あらすじ
短大を卒業して洋裁の学校に通い始めた聡子(安田美沙子)。勉強が苦手な聡子は3日で辞めたいと言いだし糸子(尾野真千子)をあきれさせる。しかしテニスの恩師から、聡子には根性があると聞く。糸子は自分のデザイン画をどっさり渡して、写し描いて練習するように言う。優子(新山千春)は東京で直子(川崎亜沙美)を手伝っているが、競い合いは相変わらずだ。ある日聡子のために優子と直子それぞれのデザイン画が送られてくる。
117回ネタバレ
珈琲店・太鼓
<昭和38年 前の年に独立した イブ・サンローランが ジャンパールックちゅうのを 発表しました。 一方 ディオールの新しいデザイナー 円く・ボアんは サファリルックを発表。 クレージュは パンタロンスタイルを発表 昔は 一部の お金持ちのためやったコレクションが 今や世界中の人に向けて 発表されるもんになりました。 日本でも洋服は もう よそ行きやのうて 普段着で オーダーメードと既製服の割合は 3対7になったそうです>
糸子「はあ~ おもろいわ~! おおきにな。」
北村「おもろいけ?」
糸子「おもろいわ!」
北村「お前 モードなんか さっぱり分からん よう言うちゃったやないけ。」
糸子「それがな このごろ 何や 妙におもろい 思うようになってきたんやし。」
北村「ほんまかいな。」
糸子「見方が分かるようになった ちゅうんかいなあ。 優子やら直子やらのデザインも 見方がわかったら おもろいんや。 あの子ら なかなかのもんやで!」
北村「ふ~ん。」
聡子「お母ちゃんな うちと一緒に 姉ちゃんらの デザイン画 練習してんやで。」
糸子「しっ!」
北村「ほんまけ?」
糸子「いらん事 言いな!」
北村「お前 ほんな事しちゃあんの? 格好悪ぅ!」
聡子「痛っ!」
糸子「余計な事 言いな!」
北村「はよ帰って デザインの練習しなさい。」
<いや ほんでも ここだけの話>
小原家
オハラ洋装店
糸子「おおきに! あ 来た! 来た!」
<月に いっぺん 優子と直子が 送ってくれるデザイン画を うちは 聡子以上に 楽しみにしてました>
<女らしいて 柔らかい 優子の線>
<強うて 勢いのすごい 直子の線。 厳しい競争の中で どないか 自分の 世界を切り開いたろちゅう 熱が伝わってくる。 それを感じるようになったら うちは やっと モードが おもしろなってきたんです>
(祭囃子)
<ごっつい勢いで走って行く時代。 そのてっぺんで 風切って立つ 舞って 跳んで 魅せる モードは 大工方や>
客「こんにちは!」
糸子「ああ いらっしゃい!」
客「暑いなあ!」
糸子「暑いなあ。 どうぞ!」
<とは言うても 大工方と おんなしで モードも 若い人らの役なんでしょう>
糸子「ほな タック入れようか?」
<もう うちの役とは違います>
客「膝 隠れるやろか?」
糸子「だいぶ目立たんようには なってるで。」
客「余計 目立ってへんか?」
糸子「目立ってへん。」
<あれから 聡子は 結局 洋裁学校をやめて 店を手伝う事になりました。 まだまだ 抜けたとこは あるもんの とにかく真面目で 熱心やよって それなりのモノには なりよるやろ>
優子 里恵「ただいま~!」
松田「お帰り!」
糸子「は~い 里恵ちゃん! 歩いて来たん?」
里恵「うん。」
糸子「う~ん えらかったなあ!」
優子「よう言うわ。 ほんのそこまで ずっと抱っこやったやんか! あんた!」
里恵「あ ばれちゃった。」
糸子「あ!」
(笑い声)
優子「おいで!」
糸子「そうだ うん!」
(笑い声)
2階 寝室
優子「まあ 基礎は出来たんちゃうか。」
聡子「ほんま?」
優子「うん。」
聡子「お母ちゃんも そない言うてくれた。」
優子「けどな こっからなんやで ほんまは。」
聡子「え?」
優子「まあ あんたが どの程度の 洋裁屋に なりたいかやけど。 要はな 普通の職人で ええんやったら もう十分 一人前や。 けど うちとか 直子くらいの デザイナーになりたいんやったら こっからが勝負ちゅう事や。 お母ちゃんとも うちとも 直子ともちゃう あんたの色ちゅうもんを 自分で見つけていかなあかん。」
聡子「うちの色?」
優子「うん。 それが一番 大変なんや。」
オハラ洋装店
鳥山「こんにちは!」
昌子 糸子「いらっしゃい!」
鳥山「どうも 聡ちゃん いてる?」
聡子「ああ こんにちは!」
鳥山「聡ちゃん 元気?」
聡子「元気ですよ! お元気ですか!」
鳥山「はい 元気 元気!」
優子「うわ! 鳥山さんや。」
鳥山「ありがとう!」
昌子「鳥山さん! 今日はもう…。」
<鳥山さんは 洋菓子屋の女社長さんで ごっつい強烈に 自分の好みが あるようなんやけど それが うちらには さっぱり分かりません>
聡子「そんで 今日は うちに何の用ですか?」
