子(安田美沙子)はテニスの大阪府大会で優勝していた。
114回ネタバレ
小原家
<とにかく 上機嫌が 身上やった勝さんの血ぃを 一番引いてんのが 聡子で 上の2人が 取っ組み合いしてる横で いっつもヘニャヘニャ 笑てるような子ぉやったさかい 聡子の事を 格別 何か心配した ちゅう覚えがありません そらまあ そないシャキッと 出来のええ子とは ちゃうけど>
台所
千代「まあまあ あんた 汚い靴 履いて。」
聡子「うん。」
千代「お母ちゃんに買うてもらい。」
聡子「うん。」
千代「はい お弁当。」
聡子「うん おおきに。」
糸子「おはようさん!」
聡子「おはようさん!」
糸子「行っちょいで。」
聡子「行ってきます!」
千代「はい 行っちょいで!」
聡子「行ってきます!」
糸子「聡子は アホやけど 上の2人と比べて 気立てのええのんが 何よりやな。」
千代「アホとちゃうで! あんた。 あの子かて あないテニス 頑張ってんやさかい。 今度は 大阪府大会 出るちゅうてたしな。」
糸子「それに比べて あの上の2人の 小難しい事。」
<小難しい2人のうちの上の方は こないだから 店に復帰しました>
玄関前
優子「おはようさん!」
2人「おはようございます!」
オハラ洋装店
優子「おはようさん!」
松田 昌子「おはようさん!」
<近頃 流行りの 産休明けちゅうやつです>
糸子「はれ…。」
優子「おはようさん!」
糸子「あんた。」
優子「え?」
糸子「里恵 ほんまに 保育所 預けてきたんけ?」
優子「ふん。」
糸子「何でやねん かわいそうに。 店 連れて来たら ええやんか?」
優子「せやから あの子 おったら うちが 仕事に 集中でけへんちゅうてるやん!」
糸子「あんたが見んでも おばあちゃんかて いてるやろ!」
優子「おばあちゃんやて 大変やんか。 年やのに無理さしたら うちが気になるんや。」
糸子「はあ~!」
<ほんで 小難しいうちの下の方は>
直子の店
直子「何なのよ? 私のやり方に 不満があるなら さっさと 辞めりゃいいじゃないよ!」
<とうとう独りぼっちに なってしもたそうです>
(泣き声)
松田『どないしたんや? 直ちゃん。 泣いてたら 分からヘんやん。 直ちゃん? 直ちゃん。』
井戸
「聡ちゃん お帰り!」
聡子「ただいま!
居間
聡子「ただいま!」
一同「お帰り!」
糸子「せやけど あの子も ここが 勉強しどこ ちゅうもんやろ。 そら 我 張ってるだけでは 誰も ついてきてくれへんわ。」
松田「いや 先生 理屈は そうですけど 今は とりあえず はよ 直ちゃんを助ける方法を 考えちゃった方が えんとちゃいますか? 店員が いっぺんに 2人も辞めてしもたら そら えらい事ですわ。 ほっといたら 立ちゆかんようになって 百貨店かて やめさせられてまいますよ。」
昌子「次の店 行くちゅうたかて 難しなるわなあ。」
千代「あんた 御飯 食べるか?」
聡子「ううん。 ええんよ 自分でする。」
糸子「せやけど 助けるて どない助けるんや。」
松田「とりあえず うちから 助っ人を送り込むとか。」
糸子「はあ~ 今 誰か行ける者。 うち 行けるやろか?」
昌子「いや 先生は行けませんよ。」
糸子「あかんか。」
昌子「あかんに決まってるやないですか。 こんなけ仕事 詰まってんのに。」
糸子「ほな 誰がええやろなあ。 うちの縫い子で そこそこ 接客もできる。」
昌子「うちですやん。」
糸子「うん せやなあ。 昌ちゃんか。」
優子「いや… うちや。」
糸子「はあ?」
優子「うちが行く。」
糸子「アホか!」
優子「何でや?」
糸子「何でて 里恵どないすんや?」
優子「連れて行く。」
糸子「はあ? 連れて行って あんたが店に行ってしもたら 里恵 誰が見んや?」
