あらすじ
借金に失敗した善作(小林薫)は、神宮司(石田太郎)の娘の花嫁衣装を用意できず、神宮司に「店を畳むなら早い方がよい」と諭される。糸子(尾野真千子)は女学校の帰り道、いじめられている勘助(尾上寛之)に出くわし、助けようとするが逆に負かされてしまう。勘助に背負われて家に帰りついた糸子は大泣きする。だんじりに乗れず洋裁も禁じられ、男に負けるのが悔しくてならないのだ。善作は、その泣き声をじっと聞いていた。
12回ネタバレ
木之元電キ店
チンドン屋「本日 ここもと にぎやかなる 鳴り物 あしらいまして 口上の儀は 木之元電キ店 お披露目でございまする。」
木之元「はい 食べり 食べり。 よし! おう 食べり 食べり。 ほんで 電気ちゅうのはな う~ん 何ちゅうたらええかのう… まあ… 手品みたいなもんや。」
糸子「手品?」
木之元「うん これからはな。 洗濯かて 掃除かて 電気がするようになんねん。」
子供達「ふ~ん…。」
木之元「あのな 一番ごっついんがな ラジオちゅう箱や。」
糸子「うち 知ってんで ラジオ。」
木之元「ほんま?」
子供達「えっ 何? 何?」
木之元「どんな箱や思う?」
光子「う~ん 何か… ごっついもんが入ってる箱!」
木之元「おう!」
「天狗のうちわ ちゃうか?」
木之元「おっ!」
「飴や! 飴が ぎょうさん 入ってんねん。」
木之元「ほうほう!」
「飴なんか しょうもないわ。 雲や。 お空の雲!」
木之元「あのな 答えはな… 人の声やら 音が聞こえんねん! 中に 人も楽器も 入ってへんで。 そやのに 人の声やら 音楽やらが 聞こえるんや~!」
子供達「ふ~ん…。」
木之元「おもろないか?」
「うん 何や よう分からへん。」
木之元「えっ どこ行くねん?」
「うん 分からへん。」
木之元「ちょっと…。」
糸子「うちも どうせ 箱やったら きれいなもんが ぎょうさん入っとる 箱の方が ええなあ。」
木之元「いや いや! こらな 見たら分かんねん! 絶対 欲しなるて!」
糸子「ほうかなあ?」
木之元「待っててみ。 もうちょっとしたらな ここに ド~ン!」
小原家
小原呉服店
♬~(チンドン屋の笛)
チンドン屋『新しい時代 電気の時代でございます。』
千代「ただいま~!」
善作「ああ。」
千代「お父ちゃん お薬 買うてきました。」
善作「えっ?」
千代「おなかの虫 下すやつ。」
善作「ああ?」
千代「のんで下さい。」
善作「虫下し… 何で こんなもん のまなあかんねん?」
千代「のんで下さいね。」
チンドン屋『さあ どうぞ! こちらも そちらも。』
神宮司家
廊下
神宮司の娘「そやかて 嫌やわ。 小原のおっちゃん うちの顔 見る度に『別嬪さん 別嬪さん』て お世辞ばっかし言うんやもん。」
神宮司「お世辞とちゃうわ。 ほんまに そない思うてんやて。」
神宮司の娘「嘘や。 絶対 お世辞に 決まってるわ。」
座敷
神宮司「毎度!」
善作「あっ!」
神宮司「ハハハハッ!」
2人「こんにちは。」
善作「へえ。 この度は 誠に おめでとうございます。」
神宮司「あれ? 手ぶらで来たんか? 反物を持ってきたか 思たのに。」
善作「へえ…。 すいまへん! どうにも おわびをせんと あかんように なりました。」
神宮司「さよか。」
善作「ほんまに すいません。」
神宮司「ハハハハッ! そなもん うちは どうちゅう事ないわ。 別の店に頼んだら しまいや。 あ… それよりも あんた どないすんねん? 店 畳むんか?」
(ため息)
善作「お恥ずかしい話ですけど。」
神宮司「うん?」
善作「まだ… 迷てます。」
神宮司「はあ…。 そら 分かる。 けどな… やめるんやったら 早いうちやで。 商売ちゅうんは 一旦つまずいたら どん底まで あっちゅう間や。 手ぇつけられへんとこまで 落ちてからでは 遅いで。」
枡谷パッチ店
<新学期が始まりました。 お父ちゃんからは あれっきり まだ 何の許しも出てへんけど ちょっと… ほんのちょっと のぞくだけや。 誰にも会わんと すぐ帰るんやさかい 何も悪い事ない>
枡谷「ほんなら 岡村 頼むわ。」
岡村「はい。 よし 皆 やろか!」
「おい 山口 あれ 下ろしといてくれ。」
山口「はい すみません。」
「おい 山口 それ こっちな。」
「おい! 下しといてくれへんか。」
(ミシンを踏む音)
道中
勘助「お金 ないのや。」
「とってきたら ええんじゃ。」
糸子「あっ 勘助。」
<けど あいつ 道で会うたら 無視しよるさかい うちも無視したろ>
「言う事 聞かんかってみいや お前 どないなるか分かってんやろな? な~んも考えんと わしらの言うてるもん とってきたら ええんじゃ。」
「お巡り来たら 言うちゃるよ。」
「おう 言うちゃる 言うちゃる。」
勘助「けど 俺… やっぱし 嫌や。」
「はあ? おんどりゃ また こないだみたいな目ぇ 遭わされたいんけ? あっ!」
「何じゃ? お前。」
糸子「小原糸子じゃ! そこの へたれの連れじゃ! おのれら こんなへたれ いびって 強なったつもりか? なんちゅう 腐れ根性しとるんじゃ!」
「わりゃ なめとんか!」
糸子「あっ 痛あ~。 うわ… 砂 入った。 待っとくれや。」
「おりゃ!」
糸子「うっ… ああ…。」
「ボケ! 腐れは おのれじゃ!」
「カス!」
勘助「あ… ああ…。 あ~! あ~! あ~! あ~! あ~! あ~! 待て~! あ~!」
町中
「ちょっと ちょっと… 糸ちゃん。」
小原家
小原呉服店
ハル「けんか? 女学生にもなって 何すんや?」
勘助「怒っちゃらんといて 俺のせいやさかい。」
ハル「はあ?」
勘助「俺が 学校の奴らに いじめられてんのを 糸やん かぼてくれたん。」
糸子「うっさい! 帰れ! 帰れ! 勘助のアホ! 帰れ!」
ハル「糸子 どないしたんや?」
糸子「帰れっちゅうてんねん!」
勘助「分かったて。 ほな 帰るさかい。 さいなら!」
子供部屋
ハル「糸子 お粥さん食べるか?」
糸子「うん…。」
ハル「どないや? まだ痛いんか? 女子が 腹 蹴られるて どういうこっちゃ?」
糸子「うちかて…。 蹴られとうて 蹴られたんちゃうわ。」
ハル「あんた 泣いてんけ? そんなに痛いんけ?」
糸子「痛ない! 悔しいんや。」
ハル「はあ?」
糸子「勘助に助けられてしもた。」
ハル「それが 何が悔しい?」
糸子「勘助に助けられるようになったら もう しまいや!」
ハル「アホか。 何が しまいやねん?」
糸子「あんな へたれかて… 男やちゅうだけで うちより 強なってまいよった。」
ハル「へたれが 強なったんや。 結構なこっちゃないか?」
糸子「結構な事ない! 何も 結構な事ないわ! 知らん間に 男らだけが どんどん 強なっていきよって うち 置いてけぼりや。 あんな へたれにかて 一生 勝たれへんのや。」
ハル「あんはは 女子や。 女子は 女子のやる事が あらしな。 あんたは ほれ… 裁縫。 裁縫したら ええわし。」
糸子「お父ちゃんが『あかん』ちゅうた!『アッパッパ 縫うたら あかん』て。」
ハル「ほなら ほかのもん 縫うたらええがな。」
糸子「嫌や! うちは アッパッパが縫いたいんや! 枡谷パッチ店で働きたいんや! ミシンは うちの だんじりなんや!」
(泣き声)
ハル「何や?『うちの だんじり』て。」
糸子「うちは だんじりにも乗られへん。 ドレスも着られへん。 ミシンも使えんで… 勘助にまで負けてしもたんや! もう しまいや!」
(泣き声)
ハル「ほれ!」
(泣き声)
居間
<次の朝>
善作「座れ。 だんじりが終わったら 女学校 やめさしちゃら。 その… 何ちゃらパッチ店へ 行け!」
糸子「え… ほんま? ほんま?! どないしょ? ほんま?!」
善作「ただし 働きに行くと思うな。 勉強をしに…。」
糸子「うれしい! ああ どないしょ?! ああ! あ~!」
善作「聞け! 勉強や! お前みたいなガキが 働くなんて 100年早い。 勉強しに行くと思え。」
<お父ちゃんは とにかく『勉強 勉強』を繰り返してました。 けど そん時 うちは まだ 何にも その意味は 分かってませんでした>
善作「勉強ばっかしとっても 勉強にならんで。」
だんじり
「ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!」
糸子「来た~!」
一同「うわ~! うわ~!」
(拍手)
♬~(お囃子)
「ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!」
糸子「泰蔵にいちゃ~ん! 泰蔵にいちゃ~ん!」
<泰蔵にいちゃん あんな… うちも うちのだんじり 乗れる事になってん。 覚えてるか? ミシンちゅうんやで>