あらすじ
北村(ほっしゃん。)は、糸子(尾野真千子)に誰の死かを言わずに帰っていった。三浦(近藤正臣)が、糸子に周防の妻の死を話す。動揺し周防を思う糸子。聡子(安田美沙子)は接客もうまくなり、糸子は、跡取りの件を恵(六角精児)らに相談する。数日後、糸子は八重子(田丸麻紀)に呼び出され、玉枝(濱田マリ)が病気でもう長くないと言われる。糸子は千代(麻生祐未)の手料理を携えて入院先を見舞い、明るく振る舞う。
123回ネタバレ
小原家
勝手口
北村「死んだど。」
糸子「え? 誰が。」
北村「死んだ。」
糸子「え? せやから 誰がや? 誰が死んでん?」
<その死んだんが 誰やったんか うちが知ったんは それから1週間後の事でした>
泉州繊維商業組合
優子「そら うちも最初は さんざん言われましたわ。」
「ほんまあ?」
優子「はあ。『心斎橋は 心配橋や。 厳しい街やさかい お宅みたいな 岸和田の田舎者が どこまでやれるか知らんけど せいぜい頑張りや~』ちゅうてな。」
「いや~ 腹立つな!」
優子「せやろ? 今でも あのおっさんの顔 忘れません。」
糸子「まあ せやけど 親としたら そんぐらい言うといてもうた方が ええんですわ。 おっさん よう言うてくれました。」
(笑い声)
「そらそや! お母ちゃんにしてみたらな!」
優子「ほな お母ちゃん お先! 失礼します!」
三浦「ほな またな!」
「優子ちゃん 御飯 食べにいかん?」
優子「行きたい!」
糸子「あの… 組合長。」
三浦「うん?」
糸子「誰が亡くなったんですか?」
三浦「え?」
糸子「誰か亡くなったんと ちゃうんですか?」
三浦「お? 聞いてへんのけ。」
糸子「ああ。 いや こないだ 北村が 葬式帰りかなんかしらん えらい酔っ払うて うち来て『死んだど』て。 ほんで 誰が死んだかは言わんと 帰って行ったんです。」
三浦「何じゃ それは。」
糸子「ほんま 迷惑な話ですわ。」
三浦「はあ そら ほんま 堪忍やったのう!」
糸子「え?」
三浦「いや いやな。 あの 北村が『これだけは 自分の口から あんたに伝えたい』て 言い張りよったもんやさかいに わしも 任してもうたんや。 アホか もう! 何にも知らせた事に なってへんやないか。」
糸子「誰ですか・」
三浦「うん…。 周防のな かみさんや。」
糸子「ほうですか。 はあ…。 うちも もう おととしに 向こうさんの支払いが 終わってからは 何のつながりも なかったよって。 ほうですか… そら 知りませんでした。」
三浦「うん。」
糸子「はあ せやけど 北村は 何で うちに それを よう 言わんかったんでしょうね?」
三浦「え? 分からんか?」
糸子「あ?」
小原家
寝室
<何回 思い出したやろ 一緒におった時間より 思い出してる時間の方が ずっと 多なってしもた>
糸子「変な相手や。」
オハラ洋装店
(せみの鳴き声)
聡子「空けるで。」
『は~い。』
聡子「あ~!」
「なあ。」
聡子「ん?」
「ほんまに これ こんで ええの?」
聡子「ふん。 ここが こうなってるのは デザインやさかい よう 似合うてるわ。」
「おかしない?」
聡子「何も。 格好ええよ!」
「ほな もろとこうかな これ。」
聡子「ほんま? おおきに! せやけど こっちも よう似合うてたなあ!」
珈琲店・太鼓
松田「せやけど やっぱし 聡ちゃんには まだまだ 看板 任せられませんわ。」
糸子「ふん。」
松田「まあ お客に好かれる人柄 持ってるし 直ちゃんかて 聡ちゃんのセンスは かなり ええ線いってる ちゅうてました。 ほんでも 経営者ちゅうんは また 別の器が要りますよってな。」
糸子「まあなあ。」
松田「まあ うちの見立てでは 一番しっかりしてるのが 優ちゃん。 ほれから ぐっと落ちて 先生と直ちゃん。 ほれから またこう ぐっと落ちて ここで初めて 聡ちゃんですわ。」
糸子「う~ん。」
糸子「婿 取るか?」
昌子「ええ。 うちも 今 そない思てました。」
