ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第121回「鮮やかな態度」【第21週】

あらすじ

聡子(安田美沙子)が客のために考えたデザインは、またも極端に短い丈だった。糸子(尾野真千子)は客を問いただし、恥ずかしがりながらも内心喜んでいることを知る。時を同じくしてパリの直子(川崎亜沙美)から、ミニスカートの流行を告げる電話があった。優子(新山千春)の店の開店祝いで、糸子は北村(ほっしゃん。)に、これからはミニスカートを作るように強く言う。女性のオシャレは新しい時代を迎えようとしていた。

121ネタバレ

小原家

オハラ洋装店

美代「こんにちは。」

聡子「はれ こんにちは。」

美代「ちょっと おかあちゃん いてるけ?」

聡子「いてるよ。 お母ちゃ~ん。 お母ちゃん!」

糸子『は~い。』

聡子「おばちゃん。」

糸子「ああ こんにちは。」

美代「あ~ 糸ちゃん。 忙しいとこ 悪いな。」

糸子「うん。」

美代「あんな あんた アイビーって 分かるけ?」

糸子「『アイビー』?」

美代「ふん。 何や 最近 若い男の子らがな 何や『アイビーの何ちゃらちゅう靴 置いてるか?』言うて よう聞きに来んやし。」

糸子「あ~ ローファーちゅうやつ ちゃうけ?」

糸子「この靴が ローファーで アイビーちゅうんは この格好の名前や。」

美代「この服の名前か?」

糸子「いや 服やのうて 格好全体。 それが アイビーなんや。」

美代「格好に 名前があるんかいな?」

糸子「うん そうなんや このごろは。」

<昭和40年 木岡のおばちゃんまで 聞きに来るくらい アイビーは このごろ 大流行です>

優子の店

<さぞかし 北村は 景気ええやろ思たら…>

北村「ほうやど。 わいかて あのまま 本気で アイビー やっちゃったらよう 今頃 もっと 儲かっちゃあったのによ。」

糸子「え? あんた アイビーやっとったん ちゃうんけ?」

北村「やっちゃあるよ。 せやけど 半分だけや。 あとの半分は ほれ あの例の デザイナー育成計画に つぎ込んでよ 損こいたさかいよ チャラなってもうたんや。」

糸子「アホやなあ。 しょうもない欲 かくからやろ。」

北村「いやいや ほやけど これからやど。 つぎ込んだ分はよう 元 取れんかったけどよう 期待の星。 ほれ そこ おるがな! まずは オートクチュールで きっちり実績 積んでやな 小原優子ちゅう名前が 一流デザイナーとして 売れるようになったら そこが 勝負じゃ。 やったんど~ プレタポルテ!『ユウコ・オハラ・コレクション!』ゆうてよ。」

<毎度 北村の話は おもろいけど>

小原家

居間

糸子「現実味が ないよってな アホらしいて 聞いてられへんわ。」

昌子「ほうですねえ。」

松田「いや せやかて そないに 現実味のない話でも ないんと ちゃいますやろか。」

糸子「ええ?」

松田「いや せやかて 先生 考えてみて下さい。 優ちゃんかて直ちゃんかて そら そこで見てたら 何や 頼りないかもしれませんけど 最年少で 装麗賞を取ったり 東京の百貨店で 人気店 はったり あれかて ほんまの事なんですよ。」

昌子「はあ… まあなあ。」

松田「もっと 信用してあげはっても ええんと ちゃいますやろか?」

糸子「いや~ けど よう信じんわ あんなん。」

松田「ええっ?」

糸子「あんな いけずと いこじ。 そんな大したもん ちゃうで。」

2人「いけずと いこじ。」

糸子「ほんでな 一番下が アホ。 ハハハハ。」

2人「いけずと いこじと アホ!」

(3人の笑い声)

