ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第13回「熱い思い」【第3週】

あらすじ

糸子(尾野真千子)は女学校を辞めることを善作(小林薫)に許され、パッチ屋で働くことになった。千代(麻生祐未)に付き添われ、意気揚々と初出勤した糸子だが、優しかった職人たちが皆、どこか冷たい。理由を尋ねると兄弟子は「これまでは客だったから、ちやほやしたが、一番下っ端になったからには相応の仕事をしろ」とお茶くみや掃除などの雑用を押しつけてきた。糸子はミシンには触ることもできず、仕事の厳しさを思い知る。

13ネタバレ

安岡家

糸子「女学校 やめちゃろか 思てんねん。」

小原家

善作「ふざけんのも大概にせい!」

糸子「うちは アッパッパが縫いたいんや! 枡谷パッチ店で 働きたいんや! ミシンは うちの だんじりなんや!」

善作「女学校は やめさせちゃら。 勉強をする…。」

糸子「うれしい! ああ どないしよう! ああ うれしい ああ!」

善作「聞け! お前みたいなガキが 働くなんて 100年早い。 勉強しに行くと思え。」

泉川高等女学校

教室

「え~?! 小原さん 学校 やめるん? もう 学校 来えへんの?」

糸子「そうや。」

「何で 何で 何か悪い事 したん?」

糸子「はあ? 何もしてへんわ。」

「ほな 何で やめるんよ?」

糸子「短い間やったけど 世話になったな。」

「えっ?」

糸子「おおきに。 おおきに。 おおきに。 おおきに。 みなさん 今日まで おおきに! うちは 今日限りで 学校やめて パッチ屋で働く事になりました。」

「パッチ屋? 何で?」

糸子「言うとくけど うちの小原呉服店が 苦しいさかい働くんと ちゃうで。 うちは 働きたて働くんや。 家の人にも よう言うといてや! ほな みんな 元気で!」

一同「え~っ?」

糸子「おおきに。 あんたは 特に お父ちゃんに よ~う言うといてや。 ほなな。 おおきに。」

奈津「あげるわ。」

<女学校やめる始末も 済んで いよいよ うちの門出の日ぃが 近づいてきました>

安岡家

玄関

糸子「こんにちは!」

玉枝「いらっしゃい。 入り入り。」

<勘助のおばちゃんが お祝いに 何ちゃらいう 外国のごちそうを こしらえてくれるというので 呼ばれに行きました>

台所

糸子「おばちゃん この匂い 何?」

玉枝「ええやろ? 今日の ごっつおの匂いや。」

糸子「ふ~ん。 変わった匂いやなあ。」

玉枝「う~ん。」

(2人の笑い声)

玉枝「勘助! 糸ちゃん 来たで~。」

居間

玉枝「来たで~ ごっつおが~!」

勘助「やった! もう腹ペコペコや!」

糸子「外国のごちそうて どんなん どんなん?」

玉枝「ほな いくで~!」

糸子「うん。」

玉枝「パッ!」

糸子「わあ~ 何や これ?! ごっつ うまそう!」

勘助「うまそうか? 何や けったいやん 色も匂いも?!」

玉枝「これをな こないして 御飯に かけてな…。 ほい!」

糸子「ああ! 頂きます~!」

勘助「お母ちゃん オラ 御飯だけでええわ。」

玉枝「何 言うてんや! せっかく作ったのに。」

糸子「ん? うまい。 ごっつ~ うまい!」

玉枝「せやろ~!」

糸子「うん!」

玉枝「ほれ。」

糸子「食べてみいって! うまいさかい。 そんな ちょっとやったら 分からへん! もっと ガバッといき!」

玉枝「男やろ?!」

勘助「うま~い!」

糸子「そやろ~? 言うたやろ~!」

玉枝「カレーちゅうねん よう覚えときや!」

糸子「もう カレー 一生忘れへんな。」

勘助「お代わり あるけ?」

玉枝「ああ 兄ちゃんの分もな 残しといたらな あかんさかい 糸ちゃんだけ お代わりさせたろ!」

糸子「やった!」

勘助「何でやねん?!」

小原家

子供部屋

(小鳥のさえずり)

糸子「朝や。」

<いよいよ うちが 枡谷パッチ店で 働ける日ぃが やって来ました>

(鼻歌)

静子「おはようさん…。」

糸子「早う起きや! もう朝やで。」

居間

糸子「おはようさ~ん!」

ハル「あれ えらい早いやんか。」

糸子「そらせや。 うちは もう 女学生と ちゃうやさかい 寝坊なんか してられへんわ! あ お父ちゃん おはようさん!」

善作「お前 働きに行くんやないぞ。 勉強や。」

糸子「分かってまっさ~!」

善作「勉強やで。」

<お父ちゃんは…>

善作「ええか 勉強やで。 勉強やと思うて 行きよ。」

糸子「へえ 分かってます。」

<『勉強やぞ』を 100回くらい繰り返してから やっと うちを送り出してくれました>

善作「勉強やと思うて 行くんやで!」

千代「糸子~!」

善作「お~い 勉強や!」

道中

糸子「手土産 何 買うたん?」

千代「忠岡堂のまんじゅうや。」

糸子「いや~ 奮発したなあ!」

千代「そら お世話になるんやさかい。」

糸子「あ~ うれしいなあ。 職人のおっちゃんら うちの顔 見たら 何て言うんやろ? 絶対 喜んでくれんで。 『糸ちゃん よう帰ってきたなあ!』て。 うち ごっつ かわいがられてん。」

千代「うん。」

枡谷パッチ店

玄関

枡谷「うちらも 糸ちゃんに 働いてもらえるやて こない うれし事 あらへんわ。」

千代「あら あ~ おおきに すんません! あ~ あの これ お口に合うかどうか…。」

枡谷「いやいや おかあさん そんな物 こっち…。」

<やっとや! やっと ここで 働けるんや。 うちの胸は もう 喜びで いっぱい! やってんけど…>

作業場

「ええ まんじゅうや。」

(笑い声)

糸子「みんな ただいま! 小原糸子です! うち 女学校やめて ここで 働く事にしました! また 仲良うして下さい!」

糸子「なあ 何か あったん? 何が あったん? うちが いてへん間に。」

山口「はあ?」

糸子「何で みんな あんな暗いん?」

山口「何もないで。 もともと みんな あんなんや。」

糸子「嘘や! うちが おった時は もっと みんな 明るかったやんか?!」

山口「ああ そら 前は あんたが お客さんやったさかい みんな 愛想ようしとっただけや そもそも あんなもんや。」

糸子「はあ そうなんやったん?」

山口「せや 口のきき方も 直しや。」

糸子「は?」

山口「これからは あんたが ここの一番下っ端やさかいな わしにも みんなにも ちゃんと 敬語 使いや。」

糸子「え~っ 敬語? うち そんな 堅っ苦しいの 苦手や~。」

山口「『苦手や』ちゃう!『苦手です』。」

糸子「苦手です。」

山口「お茶入れんのんも これからは あんたの仕事やで。 はい! やり。」

糸子「お茶です。」

田中「アホか。」

糸子「え?」

田中「大将が先じゃ。」

糸子「え~?」

田中「仕事場ちゅうとこには 茶かて 飲んでええ順番が あるんじゃ。 偉い人から配っていくんや。 よう覚えとけ。」

糸子「へえ。 お茶です。」

枡谷「うん。」

糸子「あれ? 次 誰やろ…。」

枡谷「坂本や。」

糸子「おおきに! 坂本さん お茶です。 坂本さんの次に偉いん 誰ですか? すんません! 坂本さんの次に 偉いん 誰ですか?」

田中「わしじゃ。」

岡村「わしじゃ。」

糸子「へ?」

田中 岡村「わしじゃ!」

糸子「どっちですか?」

田中「どけ!」

糸子「え~っ。」

坂本「こら お前! やっかいな事 聞くな!」

糸子「え?」

田中「ええかげんにせえや。 お前 わしより 年下じゃろ?!」

岡村「関係あるかい。 ここに入ったのは わしの方が 先じゃ!」

田中「1週間 早かっただけやろが?!」

岡村「ハハハハ… 何やと!」

枡谷「いかんよ! やめとけ!」

坂本「あいつら あれで 10年 もめとんねん。 気ぃ付け!」

糸子「へえ…。 何で うちが 怒られなあかんねん。」

山口「それ終わったら ガラス磨きや。」

田中「こら!」

糸子「え?」

田中「そんな拭き方が あるかい! もっと 縦縦 横横や!」

糸子「縦縦 横横?」

田中「縦 縦 縦 縦 端っこまで行って ほんで 上から 横 横 横 横や。」

糸子「ああ…。」

田中「丁寧にやれ 丁寧に! 返事は?!」

糸子「へえ。 縦 縦 縦 縦 横 横…。」

さよ「お昼 でけましたで~。」

一同「はい!」

坂本「行くで。」

岡村「はい。」

さよ「おとうちゃん お待たせです。」

休憩室

枡谷「食おう食おう。 いっぱい食えよ。」

山口「あんたは 後や。」

糸子「ええ?」

山口「一番下っ端は 残って 留守番や。」

糸子「ええ~!」

山口「みんなが 食べ終わってから あんたの番や。 食べたら みんなの食器 洗うんやで。」

糸子「は~あ~。 おなか すいた~。」

(食事中の談笑)

3人「ごちそうさまでした!」

「よし 行こうか!」

糸子「えっ… こんだけ?」

<お茶の順番とか 縦縦 横横とか 枡谷パッチ店には それまで うちの知らんかった いろんな決まりがありました>

さよ「あんた まだ 食べてんのけ?!」

糸子「え?」

さよ「さっさと食べな 片づけへんやろ?!」

糸子「あっ…。」

<遊びに来んのと 働くんでは 全然ちゃうんやちゅう事が 分かりました そやけど 一番びっくりして 一番悲しかったんは…>

作業場

糸子「それ あと ミシンかけるんやろ? …かけるんですやろ?」

山口「そうや。 触るな! 汚れる。」

糸子「あんたが… やなくて けんちゃんが…。」

山口「山口さんや。」

糸子「山口さんが ミシン かけるん? …ですか?」

山口「アホか。」

糸子「え?」

山口「わしは まだ 見習い2年目や。 ミシンなんか 触らせてもらえる訳ないやろ。」

糸子「どうゆう事?」

山口「『どうゆう事』て 知らんのか? 見習いちゅうんは まず 5年は 掃除と お茶くみや。 それから やっと きれに触らせて もらえるように なんねん。 ミシン かけられるように なるなんか まあ 10年先やな。」

糸子「ええっ?!」

山口「聞こえへんかったか? あと10年や!」

<あと10年?!>

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