あらすじ
玉枝(濱田マリ)の病気の進行は遅く、宣告をはるかに超えて昭和47年、穏やかな日々のうちに亡くなる。聡子(安田美沙子)は、東京で直子(川崎亜沙美)の店を手伝うなど成長が著しい。糸子(尾野真千子)は、看板を譲る話を持ち出すが、聡子の反応は今一つ。その年の大晦日、優子(新山千春)と直子の前で、改めて来年は聡子が店長だと伝える。2人は賛成するが、肝心の聡子はロンドンに行きたいと言いだし、全員を仰天させる。
124回ネタバレ
井戸
八重子「あと… 半年や」て。」
糸子「え?」
<それが 昭和45年の7月の話でした>
小原家
座敷
♬『あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花 五人ばやしの 笛太鼓 今日は たのしい ひな祭り お内裏様と おひな様 二人ならんで すまし顔』
<年寄りちゅうんは 病気の進行が 遅いそうです 結局 おばちゃんは 宣告の半年を はるかに超えて 今日で 1年と8か月目」
台所
八重子「お母さんが もう『御飯 まだか まだか』ちゅうて うるさいんやし。」
居間
玉枝「せやけどなあ 言うたら うちは ほれ おとうちゃんと 息子が2人とも もう 向こうで 待ってくれてる ちゅうこっちゃろ。 何や 何も怖い事 のうなってしもた。 ハハハハハ。」
千代「いや ほんまや。 なあ!」
糸子「おばちゃん。 それ 笑て ええんか どうか 分からへんわ。」
千代「何でや? うれしい事やんか。」
玉枝「なあ!」
千代「なあ~! そんな頼もしい事 ないわ~!」
玉枝「せやな。」
千代「なあ~!」
<まだまだ うちらの知らん境地が あるらしい>
座敷
♬『春よ来い 早く来い あるきはじめた みいちゃんが 赤い鼻緒の じょじょはいて おんもへ出たいと 待っている 春よ来い 早く来い』
<おばちゃんは それから また 半年 持ちこたえて ある朝>
安岡家
居間
八重子「ホッとした…。」
糸子「うん…。」
直子の店
源太「こんちは~。」
直子「源太!」
小沢「源太!」
吉村「お帰り!」
直子「やっと帰ってきた。」
小沢「この野郎。」
源太「直子らしい店だなあ~。」
吉村「だろう?」
源太「うん すごく面白い。 パリでも 絶対 通用するよ。」
直子「当ったり前や。 まあ 見ててみ。 そのうち 進出するよって。 シャンゼリゼにでも 店 出すさかい レセプション 呼んじゃるわ。」
源太「おう 行ぐ行ぐ。 絶対 行ぐ!」
小沢「いつまで 日本に おるんだっけ?」
源太「あ… 今週いっぱい。」
聡子「ただいま~。」
直子「あ~ お帰り。」
源太「聡ちゃん?!」
聡子「源ちゃん?! いや~ 久しぶりやな。」
源太「えっ 今 手伝ってるの?」
聡子「うん。」
直子「せやねん。 お母ちゃんと交代でな うちの店 手伝うてくれてな。」
源太「へえ~ 聡ちゃんまで この道 進んだんだなあ。」
直子「ふん。 まあ 最初は 頼んなかったけどなあ このごろは だいぶ よう できるようになってんで。」
源太「パリで修業したがったら いつでも うちの店で雇うよ。」
聡子「はあ~ おおきに!」
吉村「パリじゃなくて 渋谷で 修業したかったら 俺の店ね。」
<聡子が ようやっと モノになってきた ちゅうんは ほんまの事らしくて>
小原家
居間
松田「聡ちゃん ひょっとしたら 婿 取らんでも なんとかなるんと ちゃいますやろか。」
糸子「ほんまけ?」
松田「ああ。 このごろ だいぶ しっかりしてきましたわ。」
昌子「あっ うちも思います。」
松田「覚えるのも 早い事ないねんけど 一旦 覚えたら きちんと やってくれるしなあ。」
昌子「優ちゃんの店 直ちゃんの店ちゅうて あっちこっち 手伝いにも 行かされてるやないですか。 あれで だいぶ鍛えられてきたんと ちゃいますか。」
糸子「ふ~ん…。」
松田「うちらが 周りで助けながらやったら なんとか 店主も務まるかもしれませんわ。」
昌子「大丈夫ですよ。」
糸子「ほんま?」
昌子「うん。」
糸子「ほう! ふ~ん。」
オハラ洋装店
聡子「ただいま~!」
3人「お帰り~!」
<いっぺん 出ばな くじかれてるよって うちも もう引き際を決めたるやら どうやら ちゅうんは どうでもようなりました>
居間
聡子「ああ あかん。 まだ みんな そろてないのに~。」
糸子「待っちゃあたら 切りない。 なあ。」
聡子「ええ?」
糸子「そろそろ あんたに 看板 譲ろか?」
