あらすじ
栄之助(茂山逸平)は誤って、1反でよい生地を100反も仕入れてしまった。どうにかしてくれとすがられるが、糸子(夏木マリ)は突き放す。客の清川(三林京子)が、高齢の母に服を仕立てたいのだが、本人に断られたと相談する。糸子は、体型が変化して採寸が嫌なのではと察する。里香(小島藤子)は糸子を手伝い始めたが、ジャージを脱ごうとはしない。糸子は、ジャージを脱ぐまではと、優子(新山千春)が来ることを禁じる。
130回ネタバレ
小原家
リビング
栄之助「糸子先生! お願いします 助けて下さい!」
糸子「何や?」
栄之助「僕… 間違えて これ 100反も 仕入れてしもたんです。」
糸子「はあ?! はあ~。」
<また 100反かいな>
糸子「何もない。 あっち 行っとき。 間違えたて どない間違えてん?」
栄之助「これ スワトーゆう刺しゅうの入った 中国の生地なんですわ。 僕 たまたま 親父に ええとこ 見せなあかん 思て 自分で 現地まで 買い付けに行ったんです。 僕なりの 若い感覚ゆうんですか 親父らには よう見つけられん おもろいもん 見つけたろ思て。」
糸子「ふん。」
栄之助「で 小物用に 1反だけ 仕入れたつもりやったんです。 そやけど 何や知らん 100反も届いてしもて…。 向こうは『僕が そない言うた』言うんですけど あっちが 聞き間違えたんに 決まってるんです! で 親父に『どないかして 100反さばけ。 さばかんかったら 勘当や!』言うて 僕 生まれて初めて 殴られたんです。」
糸子「ほんで?」
栄之助「え?」
糸子「うちに どないせえ ちゅうねん?」
栄之助「え… いや ですから その… なんとかして 100反さばく お知恵を拝借できないかと…。」
糸子「『お知恵を拝借』?」
栄之助「はい。」
糸子「ふ~ん。 嫌や。」
栄之助「へ?」
糸子「帰り。」
栄之助「いや 何でですの?」
糸子「自分で考え。」
栄之助「どないしても あきませんか?」
糸子「あんたな。」
栄之助「はい。」
糸子「譲の ひいじいさんの 金糸の生地の話 もういっぺん よう聞き!」
栄之助「はい。 あ… はい! 分かりました。 あの… 聞いたら もっかい 来ていいですか?」
糸子「あかん!」
栄之助「は… はい。」
糸子「言うても 来んで。 アホぼんやさかい。」
(ため息)
孝枝「あの 先生 清川さんとこの娘さん 来てはるんですけど。」
糸子「うん。 すぐ行く。」
孝枝「はい。」
オハラ洋装店
孝枝「どうぞ。」
澄子「おおきに。」
糸子「堪忍なあ お待たせして。」
澄子「先生! すんません ちょっとなあ…。」
糸子「どないしたん?」
澄子「こないだ うちのお母さんのドレス 相談さしてもうたやんか。」
糸子「うん。『喜寿のお祝いに』ちゅうてたやつけ?」
澄子「あれなあ お母ちゃん『ほんなん 作りたない』て言うんや。」
糸子「はあ。」
澄子「何 意地 張ってんのか 知らんけど あんだけ おしゃれ好きやったさかいに『子供らで お金 出し合うて ドレス 作っちゃる』言うたら さぞかし喜ぶと思てんけどなあ。」
糸子「ああ… そら多分 採寸が嫌なん ちゃうか?」
澄子「えっ?」
糸子「お宅のおかあちゃん 昔は スラッとしてたんが 病気してから 急に 肥えてしもたやんか。」
澄子「ふん。」
糸子「ただでさえ 女は 採寸ちゅうたら 嫌なもんやろ? それが あないなってしもたら 余計 嫌や。 当たり前や。」
澄子「はあ ほうか… そら せやなあ。」
糸子「けど ほな 採寸せんと こさえたら ええんやさかい。 おかあちゃんに そない言うてみ?」
澄子「へ? ほんなん でけんのけ?」
糸子「そら もう この道50年やさかいな パッと目で見た 大体 分かる。」
澄子「ほんまかいな?」
糸子「ほんまや。」
澄子「ほな いっぺん 言うだけ 言うてみるわ。」
糸子「うん。 無理しなや。 本人が その気になったらでええさかいな。」
澄子「おおきに。」
糸子「おおきに。」
澄子「おおきに~。」
糸子「気ぃ付けてな。」
孝枝「おおきに~。」
澄子「はいはい さいなら。」
寝室
糸子「ううう う~っ うわっ はあ~。 ふっ ぷわ~ ふっ ふっ ふっ ふわ~あ。」
糸子「起きや! 朝やで。 ほれ 起きんかいな! 朝! 朝 朝 朝 朝 ほら! ほれ! 起きんかいな~。」
リビング
糸子「拭くだけと ちゃうで。 ちゃんと磨くんやで。」
糸子「男前やろ?」
里香「別に。」
糸子「いや こんな男前 そうは おらん! おばあちゃんも 後にも先にも このにいちゃんしか 知らんで。」
里香「え… でも。」
糸子「何や?」
里香「私… 似てる人 知ってる。」
糸子「フフフッ 誰や?」
里香「チームの先輩。」
糸子「絶対 泰蔵にいちゃんのが 男前や。」
里香「先輩 見た事ないじゃん。」
糸子「この男前が あんた 大工方 やっちゃってんで。」
里香「大工方?」
糸子「はあ~。 あんた 大工方も 覚えてへんけ? だんじりの ごっつい危ない役や。 それを 黙々と こなしてやな ほんで うちら チビには ごっつい優しいんや。 男の中の男やったで。」
里香「何で 死んだの?」
糸子「戦争や。」
里香「ふ~ん…。 もったいない。」
糸子「ほんまにな…。 あんた 泰蔵にいちゃんばっかし 磨かんと 横の へたれも ちゃんと磨いちゃってや。」
里香「へたれ? えっ どれ?」
玄関
糸子「縦 縦 縦! ほんで しまいまで いったら 今度 横 横 横 横や! 分かったか? 分かったら 返事や。」
里香「分かった!」
糸子「はい。 こっから やらんか こっから。 きっちり!」
優子のオフィス
優子「そら ちゃんと 生活のリズムが 戻ったんは 進歩やけど とにかく 早う 高校へ戻さな。」
糸子『焦りな ちゅうてるやろ。 そんな 事急いちゃりな。』
優子「せやけど 今の高校かて 1年以上は 休学でけへんしなあ。 公立高校 生き直すちゅうたかて 何歳でも ええちゅう訳に いかへんねん。 はよせな… はよせな 手遅れなってまう。 はあ~…。 何で あんな なってしもたんやろ?『子供がグレんのは 親の愛情が 足らんからや』とか言うけどやな うちらなんか お母ちゃんに あんだけ ほったらかされて育って ほんでも な~んも グレたり せえへんかった。 お母ちゃんに比べたら うちのが よっぽど 子供に 愛情注いでるわ。」
小原家
オハラ洋装店
糸子「気持ち 小さくしとこか。」
優子『なあ お母ちゃん。 うち… この日曜日でも いっぺん そっち 行こか?』
糸子「うん?」
優子『そっち 行って 直接 里香と 話 しようか。』
糸子「あかん。」
優子『何で?』
糸子「まだ早い。 あの子 まだ ジャージーしか 着れへん。」
優子『ジャージー?! 何で? 他のも 全部 送ってんのに!』
糸子「あのなあ あの子が ジャージー 着てる間は 周りが 何 言うたかて 一緒や。 そうゆう時期なんや。」
優子『いや けど そんな事 言うてたら…。』
糸子「まあ ちゃう服 着だしたら 言うちゃるよって 待っとき。 勝手に来た あかんで。」
優子『いや でも お母ちゃん…。』
糸子「ほな 忙しいさかい 切るで。」
優子『ちょっと。』
優子のオフィス
(電話の切れる音)
優子「なんやねん。 ジャージーて… 何しとんねん?!」
(ため息)
岸和田商店街
<言葉が のうても 服は いろんな事が分かる。 昔 うちに そない 教えてくれた人がいました ジャージーは ジャージーで いろいろ 言うてる訳です うちは ヤンキーです』やら>
「あれ 隣のばあちゃんの孫 ちゃうんけ?」
「グレてんやわ。」
<『気安う 話しかけんといて下さい』やら『けんかやったら いつでも 買わしてもらいます』やら>
「お前… どこの者じゃ?!」
<言うてしもてるんやさかい そら まあ…>
小原家
オハラ洋装店
<しゃあない>
孝枝「ちょっと 里香ちゃん! 里香ちゃん あんた どないしたん?! ちょっと 先生!」
糸子「どないしたんや? けんかけ?」
孝枝「ちょっと ちょっと…。」
正志「はい。」
孝枝「ちょっと 浩ちゃん 2階 連れていこう。 おんぶ しちゃり。 動けるか? あんた なあ。 いくで。 よっ。 あんた 血 出てるやないの。」
糸子「何してんや? もう…。」
正志「ほな。」
糸子「あんた 助けてくれたんけ?」
正志「いや…。 俺は『ポリ 来たど!』ちゅうちゃっただけです。」
糸子「警察 来たんけ?」
正志「いや 嘘やけど。 そう言うたら 絶対 勝ってる方が 逃げてくんで。」
糸子「賢い子やな。 おおきに。」