ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第134回「宣言」【第24週】

あらすじ

譲(川岡大次郎)と栄之助(茂山逸平)は友人の商社マン・高山守(藤間宇宙)を連れてくる。糸子(夏木マリ)がデザインした年配用のスーツが完売したことから、3人はオハライトコの既製服ブランドを作ろうと勧める。自分にはオーダーメードの意地があると断った糸子だが、若者たちに商売に誘われ悪い気はしない。しかし直子(川崎亜沙美)は糸子を心配し、絶対にやめろと言う。言い返した糸子だが、その夜、大変なことが起きる。

134ネタバレ

小原家

オハラ洋装店

栄之助「僕 あのスーツに 思い切って 18万ゆう値段 つけたんです。」

糸子「18万?!」

栄之助「100反分の 95着は 予約で完売しました。」

糸子「ほんまかいな?!」

譲「先生! そこで 僕ら 今日 こないして お願いに来ました。」

糸子「何をや? もう。」

譲「先生のブランドを 作らせてもらえないでしょうか?」

糸子「はあ?」

高山「改めまして 春光商事の 高山 守と申します。」

<3人目のアホぼんかと思たら ほんな立派な商社の人かいな。>

高山「はい。 アパレル担当 させてもらってます。」

栄之助「ほんでね 先生 僕らの話 聞いてもらえますやろか? とにかく あのスーツが すごかったんです。 僕 あの次の日から 例のサンプル 持って お得意さんを回ったんです。 そしたら 1週間で 半分 売れてしもたんです。」

糸子「ふ~ん。」

栄之助「お客さんが みんな 口そろえて 言わはるのは とにかく『デザインがええ』。 …で『スマートで おしゃれやのに 着心地がええ。 ものすごい楽や。 こら お年よりの体を よう分かってる人が こさえてはんにゃろ』言うて 見抜く人も いはったんですよ。 …で『また こんなん こさえたら 絶対 持ってきてや』って 何べんも 僕 言われたんです。」

糸子「ふ~ん ウフフフッ。 そら せやろ。 うちが デザインしたんや。そんじょそこらの 適当な ばあちゃん向け商品と ちゃうで。」

譲「そんで 僕 そない ええもんなんやったら もっと広く 商売でけんちゃうかな 思て ほんで この高山君に 話 持ち掛けたんですよ。 こいつの会社は その専門やさかい。」

高山「いや~ 実はね うちの会社でも シルバー向けの商品の開発って 前々から 課題だったんですよ。 だから すぐに サンプルをお借りして 営業に 回らせてもらったんですけど 残りの半分も すぐ売れちゃって 結局 また あの生地を輸入して 増産する事になったんですよ。」

糸子「へえ~。」

高山「でも ほんとに思いましたね。 お客さんは ものすごく欲しがってるんですよ。 先生が作られるような服を。」

譲「そんで 僕らでな『こら もう 是非!』言うてな。」

栄之助「『先生のブランドを こさえるべきや!』ちゅうて なあ?」

高山「盛り上がったんですよ!」

譲「ハハハ 盛り上がったよな。」

糸子「ハハハ 何や それ?」

譲「やりましょう 先生!」

糸子「何や あんたら…。 人の事に 首 突っ込んでんと 自分の店 繁盛させんかいな。」

譲「そら 僕らかて これ ちゃっかり絡んで 商売させてもらうつもですよ 先生。」

栄之助「生地屋と呉服屋ですから 僕ら これでも。」

糸子「ふ~ん…。」

譲「いや 去年ね おふくろが死んでから 恥ずかしながら ようやっと 僕も こう 本気で頑張っていかな あかんなあ 思い始めましてね。 せやさかい こないだから こいつの横 くっついて 先生の話も 聞かせてもろちゃったんです。 何て言うか 生地屋も勉強して 新しい商売を 見つけていかな あかんなあ 思いまして。 やっぱし『攻撃は 最大の防御』ですからね。」

糸子「うん? 何やて?」

譲「え?」

糸子「攻撃は… 何?」

譲「ああ… え~っと『攻撃する事は 一番の守りになる』っていう そういう事です。」

糸子「あ~ おもろい事 言うな。」

譲「アハハ いや 僕 考えたん ちゃいますけど。」

栄之助「どうでしょう? 先生。」

糸子「う~ん…。」

高山「どうか 前向きに ご検討頂けないでしょうか?」

糸子「う~ん…。 やっぱし… あれやな。 うなぎ とろか? 里香! あんな うなぎ とっちゃって。 特上 4人前。」

譲「特上!」

里香「は~い。」

糸子「まあ… 話は よう分かった。 しっかりした ええ考えやと思う。 筋も よう通ってる。 あんたら うちが思てたほど アホちゃう ちゅう事も よう分かった。 けど…。」

2人「はい。」

糸子「これは もう 申し訳ないけど こっちの話でな うちは やっぱし オーダーメード職人なんや。 うちが 洋裁屋の看板 上げたんが 50年前や。 そのうち10年は 戦争で 自由に 洋服を作らせてもらえへんかった。 やっと 戦争 終わったら 今度は 世の中に 既製服が どんどん出回りだして オーダーメードは そっからずっと 斜陽産業ちゅうやっちゃ。」

