あらすじ
優子(新山千春)は、北村(ほっしゃん。)が持つ心斎橋の店舗物件で、自分の店を持ちたいと言い始める。糸子(尾野真千子)はオハラ洋装店を譲るつもりだと告げるが、優子は自分のやりたいことは、岸和田では出来ないのだと気持ちを変えなかった。せっかくの思いを無にされて悔しいが、糸子は娘の独立を見届ける決意をする。一方で、聡子(安田美沙子)が一人前になるまでは店主でいられることに、少しだけほっとする糸子だった。
120回ネタバレ
小原家
居間
優子「勝手を言うようなんですけど。うちを独立させて下さい。」
糸子「どうゆうこっちゃ?」
優子「心斎橋で 自分の店を始めたいんです。 お母ちゃんも聞いたと思うけど おっちゃんが持ってる 店舗物件です。 こないだ 実際に見してもらいました。 ほんまに ええとこで ここやったら 絶対 成功させられるて 思いました。」
糸子「資金 どないするん?」
優子「それも おっちゃんに 融資してもらうちゅう事で 算段がつきました。」
北村「あのな 優子がよ デザイナーとして成長してくれたら わいも ほら 将来 ライセンス契約して プレタができるかもしれん。 その可能性を 見込んだっちゅうこっちゃ。 情に流された訳ちゃうど。 こら あくまで わいが 商売人として 受けた話やさかい。」
優子「勝手を言うてるんは 分かってます。 けど この店は まだまだ お母ちゃんかて 現役やし 聡子もいてる。 逆に うちがいてる事で お互い やりにくいとこも 出てくると思うんやし。 昌ちゃんや恵さんに 気ぃ遣わすように なるかもしれへんし。」
糸子「せやから うちは…。 もう あんたに 看板譲るつもりで 準備しちゃあったのに。 昌ちゃんと恵さんには こないだ 話して 了解してもうたよって。 あんたらには 大みそかに 直子が帰って来て みんなが 集まってから ちゃんと話そう 思ちゃったのに。 よう 台なしにしてくれたな!」
北村「わいのせいか?」
優子「ごめんなさい お母ちゃん。 おっちゃんは 悪ない。 うちが 言いだした事です。」
松田「いや けどな 優ちゃん。」
優子「はい。」
松田「先生は もう 優ちゃんに 看板を 譲るつもりでいてるんやで。」
優子「はい。」
松田「『優ちゃんに この店任せて 自分は それを手伝うつもりでいる』て うちらにも そう言うたんやで。」
優子「はい。」
昌子「ほんでも その心斎橋の店 やりたいっちゅうんか?」
優子「はい。 正直に言わしてもらいます。 東京で 店一軒 流行らせられるだけの 力つけて 帰って来ました。 そしたら その うちは もう 岸和田の この店には ようおらんのです。 うちが やりたい事は ここにおったかて 半分も でけへんちゅう事は よう分かってる。 毎日 その悔しさを我慢して ここにおったかて それは 生きながら 死んでるようなもんや! そんなん やっぱり…。」
糸子「分かった! 分かった。 もう 分かった。 ふん! 好きにしいや。」
優子「お お母ちゃん!」
2階 座敷
優子「おおきに おばあちゃん。」
千代「終わったんか?」
優子「うん。」
千代「案外 静かやったなあ。 また どんなけ荒れるやろ 思てたけど。 どないした? あれあれ。」
安岡家
居間
糸子「物件に負けたあ。」
玉枝「まあまあ。 うんうん。」
糸子「うちの看板は 北村の物件に負けたんや。 命より大事な看板を 譲っちゃる ちゅうてんのにやな 優子のアホは『そんなもん いらん 北村の物件のがええ』て 言いよったんや!」
八重子「せやけどな 優ちゃんも そんなつもりと ちゃうと思うで。」
玉枝「せや せや。」
糸子「何が心斎橋や! 何が物件や! 北村のボケ! 優子のアホ!」
玉枝「よしよし な! な!」
小原家
玄関前
<寂しい むなしい 昌ちゃんと恵さんにかて あない格好つけたのに 不細工な>
(小鳥の鳴き声)
井戸
糸子「あんた もう帰り。」
優子「え?」
糸子「あんたの顔 見ちゃあったら ほんま気ぃ悪い。 仕事の邪魔や。 その心斎橋の物件 もう押さえてしもてんやろ?」
