あらすじ
優子(新山千春)は糸子(夏木マリ)に、東京の病院での講演の代役を頼む。多忙な糸子を孝枝(竹内都子)は心配するが、糸子は元気に出かけていく。講演の前、以前その病院の看護師長だった川上(あめくみちこ)という女性を紹介される。講演後に、糸子は川上とおしゃべりをしようとする。川上はかつて岸和田に住んでいたことがあり、糸子とは思わぬところでつながっていた。そこへ現れたのは、用事を終えて駆けつけた優子だった。
148回ネタバレ
小原家
オハラ洋 装店
「せやけど ほんまに こんな頼もしい事 ないで。 同い年の人が まだ現役で デザイナーやってるやて~。」
糸子「ハハッ ほうか?」
「せらせや。 いや~ うちも まだまだ やれるん ちゃうかな ちゅう気にならし。」
糸子「いや まだまだどころ ちゃう これからや。 うちら これから!」
(携帯の着信)
孝枝「はい…。 あ~ 優子さん。 こんにちは。 来週の水曜ですか? 空いてへんと思いますけどね… ああ 空いてませんわ。 前日に 名古屋で講演があって そっから 岸和田への移動日ですから…。 いや ま せやねんけど 次の日ぃも また 朝からありますしねえ。 う~ん 今の体で そない無理させる訳にも。 う~ん うん すんません。」
(携帯の着信)
「もしもし はい。 あ 着いた? うん は~い。」
糸子「車 来たて?」
「はい。 すぐ そこに。 お母さん 帰りましょう。」
「はい よっこいしょ! ほなら た~んと 頼んどくわな。 小原さん。」
糸子「任しといて。 ごっつい ええのん 作るよって。」
「楽しみやな~! ほなな。」
糸子「ほなな。」
玄関前
「ええで。 見送らんで ええからな。 すぐ そこに来てるんやし。」
「ほんま 結構ですよって。 先生 ありがとうございました!」
糸子「おおきに。」
「またなあ。」
糸子「おおきに!」
フミ子「ありがとうございました。」
オハラ洋装店
(携帯の着信『銀座カンカン娘』)
糸子「はい。 ああ 優子… 何や? 来週の水曜? 何で? うん うん ウフフ うんうん…。 よっしゃ 行っちゃるわ! もう 任しとき 心配せんで。 任しとき 任しとき!」
リビング
孝枝「要はね アホらしなる訳ですよ。 こっちが 先生の体の心配しながら どないか仕事 回していこうと思て 必死になって 組んでんのにね 大体 優子さんらかてね 本気で 先生の体の事なんか 考えてないと思うんですよ。」
孝枝「いや ま そら 全然 考えてへん訳やないと 思いますけど もう 先生と一緒! 事 仕事んなったら 全部 頭から 飛んでまうんですわ。 よう 分かりましたわ。 親子そろて 好っきなだけ 仕事しはったら ええんですよ。 もう 何が どないなろうと うち 知りませんよって!」
糸子「えらい怒ってるやんか。」
篠山「そら そうですわ。」
糸子「ちょっと… 後で 何か機嫌 とっといてや。」
篠山「知りませんよ。」
<優子から頼まれたんは 東京の病院での講演でした。 元は 優子が引き受けてたんが どないしても 都合が悪なってしもたそうです>
東京・病院
休憩室
糸子「すんませんな。 年寄りが代わりで。」
院長「とんでもない。 より含蓄のあるお話が 聞けそうだと みんな 大喜びしてますよ。」
看護師長「そうです 先生。 この川上なんて…。」
川上「あの 今日一日 お手伝い させて頂きます 川上と申します。」
看護師長「私の前の看護師長を やってた者なんですけど 優子さんから 先生に 代わられたって言ったら ボランティアでいいから 手伝わせてほしいって。」
糸子「はあ。」
川上「あの 実は 私 以前 岸和田に住んでた事があるんです。 当時のお友達が 先生がなさった 病院のファッションショーの 新聞記事を送ってくれまして もう 勘当致しました~。」
糸子「ああ~ ほうですか。」
川上「はい~。」
ホール
(拍手)
糸子「皆さん 初めまして。 小原糸子でございます。 大阪の岸和田ちゅう町で 洋裁店と それから デザイナーをしております。 今日は 病院での講演とゆう事で 私なりに いくつか テーマを 用意して参りました。 洋服を作るちゅう事に 生涯 ささげてきた 私ですが こうして 医療の現場の皆さんに お話でける事とゆうたら ただ一つ…。」
休憩室
孝枝「あ 優子さん? はい 今 先生 講演 終わられました。 ここは 15階の休憩室ですわ。」
院長「すばらしいお話を ほんとに ありがとうございました。」
看護師長「ありがとうございました。」
糸子「そない言うてもうたら もう うれしいですわ。 こちらこそ おおきに。」
院長「そいじゃ すいません 私達は これで 失礼します。」
看護師長「失礼致します。」
糸子「失礼します。」
孝枝「先生 何や 今 優子さん 玄関に着いたそうですわ。」
糸子「優子? あの子 用事あったん ちゃうんかいな。」
孝枝「何や はよ終わったよって 顔だけでも出しに来たそうですわ。 ちょっと うち 迎えに行ってきますよって お願いします。」
糸子「おおきに。」
川上「では 先生 タクシーの時間になりましたら また お迎えに参ります。 それまで どうぞ ごゆっくりなさって下さい。 では。」
糸子「はれ… せっかくやさかい お話 しましょうな。」
川上「お疲れじゃないですか?」
糸子「いや 体が くたびれたよって 余計 お宅みたいな人と 話 したいんですわ。」
川上「ありがとうございます! すばらしいお話でした。 もう何度も 涙が出ました。」
糸子「ほうですか。」
川上「その 岸和田の看護師長様にも 是非 一度 お目にかかってみたいです。 医療の現場に 私も 40年ほど 携わって参りましたので。 一度 来てみはったら よろしいねん。 うちが 紹介しますわ。」
(笑い声)
糸子「岸和田には いつごろまで いはったんですか?」
川上「あ… 私は… 24までです。」
糸子「結婚で こちらへ?」
川上「はい。」
糸子「24まで 住んではった割には 岸和田弁が出ませんね?」
川上「はい…。」
糸子「うちの娘らは それぞれ 出て 長い割に ちっとも岸和田弁が抜けませんわ。」
川上「はい。 それは あの…。 私は 10歳まで 長崎におりましたので。 先生 実は…。 私の死んだ父が いっとき 先生の所で お世話になっておりました。」
糸子「お お宅… どちらさん?」
川上「はい。 私は…。 周防龍一の娘でございます。」
川上「はっ! …申し訳ありません。 失礼致しました。」
孝枝「先生…?」
待合所
川上「いつぞやは… 弟が 失礼しました。」
優子「こちらこそ。 母が…。 申し訳ありませんでした…。」
川上「いいえ。 人を憎むというのは… 苦しいものです。 私にとって ただ一つ 救いだったのは 父の相手が 先生だったという事でした。」
川上「憎むには あたらない方だと… いつごろからか… ある程度 年を取ってからですが 思えるようになりました。 それでも 汚い感情が 全く無かったかと言えば… 嘘になります。 でも それも… さっき 先生の目を見て 消えました。」
川上「先生も… ずっと思い続けてきて 下さったんだと… 思いました。」
<長い長い 記憶を持ってる。 それが 年寄りの醍醐味ともいえる。 守り続けて 闇のうちに 葬るはずやったもんが うっかり 開いてまう事もある。 老いぼれた体に とどろく事 打ちのめす事 容赦のうて ほんでも… これを見るために 生きてきたような気もする>