ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第14回「熱い思い」【第3週】

あらすじ

家族の前では明るくふるまう糸子(尾野真千子)だが、千代(麻生祐未)らはパッチ屋の仕事のつらさを察していた。そんな折、奈津(栗山千明)がパッチ屋にやってくる。憧れの泰蔵(須賀貴匡)の結婚のウワサを聞き、確かめたくて糸子に会いに来たのだ。店からの帰り道、結婚をやめるように言えと詰めよる奈津に糸子は閉口する。ある朝、糸子は風邪をひいて熱を出す。無理して出勤したものの「いないほうがマシ」と帰らされ…。

14ネタバレ

枡谷パッチ店

仕事場

山口「お茶 入れんのんも これからは あんたの仕事やで。 はい。」

田中「丁寧にやれ 丁寧に。 返事は?」

山口「ミシンかけられるようになるなんか まあ10年先やな。」

糸子「え~?」

小原家

居間

善作「お前らも はよ食え食え! 待つ事ない。」

ハル「そやけど かわいそうやんか。 初めて一日中働いて 帰ってくんやで。 そら 疲れてるで。」

善作「あいつが すき好んで行っとる事や。 構う事ない。」

ハル「まあ 何ちゅう 薄情な父親やろ え~! うちらだけでも 待っといちゃら。 あんたら まだ食べなや。」

(戸の開く音)

糸子『ただいま~!』

2人「帰ってきた!」

糸子「ただいま!」

千代「お帰り!」

糸子「あ~ おなかすいた!」

妹達「お帰り!」

ハル「まあ 遅うまで よう働いたな。 どやった 仕事 しんどかったか?」

糸子「何ちゅう事ないで。」

ハル「ほんまかいな?」

糸子「まあ 新米やさかい こき使われるけどな。 大した事あらへん。 うちにかかったら『へえ こんなもんけ』? ちゅうくらいじょ。 みんな ごっつい優しいしな。」

ハル「そうけえ?」

糸子「うん。 うち 枡谷パッチてん 行く事にして ほんま よかったわ。 フフフ!」

千代「はい。」

糸子「おおきに! いただきます!」

ハル「はい。」

子供部屋

<10年 ミシン使えるまで あと10年。 10年前のうちは まだ こんなもんや>

<それが こないなるまで 長い時間やなあ そんな長い事 うちは これから ず~っと ミシンに触られへんやろか 家族の前では ええ恰好しちゃっても ほんまのところ うちの パッチ屋修業は ボロボロやっちゅう事>

居間

<みんな うすうす 気付いているようでした>

道中

ハル「ちょっと待ち!」

糸子「ん?」

ハル「これ 持っていき!」

糸子「何これ?」

ハル「お握りや。 おなかすいた時 食べ。」

糸子「うん。 おおきに。」

千代「糸子!」

糸子「何?」

千代「これ 持っていき! 金平糖。 誰かに怒られたらな 見つからんように 隅っこ行って こそっと食べ。」

糸子「おおきに。」

千代「うん。」

糸子「行ってきます。」

千代「うん。 行っちょいで!」

枡谷パッチ店

仕事場

<金平糖は すぐに無くなりました>

田中「おい 小原! まだ泣いてんか? はよ手伝わんかい!」

糸子「泣いてません すぐ行きます。」

<実際 うちは 朝から晩まで 怒られっぱなしで。 近づいたと思たミシンは どんどん 遠なっていくばっかしで うちなんか もう一生 触らへんのちゃうか ちゅう気がしました>