糸子「なあ? 事務やら経理やら その辺の ややこし事 チャチャチャチャ~っと こなしてくれるような 賢い婿。」
昌子「ええですねえ。 ほんで 男前で!」
糸子「いや~ ええなあ!」
松田「まあ そら ほんな婿が 来てくれたら 万々歳ですけどな。」
糸子「あの子 ほんでも時々 よう 男の子 連れて来るやんか?」
回想
「いただきます!」
千代「いや~! あれまあ!」
回想終了
糸子「あれは 何や?」
昌子「あれは まあ 多分 聡ちゃんの彼氏の時もあれば。」
回想
「テニス めっちゃ うまかったよなあ!」
昌子『ただの 同級生の時もありますし。 御飯たかりに来ただけの 子ぉの時もあります。』
回想終了
糸子「ほんまあ? はあ~ あの子 アホやさかいなあ。 何でも連れて来よんやな。『よう見て連れてき』て 言うとかな あかんな。」
昌子「今更!」
回想
「『僕の話とかけまして 結婚式の娘を見守る父』と解きます。」
一同「その心は?」
「『どちらもオチつかないでしょう』。」
<この子は 何やろ? ま ええか。 おもろいし>
回想終了
小原家
玄関前
(せみの鳴き声)
<は~ せやけど うちの引き際は どないなったんや 聡子が あの調子やったら まだまだ先やで こら>
(ため息)
オハラ洋装店
糸子「あれ? いらっしゃい!」
八重子「お帰んなさい。」
糸子「来てたん。」
八重子「うん。」
糸子「どないしたん?」
井戸
八重子「あんな 糸ちゃん。」
糸子「うん。」
八重子「このごろ うちのお母さんが 急に 痩せてきたよってな。」
糸子「うん。」
八重子「いっぺん 病院で診てもうた方が ええちゅうて こないだ 検査してもうたんや。」
糸子「ふん。」
八重子「ほしたら あと半年やて。」
糸子「え?」
八重子「あと半年。」
糸子「ほうか。」
(せみの鳴き声)
小原家
台所
千代「これも 持って行き。 南京。 軟らこう 炊けたよってな。」
<おばちゃんが入院した病院は うちから自転車で 10分のとこやよって>
勝手口
糸子「行ってきます~!」
<2日に いっぺんは うちのおかずを詰めて 夕御飯どきに 見舞いに行くようになりました>
病院
糸子「こんばんは!」
玉枝「はれ 糸ちゃん! また来てくれたんけ。」
糸子「せや! もう うち このごろ ここに来るんが 唯一の気晴らしやよってな。」
玉枝「あ? 何ぞ また あったんけ?」
糸子「せや もう おばちゃん聞いてや! こないだ言うちゃあったな 問屋の アホのおっさんがな。」
玉枝「どないしたん?」
糸子「あいつが ほんまに…。 はれ? きれえな!」
玉枝「それな 優ちゃんと直ちゃんが 贈ってきてくれたんやし。」
糸子「へえ~! せやけど 見舞いなんやさかい もうちょっと ちいちゃいのしといたら ええのにな。 でかすぎやがな。」
玉枝「ほんな事ない。 うちは どんなけ うれしかったか。」
糸子「花でも服でも とにかく 派手やったらええ思てんやで あの子ら。 おばちゃん これ 食べ。 お母ちゃんがな 軟らこう炊けたんやて。」
<うちは おばちゃんの残りの日ぃを なるべく 明るくしたい思いました>
糸子「よう食べ。 よう かんでや。」
糸子「うん ええよ! ええよ! おいしいな。 わ~ おいしい!」
玉枝「軟らかい。」
糸子「軟らかい? 喉 詰まらしなや。 ゆっくり食べや。」
<穏やかで 幸せでおってほしい。 せやのに>
糸子「おばちゃん どないしたん?」
玉枝「昨日 待合のテレビ見ててな。」
糸子「うん。」
玉枝「戦争の事 やってたんや。」
糸子「うん。」
玉枝「戦争中に 日本軍が 戦地で 何したかちゅう話を やっててな。 糸ちゃん うちはなあ 勘助は よっぽど ひどい目に 遭わされたと 思てたんや。 あの子は やられて ほんで あないなって しもたんやて。 けど ちゃうかったんや。 あの子は やったんやな。 あの子が やったんや。」
(泣き声)
(せみの鳴き声)