ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第140回「奇跡」【第25週】

あらすじ

平成13年、88歳になる糸子(夏木マリ)の生活は仕事と友人たちとの遊びで充実しているが、病院にも毎週のように通っている。行きつけの病院の事務長(蟷螂襲)に声をかけられ、院長・龍村(辰巳琢郎)の所に案内される。龍村は、病院のイベントで職員をモデルとしたファッションショーを開いて患者に見せたいと言う。喜んで受ける糸子。ふと龍村から聞きなれない名字の入院患者について尋ねられる。その名前は「奈津」だった。

140ネタバレ

岸和田商店街

孝枝「あ 浩ちゃん 今 お会いできたよって。 うん これから 店に お連れするから。 うん 先生に そない言うといてな。 はい ほなね。 いや~ ほんま 遅なって ごめんなさいね。」

「ああ いえいえ。 やっぱり 先生 お忙しそうやな。」

孝枝「もう 大変ですわ。 とにかく 仕事でも遊びでも セーブするちゅう事を 知らん人やさかい。」

「こないだ テレビで見ましたよ。」

孝枝「あ そう。 テレビも ラジオも 講演も どんどん受けてしまうんですわ。 もうスケジュール回すだけでも 大仕事や。」

小原家

オハラ洋装店

孝枝「あ ただいま。」

フミ子「お帰んなさ~い。」

糸子「いらっしゃい。 悪かったな 待たせて。」

「ああ 先生! お久しぶりです。」

糸子「元気してたかいな?」

「はい おかげさんで。」

糸子「まあ 上がり上がり。」

孝枝「ちょっと すんませんけど 先生 この次 4時には また ここ 出んと あかんので。」

「あ~ ほうですか。」

糸子「また ほんな! 急かしな 失礼やろ。 たった今 着いたお客に。 な~あ?」

孝枝「いいえ! きっちり言うとかんと また どんどん 遅くなるんですから 先生は!」

糸子「気にせんでええ。 おいでおいで。」

孝枝「いえいえ 気にしといて下さい。 あの すんませんけどな 3時50分までには お話 終わらせて下さいね ね?! よろしゅうお願いします。 3時50分ですからね。 はあ 忙しい忙しい。」

糸子「せやけど あんた もう うちも 88やよって。」

「はあ?! もう そない なられますか?」

糸子「年取るんも 85くらいまでは 嫌やったけど それ越えたら 何や そんなんも のうなってしもてなあ。」

「はあ そんなもんですか?」

糸子「それより 何しろ 死んでもしもたら できんこっちゃろ。 今まで 興味なかった事でも とりあえず やっとかな思うし 一生懸命 やるやんか。 ほしたら 楽しいでなあ。 アッハッハ…。 ほんで 何でもかんでも 手ぇ出すさかい 今度は 忙しいて 死ぬ暇も 無くなってしもて!」

(笑い声)

孝枝「3時50分です!」

「ああ じゃ… ほな 失礼します。」

「お邪魔しました。」

孝枝「ご苦労さんでしたな。」

孝枝「来週の月曜は 新潟のホテルで講演会。 そのまま 福岡 行って ブランドの展示会が 火曜日の13時から。 そこから 一旦 岸和田 帰って 作曲家の大森先生のオペラコンサート。 え~ これが 大阪文化会館で 水曜日の18時から。 ああ ほんで 土曜日 心斎橋百貨店の会長から お相撲 誘われてますけど あれ どないします?」

糸子「は~あ… 忙しなあ!」

孝枝「全部 先生が入れたんですからね。」

糸子「う~ん… 行くわ。」

孝枝「い 行くんですか? お相撲?!」

糸子「うん。 そら 相撲は 見とかな。 なあ?」

孝枝「働くわ 遊ぶわ…。」

糸子「結構なこっちゃんか。 なあ?」

孝枝「はあ~。 あ せや タクシーは?」

浩二「知りません。」

孝枝「え? タクシー 遅いな。」

<このごろの うちの一週間は 仕事と仕事 遊びと仕事 それから… 病気>

病院

待合所

看護師「小原さ~ん。」

糸子「は~い。 すんません。」

診察室

「ここ どない?」

糸子「あ 痛い 痛い。」

<4年前から うちの体には ヘルペス ちゅうのが でけるようなって この痛みが 悩みの種>

「ま 体に あんまり負担をかけんと 仕事もお酒も ほどほどに。」

糸子「はあ そない思うんやけど じっとしてたら 痛みが 忘れられへんさかい つい 何やかんや してしまうんですわ。」

<毎回 おんなし事 言うて。 そのあと 整形外科へ回って>

整形外科

「どうですか?」

糸子「イテテテ… 痛い。」

「まあ 膝に負担かけるような事は せん事ですよ。」

糸子「はあ… そない思うんやけど じっとしてたら 痛みが忘れられへんさかい つい 何やかんや してしまうんですわ。」

<こっちでも おんなし事 言うて そら 治らんわな>

待合所

香川「小原先生?! どもう こんにちは。」

糸子「あ~ こんにちは。」

香川「今日は 診察ですか?」

糸子「はあ そうなんです。」

香川「ちょうど よかった。 実は その 今日 午後でも 先生のお店 寄らせて もらおうかと 思てたんですわ。」

糸子「うちの店… 何で また?」

香川「実は その 相談したい事が ありまして。」

糸子「相談…?」

香川「先生 今 ちょっと お時間ありますか?」

糸子「いや うち 薬 待ってるんです。」

香川「いや~ それやったら お帰りの時に お渡ししますよって ちょっと ほんのちょっと。」

糸子「あ… いや…。」

香川「行きまひょ。 行きまひょ。」

院長室

龍村「よっしゃあ~ ハハハ!」

香川「失礼します。」

龍村「ああ どうぞ。」

香川「小原先生 お連れしました。」

龍村「あ~ これは どうもどうも。」

糸子「こんにちは。」

龍村「院長の龍村です。 すいません お忙しいとこ お呼び止めしまして。 まあ どうぞ。 あ 糸子先生 ハーブティー お好きです?」

糸子「ハーブティー。」

龍村「ええ ペパーミントとカモミール。 もしもし うん ハーブティー 3つ 頼むわ。 すぐな よろしく。 いやいやいや どうもどうも。 ご活躍は よく存じ上げております。 でもね パーティーとかで お見かけしてるんですよ。 ほら あの 確か 難波のプラザホールの 竣工記念パーティーとか。」

糸子「ああ 去年の。」

龍村「はい。 ほんま 忙しい先生 つかまえて こんな事 言うのは 厚かましいと 重々 承知してますが ちょっと ご相談したい事が ありまして。」

糸子「はあ。」

龍村「実はね うちの病院で 毎年 患者さん向けのイベント やってるんですよ。 例えば 音楽のコンサートやら 講演やら やるんですけど うちの…。 何してんの? ちょっと座りい。 この事務長の香川がね『いっぺん ファッションショーなんか どうですやろ』ちゅう 提案がありまして。」

糸子「はあ。」

香川「いや すんません。 先生を うちの病院でちょくちょく お見かけしたよって いつか そんなん でけたらな思て 院長に 言うてみたんですわ。」

龍村「けど 僕もね 確かに 面白いな思いましてね。 そらまあ 先生も お忙しいしね。 でも ひょっとしたら 興味 持ってもらえるかも しれへんな 思いまして『駄目もとで 言うてみようか』ちゅうて ハハハハ!」

糸子「ファッションショーて つまり うちが ショーをやって 患者さんらが それを見るちゅう事ですか?」

香川「いや 僕が思たんは うちの職員らが モデルになったら ええんちゃうかなって。」

糸子「職員? 看護婦さんら ちゅう事ですか?」

香川「はあ。 実は 僕の死んだおふくろが 昔 先生のお店のショーを よう見に行ってたんですわ。」

糸子「ああ! ハッハハハ!」

香川「誰々が どんな服 着てたやら うれしそうに よう言うてて 子供心に『は~ やっぱし 女ちゅうのは こんなんが よっぽど 好きなんやな』思たんです。 患者さんらも なじみの看護婦なんかが きれいにして歩いたら 楽しんでくれるんやないかと思て。」

糸子「なるほど。」

龍村「どうですやろ? まあ もちろん 予算やら…。」

糸子「いや やりますわ。」

龍村「え?!」

香川「やってもらえますか?!」

糸子「はい。」

龍村「そら まあ でもね スケジュールとか予算のご都合も…。」

糸子「そら あります。 けど やらせてもらいますわ。 こっちかて こちらのお母さんに 昔 ごひいきに してもろてたんやさかい。」

香川「ありがとうございます!」

糸子「いつごろの予定ですか?」

龍村「10月です。」

糸子「10月…。」

龍村「ええ。」

糸子「分かりました。 まあ スケジュールは どないでもなります。 予算は まあ でける範囲で やりますよって。 まあ 大丈夫。 任せといて下さい。」

龍村「は~ そら ほんまに ありがとうございます! よかったなあ。」

香川「いや~ うれしいなあ。」

『失礼します。』

龍村「ああ。 いや えらい 話 早う 終わってしまいましたけど ハーブティー 召し上がって下さい。」

糸子「ああ ほな よばれます。」

龍村「これねえ オリジナルブレンドで 結構 おいしいんですよ。」

糸子「珍しなあ。」

龍村「どうぞどうぞ。」

香川「ありがとう。」

龍村「あ そうそうそう。 糸子先生 あの 桜井さんて ご存じですか?」

糸子「桜井さん?」

龍村「ええ。 桜井… 何やったかなあ? うちの内科に入院してる 患者さんなんですけど。」

糸子「どこの桜井さんやろ?」

香川「その桜井さんが どないかしたんですか?」

龍村「いや 何か糸子先生の同級生やった ゆう話を聞きまして。」

糸子「桜井…?」

龍村「ええ。」

糸子「さあ うちは 女学校 途中でやめたよって 同級生の名前も顔も よう覚えてないんですわ ハハハハ!」

香川「僕も いろんな人から よう聞きますわ。『先生と同級生やった』やら『チビの頃 掃除のおっちゃんに 頭突きして 気絶させた』やら。」

糸子「ほんまですか?! ハハハハ!」

香川「そら もう 先生は 有名人ですさかい。 いろんな人が いろんな事を知ってます。」

糸子「いや もう かなんな~ もう! アッハッハハ! はあ ごちそうさま。 ほな うち そろそろ。」

龍村「そうですか。」

香川「受付 寄って 薬 取ってこな あきませんな。」

糸子「じゃあ また ショーの件は 連絡 下さい。」

龍村「よろしゅう お願いします。 あ 奈津さんや!」

糸子「へえ?!」

龍村「ハッハハ! 思い出しました。 桜井奈津さんです。」

病室

奈津「何や。 何か用け。」

モバイルバージョンを終了