鳥山「いやあのな あの こんな事 言うたら何やけど 悪いけど あんたとこの お母ちゃんのデザイン 何か ババくさいやろ? 優子ちゃんのは 澄ましきっちゃって 何か息苦しいし。 せやさかいに… なあ 小原さん ええやろ?」
糸子「は?」
鳥山「うちな 聡ちゃんに デザインしてほしいんや。」
糸子「聡子?」
鳥山「うん。」
糸子「いや あかんあかん。 この子 まだ そない 一人前ちゃうし。」
鳥山「ええやん! せやから うちが第1号や。 聡ちゃんの若い感覚で ごっつい イカした服 こさえてほしいんや。 な!」
聡子「うん!」
鳥山「ええやろ? うん。 この私が 頼んでんやで!」
糸子「はあ。」
鳥山「な?」
優子「断ったらええのに。 絶対 ロクな事なれへんで!」
糸子「いや せやけど 本人が 聡子がええ ちゅうもんは 断れんがな。」
優子「あの人な うちん時も そうやってん。 好きに作って~ ちゅうて あとで絶対 文句言うねん。『こんなん うちの好みちゃう!』ちゅうて。」
聡子「ほな どんなんが好みなん?」
糸子「それが さっぱり。」
優子「分かれへんねん。」
昌子「分かりませんねえ あの人。」
糸子「派手なんが ええんか 思たら うちの事 チンドン屋と思てんの! ちゅうて怒るしな。」
優子「地味にしたら地味にしたで 怒るしなあ!」
糸子「なあ!」
昌子「あ ほな 直ちゃんの服なんか 好きなん ちゃいますか?」
糸子「いや 直子の事は 面が気に食わへんやて。」
優子「ハハハ!」
糸子「『あの子はこの店 置かんといて。 うち 来んようになるでえ』ちゅうちゃった。」
優子「ほな 置いちゃったら ええやん。」
昌子「ほんまや 魔よけ代わりになあ。」
直子の店
(くしゃみ)
小原家
オハラ洋装店
(笑い声)
2階 寝室
<ほんでも 初めての自分への注文が 聡子は うれしかったようで。 その日から一生懸命 デザインを考え出しました>
オハラ洋装店
糸子「優子です。」
優子「初めまして。」
三浦「はあ。」
優子「母が いつもお世話になってます!」
三浦「いえ いえ いえ! 忙しいとこ 邪魔してすまんな。 この ご婦人方がな 小原優子さんの うわさを聞いてや どうしても 連れて行けちゅうさかいな。」
糸子「そうですか そら おおきに!」
客1「せやかて このごろ 小原優子さんの 評判が すごいよって。」
優子「ほんまですか?」
客2「ええ ちょっとええ服 着てる人に聞いたら みんな 小原優子さんのデザインやて 言わはるねん。 何や 東京でも 店やってるくらいの 人やて聞いて そらもう いっぺん こさえてもらいたいなあ ちゅうて。 なあ!」
優子「そらまあ ありがとうございます。 ぜひ 作らせて下さい!」
2人「いや~! うれしい!」
優子「どうぞ どうぞ!」
居間
三浦「ああ すまんのう!」
糸子「どうぞ!」
三浦「ヘヘヘ! いや~ さすがに 東京で 鍛えとるだけの事はある。 上等な跡取りが育った。 ハハハ!」
オハラ洋装店
優子「恵さん。」
松田「はい。」
優子「これも 入れたいねんけど。」
松田「今月は ちょっとなあ。」
優子「そしたら この仕入れと一緒に してもろたら ええんちゃう?」
松田「ああ せやねえ。」
居間
糸子「おかげさんで 経理の計算も うちより あれのんが よっぽど立つんですわ。」
三浦「そらもう 安心や いつでも隠居でけるで! ええこっちゃ。 ううん…。」
<気ぃ付いたら51。 お父ちゃんが うちに店を譲った年を 越えてしまいました>
<なあ お父ちゃん。 うちの娘は うちと違て 優しいよって>
回想
糸子「悪いけどな お父ちゃんより 今は うちのが よっぽど この家 支えてるんや!」
<うちを あんな ぶった切ったりしません>
糸子「うち どないしても…。」
善作「でや!」
善作「こん ガキゃ!」
(悲鳴)
善作「こんなもんが なんぼのもんじゃ!」
回想終了
糸子「まあ うちも お父ちゃんほど ひどないけどな。」
<ほんでも いつ そないしたら ええんやろか? いつ…>
オハラ洋装店
千代「電車の中で食べなあ。」
里恵「うん!」
千代「はい。」
糸子「何や?」
聡子「いや デザイン見てもらいたあて。」
糸子「どれ?」
聡子「姉ちゃん! あんな ちょっと 見てもうて ええ?」
優子「うん。」
聡子「どやろ?」
優子「えらい スカート短いなあ。」
聡子「うん。」
優子「鳥山さんやからなあ。 堪忍。 うち何とも よう言わんわ。 気に入ってくれるかもしらんし あかんかもしらん。」
<潮時… 近いうちに 今やな ちゅう時が来るんやろ>
優子「ほな 自信持ってやり。 それしかないし。」
聡子「あ うん。」
<間髪入れず 潔う決めちゃろう。 お父ちゃんみたいに>