聡子「看板?」
糸子「うん。 あんた 店主になるか?」
聡子「はあ~。 お母ちゃんは?」
糸子「うちも まあ 別に やめる訳 ちゃうけどな。 一応 そうゆう事にしようかちゅう 形の話や。」
聡子「ふ~ん…。」
糸子「そら お客さんらにも ちょっとずつ言うていかな あかん事やし 何かが 急に変わる訳 ちゃうよって 年明けから そうゆう事で やっていこか?」
聡子「はっ 倒れてしもた。 ふん…。」
糸子「あんたが ええんやったら そんで 進めんで?」
聡子「はあ…。」
<聡子の返事に 締まりがないんは いつもの事やよって うちは 何も気にせんと 話を進める事にしました>
泉州繊維商業組合
三浦「いよいよ オハラ洋装店も 代替わりか。」
糸子「まあ どないか 3番目が 形になりそうで。」
三浦「よかったな 3人 産んどいて。」
糸子「ほんまですわ。 年明けたら 早速 挨拶に来させますよって どうぞ よろしゅうお願いします。」
三浦「楽しみにしてるわ。」
糸子「おおきに。 ほな 組合長も よいお年を!」
三浦「あんたも よいお年を!」
小原家
居間
『いよいよ 決戦の時が参りました。 先行は 私ども白組でございます』。
直子「はっ?! えっ ほな 来年から 聡子が ここの店主ちゅう事?」
糸子「うん。 まあ そうゆう事やよって 一応 あんたらにも 言うとくわ。」
優子「そら おめでとう 聡子!」
聡子「ふん。」
直子「ほな もう あんまし うちの店も 手伝うてくれんよう なるんか?」
糸子「ほんな事もないで。 別に 代替わりちゅうても そない急に いろいろ 変えへんよって。」
直子「ふ~ん。 ほな ええけど。」
千代「あんたら そろそろ おそば 食べるか?」
糸子「お母ちゃん…。」
優子「おそばは さっき食べたで。」
千代「はれ そうやったかいなあ。」
直子「食べた。 もう おなか いっぱいや。」
千代「ふん ふん。 ほな ええけど。 よいしょ。 ほうか… ハハハハ。」
聡子「けどなあ… うちなあ…。」
直子「何や?」
聡子「へ?」
直子「『けど うち』何や?」
聡子「えっとなあ… ロンドン 行こか 思てんねん。」
優子「はあ?」
直子「ロンドン?」
聡子「うん。」
直子「旅行の話か?」
聡子「ううん。 旅行やのうてな ロンドンに 仕事しに行きたいねん。」
糸子「何やて?」
聡子「あんなあ お母ちゃん。 堪忍…。 うちを ロンドンに行かせて下さい。」
糸子「どうゆうこっちゃ?」
優子「知らん。 うち 全然 知らんで。 あんた 聞いてたか?」
直子「うちも 何も聞いてへん。」
聡子「うん… 誰にも よう相談せんかってんけどな。 うち 岸和田 おったら 一生 姉ちゃんらの手伝い役で 終わってしまうと思うねん。 姉ちゃんらの売れ残り 送ってもうて そんで どないか商売して そんなんも ええかげん あかんて思うしな。 せやさかい 誰も いてへん お母ちゃんにも 姉ちゃんらにも頼られへん どっか別んとこで 一から 一人で やりたいんや。」
直子「ほんで ロンドン?」
聡子「ふん。」
優子「何で ロンドン?」
聡子「うち ロンドン 好きやさかい。」
優子「聡子 分かってるか? ロンドンは 日本語 ちゃうんやで。 人 みんな 英語で しゃべんねんで。」
聡子「ふん そんくらい 分かってる。」
直子「あんた 英語 でけへんやん。」
聡子「でけへんけど… どないかなると思う。」
優子 直子「ならへんわ!」
優子「あんたな そんな甘いもん ちゃうで! あんたみたいな 危なっかしい子ぉが ロンドンなんかで やっていけるかいな!」
直子「せや。 あんたは ここの店の後を継ぎ! その方が うちらも安心や。 そないし!」
優子「そら うちらもな 確かに あんあに甘えて 店の売れ残りの処理 さしとった。 けど もう そんな事はさせへんて。」
直子「もう うちも させへん。 もう 悪かったわ。 あんたの好きな仕事をしい この店で。 なあ!」
優子「な!」
聡子「うちは…。」
直子「絶対 無理やで ロンドンなんか!」
優子「やめときや!」
直子「やめとき。」
糸子「いや 行かしちゃろ。」
優子「はあ?」
直子「あかんて お母ちゃん!」
糸子「行き 聡子。」
直子「いや あかんて!」
優子「無理やて!」
糸子「あんたらは 黙っとき! この子は うちの店の子や。 あんたらが 口出す事 ちゃう! あんたの好きにし。 ロンドン 行き。」