優子「悟さんの実家に 頼んでみるとか まあ どないかする。」
糸子「はあ? ほんな ほんでもやな。」
優子「お母ちゃん 悪いけど。 今の うちの店に 直子の仕事を ほんまの意味で手伝える人間は 他にいてへん。 うちだけや。 正直 お母ちゃんとか 昌ちゃんでは 無理やと思う。」
糸子「何? あんた それ どうゆう意味や。」
優子「そうゆう意味や。」
糸子「何 言うてるか 分かって言うてんやろな?」
優子「分かってます。 せやけど ほんまの事やさかい 言わしてもらう。 お母ちゃんも 昌ちゃんも 直子の服なんか けったいなもんにしか 見えへんと思うんやし。」
昌子「はあ そらそやな。」
糸子「そやけど あんたかて結婚式ん時 あの子の格好 オウム呼ばわり しちゃあったやないか!」
優子「うん 常識で言うたら ただのオウムや。 けど あれが あの子の才能の形で それは すごいもんなんや。 悔しいけど。 直子が今 あの年で 東京みたいな厳しい街で 何をやろうとしてんのか うちには よう分かんねん。」
優子「それが どんだけ難しい事か あの子が求めて苦しんでる理想が どんだけ高いもんかを ほんまに分かって 手伝うてやれんのは うちだけや。 お願いします。 うちを 東京に行かせて下さい!」
糸子「知らん! 勝手にしい! 聡子 御飯 食べり!」
聡子「は はい。」
玄関前
昌子「ほな お疲れさんでした!」
松田「また明日。」
千代「はい 気ぃ付けて。 お疲れさんでした。 里恵ちゃん あんた 東京 行くんやなあ。」
優子「うん 行くもんな。 里恵。」
千代「これ。」
優子「え?」
千代「あんただけにと ちゃうよって 遠慮したあかんで。 直子に うなぎでも食べさしたり。」
優子「うん 分かった。」
千代「うん 気ぃ付けてな。 里恵ちゃん 風邪 引かさんようにな。」
優子「おおきに。」
千代「おやすみ。」
優子「おやすみ。」
千代「うん。」
優子「ほな 行くわ。」
千代「うん おおきにな。」
優子「おおきに。 うん。」
居間
<言いよった… あいつ。 うちでは もう 直子の役に立てん ちゅうて言いよった!>
糸子「ああ~! 半人前が! 何じゃ あいつら! あんな 仲悪いくせに! ああ~ うん! う~ん! 聡子。」
聡子「はん?」
糸子「あんた 直子の服 格好ええと思うか?」
聡子「ふん。」
糸子「思うんか?」
聡子「ふん。 うちも あんなん着たい。」
糸子「嘘や!」
聡子「へ?」
糸子「嘘つき! 正直に あんなん変やて言い!」
聡子「ええ~ 何で?」
糸子「何でて どうゆう事やん? ちょっと!」
聡子「アハハ!」
糸子「これ! これ!」
聡子「格好ええ!」
糸子「変やろ あんなん変やろ!」
聡子「格好ええ うちも あんなん着たい!」
糸子「ほう~ 着たいん。 あんな 変な こっちゃ こっちゃしたやつ!」
直子の店
直子「お願いします! お願いします!」
客1「え~? 嫌だ 何なの これ?」
直子「いらっしゃいませ!」
客2「こんなの ほんとに 着る人 いるの?」
直子「はい。」
客1「本当? うちの娘が こんなの着たら 家に入れないわよ! ねえ!」
客2「本当にね!」
客1「行きましょう。」
直子「いらっしゃいませ!」
「失礼だけど あなたが?」
直子「はい?」
「装麗賞 取ったって方?」
直子「はい。」
「ふ~ん。」
直子「あの よかったら これ。」
「いいわ。 いらない。」
(足音)
直子「いらっしゃいませ…。」
(泣き声)
小原家
居間
(小鳥の鳴き声)
千代「おはようさん! 今日は ええ天気やで。 あれまあ。 あれあれ。 あ~あ~。」
<聡子が何も言わへんよって それが テニスの 大阪府大会優勝の賞状や ちゅうんが 分かったんは 随分あとの事でした>
(小鳥の鳴き声)
(鈴の音)