優子「はい。」
糸子「ほな とっとと 先 進め。 いつから その店やる気か 知らんけどな 準備ちゅうんは 片手間にでけるもん ちゃうんや。 やるんやったら そっち 集中し。 うっとこはな あんたなんか おらんかて どないでも なるんやさかいな!」
優子「はい。 おおきに お母ちゃん。」
小原家
玄関前
<よっしゃ。 不細工なりに どないか けじめつけられたで 娘の独立 見届けたで お父ちゃん。 ちゅうて思ちゃったのに>
居間
優子「なあ お母ちゃん!」
<まあ この娘の独立の 中途半端な事>
糸子「知らん! 自分でせんかいな ほんな事。」
優子「せやかて ほんまに柄悪いねんで。」
心斎橋・優子の店
「いや そら でけん!」
糸子「でけんでは 困りますねん。 こんな汚いダクト むき出しでは 商売ならん。」
「でけん事は でけん言うとんじゃ!」
糸子「はあ? でけん ちゃうやろ?! 一旦 引き受けた仕事やったらな 最後まできっちり やらんかいな! こっちは この先 この店で 飯食うていくんですわ! やってもらわな かないませんねや!」
「おい! 変更や変更。 このダクト はめ込む。」
「はあ。」
優子「おおきに お母ちゃん 助かった!」
糸子「あんたもな。」
優子「え?」
糸子「こんぐらい 自分で言えるようにならな 女店主なんか務まらんで。」
優子「うんうん。」
糸子「ほな帰るよって。 ほな また ちょくちょく 顔 出しますよって。 どうぞ よろしゅう。」
小原家
玄関前
糸子「ああ ほんま まっだまだ 頼んないわ。 ああ~!」
<まあ ほんでも ちょっと ほっとしてるんも ほんまでした>
オハラ洋装店
糸子「いらっしゃい!」
聡子「お帰りなさい!」
糸子「ただいま。」
<次のんに 譲れるようになるまでは まだ もうちょっと 時間があるやろ。 ありがたい事に まだ それまで この看板は うちのもんです」
玄関前
木岡「よっしゃ ほな いくで! せ~の! チーズ!」
一同「チーズ!」
居間
悟「じゃあ 僕は そろそろ。」
千代「へえ もう?」
悟「はい このあと 会社の連中と ちょっとありまして。」
千代「はあ~ ほうですか?」
糸子「わざわざ おおきにな。」
悟「いえいえ。 じゃ 失礼します。」
千代「すんません。」
優子「あんた どうなん? あれから 店。」
直子「関係ないやろ。」
優子「売り上げ 悪いんけ?」
直子「いや 関係ないやろ。」
優子「まあ ほんでも あんた 名前だけは売れてるんやさかい どないか頑張って やっていきや。 そのうち 理解してくれる人かて もっと増えていくやろしな。」
直子「どうでもええ! うち 店 辞めるんや。 年明けに。」
優子「はあ?」
直子「辞めて パリ行ったんねん。」
聡子「パリ?」
直子「去年の暮れに 源太も行ってまいよった。 うちも 今のパリを見ときたいしな。」
優子「何? あんた また 何 訳分からへん事 言うてるんや! あんた あんなけ うちに 自分の力だけで店やりたいやら たんか切っといて そのざまけ? 何がパリや! どんだけ中途半端なんや?」
直子「姉ちゃんこそ この店 継ぐちゅうちゃあった ちゃうんか? 何をほったらかして 自分の店 やるとか 言うてんよ? しかも あの… あの物件。」
優子「何や!」
直子「しかも あの物件な うちが 初めに 持ってきちゃあった話ちゃうんか。」
優子「うっさい! あんたに関係ないやろ!」
直子「こっちのセリフじゃ!」
優子「何やと? 痛いな! 何すんねん!」
直子「何やねん こら!」
オハラ洋装店
糸子「そろそろ また 静子らが チビ 連れて来んで。」
千代「ほやなあ。」
糸子「うん。」
千代「準備しとこうか。」
糸子「うん。 はいはい。」
(優子の泣き声)
糸子「何?」
千代「え? 直ちゃん?」
(泣き声)
居間
糸子「あ~あ あんたら 年 なんぼや?」
聡子「うちが 21やさかい お姉ちゃんは 28。」
優子「まだ 27!」
糸子「ええ年して そろいもそろって アホ娘が! こら アホ娘! テレビ 見とらんで 片づけんかい!