ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第126回「悔いなき青春」【第22週】

あらすじ

昭和48年3月、聡子(安田美沙子)がロンドンへ旅立つ。糸子(尾野真千子)は優子(新山千春)から、離婚して北村(ほっしゃん。)と東京へ進出すると改めて聞き、一緒に行こうと強く誘われる。迷う糸子は、八重子(田丸麻紀)から美容室を閉めて長男のもとへ引っ越すと聞き、はかないモードに左右される洋服作りを、東京で続けることへの疑問を話す。すると八重子が思いがけないものを見せ、糸子は洋服作りの初心を思い出す。

126ネタバレ

小原家

寝室

(小鳥の鳴き声)

玄関前

(泣き声)

聡子「おばあちゃん。 これが 聡子の顔やで。 忘れんといてな!」

千代「分かった 忘れへん。」

聡子「うん。」

糸子「行くで そろそろ。」

聡子「ほな 行ってきます。」

松田「行っちょいで。」

木之元「行っちょいで。」

八重子「気ぃ付けてな。」

木之元「頑張りや!」

昌子「ちゃんと 御飯食べて 元気でな。」

木岡「行っちょいで!」

千代「聡子! 行っちょいで!」

聡子「行ってきます!」

木之元「気ぃ付けてな!」

<昭和48年3月 聡子が ほんまに ロンドンに行ってまいました>

優子の店

優子「あの聡子がなあ。 うちより 直子より先に 海外 行ってしまうやて。 笑うわ ほんま。 ありがとう。」

糸子「あんた 東京 出るんか?」

優子「ああ… うん。」

糸子「離婚するんか? 悟さんと。」

優子「うん。 そのつもりです。」

糸子「言わんかいな そんな大事な事。 何で うちが 北村から 聞かな あかんねん。」

優子「すんません。 お母ちゃん 心配するやろ思てな。」

糸子「するやろけどな そのための親やろ?」

優子「うん。 お母ちゃんは?」

糸子「ん?」

優子「東京 出えへんの?」

糸子「うん。」

優子「北村のおっちゃんから聞いたけど 悪い話 ちゃうと思うで。」

糸子「なあ あんたらな。 東京 東京て 何で そない 東京 行きたいねん?」

優子「そら やっぱし 経済でも文化でも 東京が中心やもん。 うちらアパレルが 本気で会社を 伸ばしていこう思たら まずは 東京が拠点やないと 話になれへんねんて。 例えば うちの構想はな まずは 東京に本店を構えて そこから ばあ~っと全国に 店舗を増やしていく。 確認しといて。 ほんでな 5年後には 店舗を50店 売り上げを30倍。 ほんでな それを基盤にして…。」

<聞くんは聞いてたけど 優子の話を うちは 何も おもろいと思えませんでした>

小原家

玄関前

美代「糸ちゃん お帰り。」

糸子「ただいま。」

美代「聡ちゃん あんじょう 飛行機 乗ったけ?」

糸子「うん おかげさんで。 おおきに。」

美代「うん。」

居間

八重子「アハハハ! もう ちょっとで ええよ! もう!」

昌子「ええやないですか! もう 誰に気兼ねする事も ないんやさかい。」

八重子「まあ せやけどなあ。」

千代「おちょうし まだ つけよか?」

糸子「あ… ええて お母ちゃん! 昌ちゃん 行って!」

昌子「はい。 おかあさん うちが やりますよって。」

千代「え~ え?」

昌子「うちが やりますよって。」

糸子「このごろ いよいよ 危なっかしいてな お母ちゃん。1人で 台所 行かされへんやし。」

八重子「はあ… ほうけ。」

糸子「ほんで どないしたん?」

八重子「ああ うん。」

糸子「うちに 話て?」

八重子「せや。 うち もうそろそろ 店 閉めさして もらおかと 思てんやし。」

糸子「え?」

八重子「太郎も そないして もう うちへ来い ちゅうてくれてなあ。 うちが 1人で店してんのが もう心配なんやて。 確かにな 一日の立ち仕事が このごろ こたえるようには なってきてるんや。 まだ ちょっと早いかなあとは 思うんやけど。 新しい暮らしに慣れんのも そら それで 力いる事やさかいな。」

糸子「ほうか。」

八重子「うん。」

糸子「寂しいなあ。」

八重子「せやなあ。」

糸子「はあ…。」

八重子「せやけど あれやで。 糸ちゃんは まだまだ 頑張らんと あかんで。 オハラ洋装店は 岸和田一の 名店なんやさかいな。」

糸子「いや それがな…。 今な うちも 東京に誘われてんやし。」

八重子「はあ ほうか。」

糸子「ふん。 優子が来年 東京行くんやて。 北村も 行くんやて。 直子も おるやろ。 せやさかい お母ちゃんも 来いて。」

八重子「はあ まあ そらそやわ 余計な事 言うてしもたな。 ま 堪忍な。」

糸子「ううん!」

八重子「せやけど 東京ゆうたら ええやんか! 格好ええし。 もう…。」

糸子「あ し~っ!」

昌子「どうぞ 続けて下さい。」

糸子「え?」

昌子「知ってますさかい。」

糸子「え?」

昌子「うちも 恵さんも 先生の ええようにしてもらうんが    一番や思てます。」

糸子「そら おおきに。」

千代「何や むつかしい話か?」

糸子「いやいや 何も むつかしい事ない。」

昌子「大丈夫です。 おかあさん。 なかなか ないですよ そない ええ話。 決めたら ええんと ちゃいますか?」

糸子「うん…。」

八重子「迷てんの?」

糸子「いや 正直 よう分かれへんねん。 東京に出るんと 岸和田 残るんと 自分は どないしたいんか どっちの方が おもろい思てんのか。 その肝心なとこが 自分でも よう分かれへんねん。 情けないこっちゃ。」

昌子「そら 東京の方が おもろいん ちゃいますか?」

糸子「うん?」

昌子「みんな あない 東京に行きたがるんは よっぽど 東京が おもろいからでしょ?」

糸子「う~ん。 いや あらなあ 何ちゅうか 新しいゲームが 始まってしもてんや。」

八重子「ゲーム?」

糸子「うん。 優子の話やら 聞いちゃったらな 何や そんな気がしてくるんや。 戦争と同じくらい 大層な ようさんでやるゲームが。 それがな えらい おもろいらしい。」

昌子「やっぱり おもろいんやないですか!」

糸子「あ~ しんだいやろ ゲームて。 敵ばっかし おって 頭ばっかし のぼせて。 うちはな 洋服 こさえられたら ほんで よかったんや。 それが いつの間にか 洋服も ゲームになってしもた。 うちに 洋裁を教えてくれた 根岸先生ちゅう先生がな こない言うたんや。『ほんまに ええ服は 人に品格と誇りを与えてくれる。 人は 品格と誇りを持って 初めて希望が持てる』。」

八重子「分かるわ。」

糸子「今は モードの力 ごっつい強いやろ。 去年 最高に良かった服が 今年は もうあかん。 どんなけ ええ生地で 丁寧に こさえたかて モードが 台風みたいに 全部 なぎ倒してって まいよんねん。」

昌子「そうですね。」

糸子「人に 希望を与えて 簡単に それを奪う。 そんな事 ず~っと 繰り返してきた気ぃすんや。 う~ん! あかん! 愚痴になってしもたな。 年や… 年やな。」

八重子「そんな事ない。」

糸子「ん?」

八重子「そんな事ないやろ! 糸ちゃん!」

糸子「どないしたん? 八重子さん。」

八重子「何を言うてんや 糸ちゃん 今更。 はあ~ 情けないわ もう! うちは 情けないわ!」

糸子「え? 帰るんか?」

(戸の開閉音)

糸子「何で うち 怒られてん?」

<それから10分ほどして 八重子さんが戻って来ました>

(足音)

八重子「うちの宝物や!」

八重子「ボロボロやった うちに… うちと お母さんと 奈っちゃんに 希望と誇りをくれた 大事な大事な宝物や! うちは うちは これのおかげで 生きてこれたんやで!」

<ひっぱたかれたみたいでした 昔の自分に ひっぱたかれたみたいでした>

モバイルバージョンを終了