松田「これは よろしいわ。」

聡子「お母ちゃ~ん。 村山さんのデザイン 描けてんけど。 ふん。」

糸子「どれ。 また?!」

聡子「うん?」

糸子「あんた 何でまた こない スカート 短すんやな。」

聡子「はあ… あかんやろか?」

糸子「あんた こないだ お客さんに あんだけ『ハレンチや』言われて まだ こない短したいんか?」

聡子「うん。」

糸子「まあ デザインちゅうんは どれが正解て ないよってなあ。 あんたが こない短したい ちゅうんやったら まあ 短ても ええんかもしらんけど…。」

<ほんな事は なんぼ考えても 分からんよって」

オハラ洋装店

聡子「一応 描いてみたんですけど。」

<お客さんに 聞いてみる事にしました>

村山「うわ~! いや~ ほんでも このスカート丈は ちょっと…。」

聡子「あきませんか?」

村山「うん… やっぱし ちょっと短すぎるわ。」

糸子「いや ほんでも!」

村山「え?」

糸子「堪忍な 横から。 その短くすぎるちゅうんは 恥ずかしいちゅう事?」

村山「あ… うん。 そうです。」

糸子「恥ずかしいのは嫌やけど ほんまは こんなん はいていみたいと思てる?」

村山「はあ… ほんまは 思てます。」

糸子「ほんま?! ほんまは こんなん はいて 脚やら膝出して 歩きたい 思てるちゅう事?!」

村山「シ~ッ!」

昌子「先生! 声 おっきいです。 お客さん 恥ずかしがってはるやないですか。」

糸子「堪忍 堪忍な。 あ… 続けて。 ハハハ!」

聡子「思ってはるんですか?」

村山「はい。」

<は~ せやったんや!>

サエ「そら 女ちゅうんは 自分の きれえなとこは できるだけ 人に見せたいもんやさかい。 当たり前やんか。」

糸子「はあ…。」

サエ「うちかて 糸ちゃんに 初めてこさえてもろた イブニングドレス あれ 背中が シャ~って 開いてたやんか。」

糸子「ふん。」

サエ「あれ 着れた時 うれしかったよってなあ。『ひゃ~ こない背中て 見せて ええもんなんや』て思た。 出したいとこ 出さしてもろたわ~ ちゅうて ごっつい うれしかったで。」

糸子「ふ~ん…。 うれしい…。」

<短いスカート… 短いスカート。 ほんなけ 若い子ぉらが 内心 はきたがってるとしたら…>

(電話の呼び鈴)

松田「あ うち 出ますさかい。 はい もしもし オハラ洋装店でございます。 もしもし? もしもし? もし~? ああ 直ちゃんか?! うん?」

糸子「直子?」

松田「パリ? 今 パリから?! へ? 聡… 聡ちゃんか? な な 何? え みみみみ… みに みに じゅっ じゅっぺ? じゅぷ?」

<ミニ・ジュップ>

優子の店

「おめでとうございます。」

優子「ゆっくりしてって下さいね。」

2人「ありがとうございます。」

「開店 おめでとう!」

優子「どうも ありがとうございます。」

「1枚 撮らせて頂きます。」

優子「ちょっと待って下さい。」

「はい。 撮ります。 はい チーズ。 もう1枚 いきます!」

「あの~ 優子さんの妹さんの 直子さんですか?」

直子「はい。」

「先月の『装麗』見ました! 握手して下さい。」

直子「ええ。」

「はあ! ありがとうございます。」

「私も いいですか?」

直子「ええ もちろん。」

北村「よう!」

優子「おっちゃん ありがとう。」

北村「おめでとよう! よう やったなあ。」

糸子「北村! こっち こっち。」

北村「ごっつい盛況やのう。」

聡子「おっちゃん。」

北村「おおきに おおきに。」

糸子「あんたな。」

北村「ああ?」

糸子「なあ 短いスカート こさえ。」

北村「はあ?」

糸子「明日から もう すぐ始め! こさえられるだけ こさえ!」

北村「へ?」

糸子「だまされた思てな。 中途半端に短いのは あかんで。 ごっつい ごっつい短いやつや! 絶対 売れる。 死ぬほど売れるよって。」

聡子「ジャ~ン! フフフッ。」

北村「な… 何じゃ こりゃ おい!」

聡子「どない?」

糸子「この丈や。」

北村「いや この… この…。 あ~ もう 着替え 着替え 着替えや はよ! もうええ。」

直子「あのな パリでは ミニ・ジュップちゅうんや 短いスカートの事。 春のパリコレで クレージュが発売したんや。 源太が 言うちゃあっと『冬までは シャネル着てた女の子らが 春になったら一斉に変わったて。 見事に みんな この丈 はいちゃあった』て。」

北村「はよ着替え 言うてるやろ! いつまで 膝 出してんねん おい! 嫁 行けんようなんど!」

聡子「かめへ~ん。」

北村「かめへん事ない 動くな おい! あかん。」

糸子「いや せやけどな 北村。」

北村「ああ?」

糸子「恐ろしいけどな 時代が変わった。」

北村「何じゃ?」

糸子「これからな 日本の女の子らも 脚 出すで。 出しまくるで。 嫁に行けんかて… いや そもそもな 別に 嫁になんか 行かんでええんや。」

北村「ああ? 何じゃ お前 怖い言い方 すんなや。」

糸子「いや 正直 うちも ちょっと怖い。 見た事もない時代が 来るんやさかいな。 けどな これだけは 確かや。 短いスカートは 流行る。 こさえ。」

聡子「こさえ。」

優子「こさえ。」

直子「こさえ。」

糸子「こさえ。」

聡子「こさえ。」

優子「こさえ。」

直子「こさえ。」

<元は ロンドンの若い子ぉらの 流行った ミニスカートが>

小原家

玄関前

<パリの一流コレクションに 登場したんは ファッションの下克上ちゅうて 言われるほどの 一大事件やったんやけど ほんな事 知らんでも とにかく 女の子らは 長年 出されへんかった脚が出せて うれしそうでした>

木之元「おう 北村ちゃん。」

北村「お おう~ 毎度やで。」

木之元「目ぇが黒い。」

北村「サングラスや。」

珈琲店・太鼓

糸子「おおきに。 どないや? 儲かったけ?」

北村「儲かったわいや おかげさんで。 ボロ儲けや。」

糸子「何や うれしないんけ?」

北村「いや うれしいけどよ 歩きにくうて しゃあないど。 どこ見たらええか 分からへんしよ。」

糸子「ヒヒヒ ヒヒヒヒ! 困っとる 困っとる おっさんが。」

北村「何か 次 長いスカートとか 流行らへんけ?」

糸子「いや~ 当分は 短いやろな。」

北村「ほんまけ?」

糸子「日本の長い歴史の中で 一回も出せんかったもんが 出せるようになったんや。 そないすぐには 収まらんやろ。」

北村「はあ~。」

糸子「慣れるしかないて。」

北村「うっとしいのう~。」

糸子「はあ? ほんな ええ格好せんと 見ちゃったら ええやないか。 向こうは 見せたて 見せてんやで。」

北村「いや ほやけどよ わいらの時代はよ もっと こう 恥じらいちゅうかよう…。」

糸子「恥じらい? あんた ほんなもん もう 犬も食わへんで。」

北村「いや ほやけど…。」

糸子「おっさん! 気の毒やけどな ほんな 自分の時代が どうやらな ほなもん もう こだわっちゃったら あかんねん。 時代は どんどん変わってんやで。 女の子は 脚 出して ええ。 おやじに怒られたかて かめへん。 嫁になんか行けんかて かめへん。 そうゆう時代やねん。 さっさと 頭 切り替えな 取り残されてまうで。」

北村「ああ…。」

「じゃ おおきに。」

節子「おおきにな。」

北村「あ~! あ~あ あ~!」

<昭和41年 若い女の子らの脚が 北村の 時代を 踏み潰していきました>

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