あらすじ
善作(小林薫)は千代(麻生祐未)に実家の松坂家に借金を申し込ませるが、善作自ら来るようにと断られる。糸子(尾野真千子)は善作のお供で神戸の松坂家まで行くことに。糸子がいとこ・勇(渡辺大知)らと楽しんでいる間に、千代の父・清三郎(宝田明)は善作に、時流に合わない呉服店を畳めと言う。結局借金はできず、失意の善作はだんじり小屋を訪れ、泰蔵(須賀貴匡)に、だんじりの上で舞う大工方になれなかった思いを語る。
11回ネタバレ
小原家
小原呉服店
(雨の音)
善作「ああ あ 違った。 お~い おいおい 千代!」
千代「あ~!」
善作「はよせい はよせい はよ!」
千代「へえ。 ただいま 帰りました。」
善作「ええさかい! どやった? 神戸の親父 金 貸してくれよったか?」
千代「へえ… それが…。」
2階 座敷
善作「何でや? 何で貸さへんや?」
千代「へえ… まあ 父が言うには これまで貸した金かて 一銭も返してもうてない。」
善作「そやから 今度こそ返すんや! そのために 貸してほしい ゆうてんのやないかい!」
千代「へえ~。」
善作「問屋かてな 即金やったら 上物 売りよんじゃ。 嫁入り道具一式 あんじょう 神宮司さんに納めたら これまでの借金なんか 利子 付けて返しちゃら!」
千代「へえ …そう言うたんですけど~。 ハハハ!」
善作「何や そら!」
千代「母がくれましてん。 ハハハ!」
善作「おんどれ のんきに笑てる場合か!」
千代「あ~!」
善作「分かってんのか? このままやったら この店 潰れてしまうんやど! 子供らに飯 食わされへんように なるんやぞ!」
千代「あの… 父が。」
善作「何や?」
千代「『善作君に来させなさい』って 言うてました。 いっつも 私を使いに寄こすんが 気に入らんみたいです。」
子供部屋
(せみの鳴き声)
<夏休みになりました。 けど どうせ うちには 何のおもろい事もないさかい 寝坊しちゃるんです>
勘助『糸や~ん 起きてるか~! 糸や~ん!』
糸子「うん…。 何や。」
勘助「海 行かへんか?」
糸子「海? 行く! ちょっと 待っててな! 待っててよ すぐ準備するさかい!」
小原呉服店
千代「はい。」
善作「うん。」
千代「あ~ せや。 糸子 連れていきますか?」
善作「ああ?」
千代「父は糸子びいきやさかい ちょっとは 機嫌ようなんの ちゃいますやろか。」
善作「どアホ!」
千代「あっ!」
善作「わしはな これから神戸に 男と男の話に行くんじゃ。 いちいち 機嫌なんかとってられるか!」
千代「へえ すんません。」
玄関前
(笑い声)
善作「こら! 店の邪魔じゃ! どこぞ行け!」
糸子「よっしゃ! 行こ!」
勘助「うわ! 行こか!」
糸子「どこ行くねん! 待ってよ。」
善作「しゃあないなあ 神戸 連れてったら! 支度せい。」
糸子「へ?」
善作「じいさん孝行や。」
糸子「うち 今から海…。」
善作「口答えすな! はよ着替えてこい。」
電車
<お父ちゃんと2人で 出かけんのなんか 久しぶりです 寝てんかな… それか 寝たふりかな。 さすがに今は パッチの話 せん方が ええんやろな>
松坂家
玄関
糸子「こんにちは~!」
貞子「は~い! あれまあ 糸子! …と 善作さん? ど どないしたん?」
清三郎「何 糸子か? よっ! ハハハ! お! 何や びっくりするやないか! お父ちゃんと来たんか?」
糸子「そやねん。 おじいちゃんらの顔 見に来たん。」
清三郎「そうか! ありがとうな さあ 上がり 上がり! 善作君も久しぶりやないか?」
善作「いえいえ。 えらい ご無沙汰しております。 あの これ…。」
清三郎「え?」
善作「誠に つまらんもんなんですが。」
清三郎「こんなもん いらんがな! はよ 上がり あがり!」
貞子「はよ! おやつ 何 食べる~?」
糸子「何 ある~!」
リビング
糸子「う~ん おいしいな! これ 何ちゅうん?」
貞子「バウムクーヘンや。」
糸子「もうないん?」
清三郎「あ~ あるある。」
貞子「持ってきたろ。」
糸子「ええよ おばあちゃん。 うち取ってくる。」
貞子「分かるか?」
清三郎「ああ 糸子。」
糸子「ん?」
清三郎「すまんけどな ついでに勇らにも 持ってったってくれるか? おじいちゃんな お父ちゃんと ちょっと お話あるから。」
糸子「うん。」
清三郎「うん。」
清三郎「それで…。 一体 何の用や?」
勇の部屋
♬~(『ショパンのピアノ協奏曲』)
坂崎「僕はショパンが好きやねん。」
勇「僕は ベートーベンやな ショパンは ちょっと軟弱や。」
坂崎「そしたら ブラームスって 聴いた事ある?」
勇「ブラームス? 知らんわ。」
坂崎「今度 レコード 持ってこようか?」
勇「うん 持ってきて。 一緒に聴こうや。」
坂崎「うん。」
糸子「勇君!」
勇「あ…。」
糸子「こんにちは!」
勇「糸ちゃん。」
糸子「久しぶりやなあ!」
勇「久しぶり。」
糸子「はい これ食べり。」
勇「ありがとう。」
糸子「友達?」
勇「うん 坂崎君。」
坂崎「よろしく。」
糸子「坂崎君も これ食べり。」
坂崎「ありがとう。」
糸子「坂崎君 これ何か知ってるけ?」
坂崎「バウムクーヘンの事?」
糸子「おいしいなあ これ。」
リビング
清三郎「金は貸せん。 何でか分かるか?」
善作「は… これまでの 借金の事でしたら…。」
清三郎「あ…?」
(笑い声)
清三郎「せやから…。 せやから お前は 小者や言うんや。 わしは そんな小さい話 しとんやない。 ええか? 呉服屋ゆう商売が そもそも もうしまいなんや。 これから ますます洋服が 幅 利かせてくる。 生き残れんのは ほんまに一流の 呉服屋だけや。」
清三郎「お前とこみたいな小さい店 やったら まあ もっても せいぜい まあ あと5年や。 なるべく早いうちに 店 畳め。 いや うちのな姫路の工場に 人手が要るから なんぼでも世話したる。 ただし お前1人で行け。 千代や娘らは わしが面倒見たる。」
貞子「千代らを ここに住まわす いう事ですか?」
清三郎「すまんがな お前には もう任せられん。」
貞子「(ため息)そら 楽しなりそうやなあ。」
庭
清三郎「うお~ おう~!」
(騒ぐ声)
貞子「ほれ ほれ!」
(騒ぐ声)
列車
<帰りの電車の中で お父ちゃんは もう うそ寝もせんと ものも言いませんでした… ためしに>
糸子「お父ちゃん? うち 学校やめて パッチ屋で働きたい。」
<…て言うてみたら>
善作「アホか。」
<寝ぼけたみたいな顔で言われて 何でか知らん うちは それ以上 パッチ屋の話が でけへんようになりました>
だんじり小屋
善作「いよいよやなあ 今年も。」
泰蔵「はい。」
善作「お前 大屋根に乗って何年目や。」
泰蔵「5年目ですわ。」
善作「大したもんやなあ。」
泰蔵「いや…。」
善作「いや 大したもんやで。 わしかて ガキの時分 屋根に 乗りたい思ちゃったけどなあ。」
泰蔵「え…。」
善作「そらそや! 岸和田んガキで 大工方に憧れん 奴は いてへんよ。『どないしても 屋根に乗る』思ちゃったけどなあ。 ま… わしの場合 根性が足らんかったのう。 ハハハハ…。」
神社
千代「うっかり遅なってしもうたなあ。 また 遊びすぎやちゅうて お父ちゃん 怒るわ。」
清子「あ!」
千代「え? 何や?」
清子「鼻緒が切れてしもうた。」
糸子「お母ちゃん 光子 背負うて。」
千代「あ よっしゃ! 光子 よいしょ! よいしょ!」
糸子「はい。 こっち乗って。 はい よいしゃ!」
小原家
台所
千代「ただいま~ 遅うなりました。 はい 光子…。 はい。」
糸子「何や 寝てるわ。」
千代「すんません 9時には 帰る言うてたのに。」
居間
善作「う~ん。」
千代「あの… 具合でも悪いんですか?」
善作「何もない。」
台所
ハル「何か知らんけどな 何 言うたかて ぼけ~っとしてな。 さっきかて 夕御飯 食べたら すぐ もう寝るちゅうて 布団 敷きだしよった。」
糸子「おなかに 虫でも湧いてんちゃうか? 何か そんなん なるんやて。 前に 学校の先生 言うちゃった。」
千代「そやろか。」
ハル「あんまり続くようやったら 1回お医者に診てもらわなな。」
千代「そやなあ…。」
ハル「いや~。」