糸子「あっ!」

田中「小原!」

糸子「あ…。」

<磨くんが こんな 大変やっちゅうんも知らんと うちは ベッタリ 張り付いちゃったなあ 女学校のみんな 元気やろか。 ああ 奈津でええから 会いたいなあ>

玄関

糸子「奈津! あんた 何してんの?」

奈津「別に。」

糸子「学校は?」

奈津「今日は 昼までや。」

糸子「何しに来たん?」

奈津「ん? まあ 何もないけどな。」

作業場

奈津「こう? こうかな?」

田中「そうそう そそ。」

奈津「いや~!」

枡谷「なかなか筋ええがな。 最初は みんな こんな うまい事いかへんもんやで。」

奈津「すごいなあ ミシンて。 こんな はよ縫えんやな。」

田中「おい 小原 茶 まだか?」

糸子「へえ ただいま。」

岡村「名前 何ちゅうん?」

奈津「吉田奈津 いいます。」

田中「奈津 ええ名前やなあ。 この辺に住んでんけ?」

奈津「吉田屋ちゅう料亭です。」

岡村「おう ええとこやんか!」

田中「ちゅう事は 将来の女将さんけ?」

奈津「そないなります。」

田中「へえ~!」

山口「おい もう帰ってええで。」

糸子「は?」

山口「あとは わしがやっとくさかい。」

糸子「へえ。 あ お湯のみ 洗うてへんな。」

山口「ええて!」

糸子「え?」

山口「あとは わしが洗うとくさかい。 はよ帰れ もう。」

糸子「へえ ほな。」

山口「はい。」

玄関

糸子「ほな お先です。 はれ? あんた 何してん。 まだ いてたんけ? もう とうに帰った思てた。 もしかして うちの事 待っちゃったん?」

奈津「ちょっとな。 聞きたい事があんやし。」

道中

糸子「結婚? 泰蔵にいちゃんが?」

奈津「そや。」

糸子「へえ~! 結婚?」

奈津「あんた 知らんかったんけ?」

糸子「今 初めて聞いた。」

奈津「何や あんたやったら なんぞ 知ってんちゃうか思って 待っちゃったのに。」

糸子「へえ~ 泰蔵にいちゃんが 結婚か。」

奈津「うちは 嫌や。」

糸子「は?」

奈津「うちは 絶対 嫌や。」

糸子「何で あんたが嫌やねん? ちゅうか あんた 泰蔵にいちゃんの事 知ってたん?」

奈津「よう 知ってるわ。」

糸子「へえ~。」

奈津「毎朝 学校 行く時に すれ違うてるやんか。」

糸子「そんだけ?」

奈津「そや。」

(笑い声)

糸子「そんなん… そんなん 知ってるっちゅうんけ?」

(笑い声)

奈津「笑いな! 笑いな! もう! 笑いな! 笑いないて!」

糸子「分かった 分かった もう笑わへんて。」

(笑い声)

糸子「あんた 泰蔵にいちゃんの事 好きなん? そやけど…。 真面目な話な 泰蔵にいちゃんは あんたの事 知らんと思うで。」

奈津「それは うちが まだ ちびやからや。」

糸子「え?」

奈津「うちが まだ ちびやさかい 横通ったかて気ぃつかへんね。 そやけど うちかて もうちょっと 大きなったら もっと きれいになって 嫌でも 目に入るようになんねん。 今日かて あんたの店の おっちゃんら みんな うちの事 かわいらしいて言うた。」

糸子「ああ。」

奈津「そやさかい うちが もうちょい 大きなるまで あの人は 結婚なんかしたらあかん。」

糸子「あかんちゅうたかてな。」

奈津「『結婚なんかしたらあかん』て あんたから 言いよ。」

糸子「知らんがな。」

奈津「言い!」

糸子「嫌や。」

奈津「ふん!」

<奈津の話は アホみたいやったけど そいでも 奈津としゃべると いっとき うちも 女学生に戻ったみたいな 気ぃがしました>

糸子「けど 明日も また仕事や。」

小原家

子供部屋

(鼻歌)

千代「糸子? あんた はよ起きな 遅刻すんで! はい。」

糸子「あかん。」

千代「どないしたん?」

糸子「風邪ひいてもうた。」

千代「え~?」

居間

善作「アホやな お前。 風邪ひいてんのに 店なんか行かんでもええ。」

糸子「行かな あかんねん。 今日は 棚卸しやさかい。」

(せきこみ)

千代「お粥さん食べていくか?」

糸子「ううん いらん。 お茶 頂戴。」

千代「よっしゃ。」

(せきこみ)

道中

ハル「あんた! これ着ていき。」

糸子「え~? 何で まだ 誰も着てへん。」

ハル「ええさかい 着り。 冷やすと あかんにや。 風邪は 冷えたら あかんさかいな。」

枡谷パッチ店

休憩室

(せきこみ)

<枡谷パッチ店のいっちゃん下っ端は 朝 誰よりも早く 店に行かんといけません。 まず 窓を全部 開けて 炭を おこします 水がめに 水を入れて>

作業場

<これから みんなが使う所を 拭いておく>

糸子「はあ~。」

岡村「何や?」

糸子「あ おはようございます。」

岡村「風邪か? 熱あるんちゃうか?」

糸子「はあ。」

岡村「はあ ちゃうわい。 熱あんやったら帰れ。」

糸子「そやけど…。」

岡村「お前みたいなもん いてても いんでも 一緒じゃ。 いっそ いてへん方が はよ進ま。 風邪 うつされる方が 迷惑じゃ。 さっさと帰って 治せ。 大将には わしから 言うといちゃるさかい。」

糸子「へえ。」

休憩室

糸子「失礼します。」

田中「大事にせえよ。」

仕事場

田中「おい お前な あらないで。」

岡村「あ? 何がよ。 風邪ひいてんやで 帰らせちゃった方がええわし。」

田中「そやけど あいつに あんな言い方したら 全部 間に受けよんで。」

岡村「え? ほうかの?」

田中「そらそや。 『いてへん方が はかどる』やら『うつされたら 迷惑』やら 全部 ほんまの事やないけ。」

岡村「わし そんなつもりで 言うたんちゃうけどな。」

田中「ほんまの事は言うたら あかん。 ほんまの事は。」

道中

(せきこみ)

糸子「辞めたる! あんな店 辞めたる~!」

(泣き声)

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