糸子「いつ やめるか やめて 既製服に転向するか。 そら 何回も話は あったし そのたんびに 考えさせられた。 けど まあ ある時 決めたんや。 うちは 一生 オーダーメードだけで やっていくちゅう。」

譲「何でですか?」

糸子「うん?」

譲「何で そない決めたんですか?」

糸子「意地やな。」

譲「意地?」

糸子「最後の一人になったかて うちは オーダーメード職人として 意地 見せ続けちゃるって ま そない思ったんや。」

高山「え~?」

糸子「何や?」

高山「見せなくて いいんじゃないですか 意地なんか。」

糸子「ああ?!」

譲「そうですよ。 そんなん 先生 見せてるつもりでも 誰も 見てませんて。 なあ?」

高山「見てませんね 全く。」

栄之助「ほんなもん ちゃっちゃと捨ててしもて 僕らと 新しいブランド こさえましょ。」

糸子「お… お前ら…。 うちの この50年の意地 分かれへんけ?!」

2人「分かりません。」

高山「分かりません。 全く。」

糸子「里香! さっきのうなぎ キャンセルや!」

里香「は?」

糸子「こいつらに うなぎなんぞ 食わさんでええ!」

譲「いやいやいや 頂きますよ。」

栄之助「せっかくですからね。」

糸子「あかん! お前らみたいなアホに 食わす うなぎなんぞ ない!」

譲「うんま~。」

高山「うまいな~ これ。」

栄之助「おいしいわ。 ほんま 名店ですね。 近所に あるんですか?」

糸子「しゃべらんと はよ食べて はよ帰り。」

譲「ごちそうさまでした。」

高山「うまかったです。」

栄之助「ほんま ありがとうございました。」

糸子「帰り! はよ! はよ帰らな…。」

譲「はいはいはい…。」

糸子「うちは やらへんよってな。 あんたら ほんまにもう 来た あかんで?!」

栄之助「失礼しました。」

栄之助「けど 先生。 万が一 気が変わらはったら…。」

糸子「変わらん!『絶対 変わらへん』ちゅうてるやろ!」

栄之助「はいはい…。」

糸子「えい!」

糸子「あ~ ほんまにもう! このごろの若い男は ヌルヌル ヌルヌルしよってからに もう どないも とどめっちゅうもんが 刺されへんで かなわん もう!」

孝枝「ただいま。 ウフフフフ…。 はい 先生。」

糸子「何や?」

孝枝「そこで 坊ちゃんらから 預かりましたわ。 アハハハハハ…。」

糸子「き~っ!」

孝枝「アハハハハハ…。」

(ミシンの音)

<ほんでも うちのデザインが 外で そんなけ通用したちゅう事 若い子らが あない熱心に 商売に誘ってくれた事 じんわりと うれして 気持ちにも 張りが出るっちゅうもんです>

孝枝「先生 お客さんです。 お願いします。」

糸子「いらっしゃい。」

「こんにちは。」

糸子「こんにちは。」

リビング

直子『えっ? 18万のスーツが 95着?!』

糸子「そうらしいわ。」

直子『はあ~ すごいな そら 確かに。』

糸子「せやろ。」

直子『へえ~ やっぱし シルバー世代て 穴場なんやな。  うちも やろうかな シルバー向け。』

糸子「アホか。 あんたがにわか仕込みで やったかて うちみたいに いかへんで。」

直子『そらそやな。 うち 50代以上の体形なんか 何も分からんわ。』

糸子「せやろ・ 悪いけど うちは 知り尽くしてんや。 年寄りの服の着せ方 見せ方 売り方。」

直子『なるほどな。 オハライトコで シルバー向けブランド ぶち上げる。 そら そのアホぼんらも 目ぇの付けどころは ごっつい ええけどなあ。 せやけど お母ちゃん やめときや。』

糸子「うん?」

直子『プレタちゅうんは ほんまのほんまに 大変な仕事やさかい お母ちゃんの年では 無理やで。』

糸子「分かってるわ! 別に あんたに言われんかて はなから プレタなんか やる気ないわ。 うちは オーダーメードの職人やさかいな。」

直子『ほんなら ええけど。』

糸子「こんなアホ 言うてきた子がおった ちゅう それだけの話や。」

糸子「ごちそうさん。 後片づけ しといてな。」

里香「えっ 今日 おばあちゃんじゃん。」

糸子「うちは 今日は いつもより くたびれてるやろ? 見て 分からへんか?」

里香「分かるけど…。」

糸子「あんたも 若いんやさかい たまには『うちが代わるで』くらい 言わんかいな! さあ! 風呂 入ろ。」

<は~ 難しいなあ 年寄りちゅうんは ほんまは 年寄りかて 機嫌ようしてたい せやけど 体が それを許さん 痛い膝 痛い腰>

階段

糸子「重たい体やなあ…。 ああ~っ!」

リビング

(階段から落ちる音)

里香「おばあちゃん?! おばあちゃん?! おばあちゃん! おばあちゃん どうしたの?!」

糸子「ああ… うう…。」

里香「おばあちゃん おばあちゃん 大丈夫?! おばあちゃん! 救急車 呼んでくるね。